認知症の検査を本人の納得なしに受けさせる
認知症が疑われる場合、なるべく早めに病院を受診しましょう。
しかし、「認知症と診断されるかも…」という不安は、受診する本人にとって大きなストレスになります。
家族から受診を勧めても、本人が反発して診察を嫌がるというのは多くの人にみられるケースです。
当事者である本人に嫌な思いをさせず、納得して受診してもらうためには、誘い方や話の持ち出し方が重要で、信頼できるかかりつけ医から受診の必要性を話してもらったり、「健康診断だから」「家族の検査に付き添って一緒に受けてほしい」と頼んだりするのも良いでしょう。
さらに、検査結果を聞く際にも十分な配慮が必要です。
認知症と告知された場合には、本人は大きなショックを受けます。
家族がしっかり付き添い、今後の話を前向きにできるような状況を作りましょう。
不安になるような言葉や小言
認知症の症状が進んでくると、それまではみられなかった行動をすることがあります。
例えば、同じことや同じ話を何度も繰り返す、ゴミの分別ができなくなるなど。
家族としては想定外の行動なので、不安に感じたり、戸惑ってしまうことがあるはずです。
介護する側は認知症になった経験がないので、認知症の方の行動に対してつい強い口調で注意をしたり、大きな声で怒鳴ったりすることがあります。
しかし、そのような対応は、認知症の方の不安を煽ってしまうNG対応です。
行動を改めさせるのではなく、かえって不安を増長させてしまい、さらに予想外の行動を引き起こす可能性があります。
家族なので、どうにか正しい行動をしてもらうために細かく指摘したい気持ちも理解できますが、認知症の方は失敗だと思っていません。
正しいことをしているつもりなので、間違っていると指摘されると混乱してしまう、または「なぜこれが間違っているのだろう」と、不安や不信感を覚えます。
また、初期段階では、「認知症になりたくない」「認知症になるはずがない」と本人が認めない場合も想定しておきましょう。
そんな状況で厳しく間違いを指摘したり、怒鳴ったりすると、お互い納得できずにイライラして口論になることもあります。
しかし、言語機能や思考スピードが衰えてしまっている認知症の方は言い負かされてしまうことがほとんどなので、さらに不安やイライラが募るばかり、という状態に陥るのです。
このような、「正しいことをしているつもりなのに間違っていると言われてしまう」という不安は、うつの引き金になったり、自分の世界に閉じこもってしまったりという悪循環を生むので、闇雲に認知症の方の間違いを指摘したり、否定したりすることは好ましくありません。
もし認知症の方が何か失敗をした場合は、間違いを指摘したり頭ごなしに怒ったりするのではなく、「大丈夫ですよ」などとやさしく声をかけるようにしましょう。
あくまでも、落ち着いた状態をキープしてもらうことがポイントです。
認知症であることを周りに隠す
家族に認知症の方がいる場合、周囲にそのことを伝えるでしょうか。それとも、隠し通すでしょうか。
2004年に「痴呆」から「認知症」と呼称が変わって、地域でサポートを行う取り組みも徐々に広がるなど、認知症に対する理解や意識も変わりつつあります。
とはいえ、認知症に対する偏見がなくなったとは言えません。
「家族が認知症になったと知られることが恥ずかしい」「笑いものにされる」という考えがまだ残っている人もいるかもしれません。
そのような人は、家族が認知症になった場合、その事実を隠してしまいがちです。
認知症を隠しても、本人と家族にとって良いことは何一つありません。
家族が認知症であることを周囲の人に知られたくないからと地域包括支援センターへ相談に行かず、医療機関での受診をせずに放置してしまう方がたまにいらっしゃいます。
受診が遅れて適切な治療を受けずにいるとどんどん認知症が進んでしまう可能性があります。
結果的に家族も本人も苦労するはめになることだけは避けなければいけません。
認知症は、自然に治る病気でもなければ、現代の医療で治せる病気でもありません。進行を遅らせるのがやっとなのです。
公表することで周囲が理解し、近所の人が積極的に見守ってくれるなどのサポートが得られる場合もあります。
そのためにも、日頃から近所との良好な関係を築いておけるといいですね。
認知症を受け入れて本人の行動を尊重すること、家族同士で協力して認知症の理解を深め、さらにご近所との関係を深めてサポートを得ることが、認知症高齢者との生活で重要なポイントです。
家に閉じ込める
認知症になると、外へ出て歩き回る「徘徊」が問題になることも少なくありません。
家族が気づかないうちに外を徘徊して行方不明になり、鉄道事故を起こして家族が鉄道会社から損害賠償を要求されたケースは、多くの方がご存じではないでしょうか。
すべての認知症で徘徊の症状が起こるわけではありませんが、深夜にいつの間にか外へ出てしまう、外へ出なくても家の中を絶えずウロウロしている、すぐに自宅の鍵をかけてしまうなどの行動もみられます。
一見、意味なくうろつきまわっているように見えても、実際は本人にとって意味のある行動なのですが、家族にはその理由がわかりません。
そして、気づかないうちに家を出て外を歩き回っているとなれば、家族だけで見つけるのは非常に難しくなります。
勝手に外に出られて世間に認知症の家族がいる事実が知られる前に、本人を家の中に閉じ込めようとするケースがあるのも事実です。
そんなことをされてしまうと、認知症の方は無理やり外に出ようと危険な行動や手段に走ることも考えられます。
