口腔ケアとは
近年、口腔ケアの重要性が認識されつつあります。
口腔ケアを通して口の中をきれいに保つことは、健康的な日常生活を送るためには不可欠です。
丁寧な口腔ケアによって、全身の身体機能の維持・向上がみられたケースもあり、介護職員だけではなく、家族の方も正しい知識を身につけておくと良いでしょう。
日本口腔ケア学会によると、口腔ケアとは以下のように定義されています。
口腔ケアとは、口腔の疾病予防、健康保持・増進、リハビリテーションによりQOLの向上を目指した科学であり技術です。
具体的には、検診、口腔清掃、義歯の着脱と手入れ、咀嚼(そしゃく)・摂食・嚥下(えんげ)のリハビリ、歯肉・頬部のマッサージ、食事の介護、口臭の除去、口腔乾燥予防などがあります。
上記の通り、口腔ケアはただの口の中の清掃ではなく、食事をしたり健康を保ったりするための幅広い内容を指していることがわかります。
口腔ケアの目的
「口」には主に、「食べること」「話すこと」「呼吸すること」「表情をつくること」という4つの機能があります。
しかし、加齢による衰えや病気などによって、これらの機能が低下してしまうことは少なくありません。
できるだけ機能を良好に維持していくためには、口腔ケアが重要です。
舌やくちびる、頬などの口周りを鍛えるためのマッサージやリハビリなどを通して、嚥下機能を維持する健康維持・促進の役割を担っています。
口内と口周りを清潔に、そして健康に保つことが口腔ケアを行う目的のひとつです。
口腔ケアの種類
口腔ケアには大きく分けて2種類あります。口内を清潔に保つための器質的口腔ケアと口腔機能の低下を防ぐ機能的口腔ケアです。
器質的口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防などにつながり、機能的口腔ケアは飲み込む力の低下を防ぐ効果が期待できます。
実際の口腔ケアは、以下の2種類のケアを兼ねて行われることが多いです。
器質的口腔ケア
器質的口腔ケアは、口の中を清潔に保つためのケアです。
食事後のうがいや歯磨きなどが基本となりますが、高齢者の場合は義歯・口内・舌の清掃なども重要になります。
口内で雑菌が繁殖し、その雑菌が食べ物や唾液と一緒に気道に侵入すると、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れも。
また、高齢者は加齢により抵抗力が落ち、歯周病や粘膜疾患にかかりやすいため、日ごろから器質的口腔ケアをしっかりと行う必要があります。
機能的口腔ケア
機能的口腔ケアは、口周りの筋肉や舌を動かすことによって口腔機能の維持・向上を目指すケアです。
口腔機能が問題なく働くには、口周りの筋肉の動きがスムーズである必要があります。
機能的口腔ケアの方法は、口腔内や口周辺のマッサージや、飲み込む力を鍛える嚥下体操などです。
体の筋肉が鍛えなければ衰えるのと同じく、機能的口腔ケアも日ごろから継続して行っていくことが大切です。
自宅でできる口腔ケアのやり方
歯を磨く
歯の磨き方を考えていくうえでは、まず「歯ブラシの選び方」が大事です。
口の隅々までブラシが届くように毛先が小さめのもので、さらに歯肉を傷つけずにないように毛がやわらかめのものがおすすめです。
また、持ちやすいように持ち手部分が大きいものを選ぶと、口腔ケアがより行いやすくなります。
歯磨き剤は少量で十分です。
歯ブラシはえんぴつのように軽く持ち、歯と歯肉の間に45度の角度で毛先をあてるようにします。
歯間を掃除するときのポイント
歯の間を掃除するには歯間ブラシを使います。
歯間ブラシを購入する際、基準として重視すべきは、歯のすき間に入れても抵抗なく動かせるかどうかです。
そのため、初めて購入するときは細いサイズから試していきましょう。
太いものだと歯間に入らないことも起こるので、まずは細いもので試していき、それで細いと感じる場合は、次回購入時にサイズを変更しましょう。
使用時は歯と歯の間にゆっくりとワイヤーを入れましょう。
乱暴に入れると、歯ぐきを傷つけ、口腔内を痛めてしまうので注意が必要です。ブラシを動かすときは、歯ぐきではなく、左右の歯にあてながら動かすようにしましょう。
入れ歯を洗う
入れ歯は人工的な歯なので、むし歯になることはありません。
しかし、使っているうちに細菌が付着し、口臭のもとになることがあります。
最低でも寝る前に一日一回は丁寧に洗いましょう。
