兄弟姉妹全員に扶養義務がある
兄弟姉妹が複数いるのに、誰か1人だけで親の介護を担ってしまっている場合、不公平感が生じるのは当然です。
法律上では、親の介護負担・扶養義務はどのように規定されているのでしょうか。
民法877条では、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と規定されています。
つまり、もし親が自分の力だけでは生活できなくなった場合、親と同居しているかどうかは関係なく、兄弟姉妹それぞれに親を扶養する義務が生じるということです。
扶養義務の程度や内容は次の2つです。
- 自分と同じ程度の生活を保障する義務
- 自分の社会的地位、収入などに相応した生活をしたうえで、余力のある範囲で扶養する義務
夫婦間や未成年の子に対しては①が、親や兄弟姉妹に対しては②が当てはまると考えられています。②については、あくまでも「自身の生活に余裕がある場合」です。余裕があるかないかの判断は、家庭裁判所に判断してもらうことができます。
親と同居していない子であっても、経済的な負担を担うことはできます。
まずは相談して、費用負担を求めましょう。
親の介護費用を兄弟姉妹の間で分担するには、「直面している現実を正しく共有すること」、そして「お互いに冷静になって話し合うこと」が大切です。
特に、お金が絡んでくるとトラブルに発展することが少なくありません。
相手が自分の言い分を受け入れてくれないからといって、怒りの感情をぶつけてしまうとどうしても関係がこじれてしまいます。落ち着いて話し合いを続けることが大事です。
しかし、それでも話がまとまらない、きちんと対応してもらえないといった状況が続くようであれば、裁判所で調停を申し立てるという方法があります。
扶養請求調停とはどんなもの?
兄弟姉妹間で感情がもつれ、話し合いがうまくまとまらない場合は、家庭裁判所に「扶養請求調停」の申し立てを行う方法があります。
申し立てをすると、裁判所が選任する「調停委員」が兄弟姉妹の間に入り、お互いの合意を目指した提案、助言を行います。
調停委員がまず行うことは、「介護に必要な人的な負担はどのくらいなのか」などの生活状況と、「親及び兄弟姉妹それぞれの収入」などの経済状況を確認し、兄弟姉妹間における感情の行き違いや、親への想い、さらに介護に対する考え方の相違点などを聞き取ります。
その後、「〇〇さんは、毎月〇円の介護費用を金銭的に援助する」などの解決策を示し、その内容に兄弟姉妹が合意すれば調停成立となります。
調停成立後は、裁判所が合意内容をまとめた書面(調停調書)を作成するので、当事者である兄弟姉妹はその内容を履行しなければなりません。
仮に、取りまとめたそれぞれの義務が果たされない場合、例えば介護費用などの支払い義務が履行されていなければ強制執行が可能で、財産の差し押さえなども行われます。
調停でも合意できなければ「審判」で決定される
調停委員を交えて話し合いの場を設けたにもかかわらず合意に至らなければ、裁判所にて「審判」の手続きに移行します。
審判とは、調停で合意が得られなかった内容について、提出書類および調査結果を根拠に、裁判所が当事者に成り代わって取り決めを行うことです。
裁判を避けるためにできること
介護が始まる前に親の貯金・資産を確認しておく
介護が必要になる前に、親の経済状況について確認し、必要に応じて介護費用に充てられるようにしておきましょう。そうすることで、子世代の介護における経済的な負担が減り、トラブル回避につながります。
まだ元気な親に資産状況のことを切り出すことに躊躇してしまう人がいるかもしれませんが、親としても、介護をめぐって兄弟姉妹の間で問題が起こることを懸念し、話し合いの場を持ちたいと考えているはずです。
将来のことを考えたうえでの話ということであれば、経済状況について率直に伝えてくれる親は多いのではないでしょうか。
それぞれの「できそうなこと」「できなさそうなこと」を把握する
親の介護で自分が「できそうなこと」と「できなさそうなこと」は何かを、兄弟姉妹間で具体的に確認し合っておきましょう。
兄弟姉妹とはいえど、かなり温度差があるはずなのですり合わせが必要です。
月々に必要な介護費用やサポート時間について具体的に話し合い、各自の現状が確認できれば、足りない部分をお互いに協力し合う気持ちが芽生えるのではないでしょうか。
それぞれの状況を考慮して主介護者を決めておく
親の介護に備えて、事前に「主介護者」を決めておくことが大事です。
主介護者とは、リーダーとして介護負担を担っていく人のことですが、その人に任せっきりにすることなく、普段から親が要介護状態になったらどうするか、兄弟姉妹でいつでも話せる関係性を築いておきましょう。
お互いに住んでいる場所が離れているときは、お正月やお盆など、家族みんなが集まった席で話を切り出すとよいでしょう。
主介護者を決める話し合いの場では、兄弟姉妹が親の介護に対して「本音」で話し合うことが大切です。
兄弟姉妹はそれぞれ生活を持ち、中には配偶者の実家の介護が重なっている人もいるかもしれません。
場合によっては、介護負担をできるだけ避けようとするあまり「今の生活だけでどれだけ大変か」を自慢し合うということも起こり得ます。
介護をできるかどうか、という話からいきなり始めるのではなく、親の介護に対する率直な気持ちをまずは話すという形で進めてみましょう。
主介護者以外の兄弟姉妹の役割も決めておく
主介護者だけに介護の負担が集中すると、親が亡くなったときや相続のときに、かなり高い確率でトラブルになります。
主介護者以外の兄弟姉妹も経済面で援助する、週末だけでも手伝いに行く、定期的に親に電話するなど役割を持つことで介護に参加するようにしましょう。
誰が親のお金・資産を管理するか決めておく
親が元気なうちから、兄弟姉妹の誰が、いずれ親のお金を管理するかを決めておきましょう。
