脳卒中とは?治る病気?
脳卒中は命にかかわる病気
脳卒中は現在、日本人の死因第4位です。長らく死因の2~3位でしたが、医療技術の~進歩もあって脳卒中による死亡者数は年々、減少してきています。
とはいえ、脳卒中を甘く見てはいけません。重度になると命にかかわる病気であるのは間違いなく、後遺症が残ったり、寝たきりになったりなど、その後の生活に支障をきたすことも珍しくありません。

前述したとおり、脳卒中とは、脳内にある血管が詰まったり、破れたりして起きる病気の総称です。
その中にはいくつかのタイプがありますが、特に多くみられるのが脳梗塞です。
脳卒中は治る?

脳卒中を発症すると、手や足が動きにくくなる、あるいは一切動かなくなることがありますが、これがいわゆる「麻痺」の症状です。
麻痺は、障害を負った脳の部位の反対側の手足に起こることが多くなっています。また、どのくらいの麻痺になるかは、体の運動を司る神経がどのくらい損傷を受けたか、その部位はどこかによって変わります。
脳卒中発症後、麻痺の回復過程は、脳の損傷の度合いや部位、患者の年齢、リハビリ状況などが影響し、人によって大きく異なるのが通例です。
例えば、脳卒中を発症してから1週間後の麻痺の状態がまったく同じ患者であっても、最終的に同じ程度にまで治るとは限りません。脳卒中による麻痺がどのくらい治るのかは難しいところで、大きな後遺症が残る恐れがあるのも確かです。
ただ、麻痺が残っても、関節が動きにくくなった状態を指す拘縮(こうしゅく)を防ぐことと麻痺に対する訓練を継続すること、そして残された能力を伸ばすことが大切です。
また、麻痺が残ると、本人の生活が一変するので、家族をはじめ周りの人の支えも重要になります。
症状は大きく3つに分かれる
脳卒中の症状は、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、そして、脳のくも膜の内側にある太い血管にできた動脈瘤が破裂する「くも膜下出血」の3つに大きく分けられます。
脳梗塞と脳出血を発症すると、脳の一部の機能が失われるという共通点があります。同様の部位で起こった場合は、同じような症状が出ます。
その症状が片麻痺です。片側の顔や手、足などが突然動かなくなったり、感覚が鈍くなったり、しびれたりします。
次に多いのは言語障害です。これにより、ろれつが回らなくなるほか、言葉が思うように出なくなる、話している相手の言葉が理解できなくなることもあります。
また、足元がふらつき、立つことや、歩くことができなくなる失調という症状がみられることもあります。
さらに、目に症状が現れることもあり、突然視野の一部が見えなくなる、片目だけが見えなくなる、物が二重に見えるような場合は注意が必要です。
一方、くも膜下出血の症状は、激しい頭痛が特徴です。発症したときの痛みがピークで、その後も痛みは続きます。嘔吐したり、意識障害が生じたりするケースもあります。
脳卒中の種類

