退院後の生活場所を決める際の確認事項
高齢になり、怪我や病気などで入院をしたことをきっかけに、介護が必要となるケースは少なくありません。
こうしたときに家族が考えなければならないのが、退院後の暮らしをどうするかという点。
選択肢は「施設介護」と「在宅介護」の2つで、どちらの場合も状況に応じた準備が大切です。
入院による体への影響・変化
高齢者の中には、入院後、身体機能や認知機能が低下したり、自立した生活が難しくなるケースが少なくありません。
入院による心身へのストレスがきっかけで身体面や精神面の衰えが進行する場合があります。
家族はどこまでケアできるか
高齢者が「退院後も自宅で暮らしたい」という希望を持っている場合、家族による在宅介護が可能かどうかが大きなポイントです。
食事の用意や掃除、洗濯、買いものといった日常生活支援は基本となるでしょう。
そのうえで、本人の状態に合わせて胃ろう管理やたんの吸引、褥瘡ケア、カテーテル管理、インスリン注射など、医療的ケアが必要な場合が考えられます。
医療や介護の必要性はケースバイケースのため、家族がどこまでカバーできるかを話し合っておくことが大切です。
本人の意向
QOLは実現できるか
日本語で「生活の質」または「人生の質」とも呼ばれているQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の実現に向けたサポートは、介護において非常に重要な考え方となっています。
医療や介護を受けながらであっても、本人の希望に沿った生活を支える意識が大切です。
退院後は在宅介護を続けながら、以前の日常生活を取り戻したり、新たに社会参加の機会を作ったりしながら、本人の生き方を応援する取り組みを続けましょう。
退院までに確認するチェックリスト
高齢者が退院してからは忙しくなりがちなので、住宅設備の準備や事前にできる申請などは可能な限り終わらせておくのがおすすめです。
また、何か起きた場合のために、かかりつけ医、歯科医師、薬剤師を確認し、連絡先をメモしておきましょう。
以下の「退院までに確認するチェックリスト」を見るようにしましょう。
- かかりつけの医師・歯科医師・薬剤師(薬局)の名前と緊急の連絡先をメモする
- 持病や怪我について、分からないことや不安なことを担当医に聞く
- 介護保険を適用して使えるサービスを調べておく
- 入院中に介護認定を受ける
- 介護サービス類の申請手続きを終えておく
- ベット・お風呂・トイレなどの自宅で療養できる設備を整えておく
- 保険適用内でどんな福祉用具を購入または借りることができるか調べておく
- 頼りになるケアマネージャーを探して、退院する前に事前相談しておく
退院後の不安な点
利用可能な相談窓口は何があるか
退院後の生活が不安だったり、自宅でどの程度医療や介護が必要かわからない場合は、入院先の地域連携室に相談しましょう。
医療福祉相談室という名称の場合もあり、患者の医療面や生活面、経済面などの相談を医療ソーシャルワーカーが受け付けています。
本人や家族からヒアリングをした内容をもとに、希望に合わせてほかの医療機関や介護事業所、行政の窓口などに連携してサポートしています。
退院後に不安な点を洗い出すチェックリスト
退院する前には、医師や看護師、薬剤師に今の状況についてしっかりと聞いておくことが重要です。
退院した後にお世話になる予定のかかりつけ医や介護福祉士、施設の職員、介護スタッフにも相談できるように、事前に不安な点を洗い出して整理しておくことをおすすめします。
医療面 | ・酸素吸入や痰の吸引といった医療ケアは必要か ・麻痺や痙攣など、急に具合が悪くなる可能性はあるか ・薬の量はどれくらいで、飲むタイミングはいつか ・飲み込みやすいものなど食事で気をつけることはあるか |
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生活面 | ・入浴や排泄方法で気をつけることはないか ・今後も通院する必要があるか ・玄関や廊下で通れない場所はないか ・ベッドやお風呂に必要な福祉用具はあるか |
家族が把握して おきたいこと |
・退院後はどんなサービスが使えるか ・家族や周囲へ迷惑をかけることがあるか ・経済的な負担はどれくらいか |
身体状況に応じて施設・在宅かを選ぶ
骨折などで歩けなくなり、リハビリが必要な場合
入院中に衰えた身体機能を改善して、退院後の生活に必要な運動機能の維持を目指すには、リハビリが重要となります。
退院後にリハビリを行う場合、「訪問リハビリテーション」と「通所リハビリテーション」の2種類に分かれます。
訪問リハビリテーションは、リハビリの専門家が自宅に訪問するタイプです。