研磨剤入りの歯磨き剤は入れ歯の表面を傷つけるので使わないようにしてください。また、変形の原因になるので熱湯の使用も避けましょう。
ブラッシングは入れ歯専用の洗浄剤を使って丁寧に行うのが基本です。磨いた後は流水でしっかりとすすぎ、就寝時は水に浸して保管します。
舌・上顎を掃除する
口腔ケアにおいては、歯だけでなく「舌」や「上顎」などの衛生状態も重要です。
高齢になると唾液の量が減り、舌の動きも鈍くなってしまうので、歯以外の部分の汚れが自分で取りにくくなるのです。
もし汚れたままになれば口内で雑菌が増加する原因となり、誤嚥性肺炎のリスクも高まります。
舌や粘膜を磨くための専用ブラシが市販されているので、そういったものを使うのもおすすめです。
口内が乾燥している人は、ブラッシングで傷つけないよう口を湿らせてから磨くようにしましょう。
舌を掃除するときのポイント
口内の衛生状態が悪化すると、舌の表面に白い苔状のものが付着するようになります。
これは舌苔(ぜったい)と呼ばれ、細菌の温床にもなっているため、舌を清掃する際はまずこの舌苔を取ることが大事です。
舌ブラシあるいはスポンジブラシなどを使い、舌の表面を奥から前、中から外の方向にやさしくこするようにします。
清拭(せいしき)を行う
手をうまく使えない人や、口に水を含んだままにできない高齢者には口腔清拭を行います。
口腔清拭をするときは、口腔ケア用スポンジブラシと、カテキン粉末を入れた水(水のみでも可)、紙ナプキンなどを準備します。
まず、ブラシや指などにガーゼを巻きつけ、それを使って口腔内の汚れを拭き取ります。
次に口の中を上の歯と頬の間、上顎、下の歯と頬の間の順に拭いていきます。
このとき、奥まで指を入れ過ぎると痛みを感じたり、嘔吐したりする可能性があるので注意しましょう。
歯の有無にかかわらず、口を清潔に保つためにも口内清拭は大切です。
うがいをする
うがいには2種類あり、口を開いてのどを動かす「ガラガラ」と音を立てるうがいと、水を口に含んで口内で液体を動かす「ブクブク」と音を立てるうがいです。
口腔ケアでは、口の中を清潔に保つという目的があるので、「ブクブク」タイプのうがいを中心に行います。
口内の汚れを落とせるのに加えて、口腔内の保湿をするうえでも効果的です。
ただ、高齢者だとブクブクとうがいをすることが難しいこともあります。
無理にすると、含んだ水を誤嚥してしまう危険性もあるので注意しましょう。
そうした人には、水を吐き出しやすいよう介助をしてあげることも大切です。
唾液腺マッサージを行う
口の乾燥を防ぐためにおすすめなのが唾液腺マッサージです。唾液腺と呼ばれる部位を揉みほぐしてあげることで唾液が出やすくなります。
特に大きな唾液腺は上の奥歯あたりと、あご骨の内側のやわらかい部分、あごの先の尖った部分の内側にあります。
力を入れすぎないように注意しながら、やさしく指でマッサージをすると良いでしょう。
嚥下体操を行う
嚥下体操とは、飲み込みに必要な筋肉をトレーニングする体操のこと。
飲み込みが困難になると、誤嚥を防止するために食事の形態がやわらかいものや、最初から刻んであるもの中心になっていきます。
そうなると、せっかく歯があっても噛むことができず、認知症予防にたくさん噛もうと思っていても、その機会が失われてしまいますよね。
嚥下体操は「首のストレッチ」「肩の体操」「口の体操」「頬の体操」「舌の体操」が一連の流れで、どの体操にもそれぞれ意味があります。
「頬の体操」では、舌を出したり、舌で口の両端を舐めたり、舌を鼻先やあご先につける気持ちで上下運動してみましょう。
便利な口腔ケア用品
歯ブラシ
歯ブラシは口内を清潔に保つための基本の道具です。
脳卒中の後遺症などにより、自分できちんと歯を磨けない高齢者の方も多いので、そのときは介護者が本人に代わってきちんと磨いてあげなければなりません。
ただ、自分の手を細かく動かして磨くことは難しくても、歯ブラシを口までもっていくことができるなら、電動歯ブラシで磨くこともできます。
なお、歯を磨いている最中に大量の唾液が出てくるというときは、唾液を吸引できる機能のついた歯ブラシもあるので、活用すると良いでしょう。
細かい部分に歯ブラシを当てにくいときは、ブラシの部分が小さくなっているポイントブラシを使うのもおすすめです。
歯間ブラシ
歯間ブラシは、その名の通り歯間を磨くために使うもので、通常の歯ブラシでは磨けない部分をケアするのに役立ちます。
