税金が安くなる「控除制度」とは
「控除」とは、「ある金額から所定の金額を差し引くこと」という意味です。
例えば、所得税とは、収入から「所得控除」として差し引いた金額に、一定の税率を掛けたものを指します。この場合、ただ収入として得た金額に税率を掛けるよりも、所得控除を差し引いた金額に税率を掛けた方が、かかる税金は安くなりますよね。
そのため「控除が適用される」という場合、納税者にとっては控除される金額に応じて納めるべき税金が少なくなるので、有利になるわけです。
所得控除のなかでも、住民税はさまざまな助成制度の基準に使われているため、住民税の所得控除を受けることには大きなメリットがあります。
人によっては非課税となる場合もあります。
その場合はきちんと自治体に申告する必要があるため、注意してくださいね。
住民税の金額によって施設利用料も変わる
以下の施設では、住民税が非課税だと、一定の条件下で施設サービス費の自己負担額が軽減される場合があります。
- 特別養護老人ホーム
- 介護老人保健施設
- 介護療養型医療施設
- 介護療院やショートステイ
月額で数万円から十数万円ほど軽減されるため、住民税が非課税の方で、上記の施設に入居している方の場合は、施設に確認してみてくださいね。
また、施設サービス費だけでなく、特定入所者介護サービス費や高額介護サービス費でも優遇されることがあります。
上記の4施設はもともと入居費用が安いですが、これらの優遇措置を受けることできれば、さらに経済的負担を軽くすることができます。
医療費控除について
医療費控除とは、1年間に支払った医療費が一定の金額を超えた場合に、その医療費を基に計算した金額分だけ「所得控除」が受けられる制度です。
医療費控除を受けるには、以下が条件となっています。
- 支払った医療費が、本人、本人と生計をともにしている配偶者、そのほかの親族のために支払った医療費であること」
- その年の1月1日から12月31日までの間に支払いをした医療費であること
医療費控除額の計算方法は、まず1年間に支払った医療費から、保険金などで補われている金額を差し引きます。そこから、さらに10万円を引いた金額が、医療費控除額です。ただし、総所得が200万円未満の場合は、10万円ではなく総所得額に5%を掛けた金額が差し引かれます。
また、医療費控除額は最高で200万円までとなっているので注意しましょう。
対象になるもの・ならないもの
実は、介護保険が適用される介護サービス費用の多くは医療費控除の対象となります。
また、介護保険施設で負担する食費や居住費は、本来は介護保険適用外サービスなのですが、医療費控除の対象です。
1.対象になる介護サービス
介護保険施設で受けられる施設サービスには、大きく分けて「医療系施設サービス」と「福祉系施設サービス」があります。
医療系施設サービスには、介護老人保健施設と介護医療院、指定介護療養型医療施設が含まれます。
これらの施設を利用したとき、介護費と食費および居住費は全額が、医療費控除の対象です。
福祉系施設サービスの施設には、特別養護老人ホームと指定地域密着型介護老人福祉施設が含まれます。
これらの施設を利用したとき、介護費と食費および居住費の半額が、医療費控除の対象です。
介護保険施設で受けられる施設サービスのうち、医療費控除の対象になるもの、対象にならないものは以下の表を参考にしてください。
分類 | 施設名 | 医療費控除の対象 | 医療費控除の対象外 |
---|---|---|---|
医療系 | 介護老人保健施設(老健) 指定介護療養型医療施設(療養病床) 介護医療院 |
施設サービスの対価 (介護費、食費および居住費) として支払った額 |
①日常生活費(理美容代など) ②特別なサービス費用(特別な居室への入居など) |
福祉系 | 指定介護老人福祉施設(特養) 指定地域密着型介護老人福祉施設(特養) |
施設サービスの対価 (介護費、食費および居住費) として支払った額 の2分の1に相当する金額 |
①日常生活費(理美容代など) ②特別なサービス費用(特別な居室への入居など) |
在宅介護サービスには「福祉系居宅サービス」と「医療系居宅サービス」に大きく分けられ、医療系の居宅サービス、もしくは医療系と合わせて福祉系の居宅サービスを利用したとき、医療費控除の対象となります。
なお、短期入所療養介護や通所リハビリテーションなどのサービスを利用するために、指定介護療養型医療施設や介護老人保健施設、介護医療院に通うという場合。このとき発生する交通費は医療費控除の対象です。
バスや電車だと領収書は必要ありませんが、タクシーを利用したときは領収書がいります。
以下、医療費控除の対象となる居宅サービスなどをまとめました。
①医療費控除の対象となる 居宅サービス等 |
1 | 訪問看護 |
---|---|---|
2 | 介護予防訪問看護 | |
3 | 訪問リハビリテーション | |
4 | 介護予防訪問リハビリテーション | |
5 | 居宅療養管理指導(医師などによる管理・指導) | |
6 | 介護予防居宅療養管理指導 | |
7 | 通所リハビリテーション(医療機関でのいわゆるデイサービス) | |
