人工透析(透析治療)とは
腎不全の治療法のひとつ
透析治療(以下「人工透析」)は、本来は腎臓が果たすべき血液のろ過という役割を、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓や腹膜を利用して代わりに行うことです。
何らかの病気を患い、それに伴って腎臓の働きが悪化した場合は「腎不全」と呼ばれます。そしてこの腎不全がさらに重度化し、腎臓の機能回復が見込めなくなった状態が「慢性腎不全」です。
慢性腎不全になると、血液の中にある老廃物や水分を自分の力で体の外に出せなくなります。それによって、思考力の低下や倦怠感、不眠、頭痛、吐き気などの「尿毒症症状」と言われる症状が現れます。それによって日常生活を健常者のように送れなくなり、生命の維持ができなくなるような場合に、人工透析が必要になるのです。
日本で多く行われているのは、ダイアライザーを利用した療法(血液透析療法)です。体内に出した血液をダイアライザーで浄化し、その後に再び体内に戻すという作業が行われます。
透析の頻度は、週3回、1回4時間というのが標準的な回数です。
透析を受けるために病院や専用施設に通うようになると、本人はもちろん家族の負担も大きくなります。老人ホームの入所を検討している場合、すべての施設が透析に対応しているわけではないので、受け入れ体制が整っている施設を探す必要があります。
日本の透析人口
日本透析医学会によると、現在、日本における透析人口は約33万人。
学会によれば、将来的に透析人口は減少に転じると言われていますが、どちらかと言えば、減少していくのは若年層から中年層です。今後は、透析人口の80%以上を高齢者が占めるという状況になる見込みです。
かつては、若い人が行う場合に「人工透析=仕事への制限が生じる」という点が問題となっていました。しかし、高齢者が行う場合は、「人工透析=入居できる介護施設が限られる」というところが問題とされています。
人工透析をするには通院が必要で、そのための労力やコストが問題とされてきました。しかし近年、人工透析を必要とする高齢者の数が増えたことにより、人工透析患者の受け入れを介護施設も積極的に行っています。
血液透析となると、入居者と付き添いのスタッフは週に2~3回ほど通院する必要があります。そうした問題点を解決すべく、人工透析可能なクリニックが併設もしくは隣接している老人ホームも増加傾向です。
人工透析の種類
透析の療法には、大きく分けて2つあります。「血液透析療法」と「腹膜透析療法」です。
それぞれ透析を行うメカニズムが異なり、実際に透析を行う場合は、自分が受ける療法の特徴を理解しておく必要があります。
血液透析とは
日本では現在、血液透析を30万人以上の方が受けており、その治療成績は世界の中でもトップクラスです。国内では透析を受けている人の95%以上が血液透析を選択しているので、日本における標準的な透析治療法であると言えます。
血液透析では、血管に刺した針を通して血液をいったん体外に出し、出した血液をダイアライザーという透析器に通します。この機器を使って血液の中にある老廃物および余分な水分を除去し、きれいに浄化された血液を体内に戻すのです。
以下が血液透析の基本的な仕組みになります。
血液の透析は、体の中に蓄積した尿毒素などの老廃物や余分な水分を取り除くために行われます。
血液透析の長所は、効率的に行われるために治療方法を同一化された療法とあって、対応できる病院や施設が多く、通院できる範囲が広がるという点です。また、一般的に、もうひとつの療法である腹膜透析よりも毒素を十分に取り除けるとも言われています。
透析を行っている間以外は自由に行動することができ、国内外に出張や旅行をすることもできるのです。ただし、出張先や旅行先に血液透析を行える病院や施設があることが前提になります。
一方、血液透析の短所は、あらかじめ決められた時間と場所でしか治療を受けられないということです。日常生活の中に制限を感じてしまうことは仕方のないことです。
