在宅介護とは
在宅介護とは、老人ホームなどの施設へ入居せずに「在宅で介護を受ける」ことを指します。
「年齢を重ねても、自宅で暮らし続けたい」
「高齢や病気・怪我で介護が必要になったが、自宅で介護を受けながら生活したい」
住み慣れた家や土地で生活したいと感じる高齢者の思いはごくありふれたものです。
しかし、家族が中心となって自宅で介護をする「在宅介護」は、家族や身内の負担が大きくなるほか、介護を受ける本人にとっても、ベストといえないケースもあります。
介護を受ける本人とその家族にとってより良い介護の形を実現するために、どのようなポイントに気をつければ良いのでしょうか。
在宅介護の特徴やサービス、メリット・デメリットなどをまとめてご紹介します。
在宅介護の特徴
在宅介護の大きな特徴は、住み慣れた家で介護を受けながら暮らし続けられることです。
それまで人生を送ってきた場所や地域で暮らせることは、本人の精神面にとっても安心。
また、同居する家族が介護をするため、家族の距離感が親密な暮らしを送ることができます。
このように、介護を受ける本人が慣れ親しんだ環境の中、穏やかな気持ちで過ごせる自宅での介護は、QOL(人生の質)の面からも意義ある介護方法といえます。
在宅介護のポイント
在宅介護では、同居家族が中心となって本人のお世話をします。
介護が必要な度合いによっては、家族に大きな負担がかかるため、仕事やプライベートと介護との両立が難しくなるケースも少なくありません。
在宅介護はいつまで続くかわからないもの。
息の長い介護でお世話を続けるためにも、外部の介護サービスを積極的に利用して、介護負担を分散する必要があります。
在宅介護だからといって家族がすべて背負い込むのではなく、頑張りすぎない介護を目指しましょう。
在宅介護で受けられる主なサービス
在宅で受ける介護サービスの種類にはさまざまなものがあります。
これらのサービスは、「居宅介護サービス」と呼ばれる種類と、「地域密着型サービス」と呼ばれるものに大別できます。
居宅介護サービスでは、訪問介護、通所介護、通所リハビリ、訪問看護を利用する人が一般的です。
一方、地域密着型サービスは、事業所が立地する市区町村に住民票のある被保険者だけが利用可能です。
地域密着サービスには、夜間対応型訪問介護、小規模通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型通所介護などがあります。
こうしたサービスを上手に利用することで、介護される本人にとってメリットがあるだけでなく、介護をする家族にとっても、介護の負担を軽減させることができます。
ここでは以下のサービスについて、詳細と利用方法をみていきましょう。
- 訪問型サービス
- 通所型サービス
- 短期入所型サービス(ショートステイ)
- 小規模多機能型サービス
- 福祉用具貸与
訪問型サービス
「訪問型サービス」とは、介護される利用者の自宅(居宅)にヘルパーや介護士、看護師など、介護・医療専門職が訪れて行うサービスです。
よく利用されているのが、介護や看護のスタッフが自宅を訪問して介護をする訪問介護や訪問看護、浴槽を運んで入浴の介助を行う訪問入浴介護です。
さらに、医師、歯科医、看護師、薬剤師、栄養士などが療養上の管理や指導を行う居宅療養管理指導、見守りサービスと看護サービスの機能を併せ持つ>定期巡回・随時対応型訪問介護看護など、ニーズに応じてオーダーメイドで専門的なサービスが受けられます。
以下は、訪問型サービスを種類ごとに表でまとめたものです。
- 訪問介護
- 訪問介護員(ホームヘルパー)や介護福祉士が介護を受ける方の家を訪れ、食事や入浴、トイレの介助をはじめとした身体介護や、買い物や調理、洗濯、掃除といった生活援助などを行うサービス
- 訪問入浴介護
- 自宅の浴槽を使っての入浴が難しくなった方向けに、簡易浴槽と湯沸かし器を積んだ移動入浴車で利用者の自宅を訪れ、看護スタッフや介護スタッフが入浴の介護を行うサービス
- 訪問看護
