接し方のポイント
認知症の方と接する場合、どのようにコミュニケーションを取れば良いのか、どう接すれば良いのかと思い悩み、不安を感じてしまうことが多いのではないでしょうか。
しかし、不安を抱えているのは認知症の方も同じです。
認知症の方は、自宅にいるにもかかわらず、自分の部屋やお手洗い、玄関の場所などがわからず、知らない人が身近にいると感じています。
もし自分が同じ状況に置かれているとすれば、その不安も理解できますよね。
認知症の方と接するときの原則は、本人が感じている不安を受け止めることです。
ほかにも、認知症介護のポイントはたくさんあるので、大きく4つのポイントにまとめました。ぜひ参考にしてください。
否定したり叱ったりしない
認知症が進むと、それまでできていた日常動作ができなくなったり、記憶力が低下して、ついさっきのことも忘れてしまったりすることがあります。
しかし、認知症の症状が進行しても、本人の羞恥心やプライドが損なわれるわけではありません。
その度に指摘するようなことは、本人を傷つけたり、混乱を招いたりすることがあるので、行動や発言に対して、いちいち否定しない、叱らないことが大切です。
認知症の方の主張がたとえ事実と違ったとしても、本人はそれを事実だと感じています。
認知症の方が思い描いているイメージをただ否定することは、お互いの信頼関係を崩すことにつながります。
認知症の人の言動に対して真面目に返しても、信頼関係が崩れるだけです。
本人がプライドや尊厳を守る接し方を何より心がけましょう。
褒める、感謝する、相槌を打つ
たとえ認知機能の低下が進んでも、「嫌だ」「嬉しい」という感情が消えることはありません。
認知症の方と会話するときは、褒める、感謝する、相槌を打つの3つを心がけましょう。
話を聞いてもらった、認めてもらったと感じることで、認知症の方の「快」の感情が蓄積されていきます。
放置するなど、ストレスを与えるのは厳禁
ストレスを与えられたり、放置されたりすることも、認知症の方にとっては好ましいことではありません。
不満が表面化してしまい、大きな声を出す、暴力的になるケースがあるからです。
さらに、無視する、放置するといった行為は孤独感を煽り、感情を爆発させてしまう引き金となるので注意が必要です。
かけがえのない存在であることを認識してもらう
少しずつできないことやわからないことが増えていき、自分が今までの自分ではなくなっていくように感じてしまう…。認知症の本人がそのような絶望感や恐怖心を抱くことは想像に難くないでしょう。
認知症になっても他人の役に立てる存在であること、家事などの役割を通じて周囲の人たちに貢献していることを感謝と共に伝えましょう。
かけがえのない個人であると感じてもらうことで、不安や絶望の気持ちを軽くすることができます。
話し方の基本
耳元で大きく、ゆっくり話す
歳を重ねれば誰しも、徐々に聴力が衰えていきます。
そのため、それまでのように周囲の声が耳に届かなくなり、話しかけられても気がつかないケースが出てきます。
加齢で声が聞こえていない、理解できていないだけの可能性があるにもかかわらず、認知症が原因で話を理解できなくなってしまったと、家族が誤解してしまうことがあるのです。
認知症の有無を問わず、高齢者に話しかけるときは聞き取りやすいように、本人の耳元で、ゆっくりと落ち着いて、大きな声で話しかけることでコミュニケーションがとりやすくなります。
目線を合わせて、目を見て話す
上から見下ろして話しかけられたら、誰でもいい気分がしませんよね。
お互いに気持ちよく、誤解なくコミュニケーションを図るためには、話す相手と目線の高さを合わせることが重要です。
ベッドで横になっていたり、腰掛けている高齢者と話しかけるときは、なるべく目線を下げて話す姿勢を心がけましょう。
立ったままで話すと、威圧感を与えたり、馬鹿にされているような気分にさせてしまいかねません。
可能な限り日常の障害を取り除く
認知症が進むにつれ、視覚や聴覚を使って正しく周囲の状況を認識する能力が低下していきます。
注意力や集中力も低下していきます。
イメージがつきにくいかもしれませんが、目に見える一つひとつのものの輪郭がぼやけたような世界で、すべてをあいまいにしか捉えられなくなるのです。
残念ながら、現代の医療では、認知症になった人の認知機能を改善させたり、そもそも認知症になることを防ぐことはできないとされています。
その全体に立って、日常生活で介護者ができることとして以下が挙げられます。
- 理解しやすい言葉を使って話す
- カレンダーを目立つところに貼る
- ご飯を食べた後は、わざと食器を下げずにおく
- 家具の配置や部屋のレイアウトを変えない