また、1回の透析で2、3日分の毒素や水分を抜くので、体内をめぐる血液の量が増加して、心臓などに大きな負担をかけることになります。さらに、透析を行うたびに血を出すための針を刺さなければならず、その痛みに耐えないといけません。
ただ、痛みを和らげる方法はいくつかあるので、苦手な人はそれらの措置を受けることができます。
内シャントをつくる理由
人工透析を行う場合、体の中にある老廃物を除去するために、1分間で200ml以上の血液を体の外に流す必要があります。
その際、「内シャント」を造設します。シャントとは、動脈と静脈をつなげることで、動脈で勢いよく流れる血液を、静脈へ流すことです。それにより、静脈の流れが良くなり、十分な血液を確保しやすくできるのです。
内シャントを作成してから透析ができるようになるまでは、2週間ほど必要になります。
内シャントは血液透析を行う患者にとってはいわば命綱となり、造設後は閉塞や感染を起こさないように注意すべき点も多いです。具体的には、シャントを叩いたりぶつけたりしない、体の下にして寝ない、重いものを持たない、腕時計をしないなどです。
血液透析の種類
血液透析にはいくつかの種類があります。以下は、その一覧とそれぞれの特徴です。
血液透析の種類 | 特徴 |
---|---|
長時間 | 透析1日6時間以上の長時間の透析を行う(通常は4時間程度)。 除水(体内にたまった水分を透析で取り除くこと)を緩やかに行うため、身体的な負担が少なく、疲労感を軽減できる。 また、毒素の除去も充分にできるため、血圧を安定させたり貧血を改善させたりなど、さまざまな効果が期待できる。 |
オーバー | ナイト 透析夜間の睡眠時間を活用した血液透析の方法。 日中の時間を使わなくて良いというメリットがある。 |
頻回透析 | 週に5回以上の透析を行う血液透析の方法。 1回にかける時間が短いため、身体的負担が少ない。 ※頻回透析は現在の診療報酬上は認められていません。 診療報酬上での透析は週3回のため、頻回透析は在宅透析などの特殊な環境でのみ可能。 (例:週に5回以上の透析を行う血液透析の方法で、主に在宅透析で行われている。) |
血液濾過 | 透析通常の血液透析に加えて血液濾過を行う血液透析の方法。 中分子物質の除去(大きな毒素の除去)もできるため、より多くの毒素を除去できる。 |
在宅透析 | 在宅で透析ができる血液透析の方法。 通院の回数を少なく抑えられる。 |
血液の透析を行う方法には、血液透析(HD)、血液濾過透析(HDF)、血液濾過(HF)などさまざまな種類があります。
2016年末のデータでは、国内では73.3%が血液透析、23.3%が血液濾過透析を行っているという状況です。
また、最近では、「オンラインHDF」という新たな血液浄化療法に注目が集まっています。対象となるのは透析アミロイド症もしくは透析困難症などの患者です。近年、このオンラインHDFを導入している病院や施設が増えています。
血液透析のやり方に関しては、「1回4時間で週3回」という標準的な血液透析以外にも、オーバーナイトや長時間透析を行っている病院は極めて少ない状況ですが、増加傾向にあります。
さらに自宅で行う在宅透析という方法もあります。
これらの療法については、医師や病院、透析施設によって採用しているやり方や方針が異なることがあるので、事前に医療機関ときちんと相談し、納得したうえで方法を選択する必要があるでしょう。
腹膜透析とは
腹膜透析とは、自身の腹膜を透析膜として用いる透析療法のことです。
透析膜とは、非常に小さな穴が空いており、血液中の分子量の小さな物質のみを通すことで、透析の際に血液と透析液の濃度を等しくするものです。主に在宅での透析で行われます。
実際の方法としては、腹部に「カテーテル」と呼ばれる管を留置し、そこに透析液を注入。その後、一定時間を経てから排液するという順序になります。
これにより、患者の血液中にある老廃物などが腹膜中の血管から透析液に滲みでてくるので、血液の浄化が行えます。
透析液の入れ替えは血液との濃度の差を利用するかたちで行われ、注入には約10分、排液には約15分かかるのが一般的。
