介護食とは
介護食とは、介護を必要とする高齢者が食べやすいよう食材や調理法を工夫した食事のことです。
加齢によって「噛む力(咀嚼機能)」や「飲み込む力(嚥下機能)」が衰えてしまうと、これまで通りの食事をとることが難しくなってしまいます。
バランスよく栄養を補給し、健康を維持するためにも、食事に工夫が必要となってきます。
まず、国立長寿医療研究センターが発表した、高齢者にどの程度噛む力が残っているかを表したグラフを見てみましょう。
上のグラフのように、歳を重ねると噛む力や飲み込む力は徐々に衰える傾向があります。
そんなときに頼りたいのが介護食です。
最近では食事に力を入れている施設も増えていて、食事は老人ホームの生活で欠かすことのできない日々の楽しみとなっています。
そんな介護食には、固形のままでやわらかく加工したものから、ペースト状のもの、きざんで食べやすくしたものなどさまざま。
おいしく、安全に食事をするためには、その方の体に合うやわらかさが大切です。
噛む力や飲み込む力の弱い方が、固いものや喉に張りつくようなものを食べると、食べものが気管に入ってしまうこと(誤嚥:ごえん)があります。
体に合わない食事は「食べたくてもうまく食べられない」とストレスを感じてしまうので、その方の体の状態に適した介護食を選択することが重要です。
介護を必要とする方向けの食事
介護食とは、加齢や病気・怪我などによって低下した食べる機能を補うため、介護の視点から特別につくられた食事のことです。
介護食で大切なポイントは3つあります。
まず、柔らかく、噛みやすいことです。
咀嚼能力が低下している高齢者は、簡単に噛めるように柔らかさを調整する必要があります。
次に、とろみをつけて口に入れたときにまとまりやすく、嚥下しやすいことです。
飲み込みやすく工夫されていることも、介護食において大切です。
そして、糖尿病や腎臓病などで塩分制限やタンパク質制限がある場合、高齢者の病気に合わせた配慮ができている必要があります。
高齢者食との違い
高齢者食とは、成人が普段の生活で取る食事に高齢者のための配慮を加えた食事です。
高齢者になると、咀嚼能力の低下、唾液の減少、食欲低下による食事量の減少といった問題が起こります。
そこで、ご家族が食べているような一般的な食事を食べやすく工夫することが必要です。
噛む力が低下しているため、食材によって一口サイズに細かく刻んで調理したり、隠し庖丁を入れて口に入れた際に噛みやすくしたりします。
また、唾液が少なくなるため、みそ汁やスープ、ゼリーなど水分の多いメニューを積極的に加えて自然に水分補給する工夫も大切です。
このように、高齢者食はあくまで「普通食」に手間や工夫を加えて食べやすくしたものです。
嚥下機能や咀嚼機能が低下した要介護者のための介護食とは異なります。
介護食の種類
介護食の4つのタイプ(区分)
高齢者の食事は、健康の増進に欠かせないものです。
栄養バランスも大事ですが、噛みやすさ、飲み込みやすさも気にしなくてはいけません。
その一方で、食欲を増進させるようにおいしそうに盛り付けて仕上げるのは至難の業。
今回は、介護食の種類や必要なポイント、そして介護食品の基準となる「スマイルケア食」をご紹介します。
介護食とは、噛む力や飲み込む力が弱い人のための食事です。
やわらかさや形状を工夫してあり、高齢者の歯の状態や、飲み込める状態に応じて種類があります。
日本介護食品協議会で制定された、ユニバーサルデザインフード(UDF)で分けられた、4つの区分を見てみましょう。
- 区分1
- 普通のご飯が容易に噛めるレベル。硬いものや大きい食品はやや食べにくいことがある