歯並びが悪く、歯と歯の間にすき間がある方は、歯ブラシだけで汚れをすべて取り除くのは困難です。
歯間はむし歯になりやすい部分でもあるので、歯ブラシと併用して、日常的に歯間ブラシを活用することが大事です。
また、加齢によって歯が抜けた部分を、歯ブラシだけできれいにするのは難しいと言えます。
そのときも、歯間ブラシなどを使いながら、歯ブラシの届かないところを清潔にすることが大切です。
スポンジブラシ
スポンジブラシは、先端がスポンジになっている棒状のブラシのことです。
スポンジ部分を湿らせて、頬やくちびるの内側部分をはじめ、歯ぐきや上顎、さらには舌についた汚れをやさしく落とすことができます。
歯ブラシのように歯についた細菌の膜を剥ぎ取ることはできませんが、口の中の粘膜を傷つけないことに適したブラシであると言えるでしょう。
スポンジの形は、先が細くなっているものやギザギザになっているものなど種類が豊富にあり、スポンジの硬さも製品によって変わります。
舌ブラシ
舌ブラシは、先に毛が付いているタイプや、毛がついていない樹脂製のタイプなどがあります。
口内の衛生状態が悪化すると、舌の表面に細菌のかたまりである「舌苔(ぜったい)」ができることがあるので、取り除く必要があります。
舌苔は口臭の元にもなり、うがいだけでは取れないので、舌ブラシを使って取るようにしましょう。
義歯ブラシ
入れ歯をブラシで磨く際は、専用の義歯ブラシを使います。
ブラシの部分は通常の歯ブラシと同様にナイロン製で、歯ブラシよりも硬いのが特徴です。
また、持ち手の部分もつかみやすく作られていることが多く、力を入れて磨きやすくなっています。
義歯ブラシは、ブラシの部分が硬さの違いによって、上下もしくは裏表の2つの部位に分かれていることが多いです。
硬さが普通で大きなブラシの部分は入れ歯全体を磨くときに使い、ブラシが固くて小さい部分は、大きなブラシでは磨きにくい端などを磨きます。
ウェットティッシュ
頬や歯ぐきの内側など粘膜部分をきれいにする際に便利なのが、口腔ケア用ウェットティッシュです。
ウェットティッシュは筒状の入れ物に入っていて、一枚ずつ取り出せるようになっています。
筒の中で既に洗口液に浸されているので、取り出したらすぐに使えるので便利です。
ティッシュをあてながら指で拭くこともでき、汚れをかき出しやすい点が大きな利点。
使い捨てなので衛生的ですし、ウェットティッシュで口内をきれいにできれば、うがいの頻度も少なくて済みます。
保湿剤
口内の乾燥を和らげたいときに利用したいのが保湿剤です。
大きく分けてジェルタイプとスプレータイプ、そしてマウスウォッシュタイプがあります。
すべてのタイプをそろえる必要はなく、自分の好みや口腔内の状態に合わせて、使いやすいものを選びましょう。
うがい受け(ガーグルベース)
口腔ケアには歯磨きやうがいは欠かせませんが、要介護度が高く離床が難しい高齢者だと、洗面台でケアを行うということができません。
そのとき、ベッドの上でも歯を磨き、うがいをしてもらうために使われるのがうがい受け(ガーグルベース)です。
うがい受けは、口から吐き出す水を受け止めやすい形状をしているので、高齢者にとっては、丸い洗面器よりもずっと使いやすいと言えます。
介護者にとっても口腔ケアがしやすくなる用具なので、寝たきりの要介護者を介護している方におすすめです。
口腔ケアの留意点
なるべく本人に任せる
身の回りのことを自分でやる意欲や運動機能を大切にするためにも、できる範囲で本人に自力でやるように促しましょう。
歯磨きで手を細かく動かすことは、手や指、腕の運動になってリハビリになります。
そのため、歯ブラシは本人が握りやすく扱いやすいものを選んでください。
介護者は、本人の歯磨きが終わってから、仕上げ磨きや磨き残しのチェックをしておきます。
時間をかけすぎない
口腔ケアの時間はできるだけ短く終えることが大切です。
人によっては口の中を見られたり、他人に歯磨きをしてもらったりすることを恥ずかしいと感じる場合があります。
無理強いはせずにスピーディーに歯磨きをサポートして、最終チェックへ移りましょう。
口腔ケアの大切さを声がけしながら行うと、スムーズに終えられます。
誤嚥に注意する
口腔ケアで気をつけたいのは、水や唾液の誤嚥です。
姿勢が良くないと、歯磨き中に水分が気管に入ってしまい、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
