みんなの介護アンケート
認知症の暴言・暴力への対応と予防方法
一部の認知症の方は介護者に対して、暴言・暴力を振るうことがあります。
暴言や暴力は介護者に身体的・精神的ダメージを与えることから、多くの方が対応に悩んでいます。
みんなの介護では認知症の介護に携わっている方に対して、「認知症による暴言・暴力への対応方法」に関するアンケートを実施しました。
アンケートの回答も交えながら、暴言・暴力への対応や予防策、原因を解説します。認知症の方が入居できる老人ホームも紹介しているので、順に見ていきましょう。
物理的な距離をとる
アンケートに対する回答で最も多かったのは「物理的な距離を取ること」でした。
一時的に隣の部屋に行ったり、外出したりと暴力や暴言を受けないように物理的な距離をとることが大切です。長時間離れることが難しい場合は家のまわりを一周するだけでも、クールダウンできる場合があります。
ほかに介護を頼める人がいるなら代わってもらいましょう。本人も決してあなたを傷つけようと思って暴力をふるっているわけではありません。
あくまでも認知症の症状ですから、本人のためにもあなた自身のためにも距離をとることが大切です。
介護者を変えてみる
暴力や暴言は介護をする家族などの身近な人に現れやすい傾向にあります。
そのため、暴力・暴言といった症状が見られた場合はほかの介護者と交代してもらうことで被害をおさえられる場合があります。
また、代わってくれる人が居ない場合はヘルパーにお願いすることも検討しましょう。
認知症の方でも入居できる施設を探す接し方を変える
認知症による暴言・暴力は本人の心理状態が原因で起こることがあります。
そのため、本人が不安にならないように常に状況を伝えることが大切です。例えば、食事や脱着衣の介助では、ひと声かけてからはじめましょう。
ただし接し方にも、以下のような注意点があります。
- 否定しない
- 難しい言葉を使わない
- 自尊心を傷つけない
もう少し詳しく見ていきましょう。
否定しない
認知症の方は不安になりながらも、本人にとっての現実と向き合い自分なりに言葉を見つけます。
そのため、話す言葉に誤りがあっても否定しないことが大切です。
頑張って自分なりの答えを見つけたにもかかわらず、それを頭ごなしに否定されると負の感情だけが残ってしまいます。
また、否定ばかりされるとプライドが傷つけられることにもなるので、余計に暴力的になることがあります。
難しい言葉を使わない
認知症では言葉や状況の理解・把握が難しくなることがあります。そうした状況に戸惑い、暴言・暴力といった行動に至ってしまうことがあります。
本人のやるべきことなどを、わかりやすい言葉でゆっくり伝えましょう。覚えやすいように、メモに記す方法もおすすめです。
自尊心を傷つけない
本人のやりたいことを止めたり、介護者が過保護になったりすると、認知症の方は自尊心が傷つけられたと感じます。
「なんでも代わりにやる」のではなく、認知症の方がやることをサポートする気持ちで接しましょう。
なお、ページ内で紹介しているグループホームは認知症の方が主体となって生活を送っています。
医師やケアマネージャーに相談する
認知症介護において自分ひとりで抱え込んでしまうことは悪手です。悩んでいることがあれば、知人や専門職(医師・ケアマネージャーなど)に相談しましょう。
ケアマネージャーなら同じような事例をたくさん知っていますから、適切なアドバイスがもらえるはずです。
また、介護者が集まる「介護家族会」に参加して、話を聞いてもらい、具体的な対処法のアドバイスをもらうのも良いでしょう。
地域包括支援センター
医師やケアマネージャー以外の相談先に、地域包括支援センターがあります。
地域包括支援センターとは「介護に関する悩みを気軽に相談できる場所」です。認知症による暴言・暴力の適切な対応や改善方法のアドバイスがもらえるでしょう。
薬物療法を検討する
薬物療法は「アルツハイマー型認知症」と「レビー小体型認知症」に適応した薬があります。
ただし、病気が完治することはなく、あくまでも症状の緩和や進行を遅らせることを目的としています。
暴言や暴力で使用される主な薬は向精神薬です。向精神薬には以下のような種類が挙げられます。
- 抗精神病薬
- 抗てんかん薬
- 睡眠薬
- 抗不安薬
これらの薬を服用することで暴言や暴力の症状を緩和し、介護者の負担軽減が期待できます。
副作用に注意する