- 看護師などが利用する方の自宅を訪れ、医師の指示に基づいた医療的な処置や診療の補助をはじめ、健康チェックなど、療養中の方に対する必要なケアなどを行うサービス
- 訪問リハビリ テーション
- 理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が利用する方の自宅を訪れ、医師の指示に従い、身体機能の維持や回復、あるいは自立支援を目的として、必要なリハビリテーションを行うサービス
- 夜間対応型 訪問介護
- 夜間に利用する方の自宅を介護スタッフが定期的に巡回、あるいは利用する方の要請に応じて訪問し、排せつや入浴、食事等の介助などの介護や調理、洗濯などの日常生活上の世話を行うサービス
- 定期巡回・ 随時対応型 訪問介護看護
- 介護と看護が密に連携しながら、利用する方の家を定期的に巡回し、要請された際には24時間対応し、介護・看護双方を提供するサービス
- 居宅療養 管理指導
- 医師や歯科医師、看護師、薬剤師、管理栄養士などが利用する方の自宅を訪れ、療養における指導や管理、アドバイスなどを行い、ケアマネージャーに対しても、関連する情報を提供するサービス
なお、似た名前のものとして訪問理美容がありますが、こちらは介護保険が適用されるサービスではありません。自費負担になるため注意しましょう。
通所型サービス
自宅で受けるサービスのほかにも、利用する方が施設に日帰りで通い、そこでサービスを利用するタイプのものがあります。
介護保険サービスを利用する方が、自宅(居宅)から施設を訪れてサービスを受ける形を「通所型サービス」と呼びます。
施設に通って介護もしくは入浴、食事の介助を受ける通所介護やリハビリテーションを受ける通所リハビリテーション、認知症の方を対象とした認知症対応型通所介護、身体状況が重い方などを対象とした療養通所介護などが代表的なものとなります。
これらは、利用する方の状況にあったサービスを、設備の整った施設で重点的に受けられるというメリットがあります。
- 通所介護 (デイサービス)
- デイサービスセンターなどの施設で施設の介護スタッフが入浴や食事の提供といった生活支援や、生活機能訓練を行うサービス
- 地域密着型 通所介護
- 利用定員が18人以下の小規模な老人デイサービスセンターで食事の提供、入浴などの生活支援や、生活機能訓練などを行うサービス
- 認知症対応型 通所介護 (認知症対応型 デイサービス)
- 特別養護老人ホームやデイサービスセンター、認知症グループホームで食事、入浴、トイレなどの介助を含めた介護、あるいは機能訓練を行うサービス
- 通所リハビリ テーション (デイケア)
- 介護老人保健施設や病院で、施設のスタッフである理学療法士や作業療法士、言語聴覚士のもとで、理学療法や作業療法など必要なリハビリテーションを行うサービス
短期入所型サービス(ショートステイ)
一時的に施設に寝泊まりし、施設に入居した方と同じようなサービスを受けるタイプのものが「短期型入所サービス」といいます。
一般的にショートステイと呼ばれる短期入所生活介護と、医療型ショートステイと呼ばれる短期入所療養介護などがこれに該当します。
こうしたサービスを利用することで、施設で専門的な介護を受けられるほか、介護をする家族の負担を一時的に軽減したり、介護ができない事情(例:冠婚葬祭)が発生したときに利用できます。
- 短期入所 生活介護 (ショート ステイ)
- 特別養護老人ホームなどの施設に短期間入所(3~7日間)して介護を受けるサービス。 施設のスタッフのもとで、食事や入浴、排せつの介助など施設入居している方と同様の生活支援や機能訓練などが受けられる。
- 短期入所 療養介護 (ショート ステイ)
- 介護老人保健施設や病院などに短期間入所して、医師や看護師による医療や、理学療法士などによる機能訓練を受けられるサービス。 短期入所生活介護と同様の生活支援などを受けることも可能。
小規模多機能型サービス
上記で紹介した3種類のサービスの「いいところ」を組み合わせたのが小規模多機能型サービスです。