8 | 介護予防通所リハビリテーション | |
9 | 短期入所療養介護(ショートステイ) | |
10 | 介護予防短期入所療養介護 | |
11 | 定期巡回・随時対応型訪問介護看護※1 | |
12 | 複合型サービス※2 | |
①と併せて利用する場合のみ 控除対象になる 居宅サービス等 |
1 | 訪問介護(ホームヘルプサービス)※3 |
2 | 夜間対応型訪問介護 | |
3 | 介護予防訪問介護(2018年3月末まで) | |
4 | 訪問入浴介護 | |
5 | 介護予防訪問入浴介護 | |
6 | 通所介護(デイサービス) | |
7 | 地域密着型通所介護(2016年4月1日~) | |
8 | 認知症対応型通所介護 | |
9 | 小規模多機能型居宅介護 | |
10 | 介護予防通所介護(2018年3月末まで) | |
11 | 介護予防認知症対応型通所介護 | |
12 | 介護予防小規模多機能型居宅介護 | |
13 | 短期入所生活介護(ショートステイ) | |
14 | 介護予防短期入所生活介護 | |
15 | 定期巡回・随時対応型訪問介護看護※4 | |
16 | 複合型サービス※5 | |
17 | 地域支援事業の訪問型サービス※6 | |
18 | 地域支援事業の通所型サービス※6 |
2.対象にならない介護サービス
「医療費控除」という名前の通り、医療と関連性のあるサービスでなければ、対象とされません。介護保険サービスのすべてが医療費控除の対象になるわけではないので、その点は注意が必要です。
以下、医療費控除対象外の居宅サービスなどをまとめました。
対象外の 居宅サービス等 |
1 | 訪問介護(生活援助中心型) |
---|---|---|
2 | 認知症対応型共同生活介護 (認知症高齢者グループホーム) |
|
3 | 介護予防認知症対応型共同生活介護 | |
4 | 特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム等) | |
5 | 地域密着型特定施設入居者生活介護 | |
6 | 介護予防地域密着型特定施設入居者生活介護 | |
7 | 福祉用具貸与 | |
8 | 介護予防福祉用具貸与 | |
9 | 複合型サービス(生活援助中心型の訪問介護の部分) | |
10 | 地域支援事業の訪問型サービス(生活援助中心のサービスに限る) | |
11 | 地域支援事業の通所型サービス(生活援助中心のサービスに限る) | |
12 | 地域支援事業の生活支援サービス |
医療費控除を受けるには
医療費控除に必要なもの
所得税の医療費控除を受けるには、確定申告を行う必要があります。
確定申告は、現在住んでいる地域を管轄している税務署に確定申告書を提出するか、郵送で確定申告書を送付することで行えます。
その際、医療費控除の対象となるサービスを受けたことを示す「領収書を基に作成した医療費控除の明細書」の提出が必要です。
「おむつ代」も申請すれば医療費控除の対象とされますが、それには、医師から治療を受けるために必要な費用であると認められたことを示す「おむつ使用証明書」が必要になります。
医療費控除のために必要なものは、主に以下の書類です。
- 確定申告書
- 源泉徴収票等
- 医療費控除の明細書(最寄りの税務署で取得するか、国税庁HPからダウンロードする必要があります)
- 医療費の領収書
- 交通費の領収書
離れて暮らす家族の分も合算できる
医療費控除のために申請する医療費や介護費は、家族内で合算することができます。
ただ、合算できるのは、「生計を一にする親族」のみです。
たとえ同居している親族であっても、収入があって経済的に自立して生活していると判断される場合は合算できません。
一方、“離れて暮らしているが経済的に自立していない親族”に仕送りをしている場合は、「生計を一」にしているとみなされる可能性があります。
仕送りの額や頻度にもよりますが、医療費と介護関連の費用について合算できるかもしれませんので、税務署で相談してみましょう。
高額介護サービス費を利用した場合
高額介護サービス費は、世帯内における介護サービスの自己負担額の合計が所定の上限を超えたとき、超過分を介護保険から払い戻されるという制度です。
例えば、「世帯内の誰かが住民税を課税されている」という世帯の負担の上限額は月額4万4,400円、「世帯の全員が住民税を課税されていない」という世帯の負担の上限額は月額2万4,600円となっています。
この制度にもとづいて払い戻しを受けた金額は、医療費控除の対象とはなりません。
所得税の医療費控除を申告する時期
介護保険制度の利用で医療費控除を受けたいときは、住んでいる地域を管轄している税務署に行き、確定申告を行う必要があります。
税務署に行く際は、記入間違いなどを指摘されたときにすぐに修正できるように、印鑑を持参するようにしましょう。
確定申告の提出期限は基本的には3月ですが、所得税が還付となる場合には1月からでも医療費控除を申告することができ、仮に期間中の提出が間に合わなくても5年間は医療費控除を受けられます。
誰が申告すればお得?
