認知症による暴言・暴力とは
認知症の方のなかには、暴言や暴力がみられることがあります。この症状は全ての人に表れるわけではありません。
認知症が原因で暴力をふるうようになるといっても、理由もなく叩いたり、暴れたりするわけではありません。健常なときには気にならないようなことが、認知症になると暴力の引き金になることがあるのです。
例えば、物を盗られたという妄想がある人は、「誰も盗っていない」と言われれば言われるほど「嘘をつかれている」と思い込みます。
また、そのときに「ボケたんじゃない?」というような自尊心を傷つけるような言葉をかけたりすると、さらに行動がエスカレートすることもあります。
直接的な暴力以外にも「大声を出す」や「物を投げる」、「介護者が傷つくような発言や性的な言動をする」といったことも症状として考えられます。
認知症による暴力は「周辺症状」の1つ
認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」に分かれています。中核症状は記憶障害や判断力障害など、脳の機能の低下により直接的に現れる症状をいいます。
周辺症状は本人の行動や心理状態によって現れる症状で、暴言・暴力は周辺症状に当てはまります。
症状の現れ方には個人差があり、認知症の進行具合や原因疾患によって周辺症状は異なります。
場合によっては中核症状よりも介護者の負担が大きい周辺症状ですが、適切な対応をすることで症状が落ち着く場合があります。
セクハラも暴力の一種
感情のコントロールが効かなくなる認知症では、セクハラ行為がみられることがあります。
特に男性に多いのが、介助の際に胸やお尻を触ったり、卑猥な言葉を浴びせたり、容姿を罵ったりするようなことが例として挙げられます。
また、下半身を露出するような逸脱行動がみられることもあります。これは施設介護だけでなく自宅介護でも起こりうることですから、介護者にとっては非常にショックな出来事です。
そのようなときはひとりで悩まず、必ずケアマネージャーなど第三者に相談しましょう。
認知症による暴言・暴力への対応方法
では、実際に暴力や暴言が起きてしまったとき、どのような対応をすればいいのでしょうか。
暴言や暴力に対する対応方法をいくつか紹介していきます。
認知症の症状だと理解して原因を探る
まず理解したいのは、暴力や暴言は認知症の症状のひとつだということです。
本人に悪気があるわけではないので、介護者は冷静に受け止めましょう。
一時的に距離をとるなどして、本人が落ち着いたときを見計らい、よく話を聞いて状況を理解してください。暴力に至った原因を探ることが重要です。
薬での治療を行う
まず、薬を服用する前に、身体的不調(感染症、痛み、便秘など)が不機嫌や暴言、暴力の原因となることがあるので、かかりつけ医の先生の診察を受けるようにしましょう。
その後、ケアなどの工夫で暴言や暴力が改善しない場合に薬の使用を検討します。
目線を本人に合わせて話を聞くだけでも認知症の方は安心でき、BPSDが和らぐことが期待できます。
メマリー
メマリーは、グルタミン酸の働きを抑制して神経細胞の興奮を抑え、精神を落ち着かせる薬です。もの盗られ妄想や興奮などの周辺症状に効果があり、介護者の負担を軽減する効果が期待できます。
しかし服用し過ぎると、活動量や意欲が極度に低下する場合もあるため、注意が必要です。
さらに、めまいや便秘などの副作用も出る可能性がありますので、副作用が見られたときは服薬量などを医師に相談しましょう。
漢方薬
漢方薬は、暴力や妄想などの症状が見られたときに効果的です。
他の抗認知症薬などは服用のし過ぎで身体機能が低下する場合がありますが、漢方薬は活動量を保ったまま症状を緩和させるため、本人の負担は少なくなります。
ただし、体質などによって効果は異なるので、医師と相談した上で漢方薬を決める必要があります。
向精神薬
向精神薬は、神経機能に影響を与える薬の総称であり、認知症の進行と症状を緩やかにする薬の他、睡眠薬や抗うつ薬なども含まれます。