「小規模多機能型居宅介護」では、利用者と介護する家族のニーズに応じて提供するサービスを組み合わせることができます。
訪問看護に「小規模多機能型居宅介護」を組み合わせて医療ケアも提供している「看護小規模多機能型居宅介護」というサービスもあります。
これらは介護する家族の負担を減らすことができると同時に、ニーズに応じた「きめの細かいサービス」を受けられます。
- 小規模 多機能型 居宅介護
- 施設への「通いを中心」に、利用する方の希望や状況に応じて宿泊や訪問を組み合わせるサービス。
そのなかで介護や生活支援、機能訓練などを提供する。 - 看護小規模 多機能型 居宅介護 (複合型 サービス)
- 小規模多機能型居宅介護に「訪問看護」を組み合わせたサービス。
対象となる要介護度の中・重度の方に、介護や生活支援に加え、必要な医療ケアを提供する。
福祉用具貸与(レンタル)や住宅改修で生活環境を整える
上記の人的サービスの提供以外にも、介護を必要とする方の自立した日常生活を助けるために、福祉用具の貸与や販売、あるいは介護リフォームなどの住宅環境の改善といったサービスもあります。
これらのサービスには介護保険が適用されるため、本来の価格よりもかなり低い自己負担額(1~3割)で利用することができます。
住環境が整備されることで、介護を必要とする方と介護をする方の負担を大きく減らすことができます。
- 福祉用具貸与
- 車椅子やその付属品、あるいは電動ベッドとその付属品、手すりの歩行器など、利用する方に必要な介護用品を貸与するサービス。
要介護の度合いに応じて介護保険が適用される品目が決まっているので事前に確認が必要 - 福祉用具購入
- 腰掛便座や入浴補助用具、簡易浴槽など、他の人への貸与が衛生面等で適当でない福祉用具を購入するサービス。
利用者が一旦全額を支払い、その後申請をして介護保険の支給(7~9割)をうける償還払いが原則 - 住宅改修
- 利用する方が自宅での暮らしを継続できるよう、バリアフリーを始めとした住宅改修を行うサービスで、支給限度基準額は20万円。
工事も介護保険が適用されるが、福祉用具の購入と同じく償還払いが原則
利用するまでの流れ
介護サービスの利用は、以下の流れで進んでいきます。
以下では、この中でもとりわけ重要な「要介護認定」「ケアプラン作成」についてみていきます。
まずは要介護認定を受ける
介護サービスを利用するためには、「要介護認定」を受ける必要があります。
認定を受けるためには、住んでいる各自治体の介護保険等の担当窓口か地域包括支援センターで申請を行います。
その後、「認定調査員」による聞き取り調査(約60分程度)が行われ、コンピューターによる一次判定や主治医の意見書の提出などを経て、二次判定により最終的な要介護度の認定が行われます。
身体的及び心理的な状態に応じて、「要介護1~5」「要支援1~2」の7つの区分のうちのどれかに認定されるか、「非該当」とされることもあります。
この結果は、原則的に申請からおよそ30日で通知されることとなっています。
認定を受けた場合は、その後ケアマネージャーによって、ケアプランが作成され、サービスの利用が可能となります。
ただし、緊急を要する場合は、申請日からサービスの利用が可能です。
【図で流れがわかる】要介護認定の申請(方法・適切なタイミング・場所)
ケアプランを作成
認定後に行うケアプランの作成は、ケアマネージャーの支援を受けながら行います。
介護される方の暮らしへの希望や改善したいこと、達成したい生活目標をケアマネージャーに伝え、その後、作成されたケアプランの原案をケアマネージャーとともにチェックし、検討しましょう。
このとき、暮らしの希望をはっきりと伝えずに、ケアプランの作成を家族やケアマネージャーに丸投げしてしまうと、適切なサービスを受けられず、身心状況が悪化してしまうことも考えられます。
サービスを受ける側だからといって受け身にならず、積極的に希望を伝えることが重要です。
