東京都内としては比較的低額に利用できる傾向に
東京湾の埋め立てによって拡げられてきた大田区は、東京23区の中で最も広い面積を有しています。
大田区と言えば、田園調布を始めとする高級住宅街を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、同時に、蒲田を中心として町工場が多く存在しています。
大正時代以降に町工場が進出して以降、脈々とその技術を受け継ぎ、現在では工場の数が4,000以上。
従業者数も数万人を超え、製造品出荷額等は23区内でも突出した数字を誇っているのです。
こうした工場は1~3人ほどの小規模で行なっているところが多く、そのほとんどが昔ながらの職人、つまり高齢者の手によって操業されているのが現実。
つまり、彼らが引退した後のことを考えて老人ホームを整備していかなければならないというのが、今後の大田区の課題と言えます。
そこで大田区では、介護保険の施設サービスである特別養護老人ホームと介護老人保健施設の拡充に着手。
有料老人ホームに目を向けると、世田谷区や港区などの高級住宅街を擁する区よりも、利用料が平均的に低額という特徴があります。
また、入居一時金0円、月額利用料が25万円前後というグループホームもあり、都内では比較的利用しやすい価格帯に設定されています。
図書館や美術館、博物館といった施設が多く、落ち着いた雰囲気を楽しめたり、区として「交通安全都市」を宣言していたりと、生活面でのゆとりを感じさせる特徴もちらほら。高齢者が安心して生活するための基盤は整っています。
また、第一京浜や第二京浜、産業道路、湾岸道路などの主要道路が走っているため、車でのアクセスは非常に便利。
入居者の家族にとっても面会に行きやすく、大田区の老人ホームに入居するにあたっては大きなメリットがいくつもあると言えるでしょう。
大田区の高齢者人口はどれくらい?
大田区は人口72万8,425人(2023年度)で、そのうち高齢者(65歳以上)人口は約16万4,734人。22.6%の高齢化率となっています。
2010年度には高齢化率は20.4%、高齢者人口も約14万120人でしたから、ここ14年ほどの間に2万人近く高齢者人口が増加したことになります。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
特に増加が著しいのは後期高齢者(75歳以上)の世代。2000年度は4万3,757人だったのが、2023年には8万9,728人と4万人近く増加しているわけです。
2025年には第一次ベビーブーム時の団塊世代が軒並み後期高齢者世代になり、大田区でも介護人材や介護施設の充足が期待されています。
増加するとみられていている大田区の後期高齢者人口、2025年度には9万6,924人と10万人近くにまで増えると予想されています。
大田区は他の区と少し異なる高齢化事情があり、2014年度まで右肩上がりで上昇してきた高齢化率ですが、その後、数値自体は横ばいになっています。
その理由は、若い世代、ファミリー層の転入が一定程度見込めることと、高齢者人口のうち65~75歳の前期高齢者人口がそれほど増加しないと予想されているという点にあります。
ただ、前期高齢者世代の人口数が横ばい又は減少を上回るほどの後期高齢者世代の増加が予測され、同じ高齢化の進展でも、大田区の場合は特に後期高齢者世代が、当分の間は増え続けるという状況にあるわけです。
在宅介護で介護サービスを利用する高齢者が圧倒的に多い
大田区では現行の介護保険制度が開始された2000年度当時、介護(予防)サービスの利用者数は7,725人でした。
それから約25年後の2024年度においては、利用者数は3万1,851人にまで増加しています。
なお、2024年度のサービス利用内訳を見ると、居宅サービスの利用者が2万3,982人と圧倒的に多く、7割強を占めています。
在宅介護で介護サービスを利用する人が圧倒的に増え続けていることがわかります。
なお、要介護度を確認すると、要支援1~要介護1までの軽度の方が圧倒的に多く、42.3%を占めています。
区民向けに「健康長寿お役立ちガイド」を発行
大田区では、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)における一般介護予防事業(65歳以上全高齢者対象の事業)を「元気度がアップする事業」と命名。
区民向けに「健康長寿お役立ちガイド」を発行して周知の徹底化を図っています(ホームページからダウンロード可能)。
