ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは
ALSとは、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)のこと。
身体を動かすためには運動をつかさどる運動ニューロンによって、脳や末梢神経から筋肉に指令が伝わる必要があります。ALSは筋肉そのものの病気ではなく、運動ニューロンの働きが弱まり筋肉が思うように動かなくなる疾患です。
ALSの原因はある種の異常タンパク質が蓄積することにより起きるなど種々の説がありますが、病態は未だ明らかにされていません。
また予防法についても確立された方法はありません。受動喫煙も含めて、喫煙は発症リスクを高めると言われていますが、禁煙で絶対に予防できるということではないのです。
最初に見られる症状は動きにくいなどの軽い症状です。しかし進行するにつれて、筋肉がぴくつき痩せていき、体が思ったように動かなくなります。
さらに自分の力で口や喉の筋肉が動かせなくなるため発語が上手くできなくなる、食べ物や飲み物が飲み込みづらくなるといった症状が出てくるのです。そして呼吸筋が弱まることで呼吸不全となり、生命維持のために人工呼吸器の装着が必要となります。
ALSは進行性の疾患で、一度発症すると症状が軽くなることはありません。
発症率が高いのは高齢者
ALSは日本に約1万人の患者がいるとされ、厚生労働省が「特定疾患」に認定する難病です。
人口10万人に1人〜3人が発症すると言われる稀な疾患ですが、発症年齢は60歳〜70歳の高齢者に多く、年齢が上がるにつれて発症リスクが高くなります。
ALSの患者は増加傾向にあり、団塊の世代が増えたことでALSの発症数も増加したと考えられます。
ALSは進行性の疾患ですので症状は軽くなりません。発症からの余命は3〜5年と言われています。多くの方は症状が進行すると呼吸筋の力がなくなり、呼吸不全になるため死因は呼吸不全や肺炎であることが多いです。しかし、呼吸器を使うことで寿命が延びる可能性があります。
さらに進行速度や症状の程度には個人差があり、ALSの中には呼吸器なしで10年以上存命されている方もいます。
ALSと筋ジストロフィーの違い
ALSと同じように筋肉が動かしにくくなる疾患の一つに、筋ジストロフィーがあります。
筋ジストロフィーは遺伝子の変異によって筋肉が変性、壊れる病気です。ALSと同様に難病指定になっており、日本では2万〜3万人の患者がいると推測されています。
筋ジストロフィーにはいくつかの型があり、子どもに多いデュシェンヌ型筋ジストロフィー、こわばりや筋萎縮が起きる筋強直性ジストロフィーなどがあります。発症年齢や症状の出る場所は一人ひとり違いますが、主に手足の筋肉の萎縮により運動障害や運動制限が起きてきます。
さらに呼吸機能障害、嚥下機能障害、難聴などの合併症も引き起こすケースが多くあります。
一部の筋ジストロフィーを除き、治療法は確立されていません。進行を遅らせる処置が中心となり、呼吸機能維持のためにリハビリをしたり、人工呼吸器を装着したりします。不整脈には、ペースメーカーを植え込む場合もあります。
ALSは運動ニューロンの障害により筋肉が思うように動かなくなることで発症します。症状は似ていますが、原因は異なることを頭に入れておきましょう。
ALSの症状
体を動かすための信号は、脳から脊髄までの「上位運動ニューロン」、脊髄から末梢神経までの「下位運動ニューロン」を経て筋肉へ伝えられます。
この上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方に、選択的かつ進行性の障害が起こるのがALSです。
前者の障害所見としては筋肉の痙縮(つっぱり)、後者の障害所見として筋力低下・萎縮・ぴくつきが現れます。
初期症状は4タイプ
ALSの初期症状は、大きく4つのタイプに分けられます。それぞれのタイプによって発症する部位に違いがあります。
いずれも加齢による機能障害と類似の症状が見られます。そのため、ALSの症状と気づかずに発見が遅れることも少なくありません。
上肢型