世帯内に所得税の納税者が複数人いるとき、医療費控除の申告は誰が行うと一番お得なのでしょうか。
基本的には、医療費控除の申告は、世帯内で所得が高い人が行うと有利になります。
事例を見てみましょう。
事例:所得500万円のAさんと所得300万円のBさんの場合
- 所得500万円のAさん
-
課税される所得金額(医療費控除額を引く前)が500万円だったとします。Aさんの医療費控除額が15万円だった場合、「課税対象になる所得金額」は385万円です。
「課税される所得金額」は385万円のAさんは、所得税率が20%になります。
医療費控除額×所得税率で、実際に戻ってくるお金を計算します。
そのため、15万円×20%=3万円が軽減される税額です。
- 所得300万円のBさんの場合
-
課税される所得金額(医療費控除額を引く前)が300万円だったとします。Bさんの医療費控除額が、15万円だった場合、「課税される所得金額」は285万円になります。
「課税される所得金額」は285万円のBさんは、所得税率が10%になります。
医療費控除額×所得税率で、実際に戻ってくるお金を計算します。
そのため、15万円×10%=1.5万円が軽減されます。AさんとBさんの事例からも、所得が高い人、つまり所得税率が高い人は、戻ってくるお金が多くなるためお得であることがわかりますね。
しかし、総所得金額等が200万円未満の人の場合は、これに該当しないケースもあります。
以下の事例を見てください。
事例:総所得額が100万円だった場合
総所得額100万円の方の場合、100万円×5%=5万円が、医療控除額を計算するときに、差し引かれる金額となります。
実際に戻ってくる金額は、医療費控除額×所得税率で計算するため、医療費控除額が高いほど、戻ってくるお金が高くなります。
総所得金額等が200万円以上の人の場合は、10万円を差し引かれるところを、総所得金額等が200万円未満の人の場合は、5万円で済むわけですから、お得になりますよね。
このように、総所得は200万円以下の方の場合は、所得が低い方の方が申告した方が良いケースもあるため、実際に計算してみることをおすすめします。
最後に注意点です。医療費の自己負担額が年間で210万円以上になるとき、210万円を超えた分については別の所得税納税者が確定申告を行うようにしましょう。
扶養控除について
どのような控除を受けられるのか
扶養とは「経済的な理由などで⽣活能⼒がない⼈の⾯倒をみること」という意味です。税法上、扶養親族がいる場合は一定の所得控除を受けられることになっています。
ただ、扶養親族が控除対象として認められ、所得控除を受けられるのは、その年の12月31日時点で16歳以上、かつ年間の合計所得が38万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)であることが条件。
障害者控除と併用できるので、合わせて申告すれば控除額はその分大きくなります。
扶養家族の区分と、控除額を以下の表にまとめました。
区分 | 控除額 | |
---|---|---|
老人(70歳以上) | 扶養親族同居老親等 | 58万円 |
同居老親等 | 以外の者48万円 | |
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | |
特定扶養親族(※) | 63万円 |
別居していても扶養親族とみなされることがある
別居している親族に仕送りをしている場合、扶養親族として認められる場合があります。
ポイントになるのは「生計を一にしている」とみなされるかどうかです。
離れて暮らしている親が、子どもからの仕送りを必要とせずに生活が成り立つような場合は、「生計を一にしている」とはみなされず、控除対象扶養親族とは認められません。
仕送りをしている場合でも、その額が小遣い程度で生活を支えるほどでなければ、同一生計とはみなされないのです。
障害者控除について
どのような控除を受けられるのか
要介護認定を受けている人が税法上の「障害者」とみなされると、「障害者控除」の対象となります。
障害者控除は、本人はもちろん、生計が同一である配偶者や扶養親族が障害者の場合も控除を受けられるのが特徴です。