工夫をすることで、たとえ忘れてしまっても日常生活が困らないような工夫をしてあげると、お互いに安心して過ごすことができるでしょう。
家族が特に気をつけるべきポイントと心理ステップ
家族が認知症を受け入れるまでは、4段階の心理ステップを踏んでいくといわれています(川崎幸クリニック院長 杉山孝博医師が考案)。
戸惑い・否定
認知症になると、簡単な日常動作ができなくなったり、日付や家族の名前、ついさっき食事したことなどまで忘れるようになってしまいます。
家族は、「この間まで元気だったのに」と、その変化にショックを受け、戸惑いを覚えます。
「もしかして父(母)は認知症になってしまったのかも」と思いつつも、認めたくないばかりに「そんなはずはない」「一時的な不調だ」「ほかの病気の影響だろう」と、認知症の症状が現れていることを否定します。
次第に、周囲も否定できないほど認知症の症状が進んでくると、次の段階「混乱・怒り・拒絶」に移行します
混乱・怒り・拒絶
次々と現れる新たな認知症の症状に、家族は「混乱」します。
人が変わってしまったかのような父や母へどう対応したら良いのか、わからなくなるのです。
認知症になってしまった家族と、これまでと同じように接しても、関係が悪化し、症状も進むばかり。うまくいかないもやもや、そして認知症の本人に対する思いが「怒り」へと変わっていきます。
さらに、日々の介護によって精神・肉体ともに摩耗してしまうと絶望が訪れ、自身を否定し、親しい関係性の人たちをも「拒絶」するようになってしまいます。
しかし、拒絶をしようにも主介護者を変更することはなかなか難しく、仮に施設にすぐ入所できない場合は在宅での介護はしばらく続きます。
いわゆる「あきらめ」の境地に達するのがこの時期の特徴です。
あきらめ・割り切り
月日が流れ、認知症に関する情報に触れるようになることで、認知症やその介護は決して我が家にだけ特別に降りかかった不幸ではないと、割り切って日々の介護に臨めるようになります。
いくら怒りや拒絶で抵抗しても、認知症の症状を治したり、現状を打破することはできないと納得でき、良い意味であきらめがつくのです。
認知症介護をする自分を肯定できるようになることで、自分なりの認知症との付き合い方が身についてきます。
そして、この先、認知症の家族とどのような人生を歩むことができるのかと、前向きに将来を考えられるようになっていくのです
受容
認知症である本人や、その介護をする自分自身、さらに認知症という疾病自体に対しても価値を認め、受容できるときが来れば、穏やかな心で介護ができるようになります。
認知症になったからこそあるがままの姿を本人が見せてくれたこと、本人の人生に寄り添い伴走してきた時間、いつか自分も認知症になるかもしれないと、その姿を自分の将来に重ね合わせ、そのすべてを受容すると、やがて未来に目を向けられるようになります。
認知症への理解が深まることで、もうちょっと介護を頑張ってもいいかな、と思えるような認知症の人との関係性に進んでいくのがこのステップの特徴です。
家族が持つべき心構え
焦らない
認知症になると、脳の情報処理速度が徐々に低下します。
認知症の本人にとっては、物事を整理、理解して対処できなくなるため、周囲のペースに合わせて生活をすることが難しくなります。
落ち着いてもらうためには、本人のペースに合わせることが何よりも大切です。
介護者が焦らずに「ゆったり、ゆっくり」話し、動くことで、本人が穏やかさを取り戻すことも少なくありません。
認知症の世界を理解しようとする姿勢を持ち、原因を考える
認知症になると、現実にはありえないことを考えたり、周囲が驚くような行動に出ることもあります。
思いがけない言動であっても、その人の世界を壊してしまうような対応は、お互いにとって不幸な結果しか生み出しません。
認知症の人に対しては、理屈よりも感情や共感によるコミュニケーションをとることが大切なのです。
言動の裏に隠れている、本人の喜怒哀楽の感情にまずは共感しましょう。
その姿勢が本人にも伝わり、安心感を生み出します。
あなたならどうする?症状別対応方法
認知症の方に見られることが多い症状と対処法をまとめました。
一人ひとりの価値観や背景は異なりますし、本人やご家族が抱く感情もそれぞれです。
以下の例が唯一の解決策ではありませんが、ご家族が知っておいて損をしないと思われる代表的な症状と対処法として参考にしてください。
もの盗られ妄想の具体例「財布を盗られた」
大切なものをしまい込んで、そのまま忘れてしまうことは誰にでも起こりえることです。
しかし、認知症の場合、必要なものが見つからないと「誰かが盗んだ」と疑ってしまうことがあります。
こういう場合は、「誰も盗ってないよ」と説明しても疑念が増すだけなので、本人の怒りや不安な気持ちを共有し、一緒に探しましょう。
