日本有数の恵まれた自然を有し、多くの高齢者が生活を希望する
岩手県は、老人ホームが不足している現状にありますが、通所のデイサービスや在宅介護支援、ホームヘルプサービスといった支援が活発に行われているという背景があります。
東日本大震災の影響は今も残っており、老人ホーム施設の開設よりも、仮設住宅や在宅の要援護高齢者などの生活支援が優先課題。在宅での介護サービス提供体制の復旧・再構築が支援されています。
そのため、今後は老人ホームと在宅の両輪での高齢者ケアが必要となるでしょう。
上記のような動向を鑑みると、老人ホーム施設の入居率は高く、入居待ちも少なからず発生しているよう。一方で高額な施設はあまりなく、費用面でも入居しやすく生活が快適であることから、退所する人が少ないため当然とも言えます。この点からもやはり、老人ホーム施設の増設が望まれるところでしょう。
岩手県は都道府県において北海道に次ぐ第2位の面積を誇ると同時に、耕地面積の広さも日本5位。自給率が100%を超える数少ない県。
畜産業や林業も伝統的に盛んでかつ、豊かな漁場として知られる三陸海岸周辺を中心とした水産業もあります。
恵まれた自然は日本国内でも随一であり、こうした豊かな環境の中で暮らせるのは、高齢者にとって何にも代えがたいものではないでしょうか。
岩手県の高齢化は全国のペースを上回っている
2023年の岩手県の0~14歳人口は12万5,829人で、約10年前と比較して約3万人の減少。15~64歳人口は65万5,564人で、こちらも約10年前と比べ8万8,909人減っています。
その一方で、2014年の65歳以上の高齢者人口は37万9,217人、2023年には40万8,001人。昭和以前から減少傾向にある0~64歳以上人口とは対照的に、65歳以上の高齢者人口は長い間、増加傾向にあります。
1980年には約14万3,000人しかいなかった65歳以上の高齢者人口は、この35年ほどで30万人以上も増えています。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
こうした傾向から高齢化率も年々上昇しており、2014年には29.6%だったものが2023年には34.3%と約10年で約5%上昇しています。
2023年の日本全国の高齢化率は29.0%のため、岩手県の高齢化率は全国と比べてもかなり高い数値であることがわかります。
また、75歳以上の後期高齢者の割合も高くなっています。
2008年以降は65歳以上74歳以下の前期高齢者の割合を75歳以上の後期高齢者の割合が上回っており、こうした傾向も今後しばらく続く見通しです。
岩手県の高齢化は今後も進行していく見込みで、2045年には総人口がピーク時の2/3以下、90万人を切る予測です。
岩手県の高齢者人口は、65歳以上が2025年がピーク、75歳以上は2035年をピークに減少に転じる予測です。
介護サービス受給者数は2023年には約6万8,000人が受給
岩手県の要支援・要介護認定者数は2022年時点で7万9,976人で、約10年前と比較して約9,000人近く増加しています。
要介護度別に見ていくと、最も多いのが要介護1認定者で1万6,206人、次に要介護2の認定者1万4,645人、要介護3認定者1万968人と続きます。
一方、県内の介護サービス受給者数は2023年には6万8,039人、受給率は85.0%でした。
2020年の介護サービス受給者数は6万6,832人で受給率は84.0%でしたが、この約4年間で約1,000人増加しました。
全国における介護サービス受給率は全国と比較しても同様の推移を見せています。
介護サービスの受給者数を種類別に見ていくと、最も多いのが居宅サービス受給者で4万4,189人、次に施設サービス受給者の1万1,241人、地域密着型サービス受給者1万3,352人と続きます。
全国の介護サービス受給者の割合も同様に居宅サービス受給者数が最も多く、伸び率も岩手県のものとほとんど変わりありません。
全国と比較しても伸び率が異常に高いということはありませんが、増加傾向であることには変わりなく、今後の対策が必要になってくるでしょう。
「いわてリハビリテーションセンター」及び「いきいき岩手支援財団」が介護予防従事者の育成を進める
岩手県では、「県介護予防市町村支援委員会」を設置することで、専門家の意見や各地で行われている介護予防の取組事例や統計データなどを通じ、各市町村への支援をしています。
