介護タクシーとは
介護タクシーとは、要介護状態の方や体が不自由な方向けのタクシーのことです。
介護士関連の資格を保有する運転手から、乗降介助といったサービスを受けることができます。
「自宅に家族の車があるけれど、体に負担がかかるので乗せられない」という方でも、介護タクシーであれば安心して利用できる点が特徴と言えるでしょう。
そのため、日常的に介護を必要とする方にとって、介護タクシーは外出時の重要な足となっています。
このページでは介護タクシー利用時の費用や注意点などを解説します。
介護タクシーは訪問介護サービスの1つ
介護タクシーは、介護保険の「訪問看護サービス」に含まれる介護サービスです。
正式には「通院等乗降介助」と呼ばれており、要介護認定を受けている方が通院時などに利用できるサービスです。
介護保険サービスに該当するためのため、介護タクシーの利用料は要介護認定で決められた自己負担割合(1~3割)に応じた費用を支払います。
サービスの内容
介護タクシーでは乗降介助のほかにも、様々なサービスを受けることができます。
「出発時」「目的地到着時」「帰宅時」の3つに分けて、どのようなサービスがあるのかみていきましょう。
出発時のサービス
- 着替えや靴を履くなどの外出準備介助
- 室内・玄関からタクシーまでの移動と乗車の介助
一人で着替えることが難しい方には「更衣介助」といったケアを受けることができます。
目的地到着後のサービス
- 降車介助・移動介助
- 病院での受付対応、会計、薬の受け取り
- 病院からタクシーまでの移動介助、乗車介助
足腰の弱い方にとって、病院内まで付き添ってくれる点は介護タクシーを利用するメリットと言えます。
なお、通常のタクシーの場合は病院前で待機してくれていても、院内の移動介助までサポートしてくれる可能性は低いでしょう。
帰宅時のサービス
- 降車介助とタクシーから玄関・室内までの移動介助
- 室内での着替えの介助やおむつ交換(必要な場合)
出発時と同様に、外着から部屋着への着替えも手伝ってもらうことができます。
ストレッチャーや車椅子のまま乗車できる車両もある
介護タクシーの利用者が車椅子に乗られている方が多いことから、リフトあるいはスロープがついたワンボックスカーが用いられています。
ワンボックスカーの多くは車椅子のまま乗車できることから、よりスムーズな移動が可能です。
また、寝たきりの方はストレッチャーに横になったまま移動できる「寝台車」を揃えている事業者もあります。
介護タクシーと福祉タクシーの違い
介護タクシーと似たサービスに「福祉タクシー」と呼ばれるサービスがあります。
福祉タクシーとは、障害者が通院等でタクシーを利用する場合に、運賃の一部を助成する制度です。
介護タクシーと違い、福祉タクシーは介護保険が適用されません。
福祉タクシーは身体障害者手帳や療育手帳(Aの2以上)を取得している人が対象です。なお、要介護認定を受けている必要はありません。
また、福祉タクシーという名称は法律や条令で決まっているわけではありません。例えば、市区町村などは高齢者向けに限らず、福祉系の移送サービスのことをまとめて「福祉タクシー」と呼ぶ自治体もあります。
ページ内下部では福祉タクシーについて解説していますので、順に確認していきましょう。
介護タクシーの利用料金
介護タクシーの利用料の内訳は以下の3つです。
- 移送料金(運賃)
- 介助費用
- 介護器具レンタル料
このうち、介護保険が適用されるのは「介助費用(介護サービスの利用料)」のみです。
残りの2つは実費負担となる点に注意しましょう。この点を踏まえ、それぞれの概要と費用の目安について見ていきましょう。
移送料金(運賃)
一般的に介護タクシーにおける運賃の計算方法は「時間制運賃」と「距離制運賃」のどちらかが採用されています。
- 時間制運賃とは
- 乗車時間で運賃を計算する方法
- 距離制運賃とは
- 距離で運賃を計算する方法
なお、多くの事業者では距離制運賃は一般のタクシーと同水準のメーター料金を設定していることが多いです。
移送料金(運賃)の目安
「初乗り30分1,000円、以降30分ごとに1,500円」といった時間制運賃を導入している事業所の例を見てみましょう。
往復で1時間乗車した場合にかかる費用は2,500円です。