向精神薬の主な種類・効果は次の通りです。
認知症薬の種類 | 効果 |
---|---|
抗不安薬 | 不安症状の軽減 |
抗うつ薬 | うつ状態の軽減 |
睡眠薬 | 不眠の軽減 |
抗精神病薬 | 興奮やいらいらの軽減 |
しかし、向精神薬のなかには、眠気や鎮静などの副作用や高血糖または糖尿病への投薬を禁忌する薬もあります。
医師や薬剤師に副作用や薬の危険性について詳しく説明をしてもらい、納得した上で服薬することが大切です。
周囲に相談する
認知症の方が暴言や暴力に訴えるのは、日頃の介護やちょっとした言動が本人にとって大きな負担になっているからと考えられます。
しかし、介護者は良かれと思っての行動ですから、本人が何を負担に感じているかに気づくことは容易ではありません。
そこで頼りにしたいのが、第三者の意見です。
普段は介護に携わっていない家族や親族、ケアマネージャーやかかりつけ医などに相談すると、解決の糸口が見つかることも多くあります。
「もうだめだ」と限界を感じて共倒れになってしまう前に、周囲の方々に相談してみてください。
また、暴言や暴力に悩む「認知症の家族会」も全国各地にあります。つらい思いを吐き出すことで気持ちが楽になることもあるので、是非利用してみてください。
病院の医療相談室
中~大規模の病院であれば、院内に医療相談室または地域連携室といった相談窓口が設置されています。
ソーシャルワーカーに受診先や在宅介護について相談ができます。
地域包括支援センター
介護や医療、福祉など高齢者を支える相談窓口である地域包括支援センターには、保健師(看護師)、社会福祉士、ケアマネージャーの専門の方が配置されています。無料で利用でき、必要なサービスや制度を教えてくれます。
認知症の方が住む市区町村の地域包括支援センターに相談をしましょう。
町の認知症地域支援推進員
認知症地域支援推進員は認知症に関する相談ができ、入院先の案内、認知症や精神科を受診できる病院などを紹介します。
認知症ケアパス
認知症ケアパスは認知症の状態に応じて適切なサービスの提供をまとめた一覧表です。
また認知症の軽度~重度までの症状の紹介、対応のポイントなども確認できます。市区町村の窓口、市のホームページなどで手に入れることができます。
注意をそらす
暴力は無理にとめるのではなく、ほかのことに関心が向くと自然に収まることがあります。
例えば、テレビをつけたり、好きな音楽をかけたりするのも良いでしょう。編み物やパズルなど、日頃から没頭できる趣味を促すのも効果的です。
また、介護者が付き添って散歩に出てみると、気分が変わって落ち着いてもらえます。興奮している原因から注意をそらす手段を見つけておくと、いざというときに役立ちます。
専門家に相談する
暴言や暴力を浴びせられたときに迷わず行動に移したいのが、ケアマネージャーやかかりつけ医に相談することです。
認知症による暴言や暴力の原因を素人が見つけるのは難しいですから、プロの力を借りるのが一番です。
認知症の種類によっては幻聴や幻覚が原因になることもあります。
プロならたくさんの事例を見てきているので、そんなときでも最適な予防策をアドバイスしてくれるはずです。
また、暴言や暴力の原因が体調不良ということも考えられます。
そうした不調の治療を行い、改善することで、認知症の症状が穏やかになるケースもあります。
大切なのは介護者ひとりが抱え込むのではなく、さまざまな立場の専門家の目で判断してもらうことです。
心理的・物理的な距離を置く
「大切な家族だと思って必死に介護を続けてきたのに、暴言を浴びせられたり、暴力をふるわれたりするなんて…」と、家族の方は、認知症が原因だとわかっていても、すべてを投げ出したくなることもあるでしょう。
そんなときは状況が許すなら、物理的、心理的な距離を置くという選択肢を考えてみてください。普通は誰かに暴言を吐かれたり、暴力をふるわれたりしそうになったら、その場から逃げ出したくなるものです。