- 区分2
- 木綿豆腐が歯ぐきで潰せるレベル。硬いもの、大きいものは食べづらく、場合によっては飲み込みにくいことがある
- 区分3
- 絹ごし豆腐が舌でつぶせるレベル。細かくてやわらかければ食べられるが、水やお茶が飲み込みにくいことがある
- 区分4
- ペースト状のおかゆなど、噛まなくて良いレベル。固形物は小さくても食べづらく、水やお茶が飲み込みづらい
食べる能力に応じた介護食の種類

介護食と呼ばれるものには、いくつかの種類があります。
食べる人の体調や食べる能力に応じて、「きざみ食」「軟菜食」「ミキサー食」「ソフト食」「流動食」など、さまざまな形態があるので、それぞれの特徴を理解し、高齢者の方の身体状況と照らし合わせて選んでいくことが重要になります。
噛む力(咀嚼機能)や飲み込む力(嚥下機能)に合わせて適切な食事形態を選ぶことで、誤嚥や食事中にむせてしまうことなどを防げます。
また、自分の力で食事をすることをサポートするため、ほとんどの医療施設や介護施設で各種介護食の対応をしています。
下記の表は、介護食の種類別に特徴と適する人、適さない人をまとめたものです。
主な介護食の種類と特徴
特徴 | 適する人 | 適さない人 | |
---|---|---|---|
軟菜食 | よく煮込んだり茹でることで 舌でつぶせる硬さにした食事 |
やわらかくした食事・噛む機能(咀嚼機能)の低下した人 ・食塊の形成が難しい人 ・飲み込む機能(嚥下機能)の低下した人 ・胃腸が弱い人 ・箸がうまく使えない人 |
- |
きざみ食 | 食べ物を小さく刻んで食べやすくした食事 | ・噛む機能(咀嚼機能)の低下した人 ・入れ歯が合わない人 ・開口障害がある人 |
・唾液の少ない人 →飲み込むときにまとめられず、むせやすくなる ・入れ歯を使っている人 →食品が入れ歯と歯ぐきの間に入りやすくなる |
ミキサー食 | ミキサーにかけて液体状にした食事 誤嚥を防ぐためにとろみ剤で とろみをつけることもある |
・飲み込む機能(嚥下機能)の低下した人 | ・食塊の形成が難しい人 →誤嚥しやすくなる |
ソフト食 | ペースト状だが元の形を再現しているため | 食欲が減退しない・噛む機能(咀嚼機能)の低下した人 ・唾液量が少ない人 |
- |
流動食 | 液状のおかずや重湯 (粥の上澄みの液) |
・手術後や高熱で胃が弱くなった人 | ・低栄養の人 →エネルギー・栄養素が少ないため注意が必要 |
軟菜食とは
見た目は日常食と変わりませんが、固い食材を歯ぐきや舌だけでも咀嚼(そしゃく)できるくらい柔らかく煮込んだ食事のことを軟菜食(なんさいしょく)と呼びます。
歯が欠けている方や胃腸の病気で固いものが食べられない方、脳梗塞などの後遺症で箸がうまく使えない方に向いている食事です。
主食となるお米は、軟飯、全粥、7分粥、5分粥、3分粥など、本人の状態によって調整します。
また、主菜と副菜には繊維の多い食品(ゴボウ・タケノコ・レンコン・パイナップルなど)や弾力のある食品(かまぼこ・高野豆腐・こんにゃくなど)、硬い食品(イカ・タコ・貝類など)を避け、調理法としては脂肪の多い魚や肉や野菜は煮る、蒸す、またはゆでて柔かくします。
軟菜食は歯ごたえや食感が少ないため、慣れるまでは十分な満足感を得られないかもしれません。
軟菜食で気をつけたいポイント
スポンジ状の食べもののような、口の中に張り付きやすいボソボソするものは避けるようにしましょう。
高齢者は唾液が少なくなっているため、口の中の水分が取られる食材は飲み込むことが難しくなります。