続いて、「初乗り2キロは800円、以降1キロごとに400円」といった距離制運賃を導入している事業所の例を紹介します。
往復15キロかかった場合の費用は6,000円です。
なお、運賃は地域によっても異なります。お住まいのエリアにある介護タクシーの事業所を複数比較し、おおよその費用を事前に見積もっておくことが大切です。
介助費用
介助費用は冒頭で紹介したサービスの利用量によって決まります。
例えば、乗降介助は利用1回ごとに料金が発生し、自宅から病院などの目的地まで往復で利用する場合は往路で1回、復路で1回の計2回とカウントされます。
介助費用の目安
以下は病院への通院時に介護タクシーを利用した方のモデルケースです。
サービス内容 | 費用 |
---|---|
乗降介助 | 1,500円 |
室内介助 | 1,000円 |
外出の付き添い | 1,200円 |
病院内の介助 | 900円 |
合計で4,600円かかります。なお、介助者の人数に応じて費用も変動するので注意しましょう。
ケアマネージャーとも相談しながら、家計に無理のない範囲でサービス内容を決めることが大切です。
介護器具レンタル料
介護タクシーを利用する場合、事業者側から車椅子やストレッチャーなどを借りることができます。事業所によっては酸素供給装置のような医療機器を貸し出していることもあります。
ただし、ほとんどの場合はレンタル料金を別途で負担します。
介護器具レンタル料の費用目安
以下は介護器具のレンタル料の一例です。
設備内容 | 料金 |
---|---|
車椅子 | 500円~ |
ストレッチャー | 4,000円~ |
酸素吸入セット | 3,000円~ |
すでに利用している介護器具がある場合はレンタルせず、持ち込むことで費用を安くおさえることができるでしょう。
介護タクシーが医療費控除の対象になるケース
医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間の医療費について、確定申告をすると所得控除が受けられるしくみです。
対象は医療費に限らず、一部の介護サービスも控除対象です。介護タクシーも医療機関を受診した場合のみ医療費控除の対象に含まれます。
なお、福祉用具のレンタル料には「介助」が発生しないため、控除対象外です。あくまで訪問介護サービス(車両乗降介助・身体介護)にかかった費用のみ所得控除を受けられます。
介護保険適用の利用条件
利用対象と利用目的
介護タクシーは訪問介護に分類される介護サービスであるため、以下のように利用対象者と利用用途が規定されています。
- 介護タクシーの利用対象
-
- 要介護1以上の方
- 自宅や有料老人ホーム、サ高住、ケアハウスで暮らしている
- ひとりで公共交通機関を利用できない方
- 介護タクシーの利用用途
-
- 通院
- 補聴器や眼鏡など本人が現場に行かなければならない買い物
- 預貯金の引き出し
- 選挙への投票
- 役所に届け出をする場合など
上記以外のプライベートな目的による介護タクシーの利用は介護保険が適用されません。
なお、私的な理由で介護タクシーを利用したいときは、介護保険適用とせず、全額自己負担でサービスを利用することも可能です。
担当のケアマネージャーに相談し、目的に応じて利用できるサービスを確認しましょう。
介護タクシーを手配するまでの流れ
介護タクシーを利用するまでの流れは以下の通りです。
- ケアマネージャーに相談
- ケアプランの作成
- 介護タクシー事業者と契約
- 利用内容・乗車予定日を決める
- サービスを利用する
以下でそれぞれ見ていきましょう。
1. ケアマネージャーに相談
介護保険を使った「通院等の乗降介助」として利用できるかどうかケアマネージャーや地域包括支援センターに相談します。
後日ケアマネージャーが訪問し、当該サービスの利用条件を満たしているかなど調査します。
2. ケアプランの作成
利用条件を満たしている場合はケアプランを作成します。
ケアプランには「目的地」「必要な介助」「外出後のスケジュール」などを詳細に記述する必要があります。なお、ケアプランに記載のないサービス・介助は原則として受けられません。
3. 介護タクシー事業者と契約
介護タクシーを運営している業者と契約・手続きをします。