また、入れ替え方法については、1日かけて3~5回の入れ替えを行う「CAPD」という方法と、専用の機器を使用して夜間の睡眠中に自動で入れ替えを行う「APD」という方法があります。
腹膜透析の最大のメリットは、自由度が高くて満足度の高い透析方法であることです。特に高齢者では、一日2~3回の少ない透析液交換で済む場合も多く、高齢者でも自己管理能力があれば行うことは問題ありません。
また、血液透析に比べると心臓への負担が少なく、腎臓の残存機能を温存しやすいというメリットがあります。しかし、常に清潔に保っていないと合併症として腹膜炎を発症するため、自己管理能力が要求されるなどのデメリットもあります。
また、生体膜である腹膜を用いて透析を行うため、腹膜の機能が徐々に低下することによって、透析効率が落ちてしまうことにも注意が必要です。
血液透析と腹膜透析の違い
それでは、血液透析と腹膜透析の違いを確認しておきましょう。
項目 | 腹膜透析 | 血液透析 | |
---|---|---|---|
透析方法 | 透析場所 | 自宅・会社・学校など | 医療機関 |
透析時間 | 24時間連続 | 1回あたり4~5時間 | |
透析の拘束時間 | 1回30分、1日4~5回 | 1回あたり4~5時間+通院時間 週2~3回 | |
透析の実行者 | 患者本人、家族 | 医療スタッフ | |
通院回数 | 月1~2回 | 月8~12回 | |
手術 | カテーテル挿入術 | 血管吻合手術(シャント作成) | |
抗凝固剤 | 不要 | 使用 | |
症状 | 透析時の問題点 | お腹のはり | 穿刺痛(注射針を刺すこと)、不均衡症候群(血圧の低下、頭痛、吐き気)など |
日常生活 | 社会復帰 | 有利 | 可能(ただし拘束あり) |
感染への注意 | 不要 | 必要 | |
入浴 | カテーテルの保護が必要 | 透析日には穿刺部分に注意 | |
スポーツ | 可能(ただし水泳や腹圧のかかる競技は避ける) | 可能(ただしシャントへの注意が必要) | |
旅行 | 制限なし(ただし透析液・器材携行、または配送が必要) | 長期の場合は透析施設への予約が必要 | |
自己負担 | 入浴時の保護物品等の購入 | 通院費用 |
治療で必要となる費用
継続的に行う必要性がある人工透析では、それにかかる費用も気になるところ。
しかし、給付金や助成制度を使えば、自己負担を大幅に減らすことができます。
以下では、具体的な給付金や制度について解説していきます。
1.医療保険の長期高額疾病(特定疾病)
医療費の自己負担額が一定以上になった場合、「高額療養費制度」によって払い戻すことができます。透析治療の場合は「特定疾病」として扱われ、一般的な疾病の場合よりも多くの保険給付を得られます。
具体的には、透析治療を受けた際の自己負担額は、1ヵ月あたり1万円、一定以上の所得のある人の場合は2万円が上限となります。これらの自己負担も、自立支援医療費による給付や障害者医療費助成制度を利用すれば自己負担0円になります。
これは、外来や入院、薬局などにおける負担に対して適用されます。
ただ、透析を理由に病院に入院した場合、そこで必要となる食事代については自己負担となるので、注意が必要です。
2.自立支援医療(更生・育成医療)
障害者・障害児の身体上の障害を軽くすることを目的で受ける治療については、医療費の自己負担分を国が助成をしています。
血液透析やCADPなどの透析治療もその対象です。ただし、助成金の支給を受けるには身体障害者手帳を交付されている必要があり、これには一定の条件を満たすことが必要です。また、治療を行う医療機関が「自立支援医療機関」の指定を受けていなければなりません。
原則として自己負担は1割ですが、低所得者を対象に軽減措置があります。
透析のような長期にわたる治療が必要な疾病は「重度かつ継続」という扱いになり、負担額が減額化される経過措置などがとられているのです。
3.重度心身障害者医療費助成制度