注意すべきは、家族が見つけて手渡しても、盗みの疑念が晴れるとは限らないということ。
本人の手で発見できるように、うまく誘導しながら探すのがポイントです。
見つかったことを一緒に喜ぶことで、家族は敵ではなく味方だと安心してもらうことができます。
人物誤認の具体例「あなたは誰?」
「どちらさまですか」と身内に言われることは、認知症だとわかっていてもつらいことです。
しかし、記憶がなくなってしまうので嘆いても仕方がありません。
例えば、本人の両親やかつての恩師、幼馴染と間違われたときは、その人物になりきって返答すると、安心してくれる可能性があります。
しかし、見ず知らずの他人や因縁の相手などと誤認されてしまうと、大騒ぎになることも考えられます。
そのようなときは刺激をせずに目の前から去り、落ち着くのを待ってみるのも手です。
徘徊の具体例「帰り道がわからない」
認知症の高齢者は「旅行に行ってくる」「(自宅にいるのに)家に帰る」と、一人でふらっと外に出ていってしまうことがあります。
そんなときは、できれば一緒に出かけて、気が収まったら自宅に戻るというのが理想ですが、常に時間的な猶予が確保できるわけではありません。
認知症徘徊感知機器やGPS、連絡先を書いた紙をお守りに入れて身に着けてもらうなど、もし一人で家を出ても周囲の人が見つけて対処してくれる方法を考えましょう。
もし一人歩きをしていたら連絡してくれるように近所の人にお願いするなど、緊急時に対応してくれるネットワークを日頃から築き上げることが重要です。
見当識障害の具体例「今日は何月何日で何曜日?」
認知症の人は、日付や曜日を何度も繰り返して周囲に確認することがあります。
これは、単に日付を知りたい場合もありますが、時間や場所を自分がちゃんと認識できているか、忘れていないかという不安を打ち消すことも目的だと言われています。
そんなときに「何回も同じことを聞かないで」「いい加減にして」などと冷たく返答するのはNGです。
見やすい場所に日付表示がついた時計をかけておいて、一緒に見ながら「今日は○月×日、△曜日だね」と本人に納得してもらい、不安を和らげることもできます。
物忘れの具体例「(食事をしたのに)ご飯まだ?」
認知症の人が、ついさっきご飯を食べたことをすっかり忘れて、食事を催促することは珍しくありません。
そのようなときに、「さっき食べましたよ」と事実を伝えても、すんなりとは納得できないでしょう。
こういう場合は、忘れることを逆手にとるのも一つの方法です。
本人の思いに合わせて、「食べてないのね。今用意してくるね」と台所に立ち、少し時間を開けることで、今度は食事をほしがっていたことを忘れてもらうのです。
また、お腹にたまらないちょっとしたデザートなどを出すという方法もあるので試してみてください。
問題行動の具体例「失禁や便いじりをしてしまう」
失禁や便いじりは、介護者にとって気が重たくなる症状の代表例です。
認知症であっても、羞恥心やプライドは残っているので、厳しく叱責しても本人が傷つくだけで、失禁や便いじりの行為がなくなるわけではありません。
それよりも、本人の生活リズムに合わせて、定期的にトイレへ誘導するのが効果的です。
失禁や便いじりが起こっても、「濡れたから着替えようか」「きれいな方が気持ちいいね」など、穏やかに対応してあげましょう。
性格変化の具体例「攻撃的になり暴言・暴力を振るう」
とても温厚だった人が、認知症になって気難しく、怒りっぽい性格になったと感じることがあります。
なかなか自分の世界を理解してもらえなくなると、感情を爆発させることで自分の要望や考えを伝えようとしてしまいます。
私たちも普段、何回も同じことを聞かれると「だから!何回も言ってるでしょ!」とヒートアップしてしまうことがありますよね。
怒りの原因を探り、共感してあげたり、その原因を解消してあげることで落ち着きを取り戻してくれる可能性が高くなります。
もし、どうしても手に負えないと感じたら、薬を変更したりすることで収まる場合もあるので、専門医や担当の薬剤師に相談してみましょう。
幻覚の具体例「誰かに狙われている」
人によりますが、幻覚も代表的な症状のひとつ。
幻覚とが、実際には存在しないものが見えたり、感じたりするものです。
すでに亡くなったはずの家族が傍にいるように見えたり、ときには大蛇やおばけなどが部屋にいるなど、現実離れしたことを訴えます。
家族にとっては理解不能な世界でも、本人は実際に恐怖や不安を感じているので決して否定してはいけません。
追い払うふりをしたり、一緒にその場を離れたり、守ってあげようとする仕草をしてあげましょう。
幻覚症状は、服薬中の薬が大きく関わっていることがあるので、繰り返し続く場合は専門医に相談してください。