高齢者の地域活動が活発でアクティブな街、江戸川区
「陸の孤島」「東京の文化の果てるところ」など、かつては不名誉な別名のあった江戸川区ですが、今はまったく異なります。
現在は住みたい街でも上位にランクされるようになるなど、人気が出てきたのです。
その理由は、ひとえに福祉の手厚さ。
江戸川区で、1960年頃から高齢者福祉や児童福祉などのさまざまな面で施策を展開したことで、「福祉の江戸川」とまで呼ばれるようになりました。
そのために現代では、例えば14歳以下の年少人口は11.8%で、これは23区平均よりも大幅に多く、断トツの1位。
高齢化率は21.3%弱ではあるものの、平均年齢は44.55歳であり、都内平均の45.01歳よりも若干低い傾向にあります。
そんな土地柄ですから、老人ホームも充実。
特に介護付有料老人ホームや介護老人保健施設が多く、医療や看護ケアが必要な高齢者に安心して生活できる環境が整っていると言えます。
価格帯に関しても、世田谷区や港区といった高級住宅街を抱える区よりは平均的に低額になる傾向にあります。
ただし気をつけておきたいのが、大病院が少ないという点。
2002年に東京臨海病院が開設されるまで区内に大きな病院がなく、緊急の場合は浦安市や市川市にある総合病院に搬送されていました。
現状でも大病院は少ないため、江戸川区内にかかりつけ医を持たない高齢者の方は、緊急時の対応なども含めて、病院というキーワードを老人ホームの検討事項にすると良いでしょう。
福祉に手厚いと冒頭でご紹介しましたが江戸川区では介護が必要な高齢者だけでなく、健康な高齢者に対しても施策を幅広く展開しています。
例えば介護が必要な高齢者に対しては、介護保険サービスはもちろん重度要介護者や家族介護者への支援、紙おむつなどの等介護用品の支給、緊急通報システム、寝具乾燥サービス、配食サービスなど、多種多様な施策が用意されています。
また健康な高齢者に対しては、「江戸川区熟年人材センター」において駐車場や駐輪場などの管理業務、公園の掃除などの軽作業、一般事務といった就労の機会を作ることで生きがいや交流の場を提供したり、介護予防や健康維持に取り組んだりといったことが盛んに行われているのです。
また「熟年介護サポーター事業」という面白い取り組みも。
これは、例えば介護予防教室でのサポート業務や施設入居者の話し相手といった活動に対して、1時間あたり1ポイント(=100円相当、年間60ポイントが上限)が支給されるというもの。
高齢者(要介護認定を受けていない人に限る)が地域活動を通して地域貢献する一方で、自らの介護予防にもつながると評判です。
高齢者とは、決してサポートを受けるだけではなく、自ら地域活動に参加することで生き生きとした生活が送れるようになる。
そんなことを実感させてくれる江戸川区は、都内でも最も高齢者が住みやすい街と言っても過言ではないでしょう。
江戸川区の高齢化率は2023年時点で21.3%に
江戸川区の総人口は2010年まで長期的に増加し続けていましたが、その後若干の減少傾向へと転じ、2023年の総人口は68万8,153人に。
総人口は徐々に増えてはいるものの、その一方で14歳以下の人口は年々減少傾向にあり、それに対して65歳以上の高齢者人口は増加傾向にあります。
2023年時点での高齢者人口は14万6,834人となり、高齢化率は21.3%に達しました。
高齢化率は今後も緩やかに上昇していき、2025年には22.5%に達する見込みです。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
また、2025年の時点で1947~1949年のベビーブームに生まれた団塊の世代が皆75歳以上の後期高齢者となります。
75歳以上の高齢者の中には病気や体調の悪化から介護を必要とする方も多く、2025年頃には介護施設への入居を求める高齢者の数に対して施設が不足しないよう、その整備が急務となっています。
年々増加する高齢者の数に合わせて、介護施設の増設を早急に進めていく必要があるでしょう。
要支援1・2の高齢者の重度化防止にも力を入れている
江戸川区での介護保険サービス利用者は毎年増え続けています。
2010年時点で1万4,995人だった介護保険サービス利用者の数は、2024年には2万4,900人にのぼりました。
サービスごとに見ていくと、とりわけ、居宅サービスの利用率が高く、2024年時点で69.6%です。
介護保険サービス利用者数が増え続けている一方で、サービス未利用者率は20%前後を保ったまま推移しています。
このことから、介護保険サービス利用者の増加とともに、要介護認定者の数も増え続けていることがわかります。
また、要介護度別に利用状況を見てみると、要支援1の方の半数近くがサービス未利用者であり、介護保険サービス利用者の割合が最も低いという状況です。
要介護1からサービス利用者の数が8割を超え始め、要介護度の段階が上がるにつれ、施設サービス利用者の割合が増加していきます。
要介護度5で施設サービス利用者の割合は最も多い36%にまで増えますが、その一方で介護サービス利用者の割合は要介護度4と比較して6.7%近く下がります。
要介護認定者の数は今後も増加すると見込まれており、それとともに増えるサービス利用者の数に合わせて、江戸川区では介護サービスの提供基盤の整備を進めています。
