老人ホームのベッド数が計2,000床を超える”介護施設の百貨店”
世田谷区の財政規模は23区内では最大で、特別養護老人ホームや介護老人保健施設に関しては、今後の増設に大きな期待が持たれています。
有料老人ホームでは、成城をはじめとした高級住宅地を擁する土地柄、月額利用料が0万円を超えるところも多く、他の区より平均的に高くなっています。
地価が高いということも一因ですが、何より高級住宅街という優雅な雰囲気のなかで暮らせるというのが大きな理由と言えるでしょう。
世田谷区は、1932年に4つの町村が合併して世田谷区となるまでは農村地帯でした。その名残りから現在も曲がりくねった道が多く、自然も多く残っています。
また、地域の身近な風景を遺産として遺していく「風景づくり条例」というユニークな制度もあり、のどかな雰囲気に包まれているのも魅力的です。
入居に係る費用は低くなく、入居の決断も難しくなりますが、それを補ってあまりある環境的な魅力が世田谷区にはあるのです。
世田谷区の2023年の高齢化率は20.4%
諸外国に例をみない高齢化で、2025年には団塊の世代と呼ばれる約800万人の人たちが75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護の需要がさらに増加することが見込まれています。
世田谷区でも区の高齢化率は比較的ゆるやかにではあるものの増加中。2010年の高齢化率は18.3%でしたが、2023年時点では20.4%になりました。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
こうした状況のもと、世田谷区では基本構想審議会を立ち上げ、今後20年程度の展望のもとで区の特徴や歴史的経緯を踏まえた「新たな世田谷区基本構想」の策定に着手しました。
超高齢社会では社会保障費の増大をはじめ多くの難題が立ちはだかり、ネガティブな印象が先行します。
ところが、いったん地域社会に目を向けてみると、さまざまな場面で元気に活躍されている高齢者を数多く見かけます。
高齢者世代が急増するということは、社会の第一線で活躍されてきた方々の豊富な経験や智恵を、地域の課題解決や街の魅力向上に活かすチャンスだとも言えるのです。
そのため、世田谷区では高齢者が積極的に地域社会と接点を持てるようなさまざまな施策を実施しています。
また、世田谷区では高齢者単独世帯の増加も見込まれています。高齢者単独世帯とはつまり「独居老人」ということですが、特に75歳以上の高齢者単独世帯は急増していくと予想されます。
今後、親と成り得る世代がもともと少ないことから、大幅な出生率の増加はないでしょう。
こうしたことから、高齢者が活躍できる場の提供や、高齢者単独世帯の増加に伴う孤立化防止対策には、今後ますます力を入れていく必要があるようです。
高齢化率の伸びに合わせて介護サービス利用件数も増加
介護保険制度というのは「介護を必要とする人を社会全体で支える仕組み」のこと。要介護・要支援の認定者はこの制度を利用し、さまざまなサービスを受けられます。
この介護保険を使ったサービスの利用件数は、高齢者が増えればおのずと増加することになります。
世田谷区もご多分に漏れず、高齢化率の伸びに合わせて利用件数が増えてきました。介護保険制度がスタートした2000年には15.5%だった高齢化率は、上図の通り2023年になると20.4%にアップしています。
2010年と2024年の要介護認定者数を比べてみると、2万9,203人から4万2,262人と約1万3,059人近く増えているのがわかります。
世田谷区が実施したアンケートによると、在宅で暮らし続けるための条件として最も求められるのは、「24時間、必要な時にヘルパーが訪問してくれること」ですが、介護保険サービス利用者に限って言えば「必要に応じて医師や看護師が来てくれる」ということが1位に挙げられました。
そのため、世田谷区においては介護保険サービスの中でも訪問介護や訪問看護などが人気のサービスとなっています。
また、世田谷区では24時間対応の随時訪問サービスを区独自に展開しています。夜間対応型訪問介護の対象とならない昼間の時間帯の随時訪問。
利用料の9割を区が独自に補助することで、本人のみならず家族も24時間安心して介護を行える状態を実現しています。
「あんしんすこやかセンター」を5地域27ヵ所に設置
介護予防と言えば心身機能を改善することを目的とした機能回復訓練がイメージされますが、世田谷区では生活環境の調整や生きがいづくり、社会との接点持つ場所づくりなど、高齢者本人を取り巻く環境も含めたバランスの取れたアプローチを重視しています。