また、お餅や団子のような口の中に張り付くものも軟菜食には向いていないので、気を付けるようにしましょう。
きざみ食とは
メニューは通常食と同じですが、細かく刻んである食事を「きざみ食」と言います。
きざみ食は、飲み込む力はあるが噛む力が弱くなった方に適した食事です。
ただ、細かく刻んであるために食べ物を口の中でまとめにくく、ときには誤嚥(食べ物が気管に入ってしまうこと)につながる可能性も指摘されています。
特に、唾液量が減っている人は、むせたり、うまく飲み込めなくて、スムーズに食事ができない可能性があるので気をつけましょう。
また、口の中に食べ物のカスが残りやすいので、食後の口腔ケアをおろそかにすると虫歯や歯周病になるリスクが高まります。
高齢になると筋力とともに噛む力も低下します。
刻む大きさは施設や病院、食べる方の状況によって1~2cm角のものもあれば、みじん切りほどに細かいものまでさまざまです。
きざみ食で気をつけたいポイント

食べ物は口の中で、①噛んで砕かれ(咀嚼)、②まとめられ(食塊作り)、③喉の奥に送り込まれます。
単に刻むだけでは食べ物の細かい粒が口全体に広がって②が難しくなってしまい、誤嚥(食べ物が気管に入ってしまうこと)の原因になってしまう可能性があります。
また、細かい粒が歯の間に挟まったままになるので虫歯になる可能性もあります。
こういったことを防ぐため、きざみ食は水溶き片栗粉でとろみをつけて、食べ物の粒をまとまりやすくするなどの工夫が施されています。
ミキサー食とは
ミキサーにかけて食べ物をポタージュ状にしたものを「ミキサー食」と言います。
水分が多いため、誤嚥防止のためにとろみ剤を加えるのが一般的です。
とろみ具合は個人の感覚で違うので、詳しく知りたい方は「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」をご確認ください。
意図せずに喉に流れ込み、誤嚥につながる可能性もあるので、粘度については特に要注意です。
また、食事としては見た目がさみしいので、盛りつけ方に気を使うなど、食欲減退を防ぐ工夫も求められます。
ミキサー食で気をつけたいポイント
ミキサー食は噛むことがほぼできず、飲み込むことも難しい人にとって便利な食事ですが、デメリットや注意点もあります。
- 見た目が美味しそうではない
- 食材をすべてミキサーにかけてしまうので見た目も食感も悪くなります。
- そのためおいしさを感じられず、どんな食事かもわからずに食欲を失うこともあるので、ミキサーにかける前の食事を見せ、メニュー名を伝えることも大切です。
- 粘度によっては誤嚥が増える
- 水分が多いものは無意識に喉まで入ってしまい、誤嚥につながる場合があります。
- ミキサー食は普通食やソフト食より多水分なので、分量には注意が必要。
- 必要な栄養素を摂取するためには量が多くなる
- ミキサー食は通常食に出汁などの水分を加えてドロドロ状にしたもの。
そのため必要な栄養素を摂取するには通常食よりも多い量が必要です。 - 高齢者の食事で考慮すべき点は誤嚥と低栄養の防止です。
ミキサー食はそうした危険があるので、自宅でつくる際は下記の2つに注意しましょう。 - 水分過多にはとろみをつける
- 誤嚥を防ぐためにはとろみづけが有効ですが、つけ過ぎには注意しましょう。
- 水分が多いと無意識に喉まで入ってしまい誤嚥につながる危険があり、とろみをつけ過ぎれば喉に張り付き飲み込みにくくなるので、ちょうど良い粘度に仕上げることが重要。
- 目安はポタージュ状ですが、食べる人の飲み込む力に合った粘度に調整しましょう。
- 食欲減退を極力防ぐため一品ずつミキサーに!
