充実する老人ホームの食事
多くの入居者が1日の暮らしのなかで楽しみにしているのが、食事の時間です。
最近では食事サービスの充実化に力を入れている老人ホームも多く、こだわりが強い方でも楽しめるようバラエティーに富んだメニューが用意されています。
また献立の豊富さだけでなく、咀嚼能力が低下したときや個別の体調に合わせた食事を提供するなど、老人ホームならではの工夫も見られます。
カロリーバランスの取れた食事
多くの施設では栄養士が献立を考え、適切に栄養摂取ができるように考えられています。毎月献立表に栄養表示をしている施設もあるので参考にしてください。
多くの老人ホームでは療養食ではない限り、1日あたり平均で1650kcal摂取するよう調整されています(毎食500kcal、おやつ150kcal)。
また、糖尿病などの疾病を持つ方には、医師が処方した「食事箋(しょくじせん)」に基づいて献立が立てられ、一日の必要カロリー・栄養分が考慮された食事が提供されます。
老人ホームの献立例
具体的に老人ホームではどのような食事が提供されているのかを見ていきましょう。
この項目では通常日の献立をはじめ、お正月やクリスマスといった特別な日にだけ提供されるイベント食を紹介します。
通常日の献立例
まずは通常日の献立例として、2パターン紹介します。
時間 | メニュー1 | メニュー2 | |
---|---|---|---|
朝 | 主食 | ごはん | コッペパン |
主菜 | 焼き魚・野菜炒め | スクランブルエッグ | |
副菜 | 漬物 | - | |
汁物 | 味噌汁 | コンソメスープ | |
おやつ | - | ヨーグルト | |
昼 | 主食 | かやくうどん | ごはん |
主菜 | - | 角煮 | |
副菜 | 和え物 | ナムル | |
汁物 | 味噌汁 | 中華スープ | |
おやつ | ゼリー | フルーツ | |
夜 | 主食 | 炊き込みごはん | 麦ごはん |
主菜 | 煮物 | 鯖の味噌煮 | |
副菜 | 炒め物・漬物 | 和え物・漬物 | |
汁物 | すまし汁 | すまし汁 | |
おやつ | - | - |
施設によって、入居者の方が飽きないように和洋中とバランスよく献立を組ん込んでいる施設もあります。
イベント日の献立例
続いて、季節の行事に関連した「イベント食」の献立例を見ていきましょう。
月 | 献立 |
---|---|
1月 | お正月のおせち料理、七草粥、雑煮 |
2月 | 節分の巻き寿司、バレンタインデーのチョコレート |
3月 | ひな祭りのちらし寿司、ホワイトデーのお菓子 |
4月 | お花見の春野菜弁当 |
5月 | 端午の節句(こどもの日)の柏餅やケーキ |
6月 | 父の日や夏至の和菓子 |
7月 | 七夕そうめん、土用の丑の日のウナギ |
8月 | 夏祭りイベントの食事、お盆の精進料理 |
9月 | お彼岸のおはぎ、敬老の日の秋野菜料理 |
10月 | ハロウィンのかぼちゃ料理、月見のお団子 |
11月 | 紅葉行事の炊き込みご飯 |
12月 | クリスマス会のデザートバイキング、年越しそば |
老人ホームではこうしたイベント食に加えて、お誕生日に特別な食事を提供しています。
さらに、レクリエーションを頻繁に行って、夏祭りや花見会などの食事レクを実施している施設もあります。
その日の気分で選べるセレクト食
施設によっては、その時の気分で食事を選べるケースもあります。
例えば朝はパンとご飯、夜はカレーやパスタを選べるなど、仕組みは施設によってさまざまです。
施設での楽しみ!老人ホームでのおやつ
老人ホームでは、朝昼晩の食事以外にもおやつの時間があります。
「おやつ」には、3食の食事では足りない栄養を補うだけでなく、水分補給という大切な目的があります。
加齢とともに、のどの渇きに気付きにくくなるため、こまめに水分補給をして脱水症状を予防することが大切です。
また、おやつを食べる時間はおしゃべりをしたり、音楽を聴いたり、楽しく過ごせる工夫をしている老人ホームも多くあります。
食事形態についてチェックは必須
老人ホームでは自宅で食べるような普通食に加えて、個別の心身状態に合わせた食事を用意しています。
具体的には以下の3つに分類されています。
- 高齢者食
- 介護食
- 療養食
以下でそれぞれの食事形態を確認していきましょう。
1. 高齢者食
高齢者は加齢によって、噛む力や飲み込む力が弱くなり食事を取りにくくなる傾向にあります。
なかには、味覚が衰えて味を感じにくい場合も。
こうした症状が出ていても、美味しく安全に食事ができるように工夫されているのが「高齢者食」です。
