介護難民とは
介護難民とは、介護が必要なのに、施設でも在宅でも適切な介護サービスが受けられない人のことを指します。
2016年4月時点で要介護もしくは要支援認定者数は全国で622万人。過去16年でその人数は3倍近くにまで増えています。
このうち、特別養護老人ホームへの入居待機者数は特に多く、年々増え続けて2017年には36万人を突破しています。
年々増加する介護難民の現状
今後、高齢世帯の3分の2が単身もしくは高齢夫婦のみとなることが予想されています。
そのため、高齢者同士で行う「老老介護」や認知症者同士の「認認介護」などの社会問題が深刻化しています。
特別養護老人ホームへの待機者数の増加がその一端を示す通り、介護難民は増加の一途。介護難民にならないようにすることが、シニアライフを安心して送るための必須要件と言えます。
介護難民は特に首都圏で深刻化
「日本創生会議」が2015年に公表した試算では、2025年には東京圏だけで介護難民が約13万人発生するとされています。
東京周辺では、高度成長期に職を求めて移住してきた人が高齢世代となり、高齢者人口が急増しつつあるのが現状です。
東京周辺に高齢者世代が一極集中しているため、介護の担い手となる若い世代が不足し、大量の介護難民の発生が危惧されています。
介護難民が発生する原因
介護が必要な高齢者の増加
1947年から1949年に生まれた第一次ベビーブーム世代が、2015年の段階で65歳を超えている日本。この団塊の世代と言われる約800万人の人々が、徐々に介護サービスを必要としてきています。
現に、2000年に218万人だった要介護・要支援認定者数が2017年には622万人になり、ここ十数年で約3倍になっています。団塊の世代の高齢化によって、介護を必要とする高齢者が今後さらに増加することは必至です。
料金が安価な特養の待機者は現状約30万人ですが、介護難民は今後ますます深刻化していくことが予想されています。
人材と介護施設の不足
介護を必要とする高齢者が増えれば、当然、介護サービスのニーズが高まります。しかし、サービスを提供する事業所およびそこで働く介護職の人員不足が深刻となっています。
要介護者の増加に伴い介護サービスへのニーズが高まり、2025年には介護職員が国内で240~250万人は必要になると推計されています。その一方で、2016年度の介護職員数の実績は約190万人と、約50~60万人の差があります。
介護施設では従業員が不足していると感じている施設が全体の56.5%と過半数超え。少子化により、そもそも日本国内に働き手となる世代が減少していくことも懸念されます。
こうした需要と供給のアンバランスな状況が、介護難民を生み出す最大の原因となっているのです。
高齢化を受けて、介護サービス事業を展開しようとする人や企業は少なくないものの、実際に展開しても、働き手の確保が難しいという現状があります。
その原因のひとつに、収入の低さが挙げられます。
下記の表にある通り、介護従事者の平均的な給料は月収21万円強。手取りが10万円台という介護職員も少なくありません。
月給の者 | 日給の者 | 時間給の者 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
労働者 個別人数 |
平均賃金 (円/月) |
労働者 個別人数 |
平均賃金 (円/日) |
労働者 個別人数 |
平均賃金 (円/時間) |
|
全体 | 3万8,715人 | 21万7,753円 | 1,604人 | 8,667円 | 2万9,204人 | 1,136円 |
訪問介護職員 | 2,078人 | 19万1,751円 | 228人 | 8,804円 | 9,190人 | 1,289円 |
サービス提供 責任者 |
1,995人 | 21万9,663円 | 34人 | 9,235円 | 253人 | 1,102円 |
介護職員 | 1万9,106人 | 19万8,675円 | 912人 | 8,155円 | 1万2,035人 | 935円 |
看護職員 | 4,269人 | 26万6,504円 | 118人 | 9,599円 | 3,049人 | 1,369円 |
介護支援専門員 | 2,401人 | 25万499円 | 23人 | 9,729円 | 245人 | 1,273円 |
生活 支援 相談員 |