利用する介護タクシー事業者もケアマネージャーが調整するため、基本的に利用者本人が事業者に連絡することはありません。
4. 利用内容・乗車予定日を決める
通院などの利用する日程が決まったら、介護タクシーを予約します。
予約時には以下の事柄について確認されることがあります。
- 日時
- 目的地
- お迎え先
- 連絡先
- 自宅の状況
- 車椅子の利用可否
- 帰りの送迎
介護タクシーは、一般的なタクシーのように「電話一本ですぐに利用できる」というわけではないので予約することを忘れないようにしましょう。
5. サービスを利用する
当日、タクシーの乗務員は利用者を車両まで移送します。必要に応じて、外出準備の手伝いや施錠の確認もしてくれます。
病院が目的地の場合は病院の担当者までの移動を介助し、料金の支払いを終えるまで付き添ってもらえます。
サービスを利用する際の4つの注意点
介護タクシーを利用する場合、以下の点に注意しましょう。
- 家族同乗はできない
- 病院内では介助できない
- 介助料が増えると「身体介護」や「生活援助」となる
- 移動だけの利用はできない
身体介護や生活援助になると、サービスの単位数が変わり、費用も変わってくるので注意しましょう。
家族同乗はできない
家族が介護タクシーに同乗することは認められていません。
あくまで介護タクシーの乗ることができるのは、上記で紹介した利用対象者に限定されます。
病院内では介助できない
病院内における介助は、原則として病院の看護師などが対応し、運転手は介助しません。
ただし、病院内で移動する際に介助が必要な場合や認知症を発症して見守りを要する場合などは、例外的に介助が認められるケースもあります。
介助料が増えると「身体介護」や「生活援助」となる
運転手による介助量が増えると、「身体介護」や「生活援助」に切り替わることがあります。
例えば、外出の準備として長時間(20~30分程度以上)の介助を必要とする場合は、「通院等の乗降介助」の枠を超えると判断されます。
移動だけの利用はできない
介護タクシーは通院のほか、メガネや補聴器などの購入や点検・修理、銀行といった本人が目的地を訪ねる必要がある場合のみ利用できます。
冒頭でも伝えたように、食料品の買い物や友人との食事、娯楽のための外出では利用できません。
また、移動と介助の2つの要素を満たす必要があります。「タクシーの移動だけしたい」「移動は自分でおこなうから、現地で介助だけしてほしい」といった利用はできません。
介護タクシーを利用するときのポイント
介護タクシーを利用する際には、次の4つのポイントをおさえておきましょう。
- ケアマネージャーに相談する
- 利用料を見積もる
- 運転手の技術
- 家族間で話し合う
利用者が安全かつ快適に通院等の外出ができるためにも、以下で紹介するポイントをしっかり把握したうえでサービスを利用しましょう。
ケアマネージャーに相談する
介護タクシーの利用先を検討する場合、担当のケアマネージャーに相談しましょう。
ケアマネージャーは地域内の介護サービス事業所に関する情報を豊富に持っています。
たとえ全額自己負担でサービスを利用する場合も、どの事業所を利用すべきなのか、お世話になっているケアマネージャーに相談することをおすすめします。
利用料を見積もる
介護タクシーを利用するときは、前もって利用料の見積もりを出してもらいましょう。予算と照らし合わせて、料金が納得できるかどうか検討します。
また、受け取った見積もりには、利用時の総額だけでなく、内訳にも目を配って詳細を確認してください。
介護タクシーは定期的に利用するケースが多いため、料金面で不安な点がないようにして利用を始めることが大切です。
もし利用料や内訳の詳細について不明点、疑問点があるときは、担当のケアマネージャーに相談しましょう。
運転手の技術
定期的に介護タクシーを利用する場合は、送迎を担当する運転手もチェックしましょう。確認すべきポイントは以下の通りです。
- 運転手の所属先に問題はないか
- 運転マナーを疑うような荒い運転はないか
- 人柄に好感があって信頼できるか
- 乗降時の介助スキルに問題はないか
複数の視点から運転手の質を見極めることが大切です。
なお、インターネットで介護タクシーの情報を検索すると、事業者の運転手や運営姿勢を確認することもできます。
家族間で話し合う
