最期まで自分らしく生きるためのターミナルケア
本人にとっても家族にとっても納得のいく選択を
年齢を重ねるにつれ、いかに生きるかということと同じくらい、いかに最期のときを迎えるかということを考える人も多いもの。
皆さんはどのように人生を終えたいと思っていますか?
日本人の死因別死亡者数の内訳を見てみると、悪性新生物、つまりはがんで亡くなる方がとても多くなっています。
病に冒され天寿を全うするのであれば、「最期のときくらい苦しまずに命を終えたい」という思いを持つのは当然のこと。
しかしながら、家族にとしては「諦めずに少しでも生きてほしい」という思いを持つ場合が多く、ターミナルケアをどうしていくかということに関しては、本人と家族の間でも意見の食い違いがあるところかもしれません。
だからこそ、ターミナルケア・緩和ケアについては、本人の意向と家族の意見とを早いうちからすり合わせ、遺される人にとっても旅立つ人にとっても、悔いのない幸せな最期の瞬間を迎えるための準備をしたいものです。
ターミナルケアのポイント
緩和ケアの概念の一部分がターミナルケア
緩和ケアとターミナルケアが同じものだと思っていたり、まったく違うものだと思っていたり、人によって、この二つの捉え方がバラバラですが、実はターミナルケア、つまり終末期医療・看護は、緩和ケアの大切な一部分となっています。
緩和ケアが、生命を脅かすような病気の治療と同時進行形で進むのに対し、ターミナルケアは、死までの時間がはっきりした段階で、死が訪れるときまでの日々を医師や看護師、家族がケアを行い、本人が少しでも穏やかに過ごすことができるよう、促していくものです。
病院はもちろんですが、介護施設でもこのターミナルケアに注力している施設が増えています。
住み慣れた場所で家族や施設のスタッフ、友人たちに見守られて、最後の貴重な時間を安心して過ごすことができるので、ターミナルケアを希望される方が介護施設を選ぶ際は、最期のときまで面倒をみてくれるのかどうかも大きな選択のポイントとなってきます。
介護施設でも増えてきているターミナルケア・看取り
介護施設の中には、入居者が施設での「看取り」を望んだ場合、入居者の意思を尊重して介護施設で「看取る・看取られる」ケースも増えてきています。
自宅で最期のときを迎える在宅ターミナルケアと同様、介護だけでなく看護・医療ケアを医師や看護師としっかりと連携して取り組む介護施設を、永く住まえる家として選びたいと思ったとき、実際に介護施設ではどのようなケアをしてくれるのでしょうか?
一般的に看取り、つまりターミナルケアを実施している介護施設は協力医療機関と24時間の連絡体制を確保し、夜間もスタッフが常駐している場合が多く、いざ症状が急変しても医師・看護師の指導のもと対応ができるようになっています。
看取り介護を行う際には、家族とも24時間連絡が取れる体制にしておくことはもちろんのこと、本人・家族と施設側がターミナルケアの方針を話し合ったうえで看取り介護の計画を作成し、それに基づき毎日の健康管理や介護ケアを行っていきます。
介護施設で看取り介護を行うには、日頃からの家族と施設側との間における信頼関係が大切になってきます。
家族も最期のときを迎えるにあたって本当の思いを介護施設職員と共有し、最期の迎え方のイメージをしっかりと共有できるようになっていれば安心です。
施設選びの際には、看取りケアをどのように行っているのか、直接担当者に聞き、「看取りの場」として信頼できる関係づくりができるのかをしっかりと判断していくようにしましょう。
ターミナルケアの内容
「ターミナル」とは日本語で「終末期」という意味で、ターミナルケアとは人生を終える時期の生活の質を高めるケアのことを言います。いわば治療が目的ではなく「残された余生を充実させる」という考え方で、1960年代ごろから欧米に広まっていき、日本にも1980年代ころから徐々に注目を集めるようになりました。
ただ、ターミナルケアは「延命するのか、それとも残された時間を充実させるのか」というデリケートな決断を扱う分野でもあります。
ターミナルケアとは具体的にどのようなものなのか、行う上で何がポイントになるのか、以下で詳しくみていきましょう。
身体的ケア
病気の種類を問わず、終末期を迎えると痛みが強くなることが多く、このために患者が夜眠れなくなる、あるいは体が動かせなくなるということも少なくありません。
痛みが続くことで、精神面に悪影響を与えることもあります。こうした痛みを緩和するための投薬を行い、終末期を穏やかに生活できるようにするのが、「身体的ケア」における目的のひとつです。
また、痛みを取るだけでなく、「食事ができなくなった」というときの対応も身体的ケアに含まれます。
栄養補給のために経管栄養や点滴を行うことが一般的に行われることですが、こうした延命措置を実施するのかどうか、あるいは実施するならばどのような手段で行うのか、といったことは、本人あるいは家族の意思を確認した上で実施しなければなりません。
さらに、排泄や入浴の介助をしっかり行い、日常生活上で身体上のストレスを感じさせないようにすることも大切です。自宅で介護をしているなら、介護保険サービスの訪問介護を利用するなど、プロの助けを受けながら介護を続けると良いでしょう。
精神的ケア