そのため、歯磨き中は上体を起こして、あごを引き、ややうつむきの姿勢を維持しながら行いましょう。
寝たきり状態の方に歯磨きをする場合は、上体の姿勢に気をつけて、枕やクッションを後頭部に当てるなどの工夫をしてください。
口内環境に異常がないか
口腔ケアをしている間は、歯の噛み合わせに問題はないか、むし歯はないか、歯茎の腫れや舌の状態は正常かなどを確認しながら行います。
歯磨きや仕上げ磨きのあと、磨き残しのチェックをしながらお口の中の健康状態をチェックしていきましょう。
なお、問題や異常が見られる場合は、速やかに歯科医や歯科衛生士に相談してください。
介助磨きを拒否されたらどうする?
認知症の方の口腔ケアに悩まれている方のほとんどが、介助磨きの拒否を難しいと感じています。
被介護者が介助磨きを嫌がる原因は、虫歯にあたって痛い、歯ブラシの毛先が歯肉に当たるのが嫌だと感じた経験があることです。
そんなときは、無理に介助せず、うがいをしてもらうなどして口を清潔に保ちましょう。
また、いきなり歯ブラシを口に入れられれば嫌がるのは誰でも当然なので、まずは体調のことや、口の中で痛むところはないか確認をしてから、口腔ケアの開始を伝えます。
最初の丁寧な対応だけで、リラックスして口腔ケアを受けてくれる効果があります。
歯ブラシを噛んで離さない場合、無理に噛むのを止めず、噛んでも良い歯ブラシと、歯を磨く用の歯ブラシの2本を用意しましょう。
口腔ケアを行う効果・メリット
口腔内が清潔になる
口腔ケアを適切に行うと、むし歯や歯周病といった口腔内トラブルが減少します。
また、カンジダ性口内炎といった口内感染症を予防することにもつながります。
むし歯や口内炎の悪化は本人の生活の質に大きな影響を及ぼすので、普段から口腔ケアをしっかりと行うことが大切です。
誤嚥性肺炎の予防になる
高齢者が発症する肺炎には、口腔内の細菌が「誤嚥」によって気道に侵入し、そのまま肺に到達することで炎症を起こす「誤嚥性肺炎」が多いです。
誤嚥性肺炎を防ぐには、誤嚥をしないよう注意するだけでなく、口腔内を清潔に保ち、口の中に細菌が繁殖しないようにすることが大事です。
そのためには、日頃から口腔ケアを行うことが求められます。
食事が美味しくなる
口の中に入れた食べ物を、歯や義歯でしっかりと切断して噛み砕き、唾液と混ぜていくということは、食べ物を消化して吸収するうえでの第一段階です。
この一連の動作をうまく行うことができれば、口を通して栄養がしっかりと摂取され、低栄養状態や脱水症状を防ぎ、体力回復はもちろん意欲の向上にもつながります。
口腔ケアによって唾液分泌量が増えれば、それだけ味覚が改善され、食欲の増進も期待できます。
コミュニケーションが取りやすくなる
口腔ケアによって口と舌の動きが向上してくると、話すときの発音がよくなり、ほかの人との意思疎通も円滑に進みます。
さらに、口腔機能が向上すると表情が豊かになり、より話を活発にする助けになりますよ。
口腔ケアによって口内の衛生状態が保たれていれば、肺炎の原因となる口内の細菌数は大きく減少するので、たとえ誤嚥が生じても重症化するリスクを下げることができます。
特に高齢者の場合、寝ている間に唾液を誤嚥することはある程度避けられないことであり、口腔ケアを行わなければ誤嚥性肺炎は防げません。
また、そのほかの感染症についても、口腔ケアによって防ぎやすくなります。
口内感染症から血管に菌が侵入して全身敗血症になるといった、感染症によくみられる症状も予防することができるのです。
認知症予防になる
近年の研究で、歯周病とアルツハイマー型認知症との関係性がわかってきました。
マウスを使ったある実験では、歯周病のマウスはそうでないマウスに比べて、アルツハイマー病の原因となる「アミロイドβ」の蓄積が面積で約2.5倍、量では約1.5倍多くなっていたという結果報告もあります。
歯周病の原因菌が脳の炎症を引き起こしているとみられ、直接の原因ではないにせよ、アルツハイマー病の発症に何らかの影響を与えているのは間違いないと考えられています。
歯周病と認知症リスクの関係
口腔ケアで認知症を予防しよう
口腔ケアがもたらす効果のひとつとして、近年注目されているのが認知症予防です。
2011年に神奈川歯科大学が発表した研究報告によると、歯がなく入れ歯も使っていない人は歯が20本以上ある人に比べて、認知症を発症するリスクが1.9倍も高くなっているのだそう。