サービス開始後、一定期間でプランがうまく機能しているかチェックを行います。ミスマッチを感じる場合は、サービスを受けている途中でもプランの変更は可能なため、ケアマネージャーに相談しましょう。
在宅介護のメリット・デメリット
在宅介護で受けられるサービスには、訪問型や通所型、ショートステイ、小規模多機能型をはじめ福祉用具貸与や住宅改修など、さまざまな種類があります。
こうしたサービスを利用しながら在宅介護をおこなうことには、どのようなメリットがあるでしょうか。デメリットについても合わせて解説します。
在宅介護のメリット
まず、在宅介護のメリットについてみていきましょう。ご本人や介護をする家族にとって、自宅で介護をすると、どのような点がプラスに働くのでしょうか。
住み慣れた自宅・地域での暮らしを継続できる
自宅で介護を受けながら、今まで通りの暮らしが続けられることは、在宅介護の大きなメリットといえます。
介護を受ける本人は、長年親しい関係を培ってきた同居家族に支えられて住み続けられるため、メンタル面で安定した状態を保つことができます。
また、住み慣れた地域を離れることがないので、環境の大きな変化もなく、ご近所付き合いや友人関係などもそのまま楽しむことが可能です。
必要なサービスだけを選択できるため費用が抑えられる
外部の介護事業者を活用すれば、同居家族のお世話のほかにも本人の状態に応じた介護サービスを選んで、本人と家族の希望する生活を送ることができます。
訪問介護サービスやデイサービスなど、必要な介護サービスや回数、内容は利用者によって異なります。
在宅介護ではそれぞれに必要な介護サービスを選択できるため、提供される介護サービスとその料金が固定されている老人ホームと違って、介護費用を抑えられます。
在宅介護のデメリット
では、在宅介護にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。本人や家族に起こりうるデメリットについて考えていきましょう。
在宅介護で起こりがちなことは、介護をする人が介護の負担(肉体的・時間的・精神的)を一人で抱え込み、限界を迎えてしまうケースです。
最後まで住み慣れた自宅で家族を介護したいという気持ちは大切ですが、介護負担やストレスを一人で抱え込むと、心身ともに疲弊してしまいます。
こうした状況に陥らないためには、介護サービスや生活支援サービスをうまく使いこなし、やむを得ない場合には施設入所を検討するなども必要になってきます。
肉体的負担
介護の負担の一つが、「肉体的な負担」です。
寝たきりの方の介護を行う場合には、「移動介助」「ベッド介助」「着脱介助」「車椅子への移動介助」などがあります。さらに、介護を必要とする方が体重過多だったり持病があれば、介護の経験も技術もない人にとっては大きな負担です。
こうしたなかで、腰痛を発症してしまったり、睡眠不足や過労で倒れてしまうなど、介護をする人が負担に耐えられなくなってしまうケースが多く見受けられます。
肉体的負担は、高齢者が高齢者の介護をする、いわゆる「老々介護」では特に深刻な問題となってます。
時間的負担
介護をするために介護する方の生活時間の中に、「介護する時間」をつくらなければなりません。こうした時間的な負担も在宅介護の難しさの一つです。
なかには、仕事に集中できず、「両立」が困難となり「介護退職(離職)」するしかなくなってしまったり、介護に拘束されることで自分の時間がまったく取れなくなってしまったりという状況に陥り、生活が破綻したというケースもあります。
精神的負担
精神的な負担も在宅介護では無視できません。
24時間365日、休みなく介護をする必要があるという現実が負担になるうえ、介護される本人からの言動、とくに認知症などからくる暴言や予期せぬ行動(例:失禁、妄想、徘徊)、コミュニケーションの難しさなどは、介護する側にとって大きな負担です。
こうした状況が長く続き、介護をする方の精神がすり減ってしまい、大きなストレスを抱えるか心を病んでしまうケース(例:介護うつ)が多いと言われています。
介護離職問題
介護離職をしないで済む方法とは?