小さく刻んで食べやすくしたり、不足しがちな水分を多めに取ったり、といった配慮がなされています。
また、食欲をかきたてる香りや盛り付けの彩りにもこだわることで低栄養状態を予防します。
2. 介護食
高齢者食よりも、さらに食べやすく調理されたのが「介護食」です。
弱まった機能別に最適な食事を用意されており、介護食には以下のような種類があります。
- ミキサー食
- ミキサーなどにかけて液体状に近い状態
- きざみ食
- 細かく刻んだり、一口大に刻んだ状態
- とろみ食・ゼリー食
- 葛粉や片栗粉でとろみをつけた状態
- ソフト食
- 舌で簡単につぶせるよう柔らかくした状態
- 水分補給食
- 飲み物などをゼリー状にして水分補給しやすくした状態
ただ、すべての老人ホームでこうした介護食を提供しているわけではありません。介護食を必要とする場合は事前に確認しましょう。
介護食に対応している施設を探す3. 療養食
療養食とは「糖尿病食」や「腎臓病食」、「塩分制限食」など患っている病気に合わせたメニューのことです。
病気によってさまざまな療養食があり、老人ホームが対応してくれるかどうかは確認する必要があります。
また療養食には追加料金がかかることもあります。
食事サービスへのよくある苦情
老人ホームでは入居者に美味しく食事ができるよう、さまざまな努力や工夫を行なっています。
しかし、すべての利用者全員の味の好みに合わせるのは極めて難しく、ときには老人ホームの食事がまずいといった苦情も発生します。
高齢者住宅経営者連絡協議会が行なったアンケート「高齢者住宅における食事サービスについて」では、味や献立などの食事内容の不満では、次のような苦情があったと指摘されています。
食事内容に関する苦情
食事内容に関する代表的な苦情としては次の3つがあります。
苦情 | 内容 |
---|---|
見た目・味 |
|
献立 |
|
栄養 |
|
味や献立だけでなく、盛り付けなどの見た目を気にする方も少なくありません。
サービスに関する苦情
サービスに関する苦情の多くは「施設職員の対応」です。
例えば以下のような苦情が挙げられます。
- 食事形態と家族の希望が合わない
- 配膳の順番間違い
- 誰もいないテーブルに下膳されない食器が残っている
- 配膳時にカップの呑み口に手が触れている
- 髪・ビニール等の異物混入
- 食事中の介助が不満
その他にもお茶や水のおかわりを用意しない、配膳の待ち時間が長いなど、職員の気遣いが足りないという声があります。
改善が見られるかも要チェック
こうした苦情に対して施設がどのように受け止め、改善していくかどうかも施設選びの重要なポイントです。
施設によっては実際に寄せられた苦情や要望に対して、どういった対応策を講じたかを公表しているケースもあるので確認してみましょう。
「食」で老人ホームを選ぶポイント
苦情に対する対応や食事内容のほかにも、注意したいポイントとして以下の5つが挙げられます。
- 月間の献立表をチェックする
- 朝食の様子を確認する
- 老人ホームの食事を試食する
- 食器や食事の際の介助は適切か確認する
- どこで食事をつくっているか確認する
月間の献立表をチェックする
見学時に月間の献立表を見て、食事の内容が嗜好に合うかどうか確かめましょう。
同じメニューが頻繁に繰り返されていないか、季節感を感じられる工夫がみられるかも要チェックです。
献立名はわかりやすいか
献立名の書き方も入居者への気配りがわかるポイントです。
献立表を見たときに、カタカナ名の料理が並んでいるだけだと高齢者は理解することが難しいため、どんな料理か記載されている方が好ましいです。
例えば、「ガスパチョ(冷製の野菜スープ)」のように、料理名のあとに食材と調理方法が記載されていれば、入居者の方もどんな料理なのかイメージできます。
朝食の様子を確認する
朝は1日の準備をする時間でもあり、施設内はなにかと慌ただしくなりがちです。
そんな状況下でも、朝食に手を抜くことなくきちんと提供できているかは、その施設の食事に対する気の配り方を読み取ることができます。
老人ホームの食事を試食する
食事の充実度をチェックするためには、入居を希望する老人ホームで実際に食事をしてみることです。
料理の味を見極めながら、入居者からもリアルな情報を聞いてみましょう。どのような食器が使用され、どんな料理が出されているのか。入居者から「またこのおかず?」といった声があれば要注意です。
試食する際は以下の点に注意してチェックしましょう。
- スタッフが適切に配膳を行っているか
- 指先の衰えで箸やスプーンを上手く使えない入居者に対し介助できているか
- 使い易く設計された介護用スプーンなどが揃っているか
