骨粗鬆症(骨粗しょう症)とは?
骨密度が低下して骨がもろくなることで、骨折をしやすくなる病気のことを指します。
骨粗鬆症は女性に多くみられる病気で、患者全体に占める女性の割合は8割以上です。
骨がもろくなっているので軽い転倒でも骨折をしたり、ひどい場合はクシャミをしただけで骨折したりすることもあります。
主な原因は、加齢や生活習慣、閉経後のホルモンバランスの変化、過度なダイエット、薬の影響などが挙げられますが、複数の要因が重なって発症することもあります。骨粗鬆症は自覚症状がないため、骨密度の検査を定期的に受けるなど、日頃から意識してチェックすることが大切です。
骨粗鬆症によって直接命をおびやかされることはありませんが、要介護になったり、寝たきりになったりする可能性は十分にあります。
骨からカルシウムが流出して発症する
骨には人体を支える役割のほかに、カルシウムを蓄えておく役割があります。血液中にもカルシウムはわずかながら溶け込んでいますが、この量を一定に保たなければ、生命を維持している脳や心臓に大きな影響を与えることになります。
通常、血液中のカルシウムは食事から摂りますが、栄養バランスが悪く、うまく吸収できない場合には骨からカルシウムを補うことになります。このような状態が長く続くと骨のカルシウム量が少なくなり、骨粗鬆症になる可能性が高まります。
健康寿命とはどう関係しているのか
健康寿命とは、医療や介護に依存せず、自立した生活が送れる生存期間のことです。日本人男性の平均寿命と健康寿命の差は約9年。女性の場合は約12年です。つまり、これだけの年数を「健康ではない状態」で過ごすことになるのです。
日本人の平均寿命の長さはよく知られていますが、現在はただ長生きするだけでなく、「健康寿命」の大切さがクローズアップされています。
この状態になるきっかけのひとつとして挙げられるのが、骨粗鬆症による骨折です。高齢者が骨折をすると要介護や寝たきりになるリスクが高まります。骨は私たちの身体だけではなく、日常生活を支える大切な器官だと言えるでしょう。
骨粗鬆症を予防して、高齢になっても骨を健康な状態に保つことが、健康的に長生きをすることにつながります。
骨粗鬆症の主な種類は3つ
⾻粗鬆症には3つの種類があります。
- 原発性⾻粗鬆症
- 続発性⾻粗鬆症
- 特発性⾻粗鬆症
それぞれについて、以下で詳しく説明していきます。
◆原発性骨粗鬆症
原発性骨粗鬆症とは、加齢や生活習慣の乱れ、閉経などが原因で起こる骨粗鬆症です。高齢になると骨を形成するスピードが落ちるため、骨密度が低下して骨粗鬆症を発症しやすくなります。また、生活習慣の乱れも発症の原因になります。
食事のバランスが悪いと骨を形成するために必要なカルシウムやビタミンD、ビタミンKなどが十分に摂れなくなります。さらに、運動不足によって骨への刺激や負荷が少なくなると、骨量が落ちてしまいます。
特に、女性の場合は閉経によって女性ホルモンのエストロゲンが減少することで骨粗鬆症を発症しやすくなります。
◆続発性骨粗鬆症
続発性骨粗鬆症とは、骨を弱くする原因となる疾患や、薬などによって引き起こされる骨粗鬆症です。副甲状腺機能亢進症やバセドウ病、性腺機能低下症などの内分泌系の疾患のほか、運動器や内臓疾患、糖尿病などの生活習慣病が主な原因となります。
これらの疾患が原因の場合は、治療と同時に骨粗鬆症の予防や対策を進める必要があります。また、ステロイドの長期服用は骨の形成を促すホルモンの分泌を減少させ、これが原因で骨粗鬆症を発症することもあります。
◆特発性骨粗鬆症
特発性骨粗鬆症は、原発性や続発性のように加齢や疾患などが原因ではなく、突発的に起こって急激に進行する骨粗鬆症です。「妊娠後骨粗鬆症」が代表的なものです。
これは妊娠や授乳に伴う一時的な骨粗鬆症ですが、産前産後の長引く腰痛が、実は骨がもろくなったことが原因の腰椎圧迫骨折だということも少なくありません。
妊娠中や授乳中は胎児へカルシウムを供給するため、おのずと母体のカルシウムは減少します。
症状が進むと強い痛みを感じることも
ここからは、骨粗鬆症の進行について、段階ごとに解説します。
【初期】
骨粗鬆症の初期段階では、進行が遅いために自覚症状がほとんどなく、生活で困ることもほとんどありません。
【中期】
しかし、骨粗鬆症の進行が進むと骨密度が低下して骨がもろくなっていくため、次第に骨がつぶれたり、折れたりするようになります。
【後期】