ただ、相手が認知症の方で、しかも大切な家族となると、そう簡単に決断できないでしょう。
しかし、そのまま暴言や暴力を浴びせられていると、介護する側が心身ともに疲弊してしまいます。ほかに介護を任せられる人がいるなら、思い切って少しだけ介護から離れてみることが大事です。
ショートステイを利用する
介護を任せられる人がいない場合は、ショートステイを利用するのもひとつの方法です。
認知症の方による暴言・暴力は家族に出やすいため、介護者を変えてみて休息できる環境をつくるのも良いでしょう。
生活に慣れた自宅で介護者を変える場合は、訪問ヘルパーにお願いします。ヘルパーは認知症の方の対応方法を熟知しているので、安心して介護を任せられます。
ただし、ヘルパーを何度も変えてしまうと、認知症の方は不安を感じ落ち着きがなくなる可能性があります。顔なじみのヘルパーをつくって安心感を与えるのも大切です。
さらに、物理的な距離を置くだけでなく、意識的に「介護のことを忘れる」のも大切です。
精神病院への入院
認知症の方も一般病院への入院が可能です。ただし、認知症が重度であったり、暴言や暴力があったりすると、入院できない場合があります。
なお、専門的に認知症の方の入院を対応する病院もあります。
例えば、精神科のある病院は、認知症の方も入院できる医療機関のひとつです。精神科の医師、看護師は認知症に対しての理解もあるので、安心して任せられるでしょう。
そのほか受け入れ可能な病院に認知症疾患医療センターといった専門の病院があります。認知症の専門医や対応に慣れた看護師で成り立っており、医療相談や治療方針、地域の医療機関との連携を行います。
認知症の方が病院受診を拒否する場合は、自宅に訪問して治療をする施設もあります。
施設へ入居する
認知症の進行具合や症状の現れ方によっては、介護者の負担は膨らむばかりです。
特に周辺症状は、本人にストレスを与えないことや、不安な気持ちを取り除いてあげることが大切なため、介護者は丁寧に対応する必要があります。
しかし、介護者が我慢ばかりをして、限界が来る前に施設入居を検討しておくことが大切です。
施設によっては、認知症に詳しいスタッフが常駐しており、適切な対応やケアを任せられます。
施設入居を検討の際には「みんなの介護入居相談センター」をご利用ください。
やってはいけないこと
ここからは認知症による暴言や暴力に対してやってはいけないことを解説していきます。
力で対抗しない
暴力に対して最もやってはいけないのが力で対抗することです。自己防衛のために仕方がないときもありますが、力で押さえつけようとすると恐怖心を与え、ますます症状がひどくなるだけです。
怒鳴ったり、叱りつけても状況が悪くなるばかりで、何の解決にもなりません。
身の危険を感じたたきは、一度その場を離れましょう。興奮している相手に何を話しても通じないので、互いに距離をとって冷静になることが大切です。
身体拘束をしない
暴力行為が悪化したからといって、身体拘束をしても認知症の方にストレスを与えるだけです。そうしたストレスにより、さらに症状が深刻化し、介護者の負担が増えてしまうかもしれません。
たとえ、認知症の方の暴力や興奮状態が重くても、本人の尊厳を大切にする必要があります。
また、身体拘束は認知症の方の生活レベルを低下させ、健康状態が悪化したり認知症の進行を早めたりする可能性があるため、身体拘束は控えましょう。
警察を呼ぶときの判断基準
暴言や暴力がひどいときに警察を呼ぶときの判断基準として、介護者の命にかかわるときはすぐに警察を呼びましょう。
なお、認知症による行為であれば、責任能力がないと判断され、刑罰が与えられることが少ないです。
認知症による暴言や暴力が悪化した場合には、まずは市の福祉課や地域包括支援センターなど、周りの人に助けを求めるのがおすすめです。
支援サポートスタッフから施設入居への案内や、一時的な保護など、さまざまな対策を提案してくれます。