脳卒中の種類は、大きく分けて2種類あります。脳の血管が破れて脳内に出血が起こっている「脳出血」と、脳の血管が詰まることで起こる「脳梗塞」です。
原因こそ違いますが、両方とも、血管の障害によって脳内の神経細胞に酸素や栄養が巡らなくなってしまい、それにより神経細胞に障害が発生します。
また、どちらも重度の場合は命にかかわる状態となり、なんとか一命をとりとめても、重い後遺症が残ることが多いです。
脳卒中、脳梗塞、脳出血は何が違うのか
脳が正常に機能するために不可欠な酸素と栄養は、動脈を流れる血液が運んでいます。この血液の流れが何らかの理由で滞ったときに発症する病気の総称が「脳卒中」です。
脳卒中は発症する原因によって「脳梗塞」と「脳出血」に分けられます。脳梗塞は脳の血管が詰まったりふさがったりすることで発症します。それに対して、脳出血は脳の血管が破れて出血することで発症します。
脳梗塞も脳出血も脳の神経細胞の一部が損傷して発症するため、片麻痺や言語障害など同じような症状が現れます。
血管が詰まる「脳梗塞」
脳梗塞とは、動脈硬化によって血管が狭くなる、あるいは「血栓」という血の塊が血管に詰まることで、脳の神経細胞に血が行き渡らなくなって発症する病気です。
酸素や栄養が行き届かなくなった神経細胞は壊死し、その死んだ細胞が司っていた体の部位には麻痺が生じます。さらに認知機能を司る細胞が壊されてしまったら、認知障害が生じます。
さまざまな後遺症が残ることも多く、重度の脳梗塞だと発症後に寝たきりとなるケースや、発症時に命を落とすケースも少なくありません。
脳梗塞は大きく分けて、以下の3種類があります。
- アテローム血栓性脳梗塞・・・脳の太い血管に詰まりが生じて発症する
- ラクナ梗塞・・・細い血管に詰まりが生じて発症する
- 心原性脳塞栓症・・・心臓で生じた血栓が血管を通して脳に届き、それにより脳の血管に詰まりが生じて発症する
脳梗塞の前兆症状としては、「言葉が出てこない」や「視野が欠けて見える」ということ、あるいは「片方の手足がしびれる」や「なぜか箸を落としてしまう」などがあるので、こうした症状が見られたら、すみやかに専門医に相談しましょう。
ラクナ梗塞
高血圧の方が発症しやすい脳梗塞です。高血圧の状態が続くと、脳内にある直径1mm以下の細い血管が損傷し、血栓(血のかたまり)によって細くなったり、詰まったりします。血栓の大きさは最大で20mmにもなりますが、5mm以下のものが大半です。
ラクナ梗塞は日本人に最も多いタイプの脳梗塞と言われており、脳梗塞全体の約50~60%を占めています。
症状は軽度の場合が多いですが、繰り返し発症すると、パーキンソン病や血管性認知症を引き起こすことがあります。
アテローム血栓性梗塞
動脈硬化(アテローム硬化)が原因で発症する脳梗塞です。動脈硬化によって動脈が狭くなり、血栓ができたり、血栓がはがれて流れ、細い血管を詰まらせたりして発症します。
アテローム血栓性梗塞は欧米人に多いタイプの脳梗塞です。
日本人の脳梗塞の約20%を占めると言われており、以下のような症状が現れます。
- 半身付随状態の「片麻痺」
- 知識を用いて計画的に行動する能力に問題が生じる「高次脳機能障害」
- 心臓の血管が塞がる「心筋梗塞」
- 足の血管が動脈硬化を起こしてしびれや痛みが生じる「閉塞性動脈硬化症」
動脈硬化は糖尿病や高脂血症、高血圧などの、いわゆる生活習慣病が原因で起こるため、食生活の改善や適度な運動などが有効な予防法です。
心原性脳塞栓症
脳梗塞全体の20~25%を占めているのが心原性脳塞栓症です。心筋梗塞や心筋症、心房細動、弁膜症などが原因で心臓のなかに血栓ができることがあります。その血栓がはがれ落ちて流れ出し、脳に運ばれて血管を詰まらせて発症するのがこのタイプの脳梗塞です。
正常な心臓に血栓ができることはありませんが、心臓病によって拍動のリズムが狂ったり、動きが悪くなると血液がよどんだ状態になって血栓ができたりします。
流れてきた血栓で急に血管が詰まるため、症状は突然見られます。また、太い血管が詰まることが多いため、ほとんどの場合で症状が重くなります。
血管が破れる「くも膜下出血」「脳出血」
くも膜下出血
人間の頭蓋骨の内側には、軟膜、くも膜、外膜という3枚の膜があり、これらの膜が脳全体を覆っています。
そして、くも膜と軟膜の間は「くも膜下腔」と呼ばれ、この部分は「脳脊髄液」と呼ばれる体液によって満たされています。このくも膜下腔で生じる出血が、「くも膜下出血」です。ここで出血が生じると、流れ出た血が脳髄液に混ざってしまい、脳が血液で覆われるようになります。
出血した量と場所によっては、命にかかわる事態になります。
くも膜下出血が起こる原因としては、血管にできたコブである「脳動脈瘤」の破裂によるものが、全体の約8割を占めています。
そのほか、生まれつきの血管異常である脳動静脈奇形によって生じるケースや、脳の中にできた腫瘍を原因とするケース、あるいは事故により頭を強く打ったことで起こるケースなどの原因もあります。
脳出血
脳出血は、脳に栄養を運ぶ血管が破れて起きる病気です。血管が破れると、血管の先にある脳細胞に血が行き届かなくなり、細胞が壊死してしまいます。その結果、麻痺や認知障害など、さまざまな症状が現れるのです。
くも膜下出血と呼び方を分けるために「脳内出血」と呼ばれることもありますが、脳内のどこで出血が発生したかによって、呼び名が変わります。
例えば、「小脳」という場所で起こった出血は、「小脳出血」と呼ばれ、「被殻」という場所で起これば「被殻出血」と呼ばれます。
脳出血の原因として最も多いのは高血圧です。血圧が高いと血管の内壁に負担を与えるため、やがて血管が破れて出血が起こるわけです。
さらに加齢とともに、血管が固くなる「動脈硬化」も出てくると、出血のリスクはさらに高まります。
高血圧は遺伝的な面もありますが、生活習慣を改善することで予防もできるので、バランスの取れた食事を心がけ、ストレスをためず、適度な運動を取り入れた生活を送るようにしましょう。
脳卒中早期発見のコツ
脳卒中の初期症状は、脳のどこの血管に病変が起こっているかによって変わってきます。
ただ、症状が現れやすいのは「顔」と「腕」、そして「会話の仕方」などです。脳卒中では、顔の片側だけが下がる、片方の腕だけに力が入らないなど、体の半身だけに症状が出ることが多いです。また、会話をしているとろれつが回らなくなる、言葉が出なくなる、といった症状もよくみられます。
また、脳卒中の前兆として注目すべきなのが「一過性虚血発作(TIA)」です。
一過性虚血発作では、顔や腕、そして言語の症状や、「片目だけ見えなくなる」といった脳卒中と同じ症状が起こるものの、短時間のうちに回復します。
このTIA発症者の15~20%が発症後3ヵ月以内に脳梗塞を発症し、さらにその半数がTIAを発症してから1~2日以内で脳梗塞の発症に至っているというデータがあります。もしTIAの症状が出たと感じられたら、脳卒中に進行する前に、医師の診察を受けましょう。
脳梗塞の前兆