筋力低下によって腕を動かすことや細かい指の動きが困難になります。主な症状としては、着替えがスムーズにできない、字がうまく書けない、箸が持てないなどが挙げられます。また肩周辺の筋肉が弱まることで、肩が上がりにくくなることもあり、肩こりに似た症状で区別がつきにくいです。
下肢型
筋萎縮や筋力低下の影響で歩くことが難しくなります。初期段階ではスリッパが脱げやすくなったり、歩く速度が遅くなったり、階段の上り下りが難しくなったりする症状がみられます。
球麻痺型
球麻痺(きゅうまひ)は延髄(えんずい:脳の部位のこと)にある運動を司る部位が障害され、舌や口蓋、咽頭、喉頭などの運動機能が低下する状態です。食べ物を飲み込むことができなくなったり、ろれつが回らずうまく話せなくなったりします。
呼吸筋麻痺型
非常に稀ですが、手足の筋萎縮や筋力低下よりも呼吸困難が先に現れることがあります。生命を維持するために気管切開や、人工呼吸器が必要になります。
4つある主な症状
以下、ALSに出現する主な症状をまとめました。
構音障害・嚥下障害
「口を動かして話す」「食べ物を飲み込む」といった行為を行うには、運動神経の命令が不可欠です。
ALSでは、うまく話せなくなる、口に入れた食べ物を飲み込めなくなる、といった症状が現れます。
発音が正確にできなくなることは「構音障害」、食べたものを飲み込みにくくなって、むせやすくなることは「嚥下障害」と呼ばれますが、ALSではこれらの障害が顕著に現れるのです。
呼吸困難
呼吸も運動神経の命令のもとに無意識に行われているので、ALSになってその指令が届きにくくなると、呼吸を行えなくなってきます。
息切れをしやすくなるほか、体を横にすると息苦しくなるという症状が現れることが多いです。
また、大きく深呼吸することも難しくなってしまい、大声を出せなくなります。
手足の筋力低下
手足の筋力低下や痩せはALSにみられる典型的な症状のひとつです。
手に筋力低下の症状が現れると、ペットボトルの蓋を開けるのも難しくなるほか、腕を肩から上に持ち上げることさえ大変になります。
また、足の筋力低下の症状が悪化すると歩行が困難になり、手すりがなければ歩けない、椅子からうまく立ち上がれない、といった状態になるため、日常生活を送るうえで介助が欠かせなくなるのです。
認知症
認知症を合併しやすいのもALSの特徴です。
ALS患者の約2割が認知症を発症しているとのデータもあり、症状が進行するほど併発している人の割合は高くなります。
性格変化、口数が減る、意欲低下などが典型的な症状です。
一般的な認知症に多くみられる重度の記憶力の低下は、ALSと併発する認知症ではあまりみられません。
閉じ込め症候群
末期症状の一つとして閉じ込め症候群があります。閉じ込め症候群と手足が動かず言葉も話せず、コミュニケーションが取れなくても、認知機能はしっかりしており、意識がある状態を指します。
もちろん患者は聞くことも理解することもできるのです。また睡眠・覚醒のパターンも正常です。目の筋肉に異常はなく瞬きができるので、瞬きを使うことで質問にも答えられます。
患者に瞬きや垂直眼球運動をしてもらい診断をします。
進行スピードには個人差がある
ALSは進行性の疾患であるため、完治させたり、症状を軽減させたりすることはできません。
たとえ、どの部位から筋力の低下や筋萎縮が始まるにしても、いずれは全身に影響が及び、呼吸が難しくなります。
ただし、病気の進行スピードは人それぞれです。一般的に、人工呼吸器による呼吸補助を行わなければ、病気を発症してから亡くなるまでの期間は2~5年とされています。
一方、人工呼吸器を使わなくても亡くなるまで10数年という非常にゆっくりとしたペースで病状が進んだケースもあります。
また、高齢になればなるほど進行スピードは早くなる傾向にあります。特に、初期症状で食べ物が飲み込みづらくなったり、舌が回らずに上手く話せない症状がみられたときは、進行が早いとされます。
このように、ALSの進行スピードには個人差があるため、一人ひとりに合った対応が必要です。
進⾏すると運動神経の障害が全⾝に広がるのは共通の症状です。
発症後約2年で⾃⼒での呼吸が困難になってきます。認知症を併発したり、嚥下障害や呼吸困難が起こってくると、 予後が悪いとされます。