さらに進行が進むと、ちょっとした転倒や軽い負荷でも骨折するようになります。そのため、突然強い痛みを感じることもあれば、徐々にうずくような痛みに苦しむことも。高齢者の場合は股関節の骨折が原因で、要介護状態になることがあります。
また、どのタイプの骨粗鬆症の人にでも起こる可能性があるのが、脊椎の骨折(脊椎圧迫骨折)です。脊椎を骨折してもほとんどの場合に痛みはなく、痛みを感じたとしても1週間ほどすると徐々に消えていくので注意が必要です。
骨粗鬆症により骨折しやすい部位
骨粗鬆症が原因で骨折が生じやすいのは、脚の付け根にある大腿骨近位部、背骨にある脊椎椎体、腕の付け根にある上腕骨、手首の橈骨(とうこつ)などです。
詳しくは、以下の図で確認してみてください。
大腿骨近位部を骨折すると歩行が困難になる後遺症が残ることが多く、要介護状態の原因になる危険性が高いです。大腿骨近位部骨折の原因は9割以上が転倒によるものです。そのため、骨粗鬆症予防とともに、転倒を防ぐこともとても大切なのです。
背中が丸まっていたり、つま先が上がっていなかったりすると転倒しやすくなるので、体幹や下半身のトレーニングを行って改善することが予防のために効果的です。
また、体の重みによって背骨が押しつぶれる「圧迫骨折」は、腰や背中が曲がってしまう要因となります。本当は圧迫骨折が起こっているのに本人は痛みがなかったり、「ただの腰痛だろう」と見過ごすこともあります。
腕の付け根や手首なども骨粗鬆症によって骨がもろくなり、転倒はもちろん、転んで手をついただけでも骨が折れやすくなります。
1ヵ所の骨を折ってしまうと、周辺の骨にも大きな負担をかけて連鎖的な骨折を招くことになりかねません。日頃から意識をして、少しの変化でも医師の判断を仰いだり、定期的に骨密度の検査を受けるようにしましょう。早期発見と早期治療が大切です。
大腿骨の骨折は命取り
骨粗鬆症患者に多い「大腿骨近位部の骨折」をする人の数は年々増え続けており、1992年には7万6,600人ほどだったのに対し、20年後の2012年には17万5,700人ほどまで増加している研究結果も出ています。
大腿骨近位部の骨折は、自宅で起こるちょっとした転倒や、階段の踏み外しなどでも簡単に起きる骨折です。
治療方法は手術が必要となるケースがほとんどですが、高齢によって手術自体が難しいことも多くあります。仮に手術ができ成功したとしても、日常生活で車椅子が欠かせなくなることも少なくありません。
さらに大腿骨近位部の骨折で恐ろしいのは、高齢者だと手術後1年以内における死亡率が10%ほどになるという点です。理由は複数ありますが、骨折をした後の活動性低下に伴う心肺機能の衰弱なども要因のひとつと言われています。
骨粗鬆症(骨粗しょう症)の原因
ここからは、骨粗鬆症の原因をもう少し詳しく見ていきましょう。 骨粗鬆症は、下記の4つが主な原因です。
- 加齢
- 病気や服用している薬
- 過度なダイエットや慢性的な運動不足
- 閉経
それぞれについて、詳しく説明していきます。
主な原因は加齢
以下のグラフは、年代別に骨粗鬆症の有病率を表したものです。高齢者になると。急激に上昇していることがわかります。
加齢が主な原因と言われていますが、女性については、骨密度をキープする作用がある女性ホルモンの分泌が減少し始める閉経後に骨粗鬆症になりやすいと言われています。
一方で男性については、男性ホルモンの低下によって、発症のリスクが高まるとされています。
病気や服用している薬が骨粗鬆症(骨粗しょう症)の原因になることも
骨粗鬆症は、特定の疾病や服用中の薬が原因で発症することもあります。次のような病気が、原因になりやすいとされています。
- 関節リウマチ
- 副甲状腺機能亢進症
- 糖尿病
- 慢性腎臓病
- 動脈硬化
- 慢性閉塞性肺疾患
これらの病気を発症すると、骨吸収と骨形成のバランスの崩れによる骨量(骨密度)減少や、酸化ストレスの蓄積などによる骨質の劣化などが引き起こされ、骨粗鬆症になりやすくなります。糖尿病など生活習慣病などが原因となることも多いため、栄養バランスのとれた食生活を送るように心がけ、睡眠をしっかり取って健康を保つことが大切です。
薬の副作用を原因とする骨粗鬆症としては、ステロイドを服用することで起こるものが代表的です。
ステロイドは、糖尿病や、消化性潰瘍、血栓症、精神症状などの改善に使用されています。
過度なダイエットや慢性的な運動不足