認知症ケアに特化した施設
認知症の進行は緩やかにすることはできますが、認知症を完全に治すことはできません。
症状が悪化していくと段々と在宅介護が難しくなります。事前に施設入居を検討しておくことが大切です。
グループホーム
グループホームは、認知症に特化した施設で、入居対象も認知症の方のみです。1ユニット5〜9人で共同生活を送り、一人ひとりに家事などの役割があります。
ほかの入居者と協力、職員にサポートしてもらいながら自立した生活を目指しつつ、認知症の進行を緩やかにします。
なお、介護職員は認知症の知識・経験が豊富です。ほかの施設だと認知症を受け入れていても、知識や経験が少ないかもしれません。日常生活のサポート以外にも精神的負担を和らげるなどのケアも丁寧に行います。
また、入居者同士のコミュニケーションも取りやすく、アットホームな雰囲気の中で過ごすため安心して暮らせます。
グループホームは施設と同じ市区町村に住民票がある方が利用できるので、事前に調べておくと必要になったとき、焦らず入居まで進めるでしょう。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探す介護付き有料老人ホーム
介護付き有料老人ホームは自立から要介護5までと、幅広く受け入れる施設です。そのため、重度の認知症の方や介護度の重い方であっても入居できます。
特に介護付きの種類のうち、介護専用型と混合型は24時間の介護サービスを受けられ、緊急時もすぐに対応可能です。
混合型であれば、夫婦の要介護度が違っても入居できるので、夫婦での利用を検討している人におすすめです。
介護付きは特養より施設数が多く、施設ごとで提供するサービスは異なります。レクリエーションやイベント、設備などから、自分に見合った施設を選べます。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す暴力・暴言の予防・改善策
認知症の症状だとわかっていても、身内による暴力・暴言は、家族にとっては非常にショックな出来事でしょう。
しかし、突然起こった暴言や暴力を未然に防ぐのは、難しい場合が多いのが実情です。同じことを繰り返さないようにするためにも、予防策や改善策を考えることが大切です。
相手の意思を尊重する
暴力や暴言を受けたら、一度その場を離れて落ち着いてから、何がきっかけで暴言や暴力に至ったのか、本人の話をよく聞き、状況をよく確認して不安や怒りの原因を探しましょう。
暴言や暴力を受けたことで介護する側が感情的になってしまっては元も子もありません。
最もやってはいけないのが、力で押さえつけてしまうことです。
男性が女性を介護しているときに起きてしまいがちですが、力で押さえつけても恐怖心を与えるだけで、改善するどころか症状がますますひどくなる可能性がありますので注意しましょう。
自尊心を大切にする
暴力と暴言が起きる前に日頃から意識して取り組んでおきたいのが、「関わり方について考えること」です。
何かやってほしいことがあるときに、本人の気持ちを無視して無理やりやらせようとしていないか、本人がやりたいことを力ずくで抑え込もうとしていないか、今一度考えてみましょう。
また、無意識に本人の自尊心を傷つけている場合があります。本人が提案したことを現実的でないからとすぐに否定したり、「ひとりでできますか?」「大丈夫ですか?」と過剰に心配したりするのはよくありません。
さらに、声かけをせずに体を触ったり、イライラした状態で介護にあたったりすると、介護される側に恐怖心や負の感情が芽生え、暴言や暴力につながる可能性があるので注意してください。
ルーチン化療法
認知症の症状である行動を繰り返す、こだわりを活用したルーチン化療法があります。在宅介護でも実践できる方法で、生活の中で困る行動を認知症の方がストレスに感じない程度に変えます。
例えば、毎日同じ時間に散歩に行き必要でない物を買って帰る常同行動をする場合は、散歩の時間をデイサービスの利用に変えるといったことです。