なお、肩周辺の筋⼒低下がきっかけで発症した患者の⼀部において、⽐較的進⾏が遅いという事例がみられます。
一方、最近は認知症を併発するケースが増えているため、今後はますます個人に合わせた介護や看護が必要になります。
四大陰性症状とは
「眼球運動障害・膀胱直腸障害・感覚障害・床ずれ」といった4つの症状はみられません。
ALSでは全身の運動機能に障害が起きますが、目を動かす筋肉は維持され、視神経も障害は受けないため、視覚に異常は起こりません。瞬きでワープロを使い、自分の気持ちを伝えられるのです。
また排泄に欠かせない膀胱や直腸の筋肉にも問題はありません。尿意や便意の感覚も問題がなく、途中まで介助をしてもらうと、自分で排泄ができます。
視覚、聴覚、味覚などの知覚神経を侵されることもなく、体の痺れが出たり感覚が低下することもありません。好きな音楽を聴いたり、映画鑑賞をするなど、趣味を楽しむことができます。
寝たきりになると床ずれ(褥瘡)が起きやすくなります。床ずれは寝たきりで体重が圧迫する場所の血流が悪くなり、皮膚が赤くなったり傷ができることです。ALSでは皮膚組織に変化が起こるため床ずれができにくくなります。
ALSの方が入居できる施設を探す検査・診断基準
ALSが疑われるのは、下記のような症状が現れたときです。
- 手足の先の筋肉から次第に弱ってスムーズに動かせなくなり、筋肉がぴくつくという症状が次第に全身に拡大していく
- 話しにくくなる
- 食べ物を飲み込みにくくなる
運動ニューロンには、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンがありますが、これらは「下位運動ニューロン障害」の症状です。
この症状に加え、神経内科医の診察で手足の腱を叩いたときに反射が顕著に出ると判定された場合、「上位運動ニューロン」にも障害があると考えられるので、ALSの可能性が高まります。
ALSだけを特化して診断する検査法はありません。ただし、針筋電図は診断の主要項目です。
以下では、診断するときに行われる検査をわかりやすく解説していきます。
針筋電図
細い針を直接筋肉に刺して筋肉の電気活動を調べることによって、神経や筋肉の障害を確かめる検査です。
ALSでは、針筋電図を行うと、ほぼ全身の筋肉で慢性神経原性変化や脱神経所見などがみられるようになります。
血液検査
ALSの検査では血液検査が行われるのが一般的です。他の原因により筋力の低下がもたらされているのかどうかを確かめるために、通常の項目だけでなく特殊な検査が行われることがあります。
ALSそのもので、血液に異常が認められることはありません。
髄液検査
針を腰の背中側から刺して、脳と脊髄の周りにある髄液を採取する検査です。
ALSを患っていても正常なのが一般的ですが、一部の患者では、髄液のタンパクの値が上昇していることがあります。
頭部MRI、脊髄MRI
頭部MRIと脊髄MRIを行い、筋力低下の原因となる脳梗塞や脳出血、腫瘍や脊椎疾患などを発症していないかを確認します。
MRI検査でALSかどうかを直接判別できるわけではなく、ほかの病気を除外するのが目的です。
末梢神経伝導速度検査
手足を走行する末梢神経に電気刺激を与えて、障害が起こっているかどうかを確かめる検査です。
障害があるときは、電気の伝わる速さが遅くなる「伝導速度低下」や、活動電位が弱くなる「振幅低下」がみられます。
ALSではこの検査で異常が見つかることはまれです。ただ、一部の患者では、筋萎縮の度合いによって複合運動活動電位の振幅が小さくなることがあります。
遺伝子診断
ALSの多くは家族に遺伝しない孤発性ALSですが、約1割の割合で家族内で発症する家族性ALSもあります。
家族性ALSなのか、ALSとよく似た症状が出る遺伝性疾患なのかを特定するために、遺伝子診断を行うことがあります。
遺伝性の疾患かどうかは、その後の治療方針を決めるうえで重要です。そして、もし遺伝性疾患と診断された場合、血縁者にも発症のリスクがあると予測されます。
そのため、遺伝診断を行うにあたっては、検査を行うかどうか、検査を行う場合には告知してほしいかどうかなどを、本人とよく相談したうえで決めるのが通例です。
