宅地開発が進み、高級な老人ホームが続々と登場
江東区といえば「夢の島」を思い出す人も多いでしょう。
1950年代に東京都のごみ処分場として埋め立てが開始されたこの土地は、埋め立て終了後に東京都立夢の島公園となり、緑あふれる土地へと生まれ変わりました。
約40kmという広大な面積を持つ江東区には、錦糸町・亀戸副都心と臨海副都心という2つの副都心があります。
前者は昔から繁栄していた地域で、後者は昨今の大開発によって爆発的に人口が増えてきた地域。それぞれで表情が異なり、それは老人ホームの性質にも反映されています。
亀戸・錦糸町副都心をはじめ、門前仲町や大島といった昔ながらの住宅地では、特別養護老人ホームや介護老人保健施設が多く、有料老人ホームも低額で利用できるところがたくさんあります。
その一方で、臨海副都心や豊洲、南砂といった新たに開発が進められた地域では、高額の利用料が必要な介護付有料老人ホームや、住宅型有料老人ホームが建設され始めています。
月額利用料は20万円前後という施設が多くを占めていますが、経済状況によって幅広く選択することもできます。
希望条件に見合うような施設が見つかれば、すぐにでも資料請求や見学などを行った方が良いでしょう。
臨海副都心や豊洲などの市街開発によって、高齢者に優しい道路整備や緑地が建設され、都内とは思えないほどの快適さにあふれています。
また、「行ってみたい商店街」ランキングで常に上位にランクされる砂町銀座商店街をはじめ、ところどころに情緒あふれる商店街があったり、JRや東京メトロ、都営バスなどが行き来しているため交通アクセスが抜群だったりと、日常生活に不便を感じることはほとんどありません。
入居待ちや費用といった、入居へのハードルさえクリアできれば、江東区は都内でも有数の高齢者にとって住みやすい区と言えるでしょう。
江東区の高齢率は2023年には21.1%に到達
江東区の人口は、1990年代の前半にやや微減しましたが、1996年を境に増加に転じ、現在までずっと成長を続け、2003年に40万人を突破。さらに、その20年後の2023年には53万人を超えました。
人口構成を年代別に見ると、65歳以上の高齢者の人口は20年以上昔から少しずつ増えていることがわかります。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
1993年の時点では高齢者の割合は10.8%にすぎませんでしたが、 それから5年経った1998年に13.9%、さらに10年経った2008年には18.9%と、確実に高齢化率が上昇。2023年になると、21.1%に到達したことが明らかになりました。
その一方で江東区では、今世紀に入ってから15歳未満の年少者の減少がストップ。現在はゆっくりと上昇中ですが、15歳~64歳までの生産年齢人口については一貫して減少傾向が続いています。
以上から、江東区には子供を育てる世代の流入が続いているという言うことができ、そのために年少者の減少が阻止されていると考えられます。
高齢化率の上昇がほかの地域と比べると緩やかになっているのは、そのような事情が働いているためでしょう。
デイサービスや福祉用具貸与サービスの需要が高い
2010年には2万308人だった介護サービス利用者数は3万1,851人にまで増加しています。
なお、江東区ではデイサービスの利用者と福祉用具貸与サービスの利用者が多いということが判明。どちらの利用者も 約4割という高い数字を記録しています。
また、各サービスの満足度に関する質問も実施され、利用者の多いデイサービスでは91.0%が、福祉用具貸与サービスでは92.5%が満足していると回答しています。
そのほかのサービスの利用者も、総じて満足している方が多く、江東区の介護サービスの全体的な質の高さがうかがえます。
在宅医療や認知症支援を推進するための相談窓口を設置
江東区では、地域密着型のケアシステムを実現するために、区民や区内のさまざまな団体が集まって会議を実施しています。