新しい行動をするときは、認知症の方の性格や生活環境から向いているものを選びましょう。ルーチン化療法の作業は編み物や折り紙、塗り絵、パズル、おやつ作りなど色々あります。
集中できているか、楽しみながら作業しているかといった作業の様子を観察しましょう。認知症の方が楽しいと思いながら続けることが大切です。
認知症による暴力・暴言が起きる原因
認知症の暴力や暴言は、本人を取り巻く環境のなかで、さまざまな要因が重なって起こっているケースが多くあります。
日常で起こりうる暴力・暴言の要因とは何なのか、下記にまとめています。
感情のコントロールができない
認知症が進行すると突然暴言を吐いたり、殴りかかったり、物を投げたりする症状がみられることがあります。
目の当たりにした介護者はただ驚くばかりですが、本人のなかでは不安や恐怖がストレスとなって渦巻き、感情が抑えられなくなった末の行動という可能性があります。
認知症を発症すると脳の機能が低下して感情のコントロールができなくなることがあり、これが暴力や暴言に至る原因のひとつとされています。
ストレスを受けることで症状がでることもある
暴力や暴言が見られる方の多くは、感情の抑制を司る前頭葉の障がいにより、少しのストレスを感じただけでも感情が爆発してしまうのです。
例えば入浴介護の際、突然服を脱ぐことに恐怖や羞恥心を感じて暴言を吐いたりすることがあります。
また、かかりつけ医のところへ行く途中で、突然暴れだして手がつけられなくなるようなことも起こりうるケースです。
これらは本人の性格や意志に関係なく起こるため、「あんなにおとなしい人だったのに…」と、認知症を発症する前の姿を思い浮かべてショックを受ける介護者は少なくありません。
一度、感情のコントロールができなくなると、「落ち着いて!」と大声を出せば出すほどパニック状態に拍車がかかるため、冷静な対応を心がける必要があります。
否定された・自尊心を傷つけられた
認知症を発症している方のなかには、「そんなことない」「大丈夫だ」と言うのとは裏腹に、自分の認知機能が衰えていることを自覚している方が多くいます。
そのため、過度に心配されたり、腫れ物に触るような対応をされたりすると自尊心が傷つき、暴言や暴力につながる可能性があります。
毎朝散歩に出かけるのが日課だった人に「ひとりで大丈夫ですか?」「一緒に行きましょうか?」など、何気なく口にしたひと言が引き金になることもあるのです。
無意識の発言に注意する
前述した通り、認知症による暴言や暴力は介護者の何気ない発言で起きることがあります。
介護者からすれば、悪気なく、本人のためを思って言ったのですから、それが暴言や暴力につながったとは夢にも思いません。そのため、「いきなり暴言を吐かれた」「急に暴れだした」と感じてしまうことが多いのです。
例えば、ある日突然、自分に相談もなく自宅の家具の配置を変えられたり、日常的に行っていた畑仕事を危険だからと禁止されたり、ケアマネージャーと名乗る見ず知らずの人にあれこれ質問されたりすると、人はどう思うでしょうか。
認知症でなくても、嫌な気持ちになってしまうことは容易に想像ができます。その感情が暴言や暴力に発展する可能性は、十分にあります。
認知症患者の介護では、「あなたのためにした行動」が暴言や暴力の原因になることもあるのです。
不安を感じた
認知症の症状のひとつとして「自分の置かれた状況が理解できなくなる」ことが挙げられます。
たとえ理解できたとしてもすぐに忘れてしまうことから不安を感じ、その不安を解消するために暴力に訴えます。
例えば、いつものように入浴介助のために服を脱がそうとすると、突然暴れだすようなことがあります。これはお風呂に入るという状況が理解できず、服を脱がされる行為に抵抗して暴れていると考えられます。
また、かかりつけ医に行く途中で暴れることなども同様で、どこか知らないところへ連れていかれるときに不安を感じるのは当然です。