遺伝カウンセリングを受けられる病院もあります。
ALSの治療法
ALSの進行を完全に止めたり、改善させる治療法は確立されていません。進行を遅らせるためのいくつかの薬剤があります。
有名なところでは「リルゾール」という内服薬があります。これにより約3ヵ月の延命効果があるとされています。また、「エダラボン(商品名:ラジカット)」という点滴で治療を行うこともあります。
これらの投薬治療と並行して、対症療法を行っていきます。
対症療法として一番多い治療が食事に関するものです。飲み込む力が衰えてきたら流動食を工夫したり、飲み込むことが困難になってきたら胃ろうという方法によって栄養を摂ることも検討します。
そして呼吸筋の力が弱ってきた場合、呼吸補助療法を受けるかどうかを選択する必要があります。
また、リハビリテーションも重要です。筋肉や関節の動きをスムーズにするよう、毎日継続的に行う必要があります。
具体的には、楽に効率よく呼吸するための呼吸法や、全身の筋力をつけることによって息苦しさを軽減する運動療法などが、呼吸のリハビリテーションとして挙げられます。
エダラボン(商品名:ラジカット)を用いた点滴治療
エダラボンはALS発症初期に進行を抑える効果がある点滴薬です。 発症2年以内、身の回りのことができており、呼吸の保たれている方が適応になります。初回2週間点滴を行い、2週間休薬します。
その後は14日間のうち10日間点滴し、次の14日間は休薬するというペースになります。点滴は1日1回で、1回の点滴にはおよそ60分かかります。エダラボンは腎臓に負担をかけるため、腎機能が衰えている方には使用できません。
治療を開始する前に血液検査を行い、適応できるかどうかを判断したうえで治療に入ります。また、治療を継続する場合にも、血液検査で副作用出現の有無を確認することになります。
ALS患者の受け入れが可能な介護施設
2000年代前半まで、ALSの方が入居できる介護施設は、全国で数えるほどしかありませんでした。
しかし現在はその数が増えており、多くの地域で、看取りが可能な施設を見つけることができるようになりました。
ただし、増えてきたとは言っても、介護施設全体の3割弱程度にとどまっています。
ALSは進行性の疾患であり、初期段階では家族でケアをできたとしても、病状の進行により24時間目が離せない状況となるため、家族だけで介護をしていくのが難しくなっていきます。
現代の医療では、残念ながら症状の進行を完全に抑えることはできないため、早い段階から受け入れ可能な介護施設を探すことをおすすめします。
ALSの方が入居できる施設を探すALSの方のケア方法
ALSの方を介護をするときに意識したいポイントは「本人の動きをよく観察する」ことです。
日常生活を送る上で困っていることや支障が出ていることは何かをよく観察しましょう。そして問題が起きているところだけをサポートします。
介護者自身で判断をして、なんでも介助しようとすることは、患者本人が自分で考えて行動する機会を奪うかもしれません。またALSの方の自立性を損なってしまう場合があるので、気をつけましょう。
ALSの症状は運動機能に問題が起きるだけで、思考や感情、記憶力などは侵されていません。心は発症前と変わっていないケースがほとんどなので、以前と同じような接し方を心がけましょう。同じ関わり方は患者本人の活力につながります。
そして気をつけたい点は疾患に同情しないことです。かわいそうだからといって、過度に優しく対応するのは極力控えましょう。「自分は病気なのだ」と患者を追い詰めてしまうかもしれません。
リハビリテーション
リハビリ(理学療法)は、残された身体機能の低下を防ぎ、生活の質を維持するために行います。筋力の低下した上肢と下肢に補助具を使いつつ、動かせる部位を最大限に生かし、日常生活の中でできることを増やしていくのです。
なお、リハビリのためといって過剰な運動をすると、筋力の低下をさらに進行させる恐れがあるので、疲労を残さないように取り組むことが大事になります。
家族で取り組むときは、専門家の指導の下で行いましょう。
心を安定させるコミュニケーション