控除額は比較的大きいので、要介護認定を受けた場合は、住んでいる市町村の介護保険課などに確認すると良いでしょう。
障害者手帳を持っていない方でも「税法上」は障害者と認められる場合があるからです。
ただ、注意すべきなのは、介護保険の要介護認定を受けているだけで自動的に税法上の障害者に該当する訳ではないこと。
障害者と認定されるには、下で述べるように別途定められている要件を満たしている必要があります。
以下の表では、障害者控除の区分と控除額をまとめました。
区分 | 控除額 |
---|---|
障害者が一人の場合 | 27万円 |
特別障害者(身体障害者手帳に身体上の障害が 1級または2級と記載されている人)に該当する場合 |
40万円 |
・控除対象配偶者の場合 ・扶養親族が 特別障害者の場合 ・納税者、またはその配偶者、生計を同一にする親族と 同居している場合 |
75万円 |
障害者控除の要件
障害者控除の要件は、以下の通りです。
- 常に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態にある人
- 児童相談所、知的障害者更生相談所、精神保健指定医、精神保健福祉センターの判定により知的障害者と判定された人
- 身体障害者福祉法の規定により交付を受けた身体障害者手帳に、身体上の障害があることが記載されている人
税法上では満65歳以上で、上記の3つに準ずると認められた人が、市区町村や福祉事務所長の認定を受けている場合に障害者控除の対象になります。
認定の基準は自治体によって異なりますが、介護保険の要介護認定を受けていることが要件に入っていることが多い傾向です。
しかし「要介護認定」と「障害者控除対象者認定」はあくまで別物。
要介護認定をされている場合でも、障害者控除対象者として認定されていなければ、障害者控除は受けられないため、注意しておきましょう。
扶養控除と併せて適用可能
障害者控除については、扶養控除と併せて適用することができます。
控除対象とする配偶者や扶養親族が障害者に該当するときは、配偶者控除あるいは扶養控除とは別に、障害者控除の適用を受けられるのです。
なお、16歳未満が対象となる年少扶養親族には、扶養控除は適用されませんが、障害者控除は適用されます。
所得控除は、扶養控除と障害者控除が併用され、控除のパターンが複雑になることが多いので注意が必要です。
社会保険料控除について
本人(納税者)、そして生計を一緒にしている配偶者や扶養親族の社会保険料を支払った場合、控除が受けられます。
それが「社会保険料控除」です。
例えば介護保険加入者は、介護保険料を納める義務がありますよね。年金受給額が一定以上の方なら、年金から介護保険料が差し引かれますが、そうでない方は納付書や口座振替で納める必要があります。
その際、介護保険料として支払った全額が控除の対象となります。
しかし、こちらも何もしなくても控除が受けられるわけではありません。
働いている場合は職場での年末調整、それ以外の場合は確定申告を行ってくださいね。
介護保険料が年金から天引きされている方は、日本年金機構などから発行される「公的年金等の源泉徴収票」によって、天引きされている金額を確認することができます。
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高額介護サービス費って何?
高額介護サービスとは、世帯内の介護サービスの自己負担額が上限を超えた場合、超えた分が介護保険から払い戻される制度です。
医療費控除はいつからいつまで?
医療費控除の対象期間は、その年の1月1日から12月31日の間に支払った医療費です。
医療費控除は何がいる?
医療費控除に必要な書類は以下のとおりです。
- 確定申告書
- 源泉徴収票
- 医療費控除の明細書
- 医療費、交通費の領収書
介護保険料はいくら払っているの?
65歳以上の介護保険料の平均は月額6,000円です。介護保険料は地域や年齢、収入などで異なりますが、年々増加傾向にあります。40〜64歳未満で会社の健康保険に加入している場合、給与の平均額から保険料を換算します。自営業で国民保険に加入している場合は、所得などから保険料を決めます。