医療機関に定期的に通院しなければならない場合、介護タクシーの利用は1回だけにとどまらず、定期的な利用が必要です。
利用頻度が増える分、負担する費用も大きくなることから、ケアマネージャーだけでなく、家族とも話し合うことが大切です。
介護タクシーを利用する方におすすめの老人ホーム
この項目では、医療機関への通院のため定期的に介護タクシーを利用している方におすすめの老人ホームを紹介します。
介護タクシーは介護保険で利用できるサービスですが、運賃などは全額自己負担であることから介護費用が膨らむ可能性があります。
介護費用の不安を軽減するためには、できるだけ通院時の交通費がかからない老人ホームを検討することも大切です。
例えば、「医療機関との連携している施設」や「施設内に病院やクリニックを併設している施設」なら医療ケアが必要な方も安心できるでしょう。
寝たきりの方は「介護付き有料老人ホーム」がおすすめ
寝たきり状態でストレッチャーなどを使った移動が多い方は、介護付き有料老人ホームがおすすめです。
介護付き有料老人ホームは、要介護度で最も重度の要介護5に対応した施設で、寝たきり状態の方でも手厚い介護を提供しています。
また、医療機関との連携が義務付けられているため、日常的に必要な医療的ケアはもちろんのこと、万一の急変時でも速やかに診察・治療が受けられます。
日々の医療的ケアから緊急時対応までカバーしている施設への入居は、家族にとっても安心して過ごせる環境と言えます。
【特徴がわかる】介護付き有料老人ホームとは?(入居条件やサービス内容など)
介護付き有料老人ホームを探す移動費用を減らすには「病院・クリニックを併設している施設」がおすすめ
老人ホームに病院やクリニックが併設されているメリットはどういった点でしょうか。
まず、定期的な通院や急変時の受診でも、病院までの移動が短時間でスムーズにおこなえることがポイントです。
介護タクシーを利用する通院方法では、病院に行くために着替えが必要だったり、送迎時の乗降介助に注意が必要、といった問題があります。
しかし、老人ホームと併設している場合は、介護タクシーで発生する手間や時間を節減できます。
また、持病を抱えている場合、通常の入居施設に比べてより専門的な医療的ケアが受けられます。万一、病気やケガで入院が必要になったときも、病院を探す手間もなく、手続きもスムーズです。
【施設の種類で比較】老人ホームで受けられる医療行為の一覧(インスリン・透析・胃ろう)
病院・クリニックを併設している老人ホームを探す
福祉タクシーとは
福祉タクシーとは、正式名称を「一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)」と言います。
タクシー業界では、「福祉輸送サービス」「ケア輸送サービス」とも呼ばれている国土交通省の管轄する運動事業のひとつです。
この項目では福祉タクシーの利用条件と費用を解説します。
利用対象
福祉タクシーの主な利用対象者は、福祉タクシーは身体障害者手帳や療育手帳(Aの2以上)を取得している人です。なお、事業所によっては障害者ではない方も利用できる場合もあります。
介護タクシーのように要介護認定やケアプランの作成などの必要がないため、幅広い方が使えることが特徴です。
ただし、一般タクシーのように手を上げて車両を停めて乗車することはできません。
利用目的・サービス内容
福祉タクシーは通院はもちろんのこと、日常生活での買い物や用事、仕事や旅行、友人との外出や家族との会食やレジャーなど、さまざまな目的で利用できます。
また、介護タクシーでは認められていなかった家族の同乗も、福祉タクシーなら可能です。
福祉タクシーの費用
福祉タクシーは、介護保険などの公的負担がないため、費用はすべて自己負担です。
利用料金は福祉タクシー事業者によって異なります。利用するときは、前もってホームページや電話で料金体系を確認しておきましょう。
また車椅子対応の車両を利用する場合や、目的地で待ち時間が発生する場合は別途料金が発生するケースが一般的です。
福祉タクシーの補助金(タクシー券)
自治体によっては、重度の障害者で常時車イスやストレッチャーを使用している方を対象に割引券(福祉タクシー券)を配布している場合があります。
割安で利用できるため、一度お住まいの市区町村に問い合わせてみましょう。