介護保険施設と民間の老人ホームがバランス良く配置されているのが特徴
福井県内での老人ホームは、県庁所在地である福井市に集中しています。
次いで越前市や坂井市に多くなっていますが、福井市以外の地方部ではかなり数が少なくなっているため、そうした地域では入居待ちの高齢者が多数いるというのが現状です。
福井市内では、特別養護老人ホームと介護老人保健施設、介護療養型医療施設がバランス良く設置されています。
費用面では、入居一時金が100万円を超える老人ホームは少なく、月額利用料も数万~15万円前後とリーズナブルです。
これは、栄華盛衰を繰り返した京都の隣にあって、衰えた時のことをしっかりと考えるという安定志向の県民性に由来しているのかもしれません。
また、2005年の調べでは共働き率が第1位、県民貯蓄高も毎年のように全国トップクラスにランクされるなど、経済状況は豊か。
そのため、費用面を考慮することなく、多くの選択肢の中から老人ホームを選ぶ高齢者が多いようです。
福井県は、県内全域が豪雪地帯のため、冬場の冷え込みは厳しいものがあります。
昨今は暖冬の影響もあり、雪ではなく雨になることが多く、「弁当忘れても傘忘れるな」という格言もあるほどです。
決して過ごしやすい県とはいえませんが、それを補って余りあるほど自然の魅力に満ちています。
三方を立山連峰や飛騨山脈などの険しい山に囲まれているため、その麓に広がる平野は実りが豊か。
また北は日本海に面しているため、きれいな水によってさまざまな動植物が見られます。
四季の移り変わりを肌に感じることができ、高齢者にとっては“生きている”という実感が得やすいはず。
余生をのんびりと過ごすには最適の自然環境が整っていると言えるでしょう。
福井県の高齢化は全国的にみても早い
福井県の総人口は減少傾向にあります。
1970年頃から増加の一途を辿っていた福井県の総人口は、2000年に記録した約82万9,000人という数値をピークに減少傾向に転じ、2010年には約80万6,000人、2015年には約78万7,000人、2023年には約74万4,000人にまで減っています。
総人口の減少傾向は今後も続く見通しです。
総人口が減少傾向にある一方で、65歳以上の高齢者人口は一貫して増加傾向にあります。
1995年には14歳以下の年少人口よりも高齢者人口の数が多くなり、2010年には約20万3000人にまで達し、以降、2015年に22万7,000人となり、2025年には24万人を超える見通し。
今後も高齢者人口の増加傾向は続くと予測されていますが、15~64歳の生産年齢人口と14歳以下の年少人口は減少傾向にあり、急速な高齢化への懸念が示されています。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
福井県の高齢化率は2000年時点で約20.5%、2010年には約25.2%、2015年に約28.6%、2020年に約30.6%、2023年に約31.5%と大幅な伸びを見せています。
さらに、高齢化率の増加は今後も急速に進行し、2025年には約32.2%にまで達し、福井県に住む約3人に1人が65歳以上の高齢者となる超高齢社会がやってきます。
2040年には総人口が約63万3,000人にまで落ち込み、高齢者の数は約23万8,000人、高齢化率は約37.5%と驚くべき数値を記録すると予測されています。
日本全国で進行している高齢化ですが、福井県ではとりわけその速度が速く、高齢者向けの介護施設の整備などが急がれます。
2025年には5万人を超える推計の要介護認定者数
福井県の要支援・要介護認定者は高齢者の増加とともに増え続けています。
2010年時点の要支援・要介護認定者は3万3,714人でしたが、2015年には4万902人、2020年に4万1,553人、2024年に4万2,078人と推移。
要支援・要介護度別に見ていくと、2024年時点で最も多いのが要介護1 認定者で8,294人、次に要介護2認定者7,597人、要介護3認定者6,359人と続きます。
最も少ないのが要支援5認定者で3,866人です。
介護サービスの利用者を種別ごとに見ていくと、最も多いのが訪問介護や介護予防訪問介護などの居宅サービスです。
2024年の居宅サービス利用者は約2万5,284人。施設サービスが7,579人、地域密着型サービスで6,480人です。
「農作業を通した介護予防」は福井県ならでは
福井県ではこれまで介護における対処を中心としたサービスの提供を行政主導で行ってきました。
しかし、今後高齢者および要支援・要介護認定者が急速に増加するとの予測から対処中心のサービスだけでなく、地域住民や企業の協力を得ながら介護予防の取り組みを重点的に進めていくことを決めました。