その中心となるのが地域包括支援センターです。世田谷区では「あんしんすこやかセンター」として5地域27か所に設置され、個別事例へのサポートを行っています。
そのなかにある介護予防の特徴は、区の保健師が積極的に関わっていること。地域包括支援センターと地域で行動を共にし、地域づくりのノウハウを作り上げています。
また、各地域包括支援センターが担当地域の自治組織や住民と会合などを通じて関係づくりにも取り組んでいます。
これもまた、世田谷区が取り組んでいる介護予防の特徴のひとつだと言えるでしょう。
世田谷区では介護保険サービスありきではなく、いかに地域の資源を活用して、個々の状態にあったサポートを実施するかということに焦点を当てています。
介護予防の段階から自立支援という視点を大切にしているのです。
多様な通いの場の創設や外出支援などは、まさに地域の資源を活用した自立支援だと言えるでしょう。
閉じこもりがちになっている日常の活動が少ない高齢者には、外出意欲を高める働きかけと、多様な通いの場の選択肢が必要です。
世田谷区では大学を会場とした通所サービスの実施や、喫茶店の集いの場の開催、都営住宅の外出支援など、都市部の豊富な地域資源を活用した新たな取り組みがおこなわれています。
高齢者のための「せたがや生涯現役ネットワーク」も実施
医療、介護・福祉サービス、予防・健康づくり、住まい、生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムですが、世田谷区では区内5地域(世田谷・北沢・玉川・砧・烏山)・27の日常生活圏域を中心に展開しています。
区民にとって身近な窓口として、出張所・まちづくりセンター、あんしんすこやかセンター、社会福祉協議会の3つを設置し、三者による福祉相談の充実を図っています。
地域包括ケアシステムのほかの役割として挙げられるのが、福祉相談の充実の地域の人材・社会資源の開発。世田谷区でも福祉的な課題を把握・共有、その解決をまちづくりセンターが中心となって行っています。
また、NPO・事業者・大学・行政など約70団体が連携・協力して、高齢者の社会参加の場や機会づくり、応援を行う「せたがや生涯現役ネットワーク」も実施されています。
今後も一貫して高齢化率の上昇が見込まれており、地域包括ケアシステムの構築は世田谷区にとっても早々に取り組まなければならない課題ですが、区が目指すものは一朝一夕に構築できるものではないかもしれません。
しかし、「高齢者が尊厳を保ちながら、重度な要介護状態となっても可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられること」を目標に、地域に根差したケアシステムの構築を積極的に進めています。
保健福祉サービス苦情審査会制度とは?
世田谷区ではさまざまな保健福祉サービスを展開していますが、受けているサービス内容に不満を持つということは珍しいことではありません。
そのようなに不満を抱いた人が苦情を申立てることができる仕組みとして、世田谷区では保健福祉サービス苦情審査会制度を設けています。
苦情審査会は、保健・医療・福祉・法律などの5分野から専門家を招き、中立公正の立場で審査して苦情に対する意見をまとめ、その意見を尊重しながら区長がサービスの改善に努めるのです。
苦情を申し立てることができるのは、区が行う保健福祉サービスや介護保険サービス、障害福祉等サービスであり、また、本人への個別のサービスの適用または提供に関することに限られます。
ただ、既に苦情の審査が終わっているものや、保健福祉サービスの個別の適用・提供以外のサービスに関する苦情などは申立てできません。
保健福祉サービス苦情審査会制度が始まって以来、すでに70以上の苦情申立てに基づいて苦情審査会が開かれました。
2014年からの3年間に限って言えば、「障害者就労支援センターの対応について」や「認知症対応型共同生活介護施設の緊急時の対応について」、「保育園入園非内定について」という事案について審査されています。
また、2015年度の苦情・相談を分野別に見てみると、高齢者サービスに関するものが71件あり、その後、障害者サービスに関するものが30件、子どもサービスに関するものが28件と続いています。
高齢者サービスに関する苦情が多いというのは気になるところですが、世田谷区ではそのような声にしっかりと対応できる態勢が整えられています。