脳梗塞の前段階である「一過性虚血発作(TIA)」の代表的な症状のひとつが、突然言葉が出なくなってしまう「失語」です。
また、いきなり顔が歪んでしまう「片側顔面麻痺」やろれつが回らなくなる「構音障害」、片方の視力だけが急に低下する「一過性黒内障」などもよくみられる症状と言えます。
そのほかにも、何かを両手で持とうとしたとき、急に片側の腕だけ上げられなくなるという症状も脳梗塞のサインです。このような体の異変が感じられたときは、一過性虚血発作の恐れがあります。
脳の血管が、血栓のために一時的に詰まることで起こるのが、脳梗塞の前兆です。まだ完全に詰まってはいないので、数分で回復するということもあります。
しかし、たとえすぐに症状が治っても、脳の血管が詰まりかけていると考えられるので、すぐに病院で診察を受けましょう。
くも膜下出血の前兆

これまでくも膜下出血は、突然発症すると考えられてきました。
しかし最近の研究によって、くも膜下出血にはいくつかの前兆があることが明らかとなっています。
そのひとつが血圧の乱れです。数日間にわたって血圧が激しく上下するようになったら、くも膜下出血を発症している危険性があります。
ただ、血圧を上下させる要因はほかにもたくさんあるので、まずは医師の診察を受けることが大事です。
また、くも膜下出血が起こる前段階において、動脈瘤から少し出血がみられることや、動脈瘤による神経の圧迫が起こって以下のような症状が現れることがあります。
特に多いのが突然の頭痛です。
どのくらいの頭痛なのかは人によって異なりますが、この前兆を経験する人が多いことから、「警告頭痛」と呼ばれています。
ほかにも、目の異常や吐き気、めまいなどの症状がみられるケースもありますが、多くの場合、これらの症状はしばらくすると治ることがほとんどです。
しかし、その数日後に本格的な発作が起こるということが多いので、早めに受診することが大事と言えます。
脳出血の前兆
脳出血の前兆はありません。
この病気を発症すると、出血のサイズ、部位にもよりますが、ごく小さな症状から始まり、少しずつ重い症状が現れていくケースがあります。一方で、突然発症して倒れるということもあるので、人によって現れ方は大きく異なります。
また、寒暖の差が大きいと血圧が大きく上下し、血管が損傷を受けやすくなるので、脱衣所で衣服を脱ぐときや、あたたかい部屋から寒い廊下に出たとき、あるいはトイレに行くときは注意しましょう。
特に冬場のトイレと浴室には気をつける必要があります。
脳卒中になったときの対応
まずは救急車を呼ぼう

