軽度認知障害(MCI)とは

認知症まではいかない状態でも、認知症になる可能性のある、いわゆる認知症予備軍の数が年々増加しています。
このような状態を「軽度認知障害(MCI)」と呼びます。
軽度認知症の定義は、軽度の記憶障害や注意力の低下がみられるものの、一般的な認知機能に問題がなく、日常生活への影響がないことです。
症状については、周りの対応などで回復する場合もあり、周りの人は回復したかな、と思い込むこともあります。
認知症とそうではない人の間のグレーゾーンの部分に、軽度認知症は位置しており、個人で判断することは非常に難しいです。
認知症への移行率
軽度認知症は、5年以内に50%近くが認知症に移行するといわれています。年間で計算すると、5〜15%の割合で認知症へ進行しています。
一方で、認知機能が正常に戻る人の割合は14〜44%です。このように、軽度認知症の方、すべてが認知症へ移行するとは限りません。
軽度認知障害の段階でも症状が落ち着いていることもありますが、早期発見・治療をして認知症を防ぐことが望ましいです。
軽度認知障害は2種類に分かれる
軽度認知症は、健忘型MCIと非健忘型MCIの2種類に分けられます。
違いとして、記憶障害があれば、健忘型MCIに当てはまります。健忘型MCIは、アルツハイマー型認知症や血管性認知症になる確率が高いといわれています。
一方、非健忘型MCIは記憶障害がなく、注意力や判断力が低下します。将来、血管性認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症になる確率が高いです。
認知症との違い
軽度認知障害と認知症との大きな違いは、自立した生活を送れるかということです。
例えば、人の名前が思い出せなかったり、同じ質問を何度も繰り返したりすることは加齢によっても起こり得ます。
認知症になると、これらが頻繁に起こり、物忘れしたことすら忘れるような状況になってしまいます。
軽度認知障害は「もの忘れ」の自覚がある
認知症と比較して、軽度認知障害の方の多くは物忘れの自覚があるため、大切な約束はカレンダーにメモしたり、冷蔵庫に注意書きを貼ったりして、自ら対策をすることができます。
食事やお風呂、トイレ、着替えといった生活の基本となる動作は、自立した生活をするための必須条件のようなもの。
認知症を発症すると、このような動作が次第にできなくなっていきますが、軽度認知障害の場合はほとんどの方が無理なく行うことができます。ただし、MCIでも複雑な作業などはできなくなることもあります。
軽度認知障害の症状と原因
ここからは軽度認知障害の症状とその原因を解説していきます。
軽度認知障害の初期症状
軽度認知障害は、アルツハイマー型認知症などの認知症へ移行する前段階である可能性のほか、うつ病や身体疾患など認知症以外の原因による認知機能障害をみている可能性もあります。
原因は単一でないため、可能な限り、MCIの原因疾患について鑑別しておくことが重要です。
症状は、アルツハイマー型認知症の初期症状と同様、物忘れなどの「記憶障害」、物事を順序立てて行えなくなる「実行機能障害」などがみられます。
軽度認知症でみられる初期症状は、会ったばかりの人の名前を思い出せない、同じ質問を何度も繰り返すことがあります。
また、会話の途中で何の話をしているのかわからなくなる、スケジュールやお金の管理ができないといった症状もみられます。
そして、趣味に興味が持てない、仕事や料理が手際よくできない、疲れやすくなったり何事もやる気が出なくなったりすることもあります。
セルフチェックリスト(診断テスト)
ご家族で下記のような症状が見られたら、軽度認知障害の可能性があるかもしれません。
- 1日のうちに同じ会話を何度もすることが多くなった
- 短時間で同じ質問を何度も繰り返す
- 掃除や料理の段取りが悪くなってスムーズに行えない
- 外出するときに服装や髪型がちぐはぐでも気にしない
- 最近会った人の名前や、仲の良い人の名前をなかなか思い出せない
- ものを置いたらすぐにどこに置いたか忘れることが増える
- 道に迷う
思い当たる症状がある場合には、まずはかかりつけ医に相談しましょう。
軽度認知障害になったかどうかの判断は、病院での診察と検査が必要なので、そこで専門機関を紹介してもらえるはずです。