- ミキサー食は食事をすべてミキサーにかけるので、見た目が通常食よりも劣り、食欲を刺激しません。
- 食欲が減退すると、必要な栄養素を摂れなくなることも考えられます。
- 低栄養を防ぐためにも、一品一品ミキサーにかけて、元のメニューを伝えるようにしましょう。
ソフト食とは
ソフト食とは、食材をミキサーでペースト状にし、ゼラチンやゲル化剤で食材の元の形を再現した食事のこと(施設により食事形態の名称が違うこともあります)。
ペースト状なのでほとんど咀嚼する必要がなく、表面がツルツルしているので、舌の力だけで簡単にのどまで運ぶことができます。
唾液量が減った方でも飲み込みやすく、誤って気道に入る可能性も低いので安全性が高くなっています。
ソフト食は日常食と同じような見た目をしているため、食欲の減退を防ぐ効果も期待できます。
食事を楽しむ観点からは非常に優れた食事です。
やわらかさのレベルは、歯ぐきでつぶせる程度から、ほぼ噛む必要がないものまでさまざま。
噛む力、飲み込む力が低下した方に適しています。
ソフト食で気をつけたいポイント
ソフト食を自宅でつくる際にいくつかの注意点があります。
- 野菜は切り方に注意
- 繊維の多い野菜も切り方次第で食べやすくできます。
- 野菜のソフト食をつくる注意点は、口内に残りがちな皮を剥いてあげることと、繊維と直角に切ること。
繊維と直角に切って加熱するとやわらかい食感になります。 - 肉類は脂身があるものを
- 適度な脂身がある方が食べやすく、脂がほどよく溶けて喉越しも良好になります。
- 赤身などの堅い肉は筋を切ったり叩くことでやわらかくなります。
挽肉は口内でまとまりづらくならないよう卵などのツナギを使いましょう。 - 魚は多脂質のものを選び、口内でまとまりやすい工夫を
- 魚は加熱するとくずれがちなので多脂質のものがベターですが、骨はよく注意して取るようにしましょう。
- 調理法も蒸す、すりつぶしてつみれにする、煮込むなどさまざまですので、食べる方の状況に合った工夫をしましょう。
- やわらかい食材をチョイス
- 噛む力や飲み込む力が低下した人が食べやすいものはやわらかい食材です。
- 自宅でソフト食を作ろうと思うと、時間をかけて煮込んだりミキサーでペースト状にして再形成したりとなかなかの手間。
- 「ソフト食にする必要はあるが、時間がない」という方は市販のソフト食や高齢者向け宅配弁当・宅配食事サービスの活用もご検討ください。
- ソフト食はやわらかさ度合も調理方法もさまざまで、噛む力や飲み込む力に合った食事でなければ誤嚥などの原因になる可能性もあるので注意が必要です。
ゼリー食とは
ゼリー食とは、ミキサー食をゼリー状に固めて食べやすくした食品です。
嚥下機能が低下しているため、ミキサー食では飲みこみづらく、むせやすい高齢者のために用意されます。
特に嚥下障害の程度が重症〜中等症の高齢者に使われる介護食の一種です。
ゼリー食には、ゼラチンや寒天、でんぷんなどがよく使われています。
みそ汁やスープ、ジュースなどをゼリー状にするほか、ヨーグルトやアイスクリーム、シャーベット、卵豆腐やプリン、重湯ゼリーなどをゼリー食として献立に加えたりします。
ゼリー食で気をつけたいポイント
ゼリー食を調理する際は、切れの良いゼリー状にしておくこと、ベタ付きを抑えること、舌触りを滑らかにすることがポイントです。
水やかたまりの大きなもの、こんにゃくやかまぼこのように弾力性の高いものは、特に嚥下しにくい食材です。
そのため、高齢者の嚥下機能の状態に合わせて、ゼリー食を選ぶことが大切です。
介護食の正しい選び方
上記した通り、介護食は、きざみ食やソフト食、ミキサー食と種類もさまざまです。
高齢者に合った介護食といっても、それぞれの身体や飲み込む力などを把握したうえで選ばなくてはいけません。
しかし、どう選べば良いのかわからない方も多いのではないでしょうか。そんな悩みを持つ方に、介護食を選ぶ方法をご紹介します。
専門家に相談する

介護食選びに迷ったら、まずは専門家に相談するのが一番良い考えです。
ケアマネージャーやデイサービスの職員、お医者様に相談するのも良いでしょう。
とろみの加減によっても食べやすさが変わってくるので、いろいろ試してみましょう。
「スマイルケア食」「ユニバーサルデザインフード」を基準にする
いざ、実際に介護食を選ぶとき、固さや飲み込みやすさのレベルがわかりにくく、判断が難しいときがあります。