身体障害者手帳において1級または2級の障害者が医療サービスを受けた場合、医療保険または自立支援医療の自己負担額に対し、都道府県や市区町村が独自の制度に基づいて助成をしてくれます。
ただ、助成の対象や内容は自治体によって異なるので注意が必要です。
一部の県では障害者手帳の3級まで対象となる場合もありますし、入院時の食事代の自己負担分についても助成を行う自治体もあります。
また、65~75歳未満の年齢で後期高齢者医療制度に加入していない場合、助成に制限をつけている自治体や助成の対象としない自治体もあります。助成の申請をする際、住んでいる自治体はどのような制度になっているのか、事前に確認しておきましょう。
人工透析と体重管理
ドライウェイト(DW)の適切な設定
腎臓の働きが正常であれば、余分な水分は尿として身体の外へ排出されます。そのため、私たちは体重計に乗ることで体重を正確に知ることができますが、尿を十分に排出できない透析患者は体重を適切に測定できません。
正確な体重がわからないまま透析治療を受けると、血圧の低下や上昇、足のむくみやけいれん、耳鳴りなどの原因になります。そこで透析が終了したときの目標体重を「ドライウェイト(DW)」として設定し、透析と同時に除水をします。
DWは心胸比(心臓と胸の幅の比率)や血圧、むくみの状態などによって決定し、約1ヵ月ごとに見直します。
体重管理
透析患者は身体の中の水分が上手く排出されないため、体重計に乗ると、本来の体重と身体の中に残った水分量を合わせた数値が表示されます。そのため、ドライウェイトを設定して透析を受ける必要があり、透析中の除水量は体重の3%~5%以内が理想的だとされています。
つまり、本来の体重が60kgであれば、透析終了から次の透析までの間の体重の増加は1.8~3.0kgに抑えるべきということです。
一般的な体重管理は食べる量を調整することを意味しますが、透析患者の場合は「体重管理=水分管理」ということになります。
食事制限
透析患者がまず気をつけなければいけないのが、塩分の過剰摂取です。塩分を摂りすぎると喉が渇き、その結果として水分も摂りすぎて適切な体重管理ができなくなるからです。
カリウムやリンの摂りすぎにも要注意です。カリウムは腎臓が悪くなると上手く排出できなくなるので、摂りすぎると高カリウム血症を起こし、不整脈や心不全になる恐れがあります。
リンは血中濃度が上がると心筋梗塞や脳梗塞、二次性副甲状腺機能亢進症を引き起こす原因になります。タンパク質は必須の栄養素ですが、タンパク質が多く含まれる食品にはリン含有量が高いものもあるので注意しましょう。
老人ホームでの人工透析
基本的には通院が必要だが、施設入居は可能
人工透析には、血液透析機のような機械を使う方法と、患者の腹膜を利用する腹膜透析による方法があります。このうち、透析機を使った人工透析は、原則として病院や施設で行います。
さらに、老人ホームなどの高齢者向けの施設でも、透析患者を受け入れているところは多いです。
ただし、入居しながら透析を受ける場合、週3回の通院介助が必要になります。腹膜透析の場合、患者自身でも行えますが、感染症などのリスクがあることも考慮しなければなりません。
介護職員の役割
老人ホームなどの高齢者向けの施設では、透析患者の方も数多く入所しています。
透析を必要とする人は日常生活において気を付けるべきことがたくさんあります。その点を施設側が配慮してくれるかどうか、勤務する介護職員に透析の知識が備わっているかどうか、入居前にきちんと確認する必要があるでしょう。
- 透析後の体調管理
- 透析は、体に大きな負担をかけることを職員は配慮する必要があります。
- 体内から水分を一気に抜くことによって血圧が急に低下するほか、長時間の拘束や、血液を入れ替えるなどさまざまな作業によって、本人も気づかないうちに体力が失われていくのです。
- さらに、透析後は体調不良が現れやすくなるので、早めに休む必要があります。
- そのため介護職員は、透析患者の食事、運動、睡眠、排便、体重、服薬などについて管理しつつ、シャントの状況も注意してみておくことが求められます。
- シャントの管理