介護をする方にとって、肉体的・時間的・精神的な面で大きな障害となるのが、いわゆる「介護離職」と呼ばれる状況です。
介護をされる方の身体状況が悪化して緊急の呼び出しがある、介護に割く時間(日中の夜間、休日)が増え、仕事を辞めざるをえなくなってしまうなどの可能性があります。
総務省の発表では、年間で約10万人近くが介護・看護を理由に仕事を辞めていることがわかっています。
こうした状況では、離職による経済的なダメージに加え、介護に多くの時間を割かねばならない精神的なダメージも受けることになります。
介護離職を減らすため、厚生労働省は介護休業給付などの制度をつくり、介護と仕事を両立できる支援制度を設けることを企業に対して奨励しています。
最近ではケアメンという「介護をする男性」も増えてきました。かつては、介護というと妻や娘など女性がするものと考えられがちでしたが、現在ではそうした価値観は薄らいでいます。
また、企業によっては「介護休暇」の制度やオンラインを活用した在宅ワーク(リモートワーク)を積極的に取り入れ、親の介護に直面した社員が介護離職しなくて済むように全力でサポートしています。
近年ではこうした支援制度を採用する企業も増えているので、まずは勤務先の上司や総務担当者に相談してみましょう。
注意したいのは、介護離職してから施設入所を検討するには、「経済的負担」がカベになり、入所を断念することもあることです。どうしても自宅で介護を続けるのが難しい場合、早めに施設入所を検討するのもひとつです。
在宅で介護をしたいという気持ちも大切ですが、介護する側、される側ともにベストとなる選択を常に考えておくようにしたいですね。
在宅介護が限界を超えてしまう前に
ケアプランを見直す
在宅での介護に大きな負担を感じる場合、最初にするべきことはケアプランの見直しです。
ケアマネージャーに、本人の意向や状況、介護する方を含めた家族の意向や状況をしっかりと伝え、負担が過度にならないプランを一緒に考えましょう。
短期入所生活介護や小規模多機能型居宅介護などのサービスを適切に組み合わせることで、介護する方の負担を減らせるようなプランが見つかる可能性は十分にあります。
そのためには、状況の変化に対応できるよう、日頃からケアマネージャーに小マメに情報提供を行い、相談を行うことが重要です。
現在は、介護する方の負担を減らす「レスパイトケア」と呼ばれる考えも広まり、ケアマネージャーも家族介護の負担軽減の視点にも立ったケアプランを考えてくれます。
また、なぜ「現在の状況で負担が大きくなっているのか?」「本当に現在行っている介護がすべて必要なのか?」など、客観的な視点で整理することで、過度な負担を軽減できる場合もあります。
悩みを相談する
介護をする中で精神的に追い込まれないようにするためには、「悩みを共有できる人と場所」をつくるという事が重要です。
そのためにも、ケアマネージャーや訪問サービスのスタッフたちと介護について話し合える関係性を築く、地域包括支援センターの介護者向けの相談窓口を始めとした介護相談を利用する、あるいは要介護の家族を自宅で介護している人の集まった家族会などに出席するなど、日頃から多くのかかわりを持つように心がけましょう。
こうすることで、自分一人で悩みを抱えて孤立しているよりも、精神的な負担がかなり少なくなります。また、介護の専門家や似た状況にいる人から、現在置かれている状況に関する的確なアドバイスがもらえることもあります。
また、「愚痴や弱音を吐ける場所がある」ということ自体が、過酷な介護生活の中でよりどころになる場合もあります。
こうした交流を通してリフレッシュを行い、現状を悲観せず、ポジティブにこの先を捉えることのできる余裕を取り戻せるようにしておきましょう。
在宅介護の悩み
厚生労働省が公表した2019年の「国民生活基礎調査 介護の状況」によると、「在宅介護を続けるうえで不安を感じるもの」という質問に対して、介護者からもっとも多かった回答の1つが「認知症への対応」でした。
内訳は要支援の介護者が11.8%、要介護1~2が40.3%、要介護3以上が41.5%と、介護度が上がるほど認知症への不安が高まるという結果でした。
次に多いのが「外出の付き添い、送迎等」。
これは比較的介護度が低く、外出も自由にできる方の介護者のほうが、不安を多く感じているようです。要介護2以下が30%以上だったのに対して、要介護3以上は17.8%でした。
また「夜間の排泄」も、要介護3以上の介護者の30%以上が不安と回答しており、仕事と両立している介護者は、入浴や食事介助などのサポートについて強く懸念する結果となりました。