また、介護食は老人ホームでつくる調理師さんによっても基準が異なり、市販の介護食や宅配食を提供しているメーカーによっても表示方法などに相違がみられます。
施設側でも見極めが難しいとされるこの問題で、介護食の指標として参考になるのが「スマイルケア食」「ユニバーサルデザインフード」です。
市販の介護食にも、これらの指標が商品のパッケージに表示されているものがあるので、探してみてくださいね。
介護食品の新たな基準である「スマイルケア食」
一口に「介護食」といってもさまざまな種類があり、高齢者の方の嚥下機能の状態によっても大きくその内容が異なります。
自宅で毎日調理することが難しい場合や厨房を持たない介護施設では、市販の介護食品を活用するシーンも出てきます。
しかし介護食は、各メーカーによってさまざまな分類や表示方法があり、選ぶ側としてはメーカー間の比較が難しいとの声が上がっていました。
こういった声を受けて、農林水産省では新たに、介護食の表示をわかりやすくしていこうという取り組みをスタートしました。
「スマイルケア食」という名称で、食べる悩みに応じたフローチャートとともに分かりやすく介護食を選べる体制を整えています。
分類 | 噛む力 | 飲み込む力 | 形態など |
---|---|---|---|
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◯問題なし | ◯問題なし | 管理栄養士などへの相談の結果を受けて、個別に対応。 |
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▲やや弱い | ▲やや弱い | かたさ・ばらけやすさ・張り付きやすさなどがなく、 | 弱い力で噛める程度のもの。
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△弱い | ▲やや弱い | かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどがなく、 | 歯ぐきでつぶせる程度のやわらかさのもの。
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×とても弱い | △弱い | 形はあるが押しつぶしが容易、舌と口蓋(口の中の上側の部分)間で押しつぶしが可能なもの。 | 離水に配慮した粥など。
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×とても弱い | ×とても弱い | スプーンですくって食べることが可能なもの。 | 学会分類の主食の例では2-1(粒がなく付着性の低いペースト状の粥)、 2-2[やや不均質(粒がある)でもやわらかく、離水もなく付着性も低い粥]の2種類がある。
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×とても弱い | ×とても弱い | 均質で、付着性、凝集性、かたさ、離水に配慮した | ゼリー・プリン・ムース状のもの。おもゆゼリー、粥のゼリーなど。
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×とても弱い | ×とても弱い | 均質で、付着性・凝集性・かたさに配慮したゼリー。 | 離水が少なく、スライスゼリー状にすくうことが可能。
ユニバーサルデザインフードとは
ユニバーサルデザインフードとは、「咀嚼しやすさ」や「飲み込みやすさ」に配慮している食品のことです。
対象となっている食品のパッケージには、ユニバーサルデザインフードであることを表すマークが付き、マークの横には「容易に噛める」や「マヨネーズ状」といった、固さや飲み込みやすさを表す言葉が添えられています。
ここを見ることで、購入する前に食べられるかどうかを判別できます。
介護食のポイントは見た目

食べる機能の低下による食欲減退や誤嚥などを防ぐには、その人の状態に合わせたメニュー選びが重要です。
食べる機能の程度によっては介護食にする必要もありますが、そんなときでも気をつけたいのが、「見た目のおいしさを大切にすること」です。
介護食は通常の食事に比べ味も見た目も劣る傾向があり、とくにミキサー食の場合は、元がどんなメニューだったかもわかりません。
これでは食欲も減退し、低栄養や健康状態の悪化を招きかねません。