相談員 または3,004人 | 23万2,389円 | 32人 | 7,709円 | 451人 | 1,009円 |
事務所 (施設長) |
管理者6,046人 | 35万13円 | - | - | - | - |
「ハードな仕事に対して低賃金」というイメージが先行し、新規就業者数は伸び悩んでいる状況です。
「介護労働実態調査(2015年度)」からもわかる通り、訪問介護員の離職率14%、介護職員の離職率17.7%と高い数字になっています。
経済的問題から介護費用が捻出できない
高齢者によっては年金だけで生活していて、経済的な事情から介護サービスを受けられない場合が少なくありません。
仕事を退職後、年金などの限られた収入で生計を立てている家庭の場合、介護サービスを受けたくても金銭的に難しくなります。
特別養護老人ホーム(特養)など費用の安い公的施設を利用せざるを得ない場合では、順番待ちで入居まで長い月日がかかってしまうこともあります。
介護難民の対策
生活機能を向上させる
介護難民にならないためには、「自分の生活はできるだけ自分で行う」ことを目標に、介護予防に取り組んでいく姿勢が大切です。
こうした場合、女性は仕事をリタイアした後も、家事という日常的な仕事を自然に行う状況があるため、意識せずとも体を鍛えられる傾向があります。
一方、これまで仕事一筋だった男性の場合、家の中にいてもボーッとしてしまうという方も多いかもしれません。積極的に家事を行うようにしましょう。
また、性格が内向的な方も注意が必要です。外に出かけていき、いろいろな方とおしゃべりをしたり、新しい情報を取得したりするなど、脳細胞が活発に動くきっかけを作るように心がけましょう。
もちろん、大きな病気などをしてしまって、生活機能の向上が簡単ではないケースも考えられます。このような場合も諦めずに、リハビリなどを率先して行い、「寝たきり」にならないようする前向きな行動が重要になってきます。
家族によるサポート体制を整える
介護が必要となっても在宅で暮らすことができるよう、家族内で介護ができる環境を整えておくこともひとつの解決策です。
訪問介護やデイサービスなど、在宅で利用できる介護サービスはきちんと利用しつつ、上手に家族でサポートしていける環境を整えられれば、入居施設がなくても安心です。
ただし、在宅介護を行う場合は、誰か1人に介護負担がのしかからないようにする必要があります。介護うつや高齢者虐待の問題からもわかる通り、非常にストレスの多いものです。
どうしても家族内での介護が難しい場合には、老人ホームなどの施設介護を検討するようにしましょう。
介護サービスに必要な資金を用意する
デイサービスやデイケア、介護付き老人ホームなどのいろいろな介護サービスがあるなかで、当然それぞれのサービスを受けるにあたって「費用」は異なります。資金に限りがあると、やはり選べる介護サービスは限られてきます。
例えば老人ホームであれば、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、介護医療院などの介護保険施設が、一番安価に入居できる施設です。
介護サービスを受けられる施設と考えると、特別養護老人ホームが長期的に入居できて安価という結論になりますが、安いだけに入居希望者が殺到し、なかなか入居できない高齢者が多いのが現状です。
いざ特養の入居が難しくても、介護費用の備えがあれば、介護付き有料老人ホームや住宅型有料老人ホームなども検討できるので、選択の幅が広がり、介護難民になるリスクを回避できます。
早いうちから、老後を見据えた貯蓄や資産運用をしていきましょう。
国によるサポートを利用する
介護難民の問題に対して、国は「地域包括ケアシステム」の構築を進めています。
地域にある住まいや医療、介護、福祉などの拠点が連携して、高齢者が住み慣れた土地で自立した生活を送れるように支援を続けるしくみのことです。
特に、地方自治体に設置されている「地域包括支援センター」は地域包括ケアシステムの拠点となっていて、高齢者やその家族から介護相談を受け、必要に応じて介護サービスや関係機関への橋渡しを行っています。
施設・職員数に余裕のある地方に移住する
東京圏などの大都市部では、高齢者人口が多いうえに土地の確保が難しい状況。こういった理由により、介護施設を充足させることは難易度が高いのが現状です。
そのため施設に早く入居したい場合、施設と職員数に余裕があって、介護サービス費用も安い地方に移住をするというのも有効な方法と言えるでしょう。