便利グッズ等で負担を減らす
在宅介護を行う場合、市販されている様々な便利グッズを利用すると、介護負担の軽減が可能です。
例えば、要介護者から離れていてもスマートフォン等で様子をチェックできる介護用の見守りカメラが販売されています。活用することで、常にそばにいなくても見守りを続けられます。
さらに配線不要のコールボタンを利用すれば、介護者が台所や自室など別室にいるときでも、要介護者はすぐに呼び出すことができます。2階建ての家にお住まいの場合などは特に便利です。
また、ちょっとした工夫やアイデアを取り入れることが、在宅介護の負担軽減につながります。
例えば、介護の現場ではウェットティッシュやおむつなど、多様な介護用品が必要です。
それらをある程度買いだめしておくと、何度も買い物を繰り返さなくて済みます。こうした取り組みを在宅介護の中に取り入れていくことで、経済的な負担と手間を減らすことができます。
老人ホームへの入居を考える
自宅での介護は本人にとってメリットが大きいものですが、あまりの長期間に及ぶと、介護者への負担が増えすぎて、介護ストレスから乱暴な介護(虐待的介護)をやってしまったり共倒れになるリスクがあります。そうなる前に施設への入居を検討するのもひとつでしょう。
施設介護なら24時間体制で介護が受けられるほか、医療依存度が高い場合でも医師や看護師が常駐している施設であれば安心して任せられます。
また、介護度が高くなればなるほど、在宅で行える介護には限界があります。認知症の介護などはその代表例と言えるでしょう。
「なぜ在宅介護なのか」「いつまで在宅介護が可能か」を、本人を含めて家族で話し合い、在宅よりも施設のほうが質の高い介護が受けられると判断できるなら、施設介護への移行を検討する必要があります。
本人の考え・気持ち、介護する家族の意見をそれぞれしっかりと尊重したうえで、施設介護だから可能になるたくさんのメリットを今一度確認することもしてみましょう。
在宅介護の方におすすめの老人ホーム
同居家族の負担が大きい在宅介護。介護の負担軽減を図るには、老人ホームが重要な選択肢となります。
老人ホームでは、介護のプロによる24時間体制のケアを受けられることがポイントです。
しかし、一口に老人ホームといってもその種類はさまざま。そこで、ここではどのような老人ホームがあるのか、具体的にそれぞれの特徴をご紹介します。
介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは、主に民間企業が運営している老人ホームで、サービスや設備は施設によってさまざまです。
ポイントは、要介護度が高くても介護保険を利用した24時間体制の介護サービスを定額で利用できること。
介護職員をはじめ看護師や医師の常駐している施設もあり、胃ろうや痰の吸引、褥瘡ケアなど医療的ケアが受けられる場合もあります。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、民間の運営する老人ホームのうち、比較的要介護度の低い方や自立している方が入居する施設です。
要介護度に応じて本人に必要なサービスを選べるため介護付き有料老人ホームに比べて費用を抑えることができます。
また、施設ごとにイベントやレクリエーションが開催されていたり、娯楽室や温泉があったりなど、豪華なサービスや設備を備えたところもあるのが特徴です。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探すサービス付き高齢者向け住宅
シニア向けのマンションで、個室になっているためプライバシーが保たれています。
室内はバリアフリー設計になっているほか、見守りサービスや生活相談もおこなっていて、高齢の夫婦や一人暮らしの方が安心して生活できる環境です。
施設によっては食事の提供をおこなっている場合もあります。
介護サービスが必要な方は、外部の介護事業者と契約して訪問介護サービスを利用するのがポイントです。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探すグループホーム
認知症と診断された方で、施設のある自治体に住民票をお持ちの方が入居対象です。
「ユニット」と呼ばれる少人数のグループに分かれ、1ユニット9名以下の少人数で集団生活を営んでいます。
入居者は全員認知症をお持ちの方なので、認知症をお持ちの方も気兼ねなく過ごすことができるのが特徴。
日常の家事や買いものは、専門の介護職員のサポートを受けながら、全員で分担して取り組んでいます。