以下の表からもわかる通り、「なんでも噛める」高齢者と「あまり噛めない」高齢者を比べると、認知症の発症リスクには約1.5倍の違いがあることが明らかになっています。
また、2008年には自然科学研究機構の研究者らが「噛む」という行為が脳を活性化すると報告しています。
咀嚼(そしゃく)には、あごを開けたり閉じたりする行為が脳に酸素と栄養を送ることからも、脳の認知機能の低下を予防する効果がある と言われています。
ほかにも、記憶を司る「海馬」という組織の神経細胞が増加するとも言われています。
こうした研究からもわかる通り、健康な歯を維持していくことが、認知症の予防に有効になります。
介護予防の観点からも口腔ケアが重要
口内の細菌は誤嚥性肺炎以外にも、感染性心内膜炎や虚血性心疾患などと関連性があるとされており、そうした全身疾患を防ぐためにも口腔ケアを行うことはとても重要。
また、表情が豊かになることで精神的な健康を保つという点においても、口腔ケアは大きな効果が期待できます。
こういった口腔ケアの重要性から、2006年4月、「介護予防」の重視を目的に介護保険制度改正が行われたときに、「口腔機能の向上」が重視されました。
口腔機能の向上は、「要介護状態になることを防ぐこと」「介護を必要とする高齢者の状態をそれ以上悪化させないこと」を目指すうえで重要と判断され、介護予防サービスのひとつとして位置づけられました。
老人ホームの口腔ケア
ここまで、自宅で口腔ケアを行ううえでの手順・留意点などについて説明してきました。
しかし実際にやるとなると、時間が取れなかったり、ケアそのものが難しいと感じる方も多くいらっしゃると思います。
口腔ケアを含め、在宅介護に課題を感じている場合は、施設介護を検討することがおすすめです。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、要介護度が高い方でも、定額で介護サービスを利用できます。
口腔ケアや歯磨きも介護サービスのなかに含まれています。
医療ケアが必要な場合は、個別に医療行為も受けられます。
服薬管理や胃ろう、痰の吸引、褥瘡のケアなど、病気を抱えている方でも安心できる施設です。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは入居者の介護度に合わせて、必要なサービスを選択できます。
利用したサービスのみ介護費用が発生するため、自分のニーズに応じて従量課金のしくみです。
自立や介護度の比較的低い人が多く入居していて、施設が主催するイベントやレクリエーションが充実しています。
入居者同士のコミュニケーションが盛んに行われていることも、住宅型の大きな特色です。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探すサービス付き高齢者向け住宅
「サ高住」と呼ばれているシニア向けの賃貸物件です。
一人暮らしに不安のある、自立〜要介護度の低い方を対象にしています。
外出や外泊など自由度が高く、自宅で暮らしていたような生活が送れます。
必要な介護サービスがあれば、利用者ごとに外部の介護事業者と契約して利用する点が特徴です。
施設側は食事や生活相談サービスを提供しています。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探すグループホーム
認知症の方で、施設の所在地に住民票のある高齢者を対象とした介護施設です。
入居者全員が認知症なので、ほかの介護施設に比べて気兼ねなく生活が送れます。
グループホームは少人数のユニット単位で生活していることがポイントです。
日常の家事や買いものを入居者同士で分担しながら、生活リハビリを通して認知症の進行緩和を目指します。
常時、認知症ケアのスキルを持った専門スタッフのサポートが受けられるので安心です。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探すプロによる口腔ケア
プロフェッショナルケアの必要性
口腔内のケアは、歯磨きやうがいなどによるセルフケアも大事ですが、かかりつけの歯科医院で定期的にプロフェッショナルケアを受けることが重要です。
プロフェッショナルケアでは、セルフケアでは清掃できない部位を専門的な技術でケアしてもらえるほか、口腔ケアを行うにあたってのアドバイスなども受けられます。
どんなケアを受けられる?
