「団らんを大切に」という県民性からか、老人ホームの数は少なめ
九州は全体的に老人ホームが多い地域ではありますが、長崎県もその例外ではありません。
長崎県は九州の中で最も高齢化が進む県となることが推測されているため、その対策として老人ホームの開設が順次、進められているのです。とはいえ、老人ホームの多くは長崎市と佐世保市に集中しており、次いで人口の多い諫早市や大村市、南島原市、島原市などはまだまだ少ないのが現状です。
また、長崎県は900以上もの島を有する県であり、老人ホームがある島はほとんどありません。
そのため、本土から離れて暮らす高齢者が老人ホームに入居しよう場合、住み慣れた島を離れる場合が多々あります。
施設の種類では、特別養護老人ホーム、介護老人保険施設、介護療養型医療施設がまんべんなくあり、介護や医療サービスが必要な高齢者にとっては安心して生活できる素地が整っていると言えます。
反面、グループホームやサービス付き高齢者向け住宅、高齢者住宅などはほとんどありません。
「NHK世論調査」によると、長崎県は「一家団らんを大切にしたい」と思っている人が47都道府県中で最も多い地域。
「健康な限り家族で暮らしていたい」という思いの強さが、そうした施設の少なさにつながっているのでしょうか。
長崎県は九州の北端ではありますが、南西から対馬海流が流入してくる影響で、四季を通じて温暖で、寒暖の差もそれほどなくありません。
一方で、海岸線の長さ(北海道に次ぐ全国2位)から港の数が多く、さまざまな魚介類が水揚げされる海産物の宝庫でもあります。
高齢者の健康に優しい要素は数多く、介護や医療サービスが充実した老人ホームがあるとなれば、高齢者にとって非常に過ごしやすい土地と言えるでしょう。
長崎県の高齢化率は20年で13%上昇
長崎県の人口は1980年代後半から長らく減少傾向にあります。
1990年には約156万人いた総人口は2000年には約153万人ほどまで減少。
2010年には約143万人、2023年には約130万人にまで落ち込み、総人口の減少は今後もしばらく続く見通しです。
年齢構成に視点を移してみると生産年齢人口、年少人口ともにここ数十年減少傾向にあり、それに対して老年人口は年々増加しています。
生産年齢人口は1985年の103万8396人をピークに減少しており、2000年には約95万人、2010年には85万7,416人、2023年には66万9,932人にまで落ち込みました。
年少人口は生産年齢人口よりもさらに昔から減少傾向にあり、1955年の64万6,454人をピークに毎年減少し続けています。
1975年には約40万人にまで減少し、2010年には19万3,428人、2023年には15万2,937人にまで落ち込みました。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
その一方で老年人口は毎年増加し続けており、1950年には約10万人ほどでしたが、1980年には約20万人近くにまで増加し、2000年には30万人を超え2010年には36万9,290人に、2023年には43万1,895人まで達しています。
それに伴い高齢化率も上昇しており、1990年には15%だった高齢化率も2000年には20%を超え、2010年には26%、2015年には29.6%、2023年には33.6%にまで上昇しています。
高齢化は今後もしばらく続くとされており、早急な対策が必要とされています。
長崎県の介護サービスの利用状況は、居宅系サービスが最も多い
長崎県の介護保険サービスの受給者数は年々増加し続けています。
2010年の介護保険第1号被保険者のサービス受給者数は6万4,281人でしたが、2013年には7万人を超え、2015年には7万5,613人、2024年には7万7,415人にまで達しています。
2024年の介護保険第1号被保険者のサービス受給者数をサービスの種別ごとに見ていくと、最も多いのが訪問介護や通所リハビリテーションなどを含む居宅系サービスの利用者で5万882人(65.7%)、次に多いのが介護老人保健施設などを含む施設系サービスの利用者で1万1,635人(15.0%)、最も少ないのが地域密着型サービスの利用者で14万898人(19.2%)になります。
基本的にはどのサービスも毎年利用者が増加していますが、施設系サービスの利用者はここ数年の間、微量な増減を繰り返しています。
療養病床の入院受療率は全国的に見ると、西日本のほうが東日本よりも高い傾向を示していますが、長崎県もその例に漏れず療養病床の入院受療率が全国平均よりも高くなっています。
さらに、訪問看護ステーションの設置数や勤務者の数が長崎県は全国的に見て少ないため、必然的に利用者の数も少ない傾向にあります。
65歳以上人口1万人あたりの施設・定員・病床数を見ていくと、2015年時点では介護老人福祉施設が154.6、介護老人保健施設が122.9であるのに対し、介護療養型医療施設が27.1、在宅療養支援診療所が8.1、訪問看護ステーションが2.1と非常に少なくなっています。
今後高齢化が進行していくことを鑑みると各施設の増設が必要になってくるでしょう。