もし周囲の人に脳卒中が起こったら、頭を高くしないようにして、安全な場所へ静かに移動しましょう。体を動かすときは、頭が動かないよう、首にしっかりと手を当てます。
体を横にするときは、頭を水平にした状態で寝かせるようにすることが大事です。頭をあまり上げてしまうと、脳の血の巡りが悪くなってしまい、状態がさらに悪化する恐れがあります。
周囲の安全を確保して安静を保つことができたら、かかりつけ医にすぐに連絡し、病状と状態を正確に伝えましょう。慌てないで必要なことを伝えたうえで、医師の指示のもと、すみやかに救急車を呼んで患者を病院に搬送します。
脳卒中かどうかは、症状をみておおよその判断をつけることができます。
特に、本人の意識がないときや体の片側にだけ麻痺の症状があるとき、さらに言葉が出てこないときやろれつがまわっていないなどの症状が出ているとき、脳卒中を発症している可能性が高いです。
なるべく早くリハビリテーションを

脳卒中の場合、治療開始とともに、早期からのリハビリが肝になります。
リハビリといっても、最初はベッドのうえでできるものから行います。これを少しでも早く行うことが回復度合いに大きく影響します。
その後の治療のメインはリハビリです。その期間は長くなるケースが多いのですが、リハビリによってかなり回復することもあり、根気強くリハビリを継続していく必要があります。
後遺症が残るケースも

一生懸命リハビリを行っても、脳卒中の後遺症が残ってしまうこともあります。ケースとして多いのは、半身麻痺や、発語が不明瞭になったりすること。
満足に手を動かせなくなったり、上手に物を食べられなくなったり・・・と、自立しての生活が難しいという方もいます。昨今では、このような脳卒中の後遺症のケアに力を入れている介護施設も多く、適切なサポートを受けることが可能です。
特別養護老人ホームなどの介護保険施設や介護付き有料老人ホームはもちろんのこと、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームなどでも、積極的に脳卒中の患者の受け入れが行われています。
また、後遺症で麻痺などの症状が残った場合、無理をして自宅で生活をし、転倒などでさらなる怪我をしてしまうケースもみられます。その危険性を想定すると、施設のサポートを考えるのもひとつの手段でしょう。
脳卒中と老人ホーム探し
家族が働いていたり学校に通っていたりして、在宅での介護が難しいケースは多くあります。 その場合、脳卒中の後遺症で介護を必要とする人を受け入れてくれる介護施設を探す必要も出てきます。
それでは、入居先としてどのような介護施設を選ぶべきなのでしょうか。
発症から3ヵ月~半年はリハビリ病院か老健へ

脳卒中の後遺症は、リハビリに取り組むことで改善します。発症後、リハビリを開始する時期が早いほど、回復の幅が広がると言われています。
大きな回復が見込めるのは、発症してから3ヵ月ほど。その後も少しずつ回復していき、2年ほど経過すると症状に変化がなくなるのが一般的です。
そのため、脳卒中になって搬送された病院で一定の治療を受けたら、リハビリ病院への転院を検討しましょう。
リハビリ病院は、脳卒中発症後、それほど時間が経過していないうちに入院した方が受け入れはスムーズになります。早い段階から専門的なリハビリを受けることで、大きな回復が見込めます。
病気の状態がリハビリ病院への入院に該当しないとき、あるいはリハビリ病院における入院期間が終わったら、介護老人保健施設を探しましょう。
集中的なリハビリテーションを行うことで機能の回復をはかるリハビリ病院に対して、老健は自宅復帰を目指してリハビリに取り組める施設です。
入居の際には介護保険の申請をする必要があるので、早めに手続きしておきましょう。
認知症の症状や精神症状が出ているときは介護老人保健施設やリハビリ施設への入居が難しくなるので、認知症専門の病院や精神科に入院して、症状がある程度落ち着くのを待つと良いでしょう。
リハビリ後は介護付き有料老人ホームへ

