老人ホーム入居時に住民票を移すかは施設の種類による
民間が運営する有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に入居する場合は、住民票を移していなくても利用することができます。
一方で、グループホームや小規模多機能型居宅介護を利用する場合には住民票変更をしなくてはいけません。
住民票を移す必要があるかどうかは、介護保険での施設の位置づけが「地域密着型サービス」であるかがポイントになります。
グループホームを探す地域密着型サービスの場合
老人ホームのなかには、「地域密着型サービス」として運営している施設があります。
このサービスは介護を必要とする高齢者が、住み慣れた地域で安心して暮らすためのもの。
つまり地域密着型サービスとは、その地域に住む高齢者のためのサービスだということです。
そのため、地域密着型サービスに位置付けられているサービスを利用するためには、その地域に住民票がないと利用できません。
地域密着型サービスの種類
地域密着型サービスは、具体的には以下の9種類が挙げられます。
- 小規模多機能型居宅介護
- 夜間対応型訪問介護
- 認知症対応型通所介護(認知症デイサービス)
- 認知症対応型共同生活介護(高齢者グループホーム)
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護(地域密着型特別養護老人ホーム)
- 地域密着型通所介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 看護小規模多機能型居宅介護(旧複合型サービス)
これらのサービスを利用するためには、その地域に住んでいることが必要です。
地域密着型サービス以外の場合
地域密着型サービス以外の施設に入居する場合、必ず住民票を移さなければいけないわけではありません。
しかし、住所が変われば住民票も施設の所在地がある市区町村へ移すケースが一般的です。
地域密着型サービス以外のサービスを利用しない場合は、住民票を移すことは義務ではありませんが、それに伴うメリットやデメリットもありますので注意しましょう。
希望のエリアから施設を探す住民票を変更するメリット・デメリット
老人ホーム入居にあたって住民票変更が必要ではない場合、何を基準に住民票変更するかどうかを判断したら良いでしょうか。
住民票を移した場合のメリットとデメリットについて解説していきます。
メリット
まずは、住民票を移した場合のメリットについて解説していきます。
介護サービスをフル活用できる
介護保険制度は全国どの地域でも同じようなサービスが受けられる制度です。
そのため要介護認定を受けていること、介護サービスを利用する市区町村のルールで手続きを行うことなどをクリアすると、自治体に関係なく介護サービスが利用できます。
ただし、住民票が居住地にないと受けられない介護関連のサービスもあるので注意が必要です。
例えば、介護保険で自宅のバリアフリー化をする住宅改修や、地域密着型サービスなどが一例です。
住民票によって受けられる介護サービスに変わりがないか、施設入居の前に担当のケアマネージャーに相談しておきましょう。
介護保険料が安くなる場合がある
介護保険料の金額は、それぞれの自治体によって異なるため、住民票を移すと安くなるケースがあります。
65歳以上の介護保険料は、各市町村によって高齢者人口や地域が必要としている介護サービスの利用者数や種類などを考慮して3年ごとに見直しがあります。
そのため、住民票を変更する地域やタイミングなどで、介護保険料が安くなる、または高くなることを覚えておきましょう。
このように、住民票を移すことは、介護費用の面でもメリットにもデメリットにもなり得る問題です。
デメリット
郵便物がすぐに届かなくなる
住民票の変更を行わないと郵便物は一度、転居前の住所に郵便物が届いてから転送されるため、大切な書類がすぐに届かない恐れがあります。
ちなみに、引っ越しの際に郵便局に転居届を提出した場合も、転送期間は届出日から1年間です。
1年を過ぎると差出人に返還されてしまいます。
住んでいた地域のサービスが使えなくなることもある
転居前の住所で利用していたサービスが、転居先の地域で行われていない場合があります。
そのまま継続して同じサービスを利用したくてもサービスが使えず、代わりのサービスに切り替えなければならないため、介護に支障が出る恐れも生まれるでしょう。
新しい居住地でもスムーズに同じサービスが利用できるかどうか、住民票の変更前に確認することが大切です。
希望のエリアから施設を探す住所地特例制度を利用する
介護保険は原則として、被保険者の住民票がある市区町村が保険者になります。被保険者は住民票のある市区町村に対して保険証を支払い、介護保険給付を受けます。