「いつもと違う」という違和感を持ったら、なるべく早く病院に行きましょう。
軽度認知障害の原因
軽度認知症の原因は人によってさまざまです。
アルツハイマー病が原因の場合、脳のなかにある「アミロイドβ」という不要なたんぱく質が溜まっていることが原因とされます。
また、レビー小体型認知症であれば脳に蓄積したレビー小体が神経細胞を消失させることが原因です。
その他に、うつ病や脳血管疾患、甲状腺機能低下症が原因で軽度認知症を発症する場合もあります。
軽度認知障害の検査と診断基準

軽度認知障害の検査方法
軽度認知障害は、最終的には医師による問診や認知機能検査、脳画像検査などの結果から、総合的に判断されます。
診断基準は、「認知機能レベルの低下がある」「認知領域での障害が1つ以上ある」「生活機能が自立している」「認知症とはいえない」の4つです。
また、医師による診断の根拠となる検査には、いくつか種類があります。日本では、問診や計算、簡単な実技を行う「改訂版長谷川式簡易知能評価スケール」や「ミニ・メンタルステート試験(MMSE)」が、一般的な認知機能検査として実施されます。
そのほか、尿検査や血液検査、胸部X線写真に代表される一般内科学的検査、脳の形態や機能を調べる脳画像検査、アルツハイマー型認知症との関連を調べる脳脊髄液検査などが行われます
MCIスクリーニング検査
MCIスクリーニング検査は採血をして、血液中のたんぱく質を調べることによって検査します。少量の採血でできる簡単な検査であり、30分程度で終わるため、本人の負担なく検査が可能です。
検査結果は検査後2〜3週間ほどで受け取ることができ、結果から生活習慣を見直して、認知症への予防をすることが可能です。
ただし、健康保険の適用外となるため注意しましょう。費用は病院ごとで異なりますが、3万円ほどかかります。
ApoE遺伝子検査
ApoE遺伝子検査は、アルツハイマー病の原因であるアミロイドβの蓄積を司るApoE遺伝子の型を調べます。
検査方法は少量の採血を行い、数週間で結果を受け取れます。
ApoE遺伝子には3種類の型があり、この検査ではどの遺伝子の型をもっているのか判定します。
型によっては、最大12倍程度の発症リスクがあるといわれています。しかし、発症リスクは生活習慣を改善することで、リスクを軽減することができます。
脳画像検査
脳画像検査にはいくつか種類があります。
MRI(核磁気共鳴画像法)やCT(コンピュータ断層撮影)を使った検査は、怪我の場合でも行われることがあるので、ご存知の方も多いはずです。
ほかにも、脳の血流を調べる脳血流SPECT検査、脳の糖代謝を調べる糖代謝PET検査などが行われています。
また、MCIでは、うつ病や脳血管疾患、甲状腺機能低下症などが原因となることがあるため、これらの病気の可能性を検査で除外していくことが重要です。
そのため、脳画像検査では脳血管障害の有無を確認したり、血液検査では甲状腺機能を確認したりすることがあります。
軽度認知障害の治療方法
続いて、もし軽度認知障害と診断されたときにどのように治療を行っていくのかを解説していきます。
早期発見、早期治療が重要
軽度認知障害と診断されても、その段階で治療をすることにより、認知機能の低下や認知症への移行を予防・遅延できることができます。
そのためには本人はもちろん、家族が軽度認知障害に関する知識を持つようにしましょう。家族に少しでも異変がある場合は、できるだけ早い段階で医師の診断を受けてください。
「まさか」ではなく、「もしかして」という意識を持つことが大切なのです。
軽度認知障害の治療薬
軽度認知症で使う治療薬は認知機能改善薬で、主にコリンエステラーゼ阻害薬であるアリセプトを使用することが多いです。
アリセプトは記憶障害の中核症状に作用し、認知機能の改善を図るだけでなく、アセチルコリンにも働きかけます。
認知症になると、神経伝達物質であるアセチルコリンが減少します。アセチルコリンは記憶を司る海馬などに必要で、認知機能を保つために欠かせない物質です。
そのため、アセチルコリンの減少を防ぐ効果のあるアリセプトが使われます。
ただし、副作用が出る場合もあるため、注意して服用する必要があります。