お金を管理する人が、他の兄弟姉妹に無断で親のお金を介護以外に利用しないよう金銭管理をする係と、それをチェックする係とに役割を分担するとお互いに安心できます。
親の介護費用は、きちんと領収書やレシートを保管し、兄弟姉妹間で記録を共有するなどのルールを決めましょう。
介護が始まる前から兄弟姉妹で「介護貯金」をしておく
両親の預貯金や年金収入だけで介護費用をまかなうことが難しそうな場合、兄弟姉妹の間で事前に「介護貯金」を積み立てておくという方法がおすすめです。
兄弟姉妹もそれぞれ家庭を持ち、自分の家計のことで手一杯かもしれませんが、少しずつでいいので、「親孝行貯金」というつもりで介護貯金を積み立てましょう。
父の日や母の日に使う予算を削って介護貯金に回す、ということでも良いかもしれません。
金銭面をどのように分担するか決めておく
親に金銭的ゆとりがない場合は、親の介護のためにかかるお金を兄弟姉妹のなかで誰がどのような割合で負担するかは話し合いで決めるべき問題です。
子どもには、親を扶養する義務があり、民法で「自分の親に対する扶養義務」はその経済状況に応じて余力のある範囲で扶養する義務であると解されています。
「介護費用をどのように分担するか」は、親の介護をする子世代が揉める最大の原因といっても過言ではありません。
例えば、親の介護15万円を3人兄弟(姉妹)で分担する場合を考えてみましょう。
全員5万円ずつ平等に負担する方法、同居する人を主介護者としてその人は3万円、遠方で別居する2人はそれぞれ6万円ずつ支払うという方法もあります。
老人ホームや介護サービス契約時の保証人は誰が務めるか決めておく
介護が必要になった親の施設入所や介護サービス利用のためには、施設や病院などと契約を行います。
その際に必要となる「保証人」の主な役割には以下のようなものがあります。
- 緊急時に連絡をとる
- 入院する際の手続き
- 月額費用の支払いの連帯保証人
- 入居者が亡なくなったときの引き取り
保証人を決めるときは、一人に負担が集中しないよう、兄弟姉妹間でよく話し合うことが大切です。
実際の体験談を学んでイメージをつけておこう
兄弟姉妹で上手く分担できたケース
状況 | 愛知県から東京に父親を呼び寄せて、同居で介護している家族 |
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家族構成 |
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結果
一人暮らしをしていた父親が3年前に車椅子生活になり、次女が同居を申し出ました。
以来、次女が主たる介護者として父親を介護していました。
リハビリをしたいという父親の要望から、デイサービスを利用しながら、平日は次女が家事や介護を担当し、土曜日は長女が次女の家に行き、父親の介護を分担しました。
同居開始前に兄弟間で話し合い、必要な介護費用は長男が7割、長女が2割、次女が1割ずつ負担することにしました。
介護費用の管理、契約は次女が担当。お金の管理はインターネットでデータを3人で共有して長男と長女がチェックするという体制をとっています。
「主たる介護者」に負担をかけすぎず、緊密に父親の状況など連絡をとりあうことで、大きな争いや揉め事なく介護をしています。
兄弟姉妹で全然分担できなかったケース
状況 | 奈良県で母親を介護している家族 |
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家族構成 |
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結果
4年前、母親が骨折からの退院後に認知症を発症し、軽度だが一人暮らしは不安だと医者から言われました。
そこで誰が母親の面倒をみるという問題になりました。
実家に近く普段から行き来をしていたという理由から、長女一家が実家に引越し同居して母親を介護することにしました。
次男は月に1回ほど母親の様子を見に実家に顔を出しますが、家事も不得意ですしあまり積極的に介護にかかわりません。
長男は、仕事が忙しいことを理由にほとんど母親に会いに来ず、電話をかけてきたりすることもありません。
金銭的、身体的、時間的に負担が大きい長女が、介護費用を負担するように長男と次男に提案しました。
次男は費用を負担することに納得しましたが、長男は余裕がないとまったくお金を出しませんでした。
結局、長女が3年間在宅介護を行い、母が亡くなるまで世話をしました。
今では、長男とは絶縁状態になっています。
次男は金銭面でサポートしてくれたものの、介護は長女に任せっぱなしで、ほとんど相談にも乗ってくれなかったことを今でも長女は不満に思っています。
要介護5の場合の実際の負担は10万円以上になる
介護保険サービスの自己負担額割合は1割の人が圧倒的に多いですが、介護度が上がるにつれてたとえ1割でも大きな負担になります。
要支援なら月約1万円、要介護3で1ヵ月約3~4万円、要介護4~5になると月5万円以上が、個人差はありますが目安です。
加えて介護用品や紙おむつ、交通費、雑費などが加わると、介護費用全体としては、要介護1でも月約4万円、要介護5の場合は月10万円近くかかります。
月々の費用を親と子の財布からどのように支払っていくのかを、介護が必要になる前に、または始まってすぐの間に家族で決めておきましょう。
原則は親のお金でどうにかやりくりする
親の介護に必要となるお金は親のお金(貯蓄、年金、収入)を使うのが原則だということを、介護が始まる前に親を含めた家族全員で確認しましょう。
まずは、親の年金や預貯金を確認し、月々の介護費用が賄えるのかどうかを試算。足りない場合は、まず介護サービスの内容を見直します。
例えば、施設に入所している場合は、より費用が安い施設への住み替えを検討します。
施設探しの条件なども、今のうちに妥協できる、できないを考えておきましょう。