ALSが進行すると、コミュニケーションをとることが困難になります。
構音障害によって発語ができなくなったり、呼吸困難のため気管切開処置を行って
声による会話ができなくなったときは、腕や手を動かせる場合、文字を書いて意思疎通を行うのが基本です。なお、ALSを発症しても、五感は健常者と同様の機能が維持されています。
音楽を聴いてリラックスしたり料理を味わったりと、「今」を楽しむことはできるわけです。
ALSの方は、今後の病状に対して少なからず不安を抱いています。コミュニケーションを取り、五感を活かした心理的なサポートをすることは、本人の心の負担を軽減するうえで重要です。
また、腕に触れたり手を握ったりといった「タッチング」も、ALSの方の心を安定させる効果があるので、おすすめのコミュニケーション方法と言えます。
食事のサポート
ALSにとって栄養管理は大切で、病期ごとで摂取カロリーは異なります。栄養不足は体重減少の原因にもなり、その後の病状にも影響を及ぼします。
ALSでは、嚥下障害のため食べ物が飲み込みにくくなり、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。
また、ALSになると腕の力が弱って疲れやすくなり、食べ物を口に運ぶことも大変になります。
さらに、歩行障害になるとトイレに行くことに苦労するため、排泄する回数を減らそうと水分を摂取しないようにするALSの方も少なくありません。
しかし、食事をとりにくくなっても、炭水化物をはじめ、たんぱく質やビタミンなどは日々しっかりと摂取する必要があります。
介護者は、普段の食事を柔らかく、飲み込みやすい献立に変えることが大事です。また、食事の介助も、本人の意欲をなくさないように適切に行う必要があります。
食事の形態を変えても飲み込みにくさが解消されないときは、栄養を摂取するための点滴や胃に管を通す経管栄養が必要になります。
点滴を行うときは毎日看護師が交換しなければなりません。経管栄養では、介護者が経腸栄養剤を投与することになります。
症状が進行すると栄養状態は悪化するため、胃ろうの造設についても検討することになります。
疼痛の緩和
ALSは病初期にずきずきとうずくような痛みを伴うこともあります。そして病状が進んで体を思うように動かせなくなると不動や圧迫、不安による強い痛みを感じるようになるので、介護者による体位変換の支援やマッサージが必要です。
また、医師に相談して、消炎鎮痛薬を使用することもあります。苦痛の度合いが強いときは、モルヒネなどのオピオイド鎮痛薬を使うこともあります。
呼吸のサポート
ALSの症状が進行して呼吸機能障害の症状が出るようになると、呼吸補助装置を使わなければ、自力で呼吸ができなくなります。
呼吸補助装置を使えば延命が期待できますが、ALS自体の進行は止まるわけではありません。呼吸補助装置を付ける前後から装着後数年の間で、四股筋力の低下によって寝たきり状態になることも多いです。
人工呼吸療法には、鼻あるいは口にマスクをつけて呼吸をサポートする「非侵襲的換気」と、気管切開をする「気管切開下陽圧換気」の2つがあります。
非侵襲的換気は、マスクを装着するだけなので使いやすいです。しかし、呼吸筋麻痺が進行してくると、呼吸の補助が不十分になるため使用できなくなりますし、咳ができて、分泌物が少ない方に適しています。誤嚥があって痰がうまく排出できない人も使用は控えるべきとされています。
どちらの呼吸補助装置を使うとしても、在宅介護の場合は家族だけでなく、訪問看護師やホームヘルパーなどの多職種連携で行っていく必要があります。
福祉用具の活用
ALSの進行具合に合わせた福祉用具を活用して、日常生活やコミュニケーション能力を維持しましょう。
残存機能を維持するために、リハビリは自宅で無理のない範囲で行います。また自立支援を促すことで筋肉低下の維持と意欲の維持を図ります。
ALS患者は自身で排泄ができるため、トイレ介助の場合には衣類の着脱などをサポートします。また排泄を終えたら介護者を呼べるように、呼び出しブザーをトイレ内に設置するのも良いでしょう。