日本創生会議は2015年6月に、老人ホームや介護人材の面で受け入れ体制を整えられている地域として、北海道函館市や福岡県北九州市など、地方の26都道府県41地域を発表しました。
介護に備えて元気なうちからすでに移住を行っている人も多いようです。
介護に関する情報を収集する
介護は突然必要になることが少なくありません。
病気や怪我でいきなり要介護状態になったとき、本人や家族がどれだけ介護について知っているかによって、その後の対応が変わってきます。
スムーズに必要な介護サービスにつなげるためにも、介護が必要になる前から、地域の自治体や介護サービスを調べておくと、いざ必要になったときに適切な窓口で相談できたり、候補にしていた介護事業者に連絡して利用できたりします。
どのような介護を受けたいのか、元気な間に家族の希望を話し合っておきましょう。
話し合った内容は家族がわかるようにメモに残しておいたり、介護の相談窓口に相談しておくと、介護が必要なタイミングでスムーズに動けます。
系列の病院やサービスを利用する
特養の多くは、系列の病院や社会福祉法人によって運営されています。そのため、特養と系列が同じ病院を利用すると、在宅介護の状況について施設側と共有しやすくなるのです。
そのことが影響して、特養の入居者を決める審査において酌量される、ということも期待できます。できるだけ早く特養に入りたいときは、そのようなつながりをうまく活用して、現在置かれている状況を伝えるというのもひとつの方法です。
新設の施設に申し込む
待機期間なく特養に入居したいなら、今後開設が予定されている新設の施設への入居を狙うというのもおすすめの方法です。
新規に開設された施設では、当然ですが既存の入居者はおらず、オープンに合わせて入居者を一挙に募ります。そのため、待機者数が多い施設に比べると、入居申請時の審査に通りやすい状況であると言えるのです。
新規に開設される特養の情報は、各市区町村のホームページで閲覧できるほか、役所の福祉関連の担当窓口で尋ねることができます。
民間の介護施設を利用する
特養の特徴は費用が安いことで、入居後に毎月必要となる費用は生活費と介護サービス費を含めて約10万円ほど。入居一時金など、入居時にかかる費用はありません。
費用面で条件が良いこともあり、特養には入居希望者が殺到して「待機者」が列をなしています。
厚生労働省によれば、2016年4月時における待機者数は全国で約36万6,000人。また福祉医療機構の調査では、2017年10~11月時点での特養1施設あたりの平均待機者数は117.3人です。
民間施設は特別養護老人ホームなどの公的施設と比べると費用が高いといわれていますが、現在では公的施設と変わらないリーズナブルな施設も増えてきています。
受けたい介護サービスや許容できる予算から、条件に合ったホームがないか検討してみるのも「特養の入居待ち」を回避する手段のひとつとなり得ます。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、定額利用が基本の介護施設です。
要介護度が高い方でも受け入れしていて、本格的な介護が受けられます。
食事や排泄、入浴介助や生活支援などの介護保険サービスをはじめ、入居者の医療ニーズに応じて看護職員による医療的ケア(胃ろうの管理や痰の吸引、褥瘡ケア、服薬管理など)を提供しています。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、幅広い要介護度の方が入居しています。
要介護度に応じて必要なサービスのみ組み合わせて利用できることがポイントです。
民間施設のため、施設によってイベントやレクリエーションを定期的に開催しています。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探すサービス付き高齢者向け住宅
一人暮らしに不安を感じている、比較的要介護度が低い方を対象にしています。
老人ホームではなく、あくまでシニア向けの賃貸物件であることが特徴です。
賃貸マンションで暮らしている感覚で、自由に外出や外泊が可能です。
生活相談サービスや見守りサービスを受けられるため、高齢者が安心して暮らせる基本的な環境が整っています。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探すグループホーム