特に、病院や歯医者など本人があまり好まない場所に行くときは、「好まない」という感情的な記憶は残っているため、暴力に訴える可能性が高くなります。
認知症の方の気持ちに寄り添って対応することが大切
認知症の方は認知機能の低下により、今の状況を把握することが難しくなります。不安な様子が見られたら、介護者は否定せずにしっかり話を聞いてあげることが大切です。
そして、話に共感をして受け入れて、認知症の方を安心できる環境を整えましょう。
また、本人の心に寄り添った対応も必要です。今までのように物事を進めることは困難ですが、介護者は急かさずに本人のペースに合わせて見守ることが大切です。
薬の影響
認知症による暴力は、薬の影響で起きることもあります。
例えば、認知症の治療薬として多くの方が服用している「ドネペジル塩酸塩」の主な副作用は食欲不振や下痢、便秘、嘔吐などですが、暴力や徘徊、幻覚などのBPSD(周辺症状)がより強く現れることがあります。
薬の飲み合わせには注意する
複数の薬を併用している方も要注意です。
高齢者の場合、認知症の治療薬以外にも向精神薬や高血圧、脂質異常症、糖尿病などの薬をあわせて飲んでいることが多く、いわゆる「飲み合わせ」が悪いと暴力などの副作用がでることがあります。
毎日たくさんの薬を飲んでいる方は薬の数を減らすことで症状の改善を見込める可能性があります。ただし、個人で勝手に判断するのではなく、必ず処方された医療機関と相談しながら減らすようにしましょう。
認知症のタイプによるもの
前述した原因以外でも、認知症による暴言や暴力は認知症のタイプによって強く現れることがあります。
認知症のタイプのなかでも、前頭側頭型認知症では特に衝動的な暴力行使が起こりやすいとされています。
ほかにも、血管性認知症では、感情がうまく抑えられず、暴力などの行動を起こしやすくなります。
レビー小体型認知症では、幻視に伴う妄想があり、それに対する対処行動である可能性があります。
このようなケースもありますので、広い知識を持ち、冷静に状況を判断することが必要です。
- 認知症による暴力は不安、否定、薬の影響など
- 向精神薬で暴力を抑えられることがある
- 認知症の悩みは、病院や地域の相談窓口へ
- 定期的に介護サービスを利用する
- 認知症の状態によっては入院を断る病院もある
- グループホームは認知症に特化した介護施設
- 相手の意思を尊重し、力で抵抗しない
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認知症が暴力的になるのはなぜ?
認知症によって脳機能が低下し、感情のコントロールが難しくなることで、暴力的になります。感情をコントロールする前頭葉に障害が起きて、今までなら我慢できていたことに対しても、イライラして暴力行為をします。
また認知症の方が理解されていないまま、物事が進むことに対し不安を感じ暴力が出るケースもあります。
認知症が攻撃的になるのはなぜ?
認知症の方が攻撃的になる原因は、感情を抑制する前頭葉の障害によって、感情のコントロールが難しくなることです。
ほんの少しのストレスを感じただけでも、暴力や暴言につながる場合があります。さらに自尊心を傷つけられたり、不安を感じたりすることでも攻撃的になります。
認知症の人の最期はどうなる?
認知症の末期症状は、記憶障害はさらに進行し家族の名前や顔が認識できなくなります。さらに住み慣れた自宅の部屋もわかりません。
意欲が低下し外出する時間が減っていき、引きこもりとなる場合があります。感情が外に出ることもなくなり、声をかけても反応しないこともあります。
認知症の人はなぜ怒りっぽい?
認知症の方が怒りっぽくなるのは、感情の抑制が難しくなるためです。感情をコントロールする前頭葉がうまく機能しなくなり、小さなストレスでも攻撃的になります。自分が置かれている状況を理解できず不安となって怒ったり、否定的だと感じたことで暴力・暴言を出したりします。