少しでも食欲増進を促すためにさまざまな食器やきれいな盛付け、介護食になる以前の食事を見せるなどの工夫も大切です。
また、咀嚼機能や嚥下機能は使わないとすぐに低下します。
食べづらい兆候が出てすぐに介護食に移行してしまうと、さらに嚥下機能の低下につながることもあります。
無理な食事をさせるのは危険ですが、食べるときの姿勢の改善や、嚥下能力を上げるための嚥下体操や舌運動をすることで改善できる場合もあります。
安易に介護食に変える前に、「今できること」を活用し、体が持つ機能を保つように、改善する工夫をしましょう。
介護食に必要な4つのポイント
噛みやすさ
高齢者が栄養不足となる要因のひとつに、口周辺の筋肉が衰え、食べたものをうまく噛めなくなることがあります。
普通食が固くて食べにくくなったといって、食べる量を減らすということは避けねばなりません。
調理の際、食材に切れ目を入れて噛みやすくする、あるいは一口あたりの量を抑えるために食材の切り方を小さくするなど、調理の際に工夫が必要です。
飲み込みすさ
加齢とともに、食べたものを飲み込む力も衰えてきます。
嚥下機能が衰えることで、食べたものが気道に入る「誤嚥」が起こりやすくなるので注意が必要です。
対策としては、食材に熱を十分に加えてやわらかくし、飲み込みやすくすることが大事です。
片栗粉でとろみをつける、ゼラチン状にして飲み込みやすくするなどの工夫も必要になります。
塩気の強さ
高齢になると血圧が高めになる人が多いので、塩分の過度な摂取は控えなければなりません。
味付けはできるだけ薄味にしましょう。
しかし、あまりに味が薄すぎてしまうとおいしさを感じにくくなってしまい、食後の満足感が減ってしまうこともあります。
加齢とともに味覚が鈍くなるので、若いころよりも塩分の高い濃い味を好むようになる人も多いです。
食事をつくる際は、おいしさを維持することを心掛けつつ、塩分をうまくコントロールしていくことが大事になります。
香辛料を使って味にメリハリをつけることもおすすめです。
栄養バランス
ここでは、高齢者の食事で配慮したい各種栄養素について解説しますね。
- カルシウム
- カルシウムが不足すると、骨粗しょう症が起こりやすくなり、軽い転倒でも骨折しやすくなります。
大腿骨など大きな骨も折れやすくなってしまうので、骨折が原因で寝たきりになるというケースも多いです。 - 乳製品のカルシウムは食後の吸収率が高いので、高齢者の方におすすめと言えます。
その際は、カルシウムを吸収しやすくするビタミンDも一緒に摂取するようにしましょう。 - タンパク質
- 高齢者は、消化吸収する力が低下してしまうなどの理由もあり、たんぱく質の摂取量が少なくなる傾向があります。
- 肉類や魚類、豆類や卵など、さまざまな食材から摂取することが望ましいです。
- 塩分
- 加齢になると味覚が減退するため、塩分を過剰に摂取しがちになります。
減塩を心掛け、かつ味を落とさないようにしていく工夫が必要です。 - 食物繊維
- 年を重ねるにつれて、腹筋や腸のぜん動運動が衰えて、便秘がちになります。
- 野菜を普段から食べるようにし、排便を促進してくれる食物繊維をしっかり摂取することが大事です。
- 水分
- 高齢になるとのどの渇きに対する感覚が鈍くなるため、脱水症状が起きやすいので注意しましょう。
レトルトの介護食を活用する
自宅で介護食を作ることが難しい場合には、レトルトの介護食を活用することでその負担を軽減することができます。
レトルトの介護食を使うメリット・デメリット
レトルトの介護食を利用すると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
一つずつ見ていきましょう。
メリット
長期保存ができる
レトルト食品は真空パックになっているため、数ヵ月から年単位で保存が可能です。まとめて買っておけば、いつでも利用できます。
種類が豊富
さまざまな種類のレトルト介護食から、その日のメニューに合わせたものを選べます。献立の幅が広がり、飽きの来ない食事が作れます。
手間がかからない
調理済みのレトルト介護食を使えば、調理を時短できます。忙しいときにもすぐにおいしい食事を用意できます。
デメリット
割高
スーパーや通販などで食材を購入する場合より、価格が高めです。調理済みのものは、手作りよりも高く付くことが多くなります。
味の調整ができない
自分で調理するときに比べると、本人の好みの味付けや家庭の味を出せないため、味に飽きる可能性があります。