- シャントが閉塞していないか、感染していないかの確認をしなければなりません。
- 透析は1分間に200mlの血液を採り出し、浄化したのちに戻すものです。
通常、それだけの血液量を取り出せるのは動脈だけですが、人工的に動脈と静脈をつなぐラインをつくることで、簡単に透析に必要となる血液量を確保することができます。 - そのために透析患者の体につくられるのが「シャント」です。シャントは利き腕ではない腕につくられることが多く、シャントがつくられた腕を触ると、太い血管のような物があることを確認できます。
- シャントはつくった後もそれで大丈夫というものではなく、日常的に手入れをしなければなりません。また、重いものを持たせない、シャントの入っている腕で血圧を測らないなど、普段の生活の中で気に掛けるべきことは多いのです。
- 食事の管理
- 透析患者は野菜を食べることに制限がかかります。そのため、その食事管理なども、職員の仕事となります。
- 野菜全般に含まれる「カリウム」は、腎機能が問題なく働く場合は尿とともに体外に排出されるのですが、透析患者の場合はそうしたカリウムの代謝が正常にできず、体内にたまっていくためです。
- カリウムは体に必要な栄養素ですが、過剰に体内に蓄積すると最悪の場合、心停止を引き起こす原因ともなります。
- そのため、カリウム摂取を控えるために、野菜を自由に食べることができなくなるのです。しかしそうなると、野菜に含まれる食物繊維が不足がちになります。
- 食物繊維は排便を行ううえで欠かせない栄養素であり、野菜を十分に食べられない透析患者の中には、便秘で苦しむ人も多いです。医師と相談し、必要に応じて下剤などで排便をコントロールする必要もあります。
- 塩分と水分摂取量の管理
- 食事という点では、塩分と水分の摂取量にも気をつけなければなりません。
- 透析患者は腎機能が衰えているために、上手く体内で濾過が行えずに尿の量が減少します。それにより体外への水分の排出が上手くいかず、水分が体内にたまりやすくなるのです。
- 透析の際にはこの余分な水分も除去するのですが、あまりに一気に水分を除去すると血圧が急激に上下し、体への負担が大きくなるので、一度に除去できる量は限られています。
- そのため、1日の水分摂取量に制限がかかることになるわけです。
- ただそうなると、塩分の摂取量に注意を払う必要が出てきます。水分を自由に取れないのに塩分を多く摂取すると、一日中ずっと口の渇きを我慢しなければならない、ということにもなるからです。
- 喉の渇きのあまり、歯磨き時などについ水を飲んでしまい、結果として水分を摂取し過ぎてしまう、ということも起こり得ます。
- 透析患者を受け入れている老人ホームの介護職員は、こうした透析患者の状態をよく理解したうえで介助を行っていく必要があるわけです。
- このように、介護職員が透析患者に対して果たすべき役割や責任は大きくなっています。
認知症の方へのケアの方法
認知症が悪化していくと、透析中に安静を保つのが難しいケースも多いです。
針を刺すときに暴れる、あるいは透析中じっとしていることに我慢できず動き回ろうとして針を抜いてしまうといった行動がみられることも少なくありません。そのため、施設の介護職員は、認知症の方々に対してより注意深くケアにあたる必要があります。
もし認知症を発症したら、家族が病院に付き添い、常にそばで見守る必要があります。
トラブルを避けるためにはやむを得ないことですが、家族の負担は大きくならざるを得ません。
透析治療中の合併症
透析は週3回、1回あたり4時間程度行われるのが通例です。
しかしその頻度で適切な透析の処置を続けても、健常者の腎臓と同程度の機能を果たせるようになるわけではありません。透析の期間が長期化していくうちに、合併症が起こることも多いです。
透析患者に起こる合併症としては、「心臓、血管に起こる合併症」「骨、関節に起こる合併症」「感染症」などがあります。
いずれも腎機能の衰えが原因なので、透析を導入する前から症状が出ていることも多いです。そのため、合併症を予防するために、透析の導入以前から食事療法や薬物療法を行うケースも少なくありません。