リハビリを終えたら、長く生活できる介護付き有料老人ホームへの入居が一般的です。
自力歩行ができる・できないにかかわらず受け入れが可能です。食事や排泄などの日常生活における介護はもちろん、レクリエーションや散歩のサポートなども受けることができ、自宅での生活に近い環境で日々過ごすことができます。
また、脳卒中を発症した人は、高血圧や心臓疾患といった循環器の疾患を抱えていることも多いです。そのときは、同じ介護付き有料老人ホームでも、医療機関が併設されている施設を探しましょう。
入居後に体調が急変したときも、適切に素早く対応してくれるでしょう。
認知症の症状が出ていても、ある程度身の回りのことを自分でできるなら、グループホームへの入居も検討できます。
ただ、グループホームの入居者にはアルツハイマー型認知症の人が多いので、入居の際に脳血管性の認知症であることを施設側に伝えておきましょう。

脳卒中の原因になりやすい生活習慣
食生活

脳卒中の一番大きな原因は生活習慣にあります。その中でも、とりわけ大きな要因となっているのが食生活。
飽食の時代といわれる昨今、日本人の食文化も大きく変化し、欧米化してきました。
動物性脂肪を多く摂取することで、血管の壁に脂肪がたまりやすくなる状況が起き、血管のつまりが原因で脳梗塞を引き起こしているのです。
また、日本人はみそやしょう油を好んで食べるため、元来、塩分を多く取りすぎる傾向があります。そうした食習慣によって高血圧となり、血管がつまりやすくなることで、脳卒中を引き起こすケースも多いようです。
食生活以外でも、飲酒、喫煙やストレス、睡眠不足、運動不足などの生活習慣も、脳卒中の原因となります。
肥満

高血圧や糖尿病などと合わせ、日本人の4人に1人とも言われている肥満も脳卒中に関連します。
この理由は、肥満や高血圧、高血糖などになると動脈がコレステロールで詰まりやすくなるためです。
脳卒中や肥満を予防するためには、まずは毎日の生活習慣の見直しが必要です。
脳梗塞の原因になりやすい2大疾患
脳梗塞をもたらす原因として注意すべきなのが、心臓の拍動が不規則となる「心房細動」と、生活習慣病を患っている人に多い「頸動脈狭窄症(けいどうみゃくきょうさくしょう)」です。
心房細動は不整脈に分類される病気で、日本では高齢化とともに患者数が年々増えています。
頸動脈狭窄症は、頸動脈の動脈硬化が進行することで脳に向かう血流に異常を来します。心臓または首に血栓ができ、それが血流に乗って脳の血管が詰まってしまうと、脳梗塞が起こります。
心房細胞は心電図検査で判別できるので、特に高齢の方はきちんと受けておくべきです。
頸動脈狭窄症は「頸動脈超音波検査」などでリスクがどのくらいあるのかわかるので、心配な人は医師に相談すると良いでしょう。
心房細動

心房細動とは、心臓の心房部分が小刻みに震え、規則的な心房の収縮が困難になる病気です。
この症状により心房内の血液の流れがスムーズにいかなくなってしまい、やがて左心房の壁に血栓ができるようになります。この血栓がはがれて血流に乗り、心臓内から動脈を通って脳に到達すると、脳内の大きな血管を突然塞いでしまうのです。
これが「心原性脳塞栓症」です。
心房細動が起こっている人は、起こっていない人に比べて、脳梗塞発症のリスクは約5倍高くなると言われています。
心房細動によって起こる心原性脳塞栓症は、脳内の大きな血管がいきなり詰まってしまうために重症化することが多いです。発症すると命にかかわる事態になりやすく、たとえ助かったとしても重度の後遺症が残ることも少なくありません。
福岡県久山町の住民を対象に、九州大学で50年以上続けられている研究では、心原性脳塞栓症の患者の5年生存率は、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の患者よりもかなり低いことが明らかにされています。
同じ脳梗塞でも、心房細胞を原因とする脳梗塞は特に危険性が高いと言えるでしょう。
頸動脈狭窄(けいどうみゃくきょうさくしょう)
頸動脈狭窄症とは、動脈硬化のため、首から脳にかけて流れる「頸動脈」が細くなり、脳への血の巡りが悪くなったり、動脈硬化の一部分が崩れて血栓になり、それが脳の血管を閉塞したりすることで起こる脳梗塞です。
症状としては、半身麻痺や顔面の麻痺、さらには言語障害などを起こします。
もし一時的にでもこうした症状がみられたならば、病院で頸動脈エコーあるいはMRA検査などを受けるようにしましょう。
頸動脈狭窄症は、「無症候性病変」と「症候性病変」とに分かれます。
無症候性病変は、半身麻痺や言語障害などの症状がまったくないのに、脳ドックなどで頭の画像検査を受けることで発見されるというものです。この場合、脳梗塞を発症するリスクは年間約2%ほどであるとの研究報告があります。
一方、症候性病変は、頸動脈狭窄症による脳梗塞の症状が現れている状態です。症候性病変における脳梗塞の発症リスクは年間約13%と高くなることが研究によりわかっています。
脳梗塞が増えた理由
昔は脳出血が多かった?