介護予防においてまず重要になってくるのは高齢者の健康状態をいち早く把握することです。
地域の医療機関や民生委員等からの情報提供や健康状態のチェックリストの配布など、常に高齢者の状態を把握することで地域住民のニーズに合わせた介護予防対策を打ち出します。
また、福井県では農業が盛んな地域性を活かし、地域農業支援員のサポートのもと、農作業を通した介護予防も取り入れています。
通所介護サービス事業所などで畑作りや家庭菜園といった場を用意し、要介護状態になる恐れのある高齢者の重度化を予防するために農作業への取り組みを進めています。
その他、地域住民が集まるサロンのような場でも農作業を取り入れてもらい、身体を動かすとともに農作物を使った食事会などのイベント、子どもたちとの交流の場を作ることで、生きがいづくりにも活かしています。
地域で行われている介護予防事業としては南越前町で行われている「はつらつチャレンジ教室」があります。
はつらつチャレンジ教室では65歳以上の高齢者を対象に専門スタッフが運動機能向上・栄養改善などの介護予防プログラムを提供し、生き生きとした生活をサポートしています。
「人々の自主性・主体性」を重視した福井県の地域包括ケアシステム
2025年には団塊の世代が75歳以上になり、介護を必要とする可能性が高い年代に突入します。
福井県ではそうした情勢を受けて、介護を必要とする高齢者や障がい者、子どもたちが住み慣れた地域で快適に暮らせる環境を作るため、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的・複合的に提供する地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
さらに、福井県では大都市部と町村部の高齢化状況の差に着目しています。
大都市部では総人口の伸びは横ばいで75歳以上の後期高齢者人口が急増、町村部では75歳以上の後期高齢者の人口増は穏やかですが総人口が減少しており、同一のシステムで対応していくには限界があります。
そこで福井県は地域の特性を鑑みて、人々の自主性・主体性を軸に地域包括ケアシステムの構築を進めています。
地域包括ケアシステムは「介護」「医療」「予防」「住まい」「生活支援・福祉サービス」という5つの構成要素と「自助」「互助」「共助」「公助」という助け合いのシステムを大切にしています。
住まいと生活支援・福祉サービスは地域包括ケアシステムにおける基礎部分で、それらを土台に介護や医療、予防などの専門的なサービスを活かします。
また地域のボランティアなどの互助、住民組織への公的支援を含めた公助、社会保険制度などの共助、自立を意識した自助というさまざまな形でのサポートにより地域包括ケアシステムは成り立っています。
今後の施策としては高齢者への支援と社会基盤の整備を促すための地域ケア会議の充実、コーディネーターの配置による生活支援の推進が予定されており、さまざまな視点から人々が住みやすい地域を作るための努力がなされています。
福井県福祉サービス運営適正化委員会とは?
福井県では福祉サービスについての苦情や相談を受け付ける窓口として福井県運営適正化委員会を設置しています。
苦情・相談内容は「福祉施設での事故」「提供される食事の品質」「ヘルパーの対応不足」「職員の対応の偏り」など多岐に渡り、些細な悩みから重大な問題まで幅広く対応します。
福井県運営適正化委員会は法律・医療・社会福祉などさまざまな分野に精通した専門家で構成されており、苦情・相談に対しての助言や詳しい調査、斡旋を行います。
また、虐待や法令違反などの明らかな不当行為が確認された場合は福井県知事に対し緊急通知を行います。
介護保険サービスに関する苦情は運営適正化委員会だけでなく、市町村の介護保険担当窓口や福井県国民健康保険団体連合会などでも受け付けています。
苦情の申し出が可能なのはサービス利用者本人やその家族、代理人。
また、民生委員など対象となる福祉サービスの内容と利用者本人の状況を詳しく知っている方になります。
対象となるのは高齢者や障がい者、子どもたちを対象とした在宅・施設サービス全般ですが、対象から外れたサービスに関する苦情についても、関係機関との連携を図り解決に向けたサポートを行います。
基本的には名前を明らかにしてもらうことになりますが、匿名での苦情も受け付けているため、気軽に利用することができます。
もちろん、匿名であるかどうかに関わらず、苦情・相談内容については秘密厳守で対応し、決して外に漏らすことはありません。