薬の副作用により、暴言・暴力が悪化する可能性があります。
服用前に医師や薬剤師としっかり話し合い、薬物療法を取り入れるか検討することが大切です。
原因を知り、認知症の方を理解する
認知症による暴言・暴力は、個々にあった原因を探り対応することが大切です。
暴言・暴力に至るには何らかの理由があるので、介護者は認知症の方が暴言・暴力を振るうシーンに共通点はないか考え、そこから改善策を見つけることが大切です。
次の項目では認知症による暴言・暴力の原因について解説していますので、順に見ていきましょう。
認知症の暴言・暴力の原因
認知症の暴言・暴力の原因として考えられるのは以下の4つです。
- 認知症の症状
- 体調不良
- 服用している薬
- 周囲の人の気持ちや環境に影響されている
以下でそれぞれ見ていきましょう。
認知症の症状
認知症になると記憶障害や見当識障害などの影響で、状況をうまく理解できない場合や、理解できたとしてもすぐに忘れてしまうことがあります。
例えば、本人があまり気乗りしない場所に無理をして出向いたとします。その道中で行先や目的を忘れてしまい、「気が進まない」というマイナス感情だけが残り、暴言・暴力といった症状を呈することがあります。
認知症の中核症状には、以下のようなものがあります。
- 記憶障害
- 物事を記憶する力が低下し、最近の出来事を覚えていられない。
- 見当識障害
- 日時がわからなくなったり、迷子になったりする。
- 実行機能障害
- 計画を立てたり、手順を考えたりすることができない。
- 理解・判断能力の障害
- 物事を順序立てて考えられなくなり、料理や洗濯といった家事ができなくなる。
- 計算能力障害
- 簡単な計算ができなくなり、買いものができなくなったりする。
こうした症状を覚えておくと、対応を考える一助となるでしょう。
認知症の種類によって原因は異なる
認知症の種類によっても、暴言・暴力に至る原因は異なります。以下は認知症の種類の割合まとめたグラフです。
それぞれの種類の特徴を見ていきましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症では、「自分の財布を盗られた」などの物盗られ妄想が現れることが多くあります。
自分の物を盗られたと勘違いしている認知症の方に対し、家族が「盗っていない」と頭ごなしに否定をすると、本人は自尊心が傷つきます。
そうすることで「バカにされた」と思い込み、暴言や暴力に至るケースがあります。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症はパーキンソン症状やレム睡眠行動異常症などの症状が見られます。
症状の一つである幻視や幻聴、嫉妬妄想や誤認妄想などにより、暴言や暴力につながることがあります。
幻視は「床に虫がいる」「部屋の隅に子どもが立っている」など、実際には居ませんが本人にはいるように見えている状態です。
【わかりやすく解説】レビー小体型認知症とは?アルツハイマーとの違いや原因、余命
血管性認知症
血管性認知症は感情のコントロールが難しくなり、感情失禁が現れることがあります。
認知症の方を少し刺激するだけで、興奮したり怒ったりするなど、普段より激しく感情が表出されるといった症状が見られます。
自分の感情を周囲にうまく伝えられないことにより、暴言や暴力につながる場合があります。
【わかりやすく解説】血管性認知症とは?原因や症状・治療方法を解説
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、人格や理性をコントロールする前頭葉の萎縮が見られます。
前頭葉の障害によりこれまで穏やかな性格だった人が怒りっぽくするなど、自分を抑制することが難しい状態になる方がいます。
自分が変わっていくことに対して理解できずに不安を抱き、イライラして暴言・暴力が強く現れます。
体調不良
健康な人でも、身体の調子が悪いときやイライラしているときは機嫌が悪くなるものです。体調が悪いとき、健康な人なら「お腹が痛い」「イライラする」と周囲に伝えることができます。
しかし、認知症の方は身体の不調をうまく伝えられないことがあります。体調不良や身体の痛みを上手く伝えられないのは、想像以上にストレスがたまります。
それが原因で、暴力や暴言に至ることも少なくありません。病院に連れて行こうとしても、体調が悪いのに外へ連れ出されることに不満を感じ、さらなる暴力や暴言につながることがあります。