一方で通所リハビリテーションは、半日または日帰りで病院や介護老人保健施設などに通って機能訓練を受けるタイプです。
医師・歯科医などによる療養上の管理や指導が必要な場合
自宅で病気療養をしている人のうち、通院が難しい場合は介護サービスの中の「居宅療養管理指導」が利用できます。
要介護状態の高齢者が自宅でできるだけ自立した生活ができるように、医師や歯科医師、薬剤師や介護士、歯科衛生士や管理栄養士が自宅を訪問して、本人やその家族に対して療養管理や指導を行うことが、居宅療養管理指導の目的です。
こちらは介護保険適用で、自己負担額は原則1割で利用できます。
認知症に対する専門的なケアが必要な場合
認知症の診断を受けている人は、住み慣れた地域で暮らしながら介護を受けられるサービスがあります。
「認知症対応型通所介護」は、認知症の高齢者が日帰りで通所して、食事や入浴などの介護や機能訓練を受けます。
また、一般的にはグループホームと呼ばれているのが「認知症対応型共同生活介護」です。
少人数でアットホームな雰囲気の中、認知症ケアの専門スタッフのもと共同生活を送ります。
食事や掃除などの家事を分担しながら、生活リハビリを通して症状の進行緩和を目指す施設です。
在宅介護のメリットとデメリット
次に家族による補助や訪問介護を利用する在宅介護のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
メリット
まずはメリットから見ていきましょう。
被介護者(高齢者)の メリット |
・家族や友人が近くにいる安心感がある ・慣れ親しんだ家で、マイペースに過ごせる ・排泄や入浴などの際はプライベートが守られる ・自宅で最期まで過ごせる場合がある ・買いものや介護施設などに好きなタイミングで行ける |
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介護者(家族)の メリット |
・施設入居よりは費用が少なく済むことが多い ・細かな要望にも柔軟に対応できて、最期までそばにいられる ・どんな状況かを常に把握できるので心配が少ない |
在宅介護は慣れ親しんだ自宅でゆっくりと過ごせることが一番のメリットになります。
生活の自由度が高く、基本的には今まで通り過ごせるのでストレスが少ないでしょう。
デメリット
続いて、デメリットを見ていきましょう。
被介護者(高齢者)の メリット |
・急に症状が悪化した場合は、知識のあるスタッフがそばにいない ・痰の吸引や点滴など、どこまでの医療ケアが自宅でできるか分からない ・専門知識がない家族による介護は転倒や落下の危険性が高い ・家族だからこそ気を遣ってしまうことがある |
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介護者(家族)の メリット |
・施設に比べると、家族が介護する負担は増える ・間違った介護をしてしまう可能性がある ・バリアフリーや福祉用具購入など、経済的な負担がかかる ・同居する家族は気軽に外出できない |
メリットがある一方で、家族の介護がメインとなる在宅介護では医療ケアに限界があり、緊急時にすぐには対応できないことが多いです。
また、介護をする家族には、時間的にも身体的にも負担がかかるうえに、ある程度のお金が必要になることから、ストレスが倍増する恐れがあります。
在宅介護で受けられるサービス
在宅介護では家族が中心となって介護を行うので、介護する側もされる側も一人で抱え込んで悩んでしまうケースが少なくありません。
そのため、在宅で受けられる介護サービスなどをうまく使いながら、負担を軽くするのがおすすめです。
訪問介護(ホームヘルプサービス)
訪問介護とは、ホームヘルパーが直接自宅を訪問してくれるサービスです。
排泄補助や歩行補助といった身体介護だけでなく、掃除や洗濯、食事準備といった生活援助までしてくれるので、身の回りのことが自分でできない場合でも任せられます。
訪問入浴介護
訪問入浴介護は、「高齢者専用の浴槽」がついている車で自宅まで訪問してくれるサービスです。
看護師と介護スタッフが2〜3人で入浴をサポートします。自宅の浴槽に入れない場合や家族が入浴補助をできない場合に役立ちます。
訪問リハビリ
訪問リハビリとは、要介護認定を受けた人のお宅にリハビリの専門家が訪問し、リハビリサービスを提供する介護保険適用のサービスのことです。
利用者の心身状態に合わせて、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが訪問します。
また、リハビリ以外にも、福祉用具を利用する際や自宅の生活環境・介護環境に関する助言、家族からの介護に関する相談などにも対応し、在宅介護をしている世帯にとっては心強いサービスです。