おいしさに関しては、食に力を入れている施設と、コスト重視で加工品などを多用している施設で、ばらつきがあるのは事実です。
使っている食材や味付け、季節感のある献立を取り入れているかどうか、さらには使っている食器や食堂の雰囲気なども大きく食事の味わいに影響してきます。
入居先を検討している方はパンフレットの情報だけでなく、実際の食事を食べて判断すると良いでしょう。
食器や食事の際の介助は適切か確認する
入居者の自立を目指している老人ホームでは、食事の際は車椅子から椅子に移乗したり、自分で茶碗などを持てるように介護用の食器を揃えたりしています。
高齢者の方にとって食べることが楽しい時間になるかどうかは、こうした施設職員による食事介助も重要なチェックポイントです。
どこで食事をつくっているか確認する
老人ホームの食事は大きく分けて、外部に委託しているケースと施設内で調理しているケースがあります。
調理を外部に委託しているケース
施設内に大きな厨房がないため、食事を委託する老人ホームは多数あります。
外部に委託することで食事サービスにかかる費用負担を軽減できる一方で、味付けや見た目が劣るケースがあります。
施設内の厨房で調理しているケース
食事に力を入れている施設の多くは、施設内のキッチンで調理しています。
外部でつくる食事には冷凍されたものもあり、解凍時に水分や塩分が流れ出て味が薄くなることがあります。
一方、施設内のキッチンでつくっている場合は少量の塩分でも充分な味付けができ、素材本来の味を楽しめます。
施設内調理の老人ホームを探す老人ホームの種類によって、食事の内容やサービスも異なる
ここまでは老人ホームの食事について解説しましたが、施設の種類によっても献立やサービスは異なります。
以下では、施設の種類ごとに食事の特徴を解説します。
自分で調理したり、食事提供サービスを受けられる「サ高住」
サービス付き高齢者向け住宅は自立した方や要介護認定を受けていない方が入居できる施設です。
居室や共用スペースにはキッチンが設置されており、入居者自身で好きな食べ物を調理することができます。
もちろん、施設が提供する食事に変更することもできます。
そのため、自分で調理を楽しみたい方や必要に応じて食事提供サービスを利用したい方におすすめな施設です。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探す食事関連のイベントも多い「住宅型」
住宅型有料老人ホームでは、個別に食事を提供しています。
そのため、噛む力や飲み込む力、アレルギーの有無など一人ひとりの身体状況や要望に合わせた食事を楽しめます。
また、住宅型は食事関連のイベントを積極的に実施する施設もあります。入居者の家族を招待して賑やかな食事の時間も過ごせます。
高級な施設では一流のシェフによる食事提供があったり、好きな時間に食事をしたりすることも可能です。
なお介護サービスについては必要なサービスを自分で選び、利用できます。
食事を楽しみつつ、日常生活の一部で介助を必要とする方におすすめの施設です。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探す管理栄養士が人員配置に定められている「介護付き」
介護付き有料老人ホームは栄養士や調理員の人員配置が定められているため、カロリーや栄養バランスの整った食事を個々に合わせて提供しています。
さらに、要介護度の重たい方や看取りにも対応しているので、咀嚼や嚥下機能の低下した方に向けた食事形態・食事介助なども充実しています。
また、定額で介護サービスを利用できることから、追加費用の心配もありません。
食事介助を必要とする方や介護度が重たい方におすすめの施設です。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す入居者同士が協力して調理を行う「グループホーム」
グループホームは少人数のユニットで共同生活を過ごしながら、認知症の症状を緩和する施設です。
脳の活性化を促すために、入居者同士で家事の役割分担をして毎日の食事や掃除などを行います。
施設職員のサポートを受けられることから、調理経験がない方も心配ありません。
他の入居者とコミュニケーションをとりながら調理することは、脳に刺激を与え認知機能の衰えを防ぐ効果も期待できます。
グループホームは認知症を理由に施設入居を検討している方におすすめの施設です。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す老人ホームの食事に関するQ&A
食事にかかる費用は?