日常生活の中で自然にリハビリを続けながら、認知症の進行予防や症状緩和を目指す施設です。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す在宅介護の経済的負担を軽減する制度
「老人ホームへの入居を検討したが、このまま在宅介護を続けたい」
そうした場合には、次のような制度を利用して経済的負担を軽減できる可能性があります。
主に自治体が窓口になっている介護保険制度や労働関連の給付金などの制度です。
一つずつみていきましょう。
高額介護サービス費
1ヵ月に支払った介護保険サービスの自己負担の合計が一定以上になったとき、超えた分の払戻しが受けられる制度です。
例えば、市町村民税の課税所得380万円(年収約770万円)の世帯で、月額負担限度額44,400円となっています。
この金額を超えた金額は、自治体に申請すれば「高額介護サービス費」として払戻しされます。
なお、福祉用具の購入費や施設サービスの食費や居住費、日常生活費などは対象外なので注意してください。
介護休業給付金
介護が必要な家族のために仕事を休んだ労働者が、一定の条件のもと給付金を受けられる制度です。
①1年以上の雇用期間がある雇用保険の被保険者で、②2週間以上の休業が必要となり、なおかつ、③現在の勤務先に職場復帰することが条件となります。
休業中は、給与の67%を介護休業給付金として受給可能です。
「介護が必要な家族」の対象となるのは労働者本人の父母や子、配偶者とその父母に限られ、対象家族1人につき通算93日間まで支給されます。
介護リフォーム補助金
要介護状態になって自宅のバリアフリー化や手すりなどの設置が必要になった場合、住宅改修費の一部が支給される補助金制度です。
支給額は、支給限度基準額20万円の9割、つまり18万円が上限となっています。
補助金を利用したい場合は、まず、自治体の介護担当窓口まで申請書や住宅改修が必要な理由書などの必要書類を提出します。
工事が完成したら、領収書などを提出すると、償還払いで補助金が支給されます。
このように、まず工事費用の全額を支払ってから、後日補助金を受け取れるという流れに注意しましょう。
在宅介護の前に解決しておきたい疑問
近距離介護・遠距離介護・同居介護、どれを選ぶ?
在宅での介護には、介護者と要介護者の距離によって「近距離介護」「遠距離介護」「同居介護」という3種類のスタイルがあります。
近距離介護とは、同居するのではなく、親の近距離に住んで「通い介護」をすることです。
子供が親の暮らす地域に済むケースから、親が子供の住む地域に引っ越すケースまであります。親の要介護度が、同居を必要とするほど重度でなければ可能となる介護のあり方です。
近距離介護のメリットは、ストレスが同居介護よりも少ない、お互いの生活スタイルを維持できる、介護にメリハリが生まれるといった点を挙げられます。
しかし、親が子供の近くに引っ越す場合は地域での生活に慣れるのが大変、引っ越す前にあったつき合いがなくなる、外出する先もなくなり自宅にひきこもちがちになる、といったデメリットが生まれます。
遠距離介護とは、子供が遠く離れた場所に住んでいる親を「通い介護」することをいいます。
例えば、親が北海道に住み、子供が大阪に住んでいる場合に、毎週末に大阪から北海道へ親の介護のために飛行機で移動するといった介護のスタイルです。
遠距離介護のメリットは、お互いの生活環境を変える必要がなく、親も住み慣れた地域で暮らし続けられるという点です。
一方、デメリットは、体調が急変したとき、すぐに駆け付けることができない、日常の見守りができない、交通費や通信費がかかる、といった点です。
同居介護とは、その名の通り親と子供が同じ家に住んで介護をすることです。親が住む家に子供が引っ越す、あるいは子供が住む家に親が引っ越すことで行う介護のスタイルです。
同居介護のメリットは、暮らしながら介護ができる、親の体調急変時に対応がしやすい、家族の交流の機会が増える、同居すれば家賃を抑えられる、といった点が挙げられます。
しかし、同居するために引越しすると環境変化のストレスが生じる、密な人間関係が新たなストレスを生む、介護と暮らしのメリハリがなくなり介護ストレスが過重になるなどがデメリットです。
近距離介護、遠距離介護、同居介護それぞれにメリットとデメリットがあります。
現実には、子供の仕事や家族状況、親の意向などによって、近距離介護・遠距離介護をせざるを得ない場合もあります。どのようなスタイルで介護をするのかは、ケースバイケースです。
自宅で「看取り」はできるのか?