デイケア(通所リハビリテーション)
デイケアとは介護保険サービスの一種で、要介護認定を受けて在宅生活を送っている高齢者が、病院や診療所、介護老人保健施設などに通って、日帰りでリハビリや食事、入浴などのサポートを受けるサービスです。
要介護状態となり、リハビリテーション病棟などから退院して在宅復帰したものの、引き続きリハビリを行いたい方や長期的なリハビリを必要とする方に適した介護サービスと言えるでしょう。
通所介護(デイサービス)
デイサービスとは、自宅から通所介護事業所に日帰りで通い、生活向上のための支援をしてくれるサービスです。
日常生活の支援だけでなく、生活向上のための機能訓練や人と触れ合えるイベントなどがあるので、孤独感の解消にも繋がります。
小規模多機能型居宅介護
小規模多機能型居宅介護は、介護保険の地域密着型サービスのひとつで、同じ事業者が「通所」「訪問」「泊まり」を一体的に提供する点が特徴です。
居宅サービスにおける通所介護、訪問介護、ショートステイは、事業者ごとに契約を結ぶのが基本となります。
しかし小規模多機能型居宅介護は、毎月定額で費用の心配なく、これら3つのサービスを1つの事業者から受けることができます。
退院後、すぐに自宅に戻りたいという方にとっては、最適なサービスのひとつだと言えるでしょう。
ショートステイ
ショートステイとは、介護施設に短期間だけ入居し、食事や入浴などの介助やリハビリテーションを受けるサービスのこと。
大きく「短期入所生活介護」と「短期入所療養介護」の2つに分けられ、「短期入所生活介護」は食事や入浴などの生活支援がメインで、「短期入所療養介護」では日常的に医療ケアが必要な方が医療サービスを受けられます。
ご家族が一時的に介護から解放されて休息を取るという意味でも、ショートステイが役立ちます。
また、将来的に施設入居を検討している方は、実際に入居を経験することで自分に合った施設を見つけられる良い機会にもなります。
施設入居のメリットとデメリット
まず、施設に入居する際のメリット・デメリットについて、詳しくみていきましょう。
メリット
入居する高齢者のメリット | ・知識のある介護スタッフがサービスを提供するため、介護面で安心できる ・リハビリに取り組める施設もある ・イベントやレクリエーションなどの楽しみができる ・ほかの入居者との交流が増え、家族以外のコミュニティができる |
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家族のメリット | ・介護の負担が大幅に減る ・緊急時に焦る心配がない ・24時間介護なので、自分が対応できない時間でも安心 |
豊富な施設があるため、リハビリを受けたい場合やイベントを楽しみたい場合など、入居者の希望に沿った施設を見つけやすいです。
なにより、家族の負担が大幅に減ることは最大のメリットです。
時間や体力が必要となる介護分野において、24時間プロに任せられるのは安心です。
デメリット
入居する高齢者のデメリット | ・家族と離れて暮らすため、気軽に相談できる相手が少ない ・入居者同士の相性など、集団生活でのストレスがある ・風邪や感染症のリスクが高まる ・1日のスケジュールがある程度決まっているので自由に行動しにくい |
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家族のデメリット | ・高額な費用が必要になるケースがある ・会えるタイミングが限られる ・入居までの手続きや退去の際の手続きが大変 |
施設入居は集団生活になるので、コミュニケーションが苦手な方や自分の意思を伝えられない方には、大きなストレスとなる可能性があります。
また、家族にとっては費用負担が厳しい場合も。
安い施設はすぐに入居できないことが多く、手続きや申請など、入居までに時間もかかります。
施設に入居したら受けられるサービス
家族による介護が難しい場合、在宅介護ではなく老人ホームなどの施設介護を検討する必要があります。
具体的にはどのような入所施設があるのでしょうか。
ここからは、主な老人ホームの特徴をひとつずつご紹介します。
公的施設の場合
特別養護老人ホーム
略して「特養」とも呼ばれていて、要介護度3以上の認定を受けている方が入居対象です。
公的施設のため、介護保険を使えば低料金で本格的な介護が受けられます。
看取りまで対応可能なことから、終の棲家としての人気が高い施設です。
特養に即入居は難しい
ただし、特養は待機者数の増加のため、希望してもすぐに入居できるわけではありません。
以下のグラフからも、要介護度の高い方の入所申込者数が増えていることがわかります。
介護老人保健施設