移動は電動車いすを活用し、スロープをつけて動きやすい環境を作ります。意思表示するためのコミュニケーション機器、意思伝達装置を活用して本人とコミュニケーションを積極的にとりましょう。
ALSは進行が早いので福祉用具は早くから取り入れ、専門家と相談しながら本人に適したものを選ぶと良いです。
ALSの原因
ALSの原因(メカニズム)を解明するための研究は進歩を遂げてはいますが、現状でははっきりとした原因は明らかにされていません。
ただ、これまで蓄積されてきた研究では、ある種の異常タンパク質の過剰蓄積など複数の仮説が提示されています。
グルタミン酸の過剰分泌
グルタミン酸過剰仮説とは、興奮性アミノ酸であるグルタミン酸が過剰になり、神経細胞を殺してしまうことにより、ALSが発症するというもの。
脳から発せられる「手を動かせ」といった命令は、神経細胞(ニューロン)を通して筋肉に伝達されるのが基本の仕組みです。
ニューロンの軸索という部分とすぐ隣のニューロンの間には「シナプス」というすき間があり、脳から出される命令はこのシナプスを経てニューロンが受け取り、それを電気信号化して軸索に伝えられていきます。
軸索に伝わった電気信号は、またシナプスを経て隣のニューロンに伝えられていくのですが、このとき軸索から分泌されるのが「神経伝達物質」です。
グルタミン酸とは、この神経伝達物質のひとつです。ALSを発症した人の運動ニューロンはグルタミン酸を取り込む機能に支障が生じていることがわかっており、そのために神経細胞の外にあるグルタミン酸の量が過剰になってしまうのです。
遺伝
先述した通り、ALSは全体の90%以上が非遺伝性(孤発性)で、家族性のALSは5~10%割程度だと言われています。
家族性のALSを発症している人の一部に、「活性酸素を解毒する作用を持つ酵素」をつくる遺伝子(SOD1)の突然変異が認められています。
この突然変異が原因の一つとなって、運動ニューロンが障害されるとするのが「家族性(遺伝性説)」です。
この遺伝子の突然変異は、家族性のALS患者の2割ほどにしかみられませんが、家族性以外のALS患者の運動ニューロンも同じように活性酸素によって障害される、と主張する仮説も出されています。
神経栄養因子の欠乏
神経栄養因子欠乏仮説とは、神経を成長させ、傷を受けた細胞を治すために必要な栄養が不足することによって、運動ニューロンが破壊され、ALSを発症するというものです。
環境による突然変異
環境説とは、住んでいる環境の中にある何らかの物質が発症の原因になるとするものです。例えば、日本の紀伊半島やグアム島は、ALSの患者数がほかの地域に比べて多い特徴があります。
看取りが可能な施設を探す- ALSは運動神経が弱まって筋肉が思うように動かなくなること
- 主な症状は呼吸困難、構音・嚥下障害、手足の筋力低下、認知症
- 診断方法は針筋電図、血液検査、MRI、遺伝子検査など
- 確立された治療法はなく、進行を遅らせるリルゾールなどを使用する
- 考えられる原因はグルタミン酸の過剰分泌、遺伝、神経栄養因子の欠乏、環境変化など
- ALSを受け入れる介護施設も増えているため、早い段階から施設を検討しておく
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ALSの寿命は何年?
ALSの寿命は発症してから3年〜5年ほどと言われています。
進行すると呼吸筋が弱まり、呼吸不全や肺炎で亡くなるケースが多いです。そのため呼吸器の装着で寿命が延びる場合もあります。しかし、ALS患者のなかには呼吸器なしで10年以上存命する方もいます。
ALSは何歳からなる?
ALSの発症年齢は60歳〜70歳に多く見られます。人口10万人に1人〜3人の割合で発症する稀な疾患ですが、年齢が高くなれば発症リスクも上がります。
ALSは何神経?
ALSは運動神経に障害を生じて、手足の筋力低下、呼吸困難、話したり食べ物を飲み込んだりする機能が弱まります。
ALSは初期症状から何年?
ALSの初期症状から診断まで1年以上かかったケースはよく見られます。初期症状は腕や肩を動かすことが難しくなったり、歩く速度が遅くなったりするなど、加齢の機能低下と似ていることから発見に遅れる場合があります。