老人ホームの食費には食材費用だけでなく、調理人の人件費や厨房の管理費などが含まれています。
また、食費の請求方法も複数あるので注意が必要です。毎月定額で請求する施設、1食ごとに記録して食べた分だけ請求する施設があります。
そのため、予算との兼ね合いも考慮して施設を選ぶようにしましょう。
好き嫌いがある場合はどうする?
入居者に食べ物の好き嫌いがあった場合、それを老人ホーム側に伝えると悪い印象を持たれるのではないかと心配されるご家族も多いはず。
老人ホームでは、専門の栄養士や調理師が常駐していることが多く、栄養バランスを考えて献立をつくっています。
老人ホームに入居する際、入居者の好みやアレルギーの有無などを質問されるので、食べられない食材は除外したり、別のメニューに変更したりできないかを相談をしてみると良いでしょう。
苦手な食材や味の好みは事前に伝えよう
苦手な食材や味の好みについて老人ホーム側に理解してもらうため、入居のときに伝えておきたいポイントはいくつかあります。
以下の表に代表的な質問項目をまとめているので、参考にしてみてください。
項目 | 伝えておきたい内容 |
---|---|
好みの味付け | 濃い味と薄味のどちらが好きか |
好きな食べ物 | 肉や魚などの食材はもちろん、調理方法まであると伝わりやすい |
苦手な食べ物 | 「生のトマトは苦手だがケチャップはOK」など、細かく説明を入れる 苦手ではないが、食べると下痢などの症状がでてしまう食品も事前に知らせる |
アレルギー | アナフィラキシーショックを発症すると命にかかわることもあるので、診断書や血液検査表も一緒に提出する |
咀しゃく・ | 嚥下食事をスムーズに行うために飲み込む力がどの程度なのかを伝える |
歯の状態 | 正常か、部分入れ歯なのか、総入れ歯なのか |
好きな物を持ち込んで食べることは可能?
食べ物や飲み物の持ち込み制限には、老人ホームによってさまざまです。
施設内で食中毒を防ぐことを理由に冬の時期のみ可能にしたり、または一切の持ち込みを禁止にしたりしています。
また、面会者が来たときにその場で食べてもらう場合は生ものでも大丈夫ですが、その日に食べ残したものはご家族に持ち帰ってもらいます。
食べ物を持ち込む場合は事前に可能かどうかは入居前に確認が必要です。
まとめ
最近の老人ホームでは、季節に応じたイベント食を用意したり、食事レクが開催されたりと、食事を楽しめる工夫がされています。
さらに、好き嫌いや持病に対応した食事を用意してくれるかは重要なポイントです。食べやすい環境に配慮されているかなども含めて、事前に確認しておきましょう。
毎日の食事が楽しみになると、日々の充実感もアップするので、老人ホーム選びでは食事内容もチェックしましょう。
- 老人ホームでは介護食など複数の食事が用意されていることが多い
- イベント時には特別な食事を楽しめる施設もある
- 食事内容には差があるので、事前にチェックしておく
- 見学のときは朝食を確認するのがおすすめ
- 食事の費用と請求方法は施設によって大きく異なる