一般的に「老健」と呼ばれている介護老人保健施設では、退院後すぐに自宅での生活が困難な方を対象に、数ヵ月間入所してリハビリを行う施設です。
年単位で入居する老人ホームが多い中、老健の入所期間が短いのは在宅復帰を前提としているから。
施設では、理学療法士や作業療法士などリハビリのスペシャリストによる機能訓練を実施しています。
民間施設の場合
介護付き有料老人ホーム
要介護度の高い方や認知症の方でも介護保険を利用して定額利用できる老人ホームです。
中には看取りに対応している場合もあるため、「終の棲家」として入居を検討する人も少なくありません。
施設では介護保険サービスを中心に、介護職員による服薬管理や褥瘡のケアなど、医療的ケアも受けられることがポイントです。
入居金は0円~580万円、月額料金は15.7万円~28.6万円が相場となっています。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す住宅型有料老人ホーム
要介護1~2の方を中心に、自立状態から要介護度の高い方まで幅広い高齢者を受け入れています。
施設によっては認知症患者に対応しているところもあります。
利用者ごとに必要な介護サービスだけを選べるため、無駄のない介護プランが可能です。
また、入居者同士のコミュニケーションが盛んで、イベントやレクリエーションが充実しています。
入居金は0円~21万円、月額料金は9.6万円から16.3万円が目安です。
【図解】住宅型有料老人ホームとは?入居条件や特徴・1日の流れを解説
住宅型有料老人ホームを探すサービス付き高齢者向け住宅
サービス付き高齢者向け住宅は、自立の方・比較的介護度の低い方が入居する、シニア向けの住宅です。
一人暮らしは不安な方も、食事や生活相談サービスを受けながら安心して暮らせます。
「サ高住」とも呼ばれていて、一般的な老人ホームが利用権方式なのに対して、賃貸物件であることが特徴です。
一般型の場合、必要な介護サービスは外部の介護事業者と契約して利用します。
サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)とは?入居条件や食事・認知症対応を解説(有料老人ホームとの違いも)
サービス付き高齢者向け住宅を探す認知症の方はグループホームもおすすめ
認知症患者を受け入れている小規模な共同生活施設です。
入居者は認知症の方のみで、日常の家事や買いものを各人の能力に応じて分担しながら生活リハビリを行います。
なお、施設の所在地に住民票がある方が入居対象となっているため、注意してください。
入居金は0円~15.8万円、月額料金は10万円から14.3万円が相場となっています。
【図解】グループホームとは?入居条件や認知症ケアの特徴・居室の種類を解説
グループホームを探すまとめ
退院した後の選択肢としては、介護施設で専門スタッフに介護を受ける「施設入居」と家族が中心になって自宅で介護を受ける在宅介護の2種類に分けられます。
どちらを選ぶとしても、一人ひとりの病状や希望に沿った適切な介護をすることが大切。
そのためには、さまざまな専門家や機関に協力してもらいながら、介護サービスを積極的に利用していくのがおすすめです。
特に在宅介護では、一見今まで通りの生活ができるように見えても、時間・お金・体力が削られていくため、日々小さなストレスが積み重なっているケースも。
退院後に在宅介護をする予定の方は、将来的に施設入居をするという選択肢も考えておきましょう。
他の人はこちらも質問
老健はいつまでいられるか?
老健は原則3ヵ月までの入居となっています。
利用者の在宅復帰を目的としているため、長期的な入居はほとんどありません。しかし、3ヵ月ごとに行う入退所判定により、在宅復帰が難しいと判断されれば、そのまま入居できます。
在宅の生活可能レベルまで回復したと判断された場合は退所となります。
老健から在宅復帰までの平均期間は何ヵ月?
老健の平均的な入所日数は1年ほどです。3ヵ月以内で在宅復帰まで回復される方は少なく、多くの方が1年以上入所しリハビリをしています。
早期退院はなぜ?
現代の医療制度では2週間以内の退院を推奨、高い治療レベルによる長期入院の不要、病院の機能維持のため、早期退院に感じます。特に2週間以上の入院は、1日の費用が下がってしまい病院が得る利益も少なくなってしまいます。
そのため早期治療を進めて、退院を促す方法が主流となりました。
介護認定を受けるとどうなる?
要介護認定を受けると、デイサービスやヘルパーなどの介護サービスを受けられます。要介護認定は要支援1・2、要介護1~5に分類されます。
要支援は要介護を予防する介護予防サービス、要介護は介護の必要な方の支援を行う介護サービスを利用できます。