プロフェッショナルケアの内容は多岐に渡ります。
まずは、むし歯や歯周病の状況を検査し、状況に応じた口腔内清掃およびアドバイスを受けられることが挙げられます。
また、口腔内機能の維持や回復を目的とする口腔ケアや日ごろの清掃ではきれいにできない部位のケア、さらには入れ歯の洗浄なども丁寧に行ってくれます。
在宅でも、介護保険適用でプロフェッショナルケアを受けることができるので、プロによる口腔ケアを受けたい場合は担当のケアマネージャーに相談しましょう。
在宅での口腔ケアは、毎月4回まで介護保険適用で利用できます。
寝たきりの方への口腔ケア
在宅介護をしている中で、もし要介護者の口内に少しでも問題を感じたら、すみやかに訪問歯科を利用しましょう。
通院や予約の手間を省くことができ、しかも通院時とほぼ同様の検査やケアを受けることができます。
特に介護度が高い寝たきりの高齢者などの場合、歯科まで通院することが難しくなるので、訪問歯科を利用してプロフェッショナルケアを受けることが大切です。
訪問歯科を依頼したいときは、まずは担当のケアマネージャーや地域の介護事情に詳しい人の助言を受けながら、訪問に対応している歯科を探し、選ぶ必要があります。
1回あたりの治療時間は30分ほどで、むし歯や歯周病の治療をはじめ、口腔ケアや口腔リハビリなども行ってくれます。
日本の歯科受診率は低い
日本歯科医師会が2016年に行った調査によれば、日本人の「1年以内に1度以上の歯科検診を受けた人の割合」は、49.0%です。
スウェーデンが80%以上、アメリカが70%以上あることを考えると、かなり低い割合だと言えます。
歯科定期健診の受診率が高い国では、高齢になっても17~25本ほど歯が残っている人が多いです。
一方、日本においては、80歳時点での平均残存歯数は、12.2本(厚生労働省による平成23年度の調査)のみとなっています。
他の人はこちらも質問
口腔ケアはなぜ大切?
口腔ケアは口の中を清潔にすることはもちろんですが、生活の質(QOL)を高める役割もあります。
食べる、話す、呼吸、表情を作るといった口の機能を保つために、口腔ケアでマッサージやリハビリを行い、嚥下機能の維持を目指しています。
口腔ケアをしないとどうなるか?
口腔ケアを怠った場合、歯周病や口の中に残った細菌が気道に入り、肺まで到達する誤嚥性肺炎、糖尿病、むし歯など、さまざまなトラブルを引き起こします。
また歯周病によってアルツハイマー型認知症の発症リスクを高める可能性があります。
口腔ケアは一日何回?
口腔ケアは最低でも1日2回行うようにします。理想は毎食後ですが、難しい場合は起床後と就寝前に口腔ケアをします。
口腔ケアと吸引はどちらが先?
口腔ケア・吸引は高齢者の状態に応じて、必要な方を先に行います。口腔内の汚れや痰があれば吸引を先にしたり、口腔ケアをして唾液を吸引したりします。