認知症ケア専門の小規模な介護施設です。
住み慣れた土地で認知症の進行緩和を目指す施設として、施設の所在地に住民票のある高齢者が入居対象になっています。
認知症ケアに精通した専門スタッフのもと、日常の家事や買いものをみんなで分担しながら生活リハビリを行います。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す老人ホーム・介護施設の入居期間
5年以内に40%が退去
永く住まえる家として入居先を検討していたとしても、持病の悪化による入院や、老人ホームの受け入れ体制により転居や退去が必要となることも多い老人ホーム。実際に入居している方の平均的な入居期間はどのくらいなのでしょうか。
全国有料老人ホーム協会が実施している調査によれば、介護付き有料老人ホームの入居期間で最も多いのが3年〜5年で全体の35.3%。続いて1〜3年未満の方が29.2パーセント、5〜10年未満の方は全体の18.3%となっています。
老人ホームの退去理由
老人ホームの退去にあたっては人それぞれに多様な理由があります。施設の種別ごとにその退去理由をみてみると、どのカテゴリにおいても1位には「医療的ケアニーズの高まり」がランクインしています。
特に、「介護付」では全体の6割を占めるという結果に。身体状況の悪化とともに、いかに医療ケアが重要な項目であるかは一目瞭然です。
- 介護付き有料老人ホームの退去理由(複数回答)
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- 医療的ケアニーズの高まり(60.9%)
- 経済的な理由による負担継続困難(35.3%)
- 要介護度の進行による身体状況の悪化(17.7%)
- 住宅型有料老人ホームの退去理由
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- 医療的ケアニーズの高まり(50.0%)
- 要介護度の進行による身体状況の悪化(27.6%)
- 経済的な理由による負担継続困難(22.7%)
- サービス付き高齢者向け住宅の退去理由
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- 医療的ケアニーズの高まり(43.8%)
- 要介護度の進行による身体状況の悪化(24.4%)
- 認知症の進行による周辺状況の悪化(22.7%)
もちろん、上記の理由には亡くなられた方の数が含まれていません。
介護付き有料老人ホームでは、退去者の約半数、住宅型では約3〜4割、サービス付き高齢者向け住宅では約3割の方が逝去を理由に退去されています。
年齢と状態を考えて施設選びを
入居時の要介護度やそれぞれのご家庭の状況により入居期間はさまざまなので、一概には言えませんが、入居してからどのくらいの期間入居者の方が過ごすかは、年齢や介護度によるところが大きいのは事実です。
「介護生活を送る場所が見つからない!」という事態にならないためにも、入居前後のことも、介護が必要となる前からしっかりと考えておきましょう。
他の人はこちらも質問
介護難民はなぜ?
介護難民の原因は高齢者の増加です。
1947年から1949年に誕生した第一次ベビーブームの団塊の世代約800万人が、2015年で65歳を超えています。そのため、介護サービスを利用する高齢者が一気に増えました。また介護職員の人手不足も問題で、全体の56.5%が施設に職員数が足りないと回答しています。
介護難民はどれくらい?
2025年には東京都だけでも約13万人の介護難民が生じる、と日本創生会議が2015年に発表しました。費用が安く人気の高い特養での待機者は2017年時点で1施設約117人いると考えられています。現在の待機者はさらに増えています。
介護難民の人数は?
介護難民の数は増加傾向にあり、変わらず進んでいくと2025年には約43万人の介護難民が発生すると言われています。要支援・要介護認定者の数も毎年増え、2016年は622万人の認定者がいます。
介護難民は何が問題?
介護難民が増加する一方で、施設の介護職員の数は不足しています。従業員が不足していると感じる施設は全体の半数以上を占めており、需要と供給のバランスが合っていないのです。職員不足の原因は収入の低さ、離職率などです。