無理なダイエットによる栄養不足は、骨粗鬆症の原因になることがあります。特に成長期(男性~18歳、女性~16歳)のころは、骨にカルシウムを蓄積して丈夫にする大事な期間のため、食事を抜くなど骨密度に悪影響を与える極端なダイエットは控えた方が良いでしょう。
また、普段から運動量が少ないという人も、骨粗鬆症の危険性が高いです。骨は通常、負荷がかかった状態が続くほど骨を形成する細胞が活発になるので、外出頻度が少なく、体を動かす機会が乏しい人は、骨がもろくなりやすいです。
過度な飲酒や喫煙
過度な飲酒習慣のある人や喫煙をする人も骨粗鬆症になりやすいと言われています。
加齢や閉経を原因とする骨粗鬆症のリスクはある意味避けられないことではありますが、自分の生活習慣を見直すことで予防につながるということは、できるだけ取り組むべきと言えるでしょう。
女性は閉経をきっかけに骨粗鬆症(骨粗しょう症)になりやすい
冒頭でもお伝えしましたが、骨粗鬆症は女性に多くみられる病気で、患者全体に占める女性の割合は8割以上に上ります。女性ホルモンのひとつである「エストロゲン」は、骨が行う新陳代謝において骨吸収の速度をゆるめ、カルシウムが骨から溶け出すのを抑える機能があります。一般的に、閉経期以降はエストロゲンの分泌が減少するため、骨粗鬆症を発症しやすくなっています。
そのため、女性は閉経後、急速に骨密度が減ることも多く、同じ年代の男性よりも骨粗鬆症を発症する危険性が高くなります。
骨粗鬆症(骨粗しょう症)の治療法
骨粗鬆症を治療する目的は、骨密度が低下することを防ぎ、骨折を防止することです。
主な治療方法は薬物治療ですが、骨粗鬆症は運動や食事などの長年の生活習慣も発症に大きく関わっているので、運動療法や食事療法などを普段から行って、骨密度を維持し高めていくことも大切です。
治療薬
骨粗鬆症の治療薬は、現在、続々と開発されています。各患者の病気の症状や進行度に合わせて、治療薬を使い分けることもできるようになりました。
近年では、従来の薬よりもさらに骨密度増加の効果がある薬や、患者が飲み続けられるように薬を投与する間隔や薬の形状を考えたものも登場しています。ただ、薬を安全に服用し、効果が最大限に現れるようにするには、薬ごとの用法を厳守しなければなりません。
医師と薬剤師の指導通りに服用することが大事です。
治療に | 用いられる薬薬の特徴・効果 |
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ビタミンK2 | 製剤骨密度を高める効果は少ないですが、骨の形成を促す作用があるので、骨折を防ぐ効果が期待できます。 |
活性型 | ビタミンD3 製剤食事から取り入れたカルシウムを腸管で吸収する力を高めます。 また、骨吸収と骨形成のバランスを調整する効果もあり、骨粗鬆症の治療薬としては古くから使用されている薬です。 |
女性ホルモン (エストロゲン) |
製剤女性ホルモンが減ることで起こる骨粗鬆症を予防するのに効果があります。 閉経期における更年期症状を軽減し、それに合わせて骨粗鬆症の症状を治療するためにも用いられる薬です。 |
SERM(塩酸ラロキシフェン、 バゼドキシフェン酢酸塩) |
骨吸収を抑えて骨密度を増加させる作用を持つ薬。 子宮や乳房などの臓器に悪影響を与えないという特徴があります。 |
テリパラチド (副甲状腺ホルモン) |
骨を新たにつくる骨芽細胞に活力を与え、骨の強度を高める薬です。 骨密度が大きく低下している人向けの薬で、毎日または週2回患者が自分で注射を行うタイプの薬と、週1回の頻度で病院にて皮下注射を受けるタイプの薬とがあります。 |
カルシトニン製剤 | 骨吸収を抑える効果を持つ注射薬です。 鎮痛にも有効なので、骨粗鬆症によって生じる腰や背中の痛みを抑えるためにも用いられます。 |
ビスフォスフォネート製剤 | 破骨細胞に働きかける効果を持ち、骨吸収の過剰な作用を抑えて、骨密度を増やすことができます。 |
デノスマブ (抗ランクル抗体薬) |
破骨細胞の活性化に関係するたんぱく質に作用し、骨吸収を抑える効果を持ちます。 半年に1回、皮下注射で投薬するという薬なので、継続しやすいです。 |
カルシウム | 製剤骨をつくるうえでカルシウムは欠かせません。 骨粗鬆症の発症者だと、食事と薬で約1000mgを摂取すると良いとされています。 |
ロモソズマブ (抗スクレロスチン抗体) |