在宅での「看取り」はできます。ただし、そのためには準備が必要です。
自宅での看取りを希望するなら、まずは最寄りの地域包括支援センターで、在宅医療と看取りについて的確なアドバイスができる居宅介護支援事業所とケアマネージャーを紹介してもらいましょう。また、地域で活動している在宅医を探す必要があります。
ケアマネージャーと在宅医が決まったら、今後自宅でどのような療養生活を送りたいのかを話し合いましょう。
それから、訪問介護、訪問看護、在宅医、在宅歯科医・歯科衛生士、薬剤師、理学療法士、管理栄養士、福祉用具専門相談員などからなる看取りチームでケアが行われることになります。
そして、本人が穏やかに日々過ごせる「生活環境」を作ることも大事です。
本人が好きな音楽が聴ける、思い出の品を身近に置く、親しい友人と会うようにするなど、残りの人生を落ち着いて快適に生活できる住環境を整えましょう。
どのタイミングで在宅で看取りの準備を始めるかは、医師の判断によって決まります。
しかし、一般的には身体状態が悪化してきたとされ、食事をきちんと摂れなくなってきたときが死期が近づいてきたとされ、看取り準備の開始時期といわれています。
在宅介護から施設入居に切り替える目安
在宅介護から施設介護への移行は、介護を行っている家族の限界が来る前に行うことが大切です。
介護負担による家族介護者の限界が来てから施設を探し始めても、すぐに入居可能な施設を見つけられるとは限りません。
特に要介護者が認知症の場合は、症状が進行すると徘徊や妄想、暴言・暴力といった症状が強く表れる場合があり、介護負担もそれに合わせて増えることが多いのが特徴です。
認知症による介護負担に家族介護者が疲れ果ててしまう前に、施設での介護を検討すると良いでしょう。
他の人はこちらも質問
なぜ在宅介護をするのか?
在宅介護をする理由は住み慣れた自宅で生活をしてほしい、施設の利用は費用がかかる、入所できる施設が空いていないなどです。在宅介護は、必要とする介護サービスを好きなように組み合わせられますが、家族など介護をする人の心身の負担は大きいです。
在宅介護は何が必要?
在宅介護を始めるにあたって、介護サービスを利用するために必要な要介護認定を受けます。市町村の窓口、地域包括支援センターで申請をします。要介護認定に必要なものは、65歳以上であれば介護保険証、40歳〜64歳は健康保険証、マイナンバーの確認できるもの、運転免許証や障害者手帳など本人確認などです。
要介護4はどのくらい?
要介護4は排泄や入浴など、日常生活のほとんどに介助がいる、理解力が著しく低下するなどです。意思疎通ができたり、寝たきりまで症状が進んでいなかったりする場合があります。
厚労省が定めた、要介護4の介護にかかる時間は90分以上110分未満です。
在宅介護はいつまで?
在宅介護は長い場合、10年以上続きます。
これは、1人あたりに必要とする介護の平均期間が10年前後であるためです。在宅介護は介護をする家族などの負担が大きく、精神的に疲れやすくなります。デイサービスやショートステイなどの介護サービスを利用して、負担を減らすことが大切です。