日本では1950年代頃まで、脳卒中の約9割が脳出血でした。
しかしその後は脳出血の患者は次第に減っていき、1990年代以降は脳出血が1~2割、脳梗塞は7割程度になっています。
昔の日本では、なぜ脳出血がこれほど多かったのでしょうか。その最大の理由と考えられているのが「栄養状態の悪さ」です。1950年代当時の日本人の栄養摂取状況は悪く、特に戦後数年間は食料をアメリカの救援に頼っていたほど悪化していました。
そのことが日本人の血管のもろさにつながっていたと言われています。
さらに当時の日本は、農業や土木作業はすべて人力に頼り、肉体的なストレスが高い状態にありました。家事をするときも今のような電化製品がないので、洗濯や掃除をするのもひと苦労だったのです。
血管がもろくなっているのに加えて、こうした肉体的なストレスも大きかったことが、脳出血の患者の多さにつながっていたと考えられます。
最近、多いのは脳梗塞

日本では高度経済成長期以降、脳梗塞の患者数が急増しています。なぜこれほど増えていったのでしょうか。
その大きな原因として考えられているのが、食生活の欧米化によって、コレステロールの摂取量が増えたということです。コレステロールを摂る量が増えると、脳梗塞を引き起こす原因のひとつである動脈硬化を発症しやすくなります。
近年では、日本人のコレステロール値がアメリカ人の平均値を上回るようになってきました。そうなった要因のひとつとして「日本人が魚を食べなくなった」ということがあります。
魚には「EPA(エイコサペンタエン酸)」という血液をサラサラにする効果を持つ「不飽和脂肪酸」がたくさん含まれていて、魚を食べない人が増えたことで、日本人全体のEPAの摂取量が減ってきました。
脳梗塞患者が増えつつある現在、日本人は魚食の有効性を改めて見直すべきなのかもしれません。
隠れ脳梗塞(無症候性脳梗塞)に要注意

隠れ脳梗塞とは、本人には自覚症状はないものの、脳内にごく小さな梗塞ができている状態のことです。
隠れ脳梗塞の大半が、小さな血管の詰まりによる「ラクナ梗塞」に分類されます。脳ドックの際に行われるMRI検査やCTによって、隠れ脳梗塞が偶然発見されることも多いです。
ただ、そのような場合には、将来的に大きな脳梗塞を発症する危険性があると言えるので、もし発見されたら重大な注意信号として認識し、生活習慣を見直すべきでしょう。
また、一つひとつの梗塞が小さくても、時間の経過とともに数が増えてくると、隠れ脳梗塞から本格的な脳梗塞の発症につながり、さらに認知症を引き起こす症状へと悪化する恐れもあります。
隠れ脳梗塞の原因は高血圧や高脂血症、そして糖尿病といった生活習慣病です。
特に、普段から喫煙や飲酒をし、強いストレスを感じながら生活している人、あるいは食生活が乱れて肥満気味の人は、隠れ脳梗塞が起こっていないか注意しましょう。
脳卒中再発防止のヒント
脳卒中の発症には、高血圧や糖尿病、あるいは脂質異常症など、原因となる「危険因子」が影響しています。
これらの病気をそのままにしてしまうと、脳の血管のさらなる損傷を招き、脳卒中を再発するリスクが高まるでしょう。
脳卒中に再び襲われないようにするためには、最初の脳卒中を引き起こした危険因子に正面から向き合って、治療と改善に取り組んでいくことが大事です。本人だけで取り組むことが難しいときは、家族の協力も必要になります。
また、定期的に検査を受けることも忘れないようにしましょう。
高血圧治療を行う