普段からの体調の管理が重要で、急に暴言や暴力が目立つようになった場合は身体的な問題がないか確認してみましょう。
服用している薬
薬の影響が暴力や暴言に発展している可能性もあります。高齢になると日頃からなんらかの薬を飲んでいる方が多いと思います。
薬を日常的に服用していると、その薬がなくなったときに情緒が不安定になり、暴力や暴言につながる可能性があります。
周囲の人の気持ちや環境に影響されている
認知症の方は環境の変化に弱く、周囲の人間の様子なども影響を受けることがあります。
例えば、介護者が難しい顔をしていると不安な気持ちになり、暴力に至ることがあります。
介護者の不適切な対応や騒々しい環境などを改善しない暴力的な態度に拍車が掛かってしまいます。
認知症ケアが手厚い老人ホーム
症状の改善が見られない場合や、在宅介護に限界を感じる前に老人ホームへの入居を検討しましょう。
以下では、認知症ケアが充実した施設を2種類紹介します。施設選びをする際は、認知症の方の症状に合わせて探すと良いでしょう。
認知症の症状が重度の方は「介護付き」
介護付き有料老人ホームは重度の認知症にも対応しており、入居中に認知症が進行したり介護度が上がったりしても、転居の必要はなくそのまま入居できます。
人員配置が手厚く、要介護者3人に対して1人の介護職員がつくため、行き届いたサービスを受けられます。
24時間の介護サービスが提供されるため、深夜にトラブルが起きても職員が対応するので安心して任せられます。
また、認知症の方は環境変化を苦手とするため、落ち着くことのできるプライベート空間は大切です。
その点、介護付きでは原則個室を完備していることから安心です。入居者同士のトラブルも防げます。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す認知症ケアを重視する方は「グループホーム」
グループホームは認知症の方を対象とした施設です。認知症に詳しい職員も多く、ほかの有料老人ホームよりも手厚いケアを受けることができます。
またグループホームは地域密着型サービスであり、施設と同じ住民票の方が入居できるため、慣れ親しんだ地域で生活を続けられます。
施設では認知症の進行を遅らせたり、症状を緩やかにしたりするレクやリハビリが多く催されており、ほかの入居者とも関係築きやすい点も魅力の一つです。
なお、グループホームはほかの施設と違い、自分たちで家事をして生活を送ります。そのため、重度の認知症や要介護度の重い方は入居できない場合があるので注意しましょう。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す介護者による暴力
認知症の暴言・暴力に対して、力で押さえつけることだけは避けましょう。
介護者からの暴力は、要介護者にとって大きなストレスです。それにより、症状の進行を加速したり怪我をさせたりする可能性があります。
また、虐待に発展することもあるため、以下の点に気をつけながら認知症介護を行いましょう。
虐待に発展しないためにできること
定期的にストレスを発散する
自分にあったリフレッシュ方法を用意することも方法の一つです。
テレビを観る、アロマを嗅ぐといった短時間で準備できる趣味を用意すると、手軽に楽しむことができます。
また、日頃からストレスを溜め込まないように、定期的に介護保険サービスを利用したり、家族で介護の役割分担を決めたりすることも大切です。
レスパイトケアを活用する
レスパイトケアとは、在宅介護の介護をする側が一時的に介護負担から解放され、休みを取れるように支援を行うことです。
デイサービスやショートステイを利用して、一時的に介護から離れることも大切です。
経済的な理由などから在宅介護をせざるを得ないケースもたくさんあると思います。しかし、より良い介護環境を維持するためにも、介護者自身が休息することも忘れないようにしましょう。
まとめ
認知症の方が暴言・暴力を振るうには何らかの理由があります。その原因を知り、個々にあった対応を心がけることが大切です。
介護者は一人で抱え込むと、介護疲れにつながるかもしれません。時には、介護サービスを利用するなど、ストレスを溜めない環境をつくりましょう。
また介護に限界を感じる前に、施設入居を検討することも大切です。