徘徊がさらに助長されることもあるため、家族への負担を考えると、認知症を隠す目的で認知症の方を閉じ込めてもまったく良いことはありません。むしろ、負担が増してしまいます。
もし徘徊が起こったときは、怒らずにやさしく理由を聞いてあげる、適度な運動でほどよく活動をしてぐっすり眠れるようにする、見守りシステムなどを利用して現在地を把握できるようにするなどの手段を施しておくのも良いでしょう。
※記事内では「徘徊」と表現しておりますが、最近では、「徘徊(意味もなくさまよう)」という言葉を使わないようにしようという動きもあります。
脳トレを強制する
進行を抑えたいと願う家族が脳トレのテキストを買ってきて、半ば強制的に脳トレをさせてしまうことがあります。
脳の機能が少しでも悪化しないようにと、家族が良かれと思って勧める脳トレは、認知症の本人が好きで取り組むのなら効果があるかもしれませんが、「計算ドリルなんて、子どもがやるようなものだ」とプライドが傷つき、心を閉ざしてしまうことリスクがあります。
また、計算能力の低下がすべて認知症のせいだと思うのは大きな間違いです。
さらに、認知症が計算能力の低下の原因だった場合、最初は3桁の計算ができていたのに今はできなくなった、と本人が不意に気づいてしまうことも考えられます。
場合によっては、ショックによるうつ状態を引き起こしかねません。
極端かもしれませんが、計算ができなくてもほぼ問題なく日常生活を送ることができます。
それよりも「計算ができなくなってしまうなんて…」と傷ついてしまうことの方が本人に悪影響を及ぼすのです。
否定する・叱る
たとえ認知症の症状が進んでも、本人の羞恥心やプライドは元気な頃と変わりありません。その点を家族は理解して、尊厳を守ってあげられるような対応をしましょう。
話しかけるときの大原則は、否定しない、叱らないことです。
例えば、本人が、何十年も前の幼少時代に戻ったように話しかけてきて、そこで家族が間違いを正そうとしたところで何の効果もありません。
否定は本人を困惑させてしまうだけです。
また、本人が不適切な行動をとったとしても、危険な行動でない限りは、頭ごなしに否定したり、大きな声で叱りつけたりしてはいけません。
まずは落ち着いて状況を受け入れ、本人の思いに沿うことが大切です。
感情的に叱らないことで、本人のプライドは守られます。
そして、家族の一員だと安心して過ごすことができるのです。
口論をする
初期の段階では、本人も家族も認知症の事実を認めたくない傾向にあります。
認知症が原因でゴミ出しや食器洗いが以前のようにこなせなくなったとしても、いちいち細かく指摘したり小言を言わないことです。
ついつい細かい指摘を繰り返してしまえば、本人は混乱して、遂には口論に発展してしまいます。
誰でも年を取ればうっかり失敗することがあるし、認知症は特別なことではないと捉えることが大切です。
もし失敗したら、こっそりと家族がフォローしてあげることで、無用な口論を避けましょう。
口論を減らすことで、双方のストレスを減らせます。
そうはいっても、ついお互いに感情的な物言いになってしまうこともあるでしょう。
そんなときは、またやってしまったと、罪悪感で自分を責めないようにしてください。
矛盾するようですが、家族だからこそときには衝突してしまうこともあると、深く気にしすぎる必要はないのです。
認知症介護における心構え
- 本人も傷ついていることを理解する
- つらいときは弱音を吐く
- 頑張りすぎない、抱え込まない
- 終わりが来ることを知る
本人も傷ついていることを理解する
認知症による記憶障害がみられるようになると、人の名前が思い出せなくなるなどの症状から始まり、次第に家族の名前を言い間違えたり、食事をしたことさえも思い出せなくなります。
さらに症状が進み、外出先で自宅の場所がわからず帰れなくなるなどのトラブルが起きてしまうと、家族は大きな衝撃を受けるでしょう。
しかし、誰よりも動揺し、傷ついているのは本人であることを、一番近くにいてあげられる家族だからこそ理解してあげましょう。
つらいときは弱音を吐く
「家族を介護するのは当たり前」と、愚痴や弱音も吐かず気丈に振る舞っている方もいます。
しかし、日々の介護はきれいごとばかりではありません。
どんな人でも、不満ややりきれない気持ちが湧くのは当たり前です。
一人で思い悩まず、認知症の家族の会に参加したり、親しい友人に話を聞いてもらうなど、息抜きの時間を積極的に持ちましょう。
愚痴や弱音を溜め込みすぎず、少しずつ吐き出すことは、認知症を介護する家族に精神的な安定をもらたします。
頑張りすぎない、抱え込まない
認知症の家族を介護する方は、「これまでお世話になってきた父(母)のために」と自分を後回しにしてしまうことがあります。
過度な頑張り=愛情の証ではありません。
頑張りすぎなくてもいいんだと、張りつめた緊張感を和らげてあげることが大切です。
また、「他人任せにしたくない」と認知症介護を家族だけで行うケースもみられますが、介護は長期です。
外部サービスなどを利用して、程よく外部に任せる介護を心がけましょう。
終わりが来ることを知る
認知症の介護に心が砕かれる日々に終わりがないように思え、介護がつらくてたまらないこともあるでしょう。
しかし、当然ながら何ごとにも必ず終わりが来ます。
「介護はいつか必ず終わる」と、将来を悲観せずに、自分のこともしっかり大切にする介護期間を過ごしましょう。
なにか困ったとき、どうしようもない虚無感に襲われてしまったときは、地域の相談窓口やケアマネジャーに助けを求めてください。近隣の老人ホーム職員でも構いません。