また、サービス未利用者の割合が多い要支援1~2の症状の重度化を防ぐため「介護予防・日常生活支援総合事業」の実施を行い、介護予防に取り組んでいます。
介護予防のための高齢者の生きがいや自己実現を支援
江戸川区では地域の人々の支え合い・助け合いを活かした高齢者の生活支援体制を推進しています。
介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らすことができる「地域包括ケアシステム」を軸に、高齢者の生活の快適さを保証するだけでなく、介護予防のための生きがいや自己実現を促す場の創出も目指しています。
2015年には介護予防と日常生活の支援を一体的に提供する「介護予防・日常生活支援総合事業」を創設し、要支援者の能力を活かした自立支援の側面を重視しながら、彼らの幅広いニーズに応える仕組みが整備されました。
要支援者には家事全般や買い物などの日常的な生活行為に関する多様な支援が求められるため、近隣住民の協力を得ることで地域の繋がりを活かした支援サービスの提供を目指しています。
生きがいづくりの場としてはカルチャー教室やボランティア団体の支援により、地域ミニデイやスポーツ活動を定期的に開催することで、高齢者に交流の場を提供するとともに健康維持も図っています。
また、要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象とした熟年介護サポーター事業の拡充や高齢者によるボランティア活動の支援も行っています。
活躍の場を整備することで、高齢者に自信と活力を取り戻してもらうことが狙いです。
一般介護予防事業では生活機能の低下した方と日常生活を問題なく送れる元気な方とを隔てることなく、健康維持と介護予防を一体的に推進しています。
介護予防に関しては高齢者自身が介護予防の意識を強く持つ必要があるため、ウォーキングなど介護予防活動の普及や予防意識の啓発を図ることで、高齢者が日常的に介護予防に取り組むことのできる意識作りを促しています。
専門相談員による「なんでも相談」で介護問題を解決
江戸川区では「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」を一体的に支援する地域包括システムの拠点として「なごみの家」が設置されています。
なごみの家では介護を必要とする方や健康に不安を抱える高齢者だけでなく、子供や若年層も対象とした幅広い支援を行っており、同じ地域で生きる全世代の人々をサポートする取り組みを推進しています。
子供たちを対象にしたものとして、大学生ボランティアの協力を得て小学生から高校生までを対象にした無料学習会や、月に一度地域の子供たちを集めて食事会を行う「子ども食堂」などの機会が設けられています。
もちろん、高齢者を対象に脳の活性化を図る体操教室や手芸教室などの催しも行われており、老若男女問わず、地域の人々が心地よく過ごせる場として、なごみの家は大きな役割を果たしています。
また、介護予防や生活支援の面でも、高齢者の見守り訪問を積極的に行ったり、地域関係者を集めた地域支援会議での話し合いによって課題の解決や問題点のあぶり出しを行うことで対応の改善に取り組んでいます。
専門の相談員による「なんでも相談」では介護や健康に関する問題はもちろん、生活や仕事に関するさまざまな悩みを受け付けており、外出の難しい方に対しては訪問相談のサービスも提供しています。
なごみの家は区内9ヵ所に設置されており、今後、区内15ヵ所を目安に増設が進められていく予定です。
地域の繋がりに重きを置く江戸川区にとって、なごみの家とはその名の通り、区内の人々が集う大きな家としての役割を果たしています。
江戸川区の「苦情解決委員制度」
江戸川区では福祉サービスに関する苦情や不満を受け付ける窓口として「苦情解決委員制度」が設けられています。
苦情解決委員は人格・知識・経験などさまざまな観点から選りすぐられた福祉や法律の専門家によって構成。
地域の人々から受けた相談をもとに対象となる機関やサービスについて調査をしたり、サービス事業者に対し是正勧告を行います。
苦情解決委員への相談は無条件で行えるわけではありません。
サービス事業者から不当な対応や請求をされたり、施設内で虐待を受けるなど、利用している福祉サービスにおいて重大な問題が生じた際に限られます。
ただし、現在裁判所に訴え中のものやすでに判決が確定しているもの、また、すでに苦情解決委員への申し立てが済んでいるものや苦情の発生が1年以上前のものなどに関しては受付対象外となっています。
苦情の申し出ができる人はサービスの利用者本人だけに限らず、利用者の配偶者や三親等以内の親族の方、また区内の民生・児童委員も行うことが可能です。
申し出の流れとしてはまず、電話やFAXなどで江戸川区社会福祉協議会に連絡を取り、相談日を予約します。
次に苦情申出書をHPなどから手に入れ、苦情内容を記入して相談日に持参し、苦情担当職員との面接に移ります。
申し出が受理されると、苦情解決委員が対象となった機関に調査を行い、必要に応じて提言を行うことも。
調査結果は約1ヵ月後に文書として申し出た方のもとへと送られます。