住所地特例制度を利用すると、施設に入居する際に住民票を移しても、移す前の市区町村がそのまま保険者となります。
そのため、転居前の市区町村が転居先の市区町村よりも介護保険料が安い場合、費用を抑えることができます。
住所地特例の対象者
対象となるのは、65歳以上もしくは40歳~64歳の医療保険加入者で、住所地特例が認められている施設に入居した方です。
要介護認定を受けていない自立の場合でも、住所地特例が認められる施設に入居すれば対象になります。
住所地特例制度の対象施設
住所地特例制度により、以下の住所地特例制度の対象施設に入居する場合は、住民票変更をしても介護保険料や給付は変わりません。
- 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
- 介護老人保健施設(老健)
- 介護療養型医療施設(療養病床)
- 介護医療院
- 有料老人ホーム
- 軽費老人ホーム(ケアハウス等)
- サービス付高齢者向け住宅※
- 養護老人ホーム
【一覧表でわかる】老人ホーム8種類の違いと特徴(介護度別・認知症対応)
住所地特例制度の対象であれば、住民票を移す前の自治体が引き続き保険者となります。
例えば、江東区から他の市区町村の住宅地特例対象施設に入居し、住民票を移したケースでは、江東区が保険者となり、介護保険料を納付します。
サ高住・有料老人ホームを探す住所地特例の手続き方法
住所地特例を申請する場合は、住民票の移動日から市区町村ごとに決められている期限内に「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」を役所へ提出する必要があります。
「介護保険住所地特例適用・変更・終了届」は、各自治体のホームページから印刷するか、自治体の介護関係の窓口で入手できます。
住民票を移すときの手続き方法と注意点
住民票を移すときの手続き方法は、まず現在住んでいる役所に「転出届」を提出後、新たに住むことになる自治体に「転入届」を提出します。
そのほかにも、転居先で介護サービスをスムーズに利用するために、受給資格証明書や認定申請書などの書類が必要な場合もあります。
以下で詳しく解説していきます。
要介護認定を受けている場合は「受給資格証明書」を忘れずに
要介護認定を受けている人が住民票を移す場合は、要介護認定を受けていた証明として、転入出時に「受給資格証明書」が必要です。
転入日から14日を過ぎると、新たに介護認定を受ける必要があるので注意しましょう。
受給資格証明書の手続きをすると、転居前の自治体で受けた要介護認定をそのまま新しい自治体でも引き継ぐことができます。
申請に必要なものは、次の3点です。
- 認定申請書(転入者継続)
- 受給資格証明書
- 資格者証
転居前の市町村で交付された受給資格証明書と、転居先で確認・登録を受ける資格者証を添えて、介護保険窓口へ認定申請書を提出します。
もし、転居前の役所で受給資格証明書の交付を受けていなかった、受給資格証明書を紛失した、といった場合は、「受給資格証明書交付申請書」を代わりに提出します。
新しい地域でもスムーズに介護サービスが受けられるように、受給資格証明書を忘れずに交付を受けてから住民票変更の手続きをしてください。
サービスを受けるための住所変更はNGの場合もある
先にお伝えしたように、地域密着型サービスはその地域に住む住民向けのサービスです。
介護を受けることだけを目的として、住所を変更してサービスを受けることは本来の地域密着型サービスの目的にはそぐわないと考えられます。
一部の自治体では、このような住民票移動を防ぐための対策を実施しています。
例えば、千葉県松戸市では地域密着型サービスを受けるために原則3ヵ月以上の居住を条件としています。
住民票の登録地域以外の自治体で介護サービスを受けたい場合は、各自治体の条件にも注意しましょう。
同居老親等の場合は注意する
同居老親とは、納税者である自分や配偶者の父母や祖父母など直系のうち、常に同居をしている人をいいます。
施設に入所する家族が「同居老親」の場合、住民票を移すと税金が高くなってしまう場合があります。
老人ホームなどに入所している場合は、同居と認められないため、住民票をそのままにしていても控除の対象外になります。
節税のため同居老親で税金を申告していた場合は、詳細を税務署や税理士に確認しておきましょう。
希望のエリアから施設を探す
しかし、介護保険で「地域密着型サービス」に位置づけられているグループホームや小規模多機能型居宅介護は、その自治体に住民票がある方しか利用できません。入居を希望する施設がどちらに該当するか確認しましょう。