脳卒中の発症に対して、高血圧は大きく影響します。再発を防ぐためには、血圧をきちんとコントロールすることが不可欠です。
高血圧の人は、「上の血圧」と呼ばれる収縮期血圧が140mmHg(ミリメートルエッチジー)未満、「下の血圧」と呼ばれる拡張期血圧が90mmHg未満になることを目指します。
まずは普段の食事において、塩分の摂取量を抑えることが大事です。
また、日ごろから生活の中に、適度な運動を取り入れていくと予防効果はさらに高まります。
こうした取り組みを続けても血圧が下がらないときは、医師の管理のもと、薬による降圧治療が必要です。
血圧を管理していくには、家族で血圧を測る習慣をつくることも大切になります。
高血圧の人は早朝に血圧が上がることが多いので、朝起きてから1時間以内に測定して、その値を目安にすると良いでしょう。
近年では、抗血栓療法を受けている方は、脳出血などの出血性副作用を減らすためにBP130/80mg未満が推奨されています。
動脈硬化の強い人はこの限りではないので、主治医とよく相談して管理していきましょう。
血糖値を下げて糖尿病を治す
糖尿病は血管を固くする動脈硬化をもたらし、脳卒中を引き起こします。
血糖値を日々コントロールしていくことが対策として重要ですが、食事療法や運動療法など非薬物療法に取り組んでも改善がみられないときは、薬物療法が必要になります。
薬物療法には、飲み薬による方法とインスリンを自分で注射する方法がありますが、どちらにおいても、医師の指導のもと薬を適切に管理し服用していくことが大事です。
糖尿病を持病に持つ脳卒中の患者を対象に、糖尿病治療薬を服用したときと、服用しないときとを比べると、服用したときは脳卒中の再発リスクが半減するとの研究結果も報告されています。
生活を見直す

脳卒中を引き起こしやすくする高血圧や糖尿病、高脂血症などは総じて「生活習慣病」と呼ばれ、その名の通り生活習慣の乱れから生じることが多いです。
そのため、脳卒中の再発を防ぐためには、栄養バランスの取れた食事や適度な運動、さらに禁煙や過度な飲酒を控えるなど、生活習慣を根本的に見直していくことが求められます。
食事は1日3食をきちんと取り、過度なストレスは避けるようにし、睡眠時間も十分に取ることが大事です。
もしストレスに直面したときは、うまく気分転換する方法を考えておくことも大切です。
また、水分不足により脱水状態が続くと、血液の濃度が上がって血栓ができやすくなり、脳梗塞の危険性が上がってしまうので注意が必要です。
普段の生活の中で水分をしっかり摂っていくようにしましょう。
抗血栓療法を行う
脳梗塞に対する再発予防としては、血栓をできにくくするための薬を使う「抗血栓療法」が有効です。
この療法には主に2つの方法があります。ひとつは「抗血小板療法」と呼ばれるもので、「抗血小板薬」を服用する療法です。
血栓は血液の中にある「血小板」が集まることで作られるので、薬によって血小板の作用を抑えて血栓をできにくくすることで、脳梗塞を防ぐことにつながります。
もうひとつが「抗凝固療法」と呼ばれるもので、「抗凝固薬」を服用するという療法です。
動脈にできる血栓は血小板が固まることで形成されますが、心臓内で作られる血栓は、血液の中にある凝固因子が大きく影響しています。そのため、凝固因子の作用を抑えて血栓の形成を防ぐ効果を持つ「抗凝固薬」を服用することが、脳卒中の再発を防ぐうえで有効になるのです。
これらの抗血栓薬は、毎日飲み続けないと効果が期待できないので、日々の服薬管理が重要になります。また、抗血栓療法を受けている方は、脳出血発症のリスクを減らすためにさらなる血圧管理が必要です。