骨形成を促し、骨吸収を抑える効果を持つ注射薬です。月1回の頻度で病院にて皮下注射を行います。 |
上記の薬以外にも、タンパク同化ホルモン製剤やイプリフラボンなどが処方されることもあります。
食事療法
骨粗鬆症を治療するにあたり、薬物を使った治療に加えて、普段の食生活を見直す食事療法も並行して行われるのが一般的です。
食事療法では、カルシウムを多く摂取しつつ、バランス良く栄養を取っていくことが大事になります。
カルシウムは骨をつくるうえで最も重要な栄養素であり、適切な量を摂取していくことは骨粗鬆症の予防および治療において欠かすことができません。
推奨されるカルシウムの摂取量は以下の通りです。
- 成人男性 1日あたり650~800mgほど
- 成人女性 650mgほど
カルシウムだけを大量摂取できる薬もありますが、普段の食事の中でできるだけ食品から取っていくことが望ましいと言われています。
カルシウムが摂取できる食品 | |||
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牛乳および乳製品 | 緑黄色野菜 | 大豆および大豆製品 | 小魚 |
積極的に取るべき食品と控えた方が良い食品
カルシウム以外にも、カルシウムを吸収しやすくするビタミンDや、骨の形成で重要となるビタミンKなども摂取することが重要です。また、ほかにも野菜やたんぱく質、野菜をバランスよく食べていくことが大切。
ビタミンDとビタミンKが豊富に含まれる食材は、以下の通りです。
ビタミンD | 魚類 |
---|---|
キノコ類(しいたけ、しめじ、まいたけ、えのきなど) | |
ビタミンK | 納豆 |
緑色野菜(カボチャ、アスパラ、小松菜、にんじんなど) |
一方、お酒に含まれるアルコールやコーヒーや紅茶に含まれるカフェイン、さらにリンを多く含む「するめ」や「さくらえびの煮干し」などの加工食品や、食塩などは、過剰摂取を控えるべき食品です。
運動療法
運動には、身体機能を維持しつつ、転倒しにくい体をつくる効果があります。
その理由は、運動に取り組むことで、骨密度の減少を防ぐことができるためです。
骨に負荷をかけることで、それが刺激になり、骨にカルシウムが定着しやすくなったり、血流がよくなったりすることで、骨をつくる細胞が活発になります。
さらに、下半身のトレーニングをすることで、転倒を防ぐ効果が期待できます。筋力やバランス能力をつけることで、「すり足歩行」が改善されるためです。
筋力不足で起こる「すり足歩行」は、足を高く上げることができず、転倒する可能性が高いと言われています。
骨粗鬆症の方におすすめされる運動としては、「スクワット」や「片脚立ち」があります。
詳しい取り組み方については、ロコモティブシンドロームの記事にて説明しています。
骨折をしないため予防策
最後に、骨粗鬆症を予防するための具体的な対策について説明します。
骨を強く保つのが最大の予防
高齢になって骨折で後悔しないためには、骨粗鬆症を予防すべきです。そのためには骨を強くする必要があるのですが、急に頑張ったとしても、いきなり頑丈にはなりません。
骨強度をアップさせるには、少しでも早い時期から骨の形成に関係する栄養素であるカルシウム、ビタミンD、タンパク質を積極的に摂取し、カルシウムが骨に貯まるよう、定期的な運動を行っていく必要があります。
さらには、飲酒喫煙は控えめにし、適度な日光浴を心がけていくことも重要です。
一般的に、骨粗鬆症は年齢が高いほど発症率が高くなるもの。しかし、「歳だから仕方がない」というものでもなく、そこまでの年月、骨の形成に良い生活をいかに送ってきたかによって、骨密度や骨強度には、かなりの個人差が出るのです。
秘訣はビタミンD
骨折をしないためには、転ばないように気をつけるのが第一なのですが、そんなことはここであえてお話ししなくても、多くのご高齢の方が、すでに気をつけていることだと思います。
転ばないように気をつけていても、転んでしまって骨折するわけですから、「気をつける」という部分以外で、転ばないようにする工夫が必要となります。
そこで大切なのがビタミンD。骨にも重要な栄養素なのですが、筋肉生成や神経調節にもかかわっています。つまり、ビタミンDをたくさん摂取することで、筋肉や神経が正常に動き、転倒を予防できるのです。
ビタミンDは魚類に多く含まれる栄養素なので、毎日魚を食べるように心がけると良いでしょう。