早めに合併症対策を行っていくことで、以下のような透析導入後の合併症の発症あるいは悪化を予防できます。
不均衡症候群
透析を始めたばかりの頃は、透析中から終了後12時間以内に頭痛や吐き気、嘔吐などの不均衡症候群が見られることがあります。透析によって血液中の老廃物は排出されますが、脳には老廃物が残りやすいため、その濃度差によって症状が引き起こされると考えられています。
不均衡症候群が出ないように、はじめは血液流量や透析時間などを調整しながら透析を行う必要があります。症状がひどい場合は脳内の圧力を下げる薬を使用することもあります。
シャント・トラブル
透析を行う際に血液を体内から抜いたり戻したりするための出入り口のことを、バスキュラーアクセス(内シャントなどの総称)と言います。透析を長く続けていると、このバスキュラーアクセスが狭くなったり、ふさがったりするトラブルが発生することがあるのです。
そのまま放っておくと、シャント感染やシャント静脈高血圧などの合併症を引き起こす可能性があり、非常に危険です。
薬によって早急に血液の流れを良くしたり、血管をカテーテル治療で拡張する治療方法(PTA)を行ったりする必要があります。
心臓、血管に起こる合併症
腎不全の状態になると、健康な頃は腎臓から尿として排出していた余分な水分や塩分が、体内に蓄積するようになます。それによって体液量が増え、血圧が高くなる傾向があります。
高血圧が長期的に続くと、血管に大きな負担をかけ続けることになり、血管が硬くなる、あるいは狭まるといった動脈硬化の症状が現れることも多いです。
さらに透析患者だと、カルシウムやリンの代謝バランスが崩れて血管の石灰化が発生し、それによりさらに動脈硬化が進むケースもあります。
これらの合併症の予防あるいは治療には、水分と塩分、リンの過剰摂取を控えて、降圧薬など薬物療法を取り入れていくことが大事。無機リンを多く含むカップラーメンや保存食、乳製品の大量摂取は控えた方が良いでしょう。
貧血
腎臓で赤血球をつくり出す「造血ホルモン」があまりつくられなくなるので、ほとんどの透析患者で貧血が起こるとも言われています。
貧血になると、心臓はより血液をたくさん送ろうとするので、それだけ心臓への負担も増え、心不全のリスクが高まります。
貧血の治療には、造血ホルモン剤や鉄剤が用いられるのが一般的です。
骨、関節に起こる合併症
腎臓は、食べたものに含まれるカルシウムを吸収するために必要な「活性型ビタミンD」をつくっています。しかし腎機能が低下すると、この活性型ビタミンDが不足するためにカルシウムの吸収が進まず、血中のカルシウムが減少しやすくなります。
また、腎臓には血中にある不要なリンを尿として排泄する機能を持ちますが、腎機能が低下すると排出されるべきリンが血液の中にたまるようになります。
リンはカルシウムと結合する特性を持っているので、過剰なリンと結合することで、血中のカルシウムはどんどん減少してしまうのです。
やがて、不足するカルシウムを補うために骨からカルシウムが溶け出すようになります。そのため、長期間透析を続ける中で骨が次第にもろくなり、骨折や骨の痛みなどが起こりやすくなるのです。
対策としては、リンの吸収を抑える薬を服用しつつ、普段の食事の中でリンの摂取を制限することが大事になります。
さらに透析を長く続けると、アミロイドと呼ばれる物質が関節や骨にたまり、神経を圧迫し、関節に痛みやしびれをもたらすことが多いです。
この合併症を防ぐには、しっかりと透析を行って、アミロイドの元になる原因物質を除去せねばなりません。
透析患者の死因第2位「感染症」
腎不全を患うと、一般的に免疫力が低下すると考えられており、透析患者はさまざまなタイプの感染症にかかりやすくなります。
感染症を予防するためには、手洗いやうがいをしっかりと行うこと、マスクを着用すること、栄養不足に陥らないようにすることなどが大事です。
感染症の中で多いのは肺炎や結核で、命にかかわる事態になることも多いです。