薬以外の治療方法
薬を使わずに軽度認知症の治療を施す方法があります。認知症の進行を遅らせたり症状を緩和したりするには、脳に刺激を与えることが大切です。
脳トレやゲーム、運動療法などで楽しみながら脳を活性化していきます。
薬と違い、自分の好きなことや趣味をしながら過ごせるため、自分らしさを大事にできるのも非薬物療法の特徴です。
注意点としては、毎日継続する必要があり、続けることで効果を実感できます。
軽度認知障害の予防と生活改善策

もし軽度認知障害と診断された場合、改善に向けてどのような取り組みができるのでしょうか。
患者さんの症状によっては、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の治療が並行して行われたりすることがあります。
食事
本人や家族がまず取り組みたいのは、食生活の改善です。
どのような病気にも言えることですが、食生活の見直しは健康管理の基本。
栄養バランスを考えた食事を規則正しく摂ることを心がけてください。
炭水化物や麺類などの糖質は健康を維持するうえで欠かせないエネルギー源ですが、摂りすぎるのは良くありません。
その代わりとして、野菜や青魚を中心に、ビタミンやたんぱく質などの栄養素をしっかり摂れば、脳の健康の改善が期待できます。
適度な運動と脳の活性化
食生活の改善と同時に行いたいのが運動です。
運動は脳の活性化を促すだけでなく、気持ちをリフレッシュさせ、生活に張りをもたらすもの。
運動には筋力トレーニングに代表される、短い時間呼吸を止めて行う「無酸素運動」と、ランニングなど、体に酸素を取り込みながら行う「有酸素運動」があります。
このうち、軽度認知障害の改善が期待できるのは有酸素運動です。
有酸素運動にはランニングのほか、水泳やエアロビクス、ヨガなどがあり、なかでも一番手軽に取り組めるのがウォーキングでしょう。
ウォーキングの利点は、特別な準備が必要ないことで、誰でもすぐに取り組めます。
注目されている「コグニサイズ」
また最近、認知症予防として老人ホームで注目されているのが「コグニサイズ」です。
コグニサイズとは「国立長寿医療研究センター」の開発したプログラムで、運動と認知トレーニングを組み合わせた新しい運動療法のこと。
例えば、足踏みをしながら計算をしたり、ウォーキングしながらしりとりをするなど、二つのことを同時に行います。
そうすることで脳の血流が良くなり、認知症予防に効果を期待できるとされています。
仕事などで運動する時間がなかなか取れない方は、すき間時間でも行えるコグニサイズを生活の一部に取り入れてみてはいかがでしょうか。
レクリエーションや趣味
将棋や囲碁、麻雀などで手を動かして脳に刺激を与えることは、認知症の予防や進行を遅らせることに効果的です。
また、手芸などの細かい作業も脳に刺激を与えられるので、これも認知症対策への良い影響が期待できます。
コミュニケーション
人とコミュニケーションをとることも、脳へ良い刺激を与えます。
趣味のサークル活動や、高齢者が集まる町内の催しに参加するなど、外部に社交の場を作っていくことが有効です。
サロン活動など、高齢者に開かれた地域活動が行われているところも多くあります。
広報誌や地域包括支援センターなどで地域の情報を集めることができます。
他の人はこちらも質問
認知症はどの段階?
認知症は段階として、軽度認知障害の前兆、初期、中期、末期という経過をたどります。軽度認知障害の症状は、物忘れや同じ質問を繰り返す実行機能障害などで、5年以内に認知症へと移行するケースが多く見られます。
MCIとはどういう意味ですか?
MCIは軽度認知障害のことです。軽度認知障害は認知症を発症する前段階のことで、いわゆる認知症の予備軍です。MCIの約半数が5年以内に認知症へと移行していますが、早期発見、治療により、進行を遅らせることができます。
認知症は何年前から?
アルツハイマー病の場合、発症する原因となるタンパク質は、発症の20年ほど前から溜まり出していると考えられます。そのため認知症の予防は早いうちから始めるのがおすすめです。
認知症になりやすい性格ってありますか?
認知症になりやすい性格は怒りっぽい・短気な人、小さなことでも気にする人、協調性のない人です。