同事業で行われている施策は多岐にわたり、主なものだけでも、
- 認知症予防(認知症予防体操、認知症予防室内ウォーク、認知症予防朗読講座)
- 低栄養改善(シニア世代の食生活講座)
- 口腔機能改善(口から始める健康講座、口腔機能向上講演会)
- 運動講座(いきいき公園体操、足腰らくらく水中ウォーク、膝痛・腰痛ストップ体操、ポールdeウォーク、頭とからだの椅子ストレッチ、さわやかサポート介護予防教室、いきいきシニアサロン、いきいきシニア毎週体操、いきいきシニア30分体操)
- 測定会(体力、認知機能の測定)
- 活動支援(介護予防ボランティア養成講座、介護予防ポイント制度シニアボランティア)
などが挙げられます。
これらの介護予防への取り組みは、区内各所にある老人いこいの家やシニアステーション、高齢者センターや区民センターなどで実施されています。
いつどこで行われているか詳しく知りたい場合は、最寄りのさわやかサポート(地域包括支援センター)に相談すると良いでしょう。
事前申し込みが必要なものもあれば、当日会場に集まるだけで参加できるものもあるようです。
地域包括支援センターを中心に「さわやかサポート」を実施
大田区では高齢者の生活をサポートする医療・介護・介護予防・住まい・生活支援のサービスを適切かつ円滑に受けられる「地域包括ケア体制」の構築を計画。
そのために「さわやかサポート」と呼ばれる地域包括支援センターが中心となっています。
区内には大森、調布、蒲田、糀谷・羽田の4つの日常生活域が設定され、それぞれの地域ごとに地域包括ケア体制がしかれている状況です。
重点が置かれているのは
- 在宅医療と介護連携の推進
- 地域ケア会議の開催
- 生活支援・介護予防サービスの基盤整備
- 行政による高齢者の居住安定施策との連携
- 認知症施策
という5つの項目です。
また、高齢者の就労支援や社会参加、健康維持を促すべく「太田区いきいきしごとステーション(高齢者等就労・社会参加支援センター)」の充実化を進めています。
他にも「老人いこいの家」の新規取り組みの推進や老人クラブの活性化及び地域社会との連携強化など、さまざまな施策が積極的に行われています。
認知症施策の推進に特に力が入れられているのは大田区の特徴の一つで、認知症サポーター養成講座事業、認知症支援コーディネーター事業に加えて、「認知症ケアパスの作成」、「認知症高齢者支援事業」等を独自に実施しているという状況です。
そして地域包括ケアの中核となる「さわやかサポート」をより充実化させるために、運営力・機能強化も進められているようです。
現状さわやかサポートは区内に21ヵ所設置されており、介護保険、区の福祉サービス、高齢者の虐待の相談など、高齢者福祉に関するあらゆる相談事に対応しています。
大田区福祉オンブズマン制度
大田区では、各種福祉サービスの利用者がサービス事業者の提供するサービス内容に疑問を持った場合、「福祉オンブズマン」に苦情を申し立てることができます。
苦情申し立ては、所定の「苦情申立書」に必要事項を記入し、それを大田区役所本庁舎2階の「福祉オンブズマン室」に提出することで行います。
ただ、苦情の申し立てをするにあたっては条件があり、苦情内容の事実の発生日から1年以上経過したもの、裁判沙汰になっているもの、医療行為に関するものの3つは対象外となるので注意が必要です。
苦情申立書は福祉オンブズマン室で配布しているほか、役所内の区政情報コーナーや地域福祉課などに置いてあるパンフレットの中にあります。
オンブズマンに任命されているのは大学の教員2名および弁護士2名で、第三者機関として客観的、専門的な視点から問題解決にあたってくれます。
苦情を受けると、オンブズマンは区やサービス事業者に直接事情を聴き、必要に応じて関係する書類や記録の閲覧などを実施。調査結果は、苦情をした日から45日以内に報告されます。
また、福祉オンブズマンは運営状況を開示する義務を負っており、個人情報への配慮の上、ホームページや役所の区政情報コーナーにて苦情内容等が公表されます。
調査結果に基づいて、オンブズマンが区やサービス事業に対してサービスの決定や内容を是正する「勧告」を行うことができるのです。
そして「意思表明」という形で、区の制度そのものを改善するように勧告することも可能。
サービス事業者に対しては、区を通して苦情が申し立てられたサービスの改善を「要請」するという形もとられます。