長崎県は食生活の改善による介護予防に力を入れている
長崎県では介護予防事業支援マニュアルをホームページで公開しており、運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の向上、閉じこもりやうつ病の予防事業などさまざまな視点から介護予防を支援しています。
マニュアルの中では機能の状況を確認するためのチェックリストや機能向上のための対策方法などが紹介されており、自宅にいながら自身の体調チェックや改善を行うことができるようになっています。
また、長崎県ではその他にもさまざまな介護予防プログラムを実施しています。
「栄養改善プログラム」では高齢者の栄養バランスの改善を図ることで身体機能の向上を目指しています。
対象者は要介護状態になる危険のある低栄養状態の高齢者やメタボリックシンドロームの診断基準に該当している高齢者などが含まれます。
このプログラムではまず食生活における問題のあぶり出しから始まり、目標設定を行うとともにそれを実現するための講話や実習、さらに筋力トレーニングなどを行います。
閉じこもりやうつ病、認知症などの改善プログラム例としては簡単な計算問題や間違い探し、記憶ゲームなどを無料で公開しており、楽しみながら認知機能の改善を行うことができます。
とりわけ、認知症予防のためには普段から目的意識を持って脳を活性化させることが重要なので、家にいながら頭の体操を行えるのは非常に便利ですね。
口腔機能の向上を図るレクリエーション集も同様に無料で公開されており、ストローダーツや紙風船相撲など他の高齢者と楽しみながら口腔機能を改善することができるレクリエーションが紹介されています。
コミュニケーションを図ることで認知症予防にもつながり、高齢者にとっては最適な口腔機能の向上方法になっています。
長崎県は「あじさいネット」により医療機関同士の連携が効率的
長崎県では、団塊の世代が介護を必要とするケースが増える75歳以上になる2025年に向けて、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
認知症を患う高齢者や高齢者だけで構成された世帯の増加に伴い、医療や介護の提供体制のさらなる充実が求められるため、地域包括ケアシステムでは介護が必要となっても住み慣れた地域で安心して暮らすことのできる地域づくりやシステム構築を進めています。
地域包括ケアシステムの重要なポイントは住まい・医療・介護・予防・生活支援といったさまざまな視点からのサポートを、一体的に提供するシステム構築にあります。
そのためには、医師や看護師、介護関係者だけでなく地域の事業者やボランティアの協力を得つつ、相互の連携を図ることが大切です。
連携のためには迅速な情報共有と円滑な支援体制が必要であり、長崎県では医療情報ネットワーク「あじさいネット」を設置することで医療機関同士の連携の効率化を図っています。
さらに、県庁所在地である長崎市では2016年に長崎版地域包括ケアシステムの構築推進に関する連携協定を介護・福祉・医療・法律などを専門とする団体と締結し、それぞれの機関と連携しながら地域包括ケアシステムの構築を推進しています。
地域包括ケアシステムを支える拠点として地域包括支援センターが県内52箇所に設置されており、地域住民の医療や介護に関する不安の解決や虐待などの問題帽子、介護予防マネジメントなどを行っています。
地域包括支援センターの機能強化も徐々に進んでおり、地域包括ケアシステムの構築において今後ますます重要なポジションを占めていくことになるでしょう。
長崎県福祉サービス運営適正化委員会とは?
長崎県では福祉サービスの利用者と事業者の間で生じた問題の解決を行う機関として長崎県運営適正化委員会を設置しています。
運営適正化委員会は法律・医療・社会福祉・対象者支援団体・福祉サービス提供者の代表者などさまざまな分野の専門家11名で構成されており、福祉サービス利用援助事業の監視を担当する運営監視合議体と福祉サービスに関する苦情解決に向けた相談やあっせんなどを行う苦情解決合議体に分かれています。
福祉サービスの利用者から実際にあった苦情内容の例としては「介護施設職員の対応への不満」「サービス内容に関する説明不足」「施設内での持物の紛失」「施設での虐待」など多岐に渡ります。
こうした問題が発生し、事業者との話し合いで解決できない場合、運営適正化委員会に苦情相談を行うことになります。
福祉サービス利用者からの苦情の申し出を受けると運営適正化委員会は専門家の助言や解決に向けたあっせん、事業者に対する事情調査、申し入れなどを行い、問題の解決に取り組みます。
必要に応じて、利用者と事業者の間で再び話し合いの場を持つよう提案し、無事問題が解決した際には双方からの報告を受けて終了となります。
また、虐待のような不法行為が確認された場合は県知事への通知を行います。
事業者と話し合いを行うことになった場合は不満点や疑問点などをはっきりさせておくことが大切です。
実際の相談例では説明不足や些細な見解の相違などから問題を複雑化させるケースもあるため、運営適正化委員会ではそうした複雑さを解きほぐすことで問題解決を促します。