終末期の患者さんは、死に対する恐怖や不安、そして自分が亡くなった後の家族に対する心配などにより、精神面のバランスを崩しやすいもの。そのため、そのような心に誠意をもって寄り添って、安心して最期のときを迎えられるようにサポートするケアが必要です。
まずは、ベッド周りに普段と同じような環境を作っていき、心を落ち着かせられるようにしましょう。本人が好きな音楽をかけたり、昔から大事にしてきた物や思い出の写真などを身近に置き満足感の高い空間にしたりすることも大事です。
また、死を前にして心残りが大きくならないように、家族や友人と一緒に過ごす時間を十分に作ることも大切です。
その際、死の問題を避けるのではなく、「死を前にして、恐怖や不安をすべて取り除くことは難しい」ということを理解した上で、家族や友人は本人の心に寄り添う必要があるでしょう。
「1人で死に向かう」というような孤独感や寂しさを払拭することが、家族や友人が果たすべき役割だと言えます。
社会的ケア
ターミナルケアを行う上で、問題となりやすいのが費用の問題です。ターミナルケアを受けることで大きな経済的負担が発生してしまい、そのことが患者の精神的な重荷となることも少なくないのです。
特に、家庭で家計を担っていた人は、「家族に負担をかけている」との思いにかられやすくなります。家族がしっかりとコミュニケーションを取りながら、本人の精神的な苦痛を緩和することが大事です。
もし実際に医療費を軽減したいときは、病院のソーシャルワーカーに相談することで、解決の道を探ることができます。
また、終末期になると、社会的な立場や役割に対する喪失感から、「自分などいてもいなくても同じだ」といったマイナス思考に陥る人も多いです。そのような状態にならないように、家族が話し相手となって本人の心情に寄り添うことが大事です。
看取りを希望する場合の手続き
もし事前に看取りの準備をせずに自宅で亡くなったら、不審死や変死として警察で扱われる事案となってしまい、本人が望んでいた最期のときを迎えられない、ということが起こってきます。
こうした事態を避けるためには、病院以外で看取りを受けるときに必要な手続きを、前もってしっかりと行っておく必要があります。
実際の在宅での看取りの手続きや流れとしては、以下のようになります。
- 自宅の半径16キロメートル以内に「看取り」に対応できる医師を見つける
- 家族をはじめ医師やケアマネージャー、そして訪問看護師や訪問介護士などを含む「チーム」を結成し、医療行為や延命治療に対する「同意書」を作る
- 医師から「終末期宣言」が出され、在宅で亡くなるまでの経過観察が開始される
緩和ケアのポイント
緩和ケアとはどんなケア?
緩和ケアとは、WHO(世界保健機構)の定義では「生命を脅かす疾患による問題に直面している人とご家族」に対して行われるものとされています。
また、「痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を迅速に発見し、適切なアセスメントと治療や処置を行い、苦しみを予防し、緩和することで、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)を改善するアプローチ」とも定義づけられており、人が自分らしく最期のときまでを過ごすことができるようサポートすることが緩和ケアの大きな役割となっているのです。
緩和ケアを、生命を脅かす疾患において治療不可能となった段階でスタートするものだと勘違いされている方が多いようですが、緩和ケアとは、生命を脅かすような病気の治療をはじめると同時に、一緒に進めていくケアであることも忘れてはいけません。
どこで最期のときを迎えるかということと同じくらい、いかに最期のときを迎えるかという緩和ケア・ターミナルケアは、身体的な苦しみを軽減するケアだけでなく、患者本人や見送る家族の心のケアもトータル的に考えなければいけない、非常に難しく、そして意義のあるケアなのです。
施設別のメリット・デメリット
1.在宅ケア
- メリット
- 自宅で最期の時を迎えることができること、そして家族にずっとそばにいてもらえること、が挙げられるでしょう。
- 本人が安心して生活できるのはもちろん、家族としても病院に繰り返し行く必要がなく、自宅で常時様子を見続けることができます。
- デメリット
- 24時間体制のケアを行うので家族の介護負担が大きくなること、医師の往診が増えた際は経済的な負担が大きくなること、などです。
- また、「容体がいつ急に変わるかわからない」という不安の中で生活を続ける必要もあります。メリットとデメリットを踏まえた上で、本人と家族が納得できるケアの方法を考えていきましょう。
2.病院や介護施設のケア
- メリット
- 容体が急変したときでも、医療関係者や介護職員が常駐しているので即応してもらえること、家族の介護負担が少なくて済むこと、などが挙げられます。
- 在宅ケアでは24時間体制で家族が介護をしなければなりませんが、病院や介護施設ならばそのような負担は受けません。
- デメリット
- 家族が常時本人のそばにいてあげられないというデメリットが、やはり大きいです。容体急変時や臨終が近いときは別ですが、自宅でのケアのように常に付き添うことができないので、本人や家族の不安が強まる恐れがあります。
- また、治療の内容次第では、経済的な負担が大きくなることも少なくありません。