実際、「日本透析医学会統計調査委員会」の資料によれば、透析患者の死亡原因は第一位が心不全ですが、第二位は感染症となっています。
なお、2015年に透析が導入され、年末までの間に約4人に1人が感染症で亡くなっています。
透析患者は免疫機能が低いので、感染にかかりやすいだけでなく、感染が起きると重症化することも多いです。
予防に取り組むと同時に、発症したらすぐに治療を開始することも大事になります。
発熱をはじめ、咳や皮膚の異常、あるいは排尿における異常を感じたら、早めに医師の診察を受けるようにしましょう。
よくある質問
Q1:長年透析している家族が最近あまり食べません。
いろいろな原因を想定する必要がありますが、まずひとつとして、長期に渡って透析を受け続けていることで、消化器系の働きが悪化していることが考えられます。
胃腸は食べ物の消化と吸収を行い、蠕動(ぜんどう)という働きで食べ物や消化吸収後の便を送る機能を果たしていますが、この働きが悪くなると、食べ物がいつまでも胃の中に残り、食欲が低下するのです。
もし食欲の低下が著しい場合は、早めに消化器科を受診し、胃腸の状態を診てもらう必要があります。
胃腸の働きが悪くなると、便秘や下痢など排便状態にも変化が出やすくなるので、お通じの状況をチェックすることが重要です。
さらに透析患者の場合、腎機能の低下によって血液中のリンが尿を通して排出されにくくなってしまい、リンの値が高くなる傾向があるのですが、食欲不振が続く場合はリンの値が低くなることが多くなります。
そうなると、それまで飲んでいたお薬を中止する必要も出てくるかもしれません。その点は医師の指導に従いながら、服薬管理をしっかりと行う必要があります。
Q2:炭酸泉のお風呂に入っても問題ないですか?
炭酸泉浴には末梢血管を拡張させる効果があり、全身の血の巡りを良くするので、透析を受けている人にも好ましい作用があると言われています。
ただ、入浴後の血圧低下に気を付ける必要があるので、自分だけで入浴の可否を判断するのはやめましょう。また、施設の介護職員も医療の専門家ではないので、安易に助言を求めることはできません。
炭酸泉浴への入浴に際しては、まずは透析の主治医の意見を聞くことが大事です。専門医から入っても良いと言われた場合のみ、入浴するようにしましょう。
特に普段から血圧が高い方は、入浴によって体調が急変する恐れもあるので注意が必要です。
Q3:人工透析はいつから始めるのですか?
現行のガイドラインによれば、人工透析を開始するか否かの基準は、推定GFR(糸球体濾過量)の値とされています。
推定GFRとは、腎臓が老廃物を尿として排泄する能力の指標とされており、この値が低いほど腎機能が低下しています。人工透析を考慮する指標となるのが推定GFR15未満であり、推定GFRが2以下になる前には透析を開始するとされています。
ただ一般的には、体の状態が悪化してから透析を始めた場合、透析治療の継続がつらくなることも多いので、ある程度元気なうちから開始した方が良いとも言われています。
やはり重要なのは主治医と相談すること。医師から説明を受けて、事前に納得したうえで治療を開始することが大事です。
他の人はこちらも質問
人工透析をするのに一回いくら?
人工透析は種類によって費用が異なります。
血液透析は1回あたりに約3万円、腹膜透析は1回あたり30万円〜50万円ほどの費用がかかります。
人工透析は週に何回?
人工透析は週3回、1回に4時間程度が一般的な回数です。腎臓の働きに近づけられるように、透析の回数や時間を増やす場合もあります。
人工透析は何してる?
人工透析とは、腎臓の機能である血液のろ過を人工的に替えて行うことです。
透析には血液透析と腹膜透析があります。血液透析は人工腎臓のフィルターを介して、血液にある老廃物や余分な水分を取り除きます。腹膜透析は自分の腹膜を透析膜として行う療法です。
人工透析しないとどうなる?
人工透析をしなかった場合、腎臓機能が低下して引き起こす症状や合併症を発症します。体や肺に水が溜まり、全身がむくんだり呼吸困難になったりします。また心不全や高血圧といった症状も見られます。