レトルトの介護食を選ぶポイント
本人の噛む力飲む力にあったものか
本人の噛む力や飲む力に合わせたレトルト介護食を選びましょう。
高齢者によって咀嚼能力や嚥下能力は人それぞれなので、区分に従って介護食を選びます。
本人の噛む力、飲む力に合っていない区分から介護食を選んだ場合、食事がうまく食べられない、誤嚥のリスクがあるなどの可能性が高まるので注意してください。
好みの味か
レトルト介護食は調理法や味のバラエティが豊かです。
和食や中華、洋食など、さまざまなタイプの料理がレトルト食品になっています。
食べやすさ、飲みこみやすさが第一の介護食ですが、本人の味の好みにあった商品を利用しましょう。
食べる楽しみや食欲増進効果を引き出すポイントとなります。
アレンジしやすいか
食事は日々用意しなければならないため、手軽にアレンジできて献立のレパートリーを増やせることが大切です。
調味料に変化をつけて味付けをアレンジしたり、ほかの食材と合わせて味や食感を変えたりしましょう。
また、レトルト介護食によっては、ご飯にそのままかけて丼として食べられる商品もあります。
レトルト介護食はさまざまなメーカーから多彩なラインナップがあるので、豊富な種類を用意しておくと、アレンジしやすくなります。
介護食の食べさせ方(食事介助)

自宅や老人ホームなどで過ごす高齢者が一番楽しみにしているのが食事です。
しかし、噛む力や飲み込む力が弱くなっているので、食事の口に運ぶ量を間違えると、大きな事故になる場合もあります。
高齢者の食事をスムーズに進めるためには、食べさせ方をしっかり理解している必要があります。
食事前の準備
食事の前にしておきたいことは、集中して食事をしてもらうために、すっきりとした状態にすることです。
まずはトイレに行って排泄を済ませておきましょう。
テレビなどがついていると気が散ることもあるので、可能であれば消してください。
次に、手を洗うか、濡れたおしぼりで手のひらを拭きましょう。
そして、うがいや口腔ケア用のスポンジなどで口の中をきれいにします。
最後に、上体を90度に近い正しい姿勢にしましょう。
こうすると、スムーズに食べ物が食道へと運ばれるので、のどに詰まったり、気管に入るリスクも軽減できます。
「今日のおかずには好きなメニューがありますね」と、食事の献立を説明し、食欲を刺激することも大切です。
食事中の介助

まず、食事を介助する方と被介護者は横一列に座ります。
スプーンで食べ物を口には運ぶときは、口の少し下の位置から、飲み込める適量に調節します。
献立はご飯、おかず、野菜、味噌汁とあるので、それを順番に口へ運んであげましょう。
同じ食品ばかりだと食べる側も飽きてしまい、味気ない食事になってしまうので注意が必要です。
また、適宜、お茶やお水で水分補給も気にしましょう。
高齢者は噛んだり飲み込んだりする力も弱いため、食べる速度も遅いものです。
食べるペースを把握し、焦らず、時間がかかっても楽しく食事ができるようにしましょう。
食後のケア
食事を片付ける前に、高齢者の食べた量から、健康状態に異常がないかを確認します。
食後は、歯磨きをして口の中をゆすぎ、入れ歯などは外して明日のためにお手入れをします。
口の中がすっきりと清潔な状態で休んでもらうようにすると良いでしょう
食後すぐに横になると食べたものが逆流することがあるので、すぐに横になるのは避けてください。
高齢者にとっての「食」の重要性
食事は、日々の生活の質を高めるために必要不可欠。高齢者の場合、もし口に合わない食事が続くと、食に対する意欲が薄れ、低栄養状態になりかねません。
その結果、要介護度や寿命にも悪影響が及ぶ可能性があります。
良質な食事を提供している施設は、工夫を凝らし、常にひと手間かけた食事を提供しています。
食事は日々の楽しみであり活力に直結します。老人ホームを選ぶ際には、おいしいと感じられる食事を提供している施設を選ぶようにしましょう。
日々の刺激になる

私たちが生きるために必要なエネルギー源はやはり食べ物。
食事はとても大切な行為です。
良い食事は、単なる栄養摂取にとどまらず、精神的な満足感も得られ、多くの人にとって生きる楽しみのひとつになります。
健康上の問題がなく活発な若者に比べ、筋力低下などで活動に制限が出てくる高齢者は、日常生活で刺激を受ける機会があまりありません。
それだけに一日三度のおいしい食事が生活の刺激になっているという人も大勢います。