江東区地域包括ケア全体会議に参加しているのは、区内の医師会や訪問看護ステーション協議会をはじめ、福祉や医療といった各分野の専門家の集まりがほとんどです。
高齢者をはじめ、福祉の助けを必要とする区民の生活を支援するには、さまざまな専門家が職種の垣根を越えて協力することが欠かせません。
この全体会議は、そのような仕組みを具現化する目的で結成され、現在5つの部会を設けて活動を進めています。
高齢者向けのサービスに深い関わりを持つ部会に、在宅医療連携部会・認知症部会・生活支援部会あり、在宅医療や認知症の支援を推進するための相談窓口を設けたり、地域全体で見守る体制を整備したりと、すでに活発な動きが進められています。
全体会議が最初に開催されたのは、2016年の8月1日で、その後、約半年に1回のペースで会議が開かれています。
各部会をはじめ、活動内容や調査内容の報告や、区民に対する啓発活動に関する討論等が行われていますが、それぞれの全体会議の詳細は、インターネット上で公開されているため、どんな方でもご覧になれます。
全体会議は今後も定期的に開かれる予定で、会議を通じて地域包括ケアシステムの改善が順調に進んでいくことが期待されています。
「江東マスターズフィットネス」で介護予防を促進
介護予防サービスとひと口にいっても、その内容は地域によって多種多様。江東区では、利用者の需要に合わせてさまざまなサービスを企画してきました。
予防を必要とする高齢者が、自身の身体の状況や希望に合わせて好きなサービスを選択できるようにしているのです。
区内には、まだ要支援・要介護状態ではないものの、介護の予防に関心を持つ方もいらっしゃいます。
その方のために用意されているのが「江東マスターズフィットネス」。
これは区内の運動施設を舞台に、設備を利用しながら楽しく参加できる運動を通した介護予防サービスです。
要支援・要介護を受けていない区民の間では「いきいき介護予防プログラム」も人気があります。
これは、足腰が弱ってきたという自覚を持つ方のために考案されたもので、区内の運動施設や介護施設で、専門家の指導の下で適度な運動を行います。
椅子を使った運動が中心のため、運動が苦手な方でも十分に参加可能です。
また、「訪問型サービスC」は、施設にあまり通えない方のために考案。理学療法士等の専門家が自宅を訪問して、生活習慣の改善方法や屋内で可能な運動方法を提案します。
「元気アップトレーニング」は、要支援・要介護状態の予防のほか、要支援状態からの脱却を目指す内容です。
高齢者の体調に合わせて、望ましい運動内容の提案や身体機能回復を目指す訓練、必要な栄養を摂取するための指導などが行われます。
江東区の福祉サービスへの苦情や不服の受付窓口は?
江東区には、福祉サービス全体の向上を目指す組織が存在します。
「あんしん江東」と呼ばれる窓口が設置されているため、区民は福祉関係のサービスで不満があるときや問題点の解決を要求したくなったときにすぐに意思表明を行うことが可能です。
高齢者介護に関して苦情が発生したときは、区内各地の長寿サポートセンターなどの窓口を通して相談することも可能です。
このような制度が以前から充実されているため、江東区ではすでにかなりの苦情や不服の相談を受けてきた実績があります。
相談件数は年間で数十件程度ですが、その80%以上はサービス提供や保険給付に関する相談で占められています。ただし近年は、介護事業者やケアマネージャーに関する陳情が増加している模様です。
要介護・要支援状態になると、自力で苦情を申し立てることは簡単なことではありません。
そのような状況では家族をはじめ、身近な方が代わりに苦情の相談をすることが必要となりますが、江東区では、代理の方の申立てを以前から積極的に受け付けてきました。
江東区の福祉サービス向上委員会では、これまでに寄せられてきた苦情や相談の内容を精査して、トラブルの発生を防ぐための資料を作成しています。
現在は主に、居宅介護支援サービスを利用する場合と訪問介護サービスを利用する場合で分けて発行しており、これも、江東区の苦情受付制度がよく機能していることの成果でしょう。