また、介護予防従事者の育成も行っており、「いわてリハビリテーションセンター」及び「いきいき岩手支援財団」に委託することで、介護予防に関する知識や、技術習得のための介護予防従事者研修が実施されています。
具体的な介護予防プログラムとしては、軽米町で行われている「ふれあい共食事業」が特徴的です。
ふれあい共食事業では、高齢者の健康チェックから、健康づくりのための体操や交流を深めるためのレクリエーションが行われ、最後に食生活改善推進員から振る舞われる食事をみんなで食べます。
食事やレクリエーションを通じた交流や、介護予防に関する知識を深めることで、介護予防の意識を高めるとともに、司会進行や会場整備に高齢者のボランティアを募ることで生きがいの形成も図っています。
そして、リハビリテーションも介護予防における重要な役割を果たしています。
岩手県では高齢者福祉県域ごとに地域リハビリテーション広域支援センターを指定しており、協力病院などの医療機関との連携を図りつつ地域のリハビリテーションを推進しています。
今後の取組としては継続して介護予防従事者の育成を図るとともに、保健所を通じて地域リハビリテーション広域支援センターなどの関係機関と連携し、さまざまな視点から市町村の介護予防事業の支援を推進していきます。
県内51ヵ所に設置された地域包括支援センターが高齢者の暮らしをサポート
岩手県では「介護」「医療」「予防」といった専門的なサービスと、その基礎を支える「住まい」「生活支援・福祉サービス」を一体的に提供することで、高齢者や障がいを抱えた方や子どもたちなどが住み慣れた地域で安心して暮らせるように支援する地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
地域包括ケアシステムの前提としてまず大切になってくるのが、住まいの確保です。
さまざまなニーズや経済力に沿った、多様な住まい方が確保されていなければ、高齢者の尊厳やプライバシーを守るための住環境が保証されません。そうした意味において、住まいの確保は地域包括ケアにおける大黒柱のような重要な位置を占めています。
次に重要なのが生活支援・福祉サービスです。
経済的な支援はもちろん、心身能力の低下に対する支援など、さまざまな面から人々を支援することで生活の地盤を固めることが大切です。また、食事の準備や日常的な声掛け・見守りなど人々の繋がりから生まれる支援も高齢者の生活の安定に寄与します。
地域包括ケアシステムの中核を担う地域包括支援センターは県内51ヵ所に設置されており、総合相談・支援、権利擁護、介護予防ケアマネジメント業務、包括的・継続的ケアマネジメント業務という4つの機能を持っています。
地域包括支援センターによって、住まいや生活支援・福祉サービスといった地盤を固め多角的な視点から支援を行うことが、岩手県の地域包括ケアシステムにおける重要な試みです。
運営適正化委員会で介護サービスの相談や苦情の受け入れ体制が万全
岩手県における介護保険サービス全般に関する相談・苦情は、地域包括支援センターや身近な市町村において受け付けています。
より専門的な事案は苦情処理機関である国保連、介護保険制度に関する相談は地域包括支援センターで受け付けています。
地域包括支援センターでは、事業者に対する調査や指導なども行われており、介護サービス利用者からの相談や訴えをもとに、サービス改善に向けた取り組みを行っています。
また、その他にも福祉サービスについての苦情の解決を図るための第三者機関として、福祉サービス運営適正化委員会も設置されています。
具体的な相談・苦情内容としては、「サービス内容が契約と異なっていた、施設職員から不当な扱いを受けた」などが挙げられます。
相談が可能なのは、福祉サービスの利用者本人やその家族、代理人で、相談・苦情を受けたあと、福祉サービス運営適正化委員会は事業者と相談者双方に助言や調査を行い、話し合いによる解決を目指します。
地域包括支援センターとは違って指導や監査権限を持たないため、直接的な改善に動くことはできませんが、虐待や法令違反など重大な問題が発生した場合は県知事への通知を行います。
岩手県では、こうした相談や苦情の受付先、サービス情報の入手先をさらに増やすため、市町村における総合相談窓口の機能強化を支援しています。
また、地域包括支援センター従事者研修や介護保険相談・苦情処理業務担当職員研修会を開催することで職員の資質向上を図り、相談機能充実のための支援を行っています。