栄養不足の防止になる
加齢にともない噛む筋肉が衰えたり歯が弱くなったりすると、飲み込む力(嚥下力)や噛む力(咀嚼力)が衰えてきます。
これまで普通に食べていたものが上手に食べられなくなり、飲み込む際にむせることが多くなると、食べ物が気管に入り「誤嚥性肺炎」を引き起こす危険性もあります。
また、高齢者は一般的に年齢とともに食欲が低下し、食べる量が減って栄養不足になっていることがあります。
低栄養の防止になる

高齢者の食事は、若い人の食事より栄養バランスが重要です。
栄養バランスにこだわらず、毎日同じような食事を続けると、必要な栄養が不足する「低栄養」に陥ります。
低栄養は、免疫力を低下させ、風邪などさまざまな病気を誘発します。
さらに胃腸の消化能力が低下して、便秘や下痢になる可能性もあります。
便通異常は食欲不振にもつながるので、低栄養がさらに進むという負のループに陥ります。
また、栄養不足になると脳にも十分な栄養が行き届かず、その結果認知機能の低下をももたらすと言われています。
食事を重視するなら老人ホームもおすすめ
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、施設の設置基準で栄養士や調理員の人員配置が定められています。
そのため、カロリーや栄養バランスを考えた食事を利用者の健康状態や持病に合わせて工夫して提供しています。
また、咀嚼機能や嚥下機能の低下した要介護度の高い人の食事にも対応していているのが特徴です。
食事の提供や食事介助を含めて介護サービスは要介護度に応じて定額利用となっています。
追加費用が発生しないため、安心して入居できる介護施設です。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す住宅型有料老人ホーム
咀嚼能力や嚥下能力をはじめ個々の服薬や持病の状況に合わせた食事を個別に提供しています。
住宅型有料老人ホームは、イベントやレクリエーションが充実していて、入居者間のコミュニケーションも盛んです。
民間施設のため、施設によってはフレンチのコース料理や会席料理を出したり、飲食店に外食に出かけたりする食事関連のイベントを開いている施設も見られます。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探すサービス付き高齢者向け住宅
「サ高住」とも呼ばれていて、シニア向けの賃貸物件です。
一人暮らしに不安を抱える、自立から要介護度の低い人が中心に暮らしています。
介護サービスが必要な人は、個別に外部の介護事業者と契約して利用します。
外出や外泊などで自由度が高い施設です。
食事面でも部屋のキッチンで自分で調理する、施設内の食堂で食事を取るなど利用者の必要に応じて選択が可能です。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探すグループホーム
認知症の患者が少人数のユニット単位で共同生活を送るグループホームは、入居者同士で家事を役割分担しています。
生活リハビリを通して認知症の症状緩和を図るのが目的で、食事の用意や片付け、買いものなども一人ひとりの能力に応じて協力しながら生活する点が特色です。
日常生活を通して認知症ケアの専門スタッフのサポートを受けられるので安心です。
入居者全員が認知症を持っているため、一般的な介護施設に比べて気兼ねせずに生活できます。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す
他の人はこちらも質問
流動食を食べるのはどんな人?
流動食は、手術後や発熱などで胃が弱くなった方、咀嚼機能が低下した人に適しています。
刻み食を食べるのはどんな人?
刻み食は飲み込む力はあるが、噛むのが難しい人に適しています。場合によっては、誤嚥することもあるため、注意が必要です。
ソフト食を食べるのはどんな人?
ソフト食は食べものを自分の力で噛むこと、飲み込むことが難しい人に適しています。
歯茎でつぶせるものから、ほとんど噛む必要のないものまでレベルはさまざまです。
ミキサー食を食べるのはどんな人?
ミキサー食は飲み込むことが困難な人に向けた介護食です。
ミキサー食の特徴は、食事をペースト状にしており、咀嚼機能が低下した人にも食べやすいことです。誤嚥を起こすケースが多いので、とろみをつけるなどの工夫をします。