無届け老人ホームとは
手厚い介護で魅力的な特別養護老人ホーム(以下、特養)は長期間の入居待ち、一方、民間の老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)は、入居したくても費用が高額で予算的に厳しい方が多いのが現実。
そのような現実から、あふれた入居希望者の受け皿となってしまったのが、無届け老人ホームです。
「無届け介護ハウス」とも呼ばれる無届け老人ホームは名前の通り、都道府県や管轄する自治体などに届け出を出さないまま無許可で運営をしている施設のことです。
多くの場合、一戸建ての住宅などを施設として活用し、食事や入浴などのケアを提供しています。
当然ですが、無届けなので自治体側の監督の目が届かず、防災体制や職員の数、居住環境に問題を抱えている施設が数多く指摘されており、一歩間違えれば取り返しのつかない事態になりかねません。
厚生労働省の発表によると、2009年には389施設だった無届け老人ホームの数は、2017年には1046施設と2倍以上に増加。その後は減少傾向となりますが、未だに無届け有料老人ホームは多くあります。
それだけ、認可を受けている老人ホームに入居できない高齢者が多くいるということです。
老人ホームやサ高住は行政への届け出・認可が必要
無届け老人ホームの概要についてはおわかりいただけたと思いますが、改めて老人ホームやサ高住の登録について確認しておきましょう。
老人ホームやサ高住を運営するには、行政に届け出て、認可を受ける必要があり、種類によって届け出や登録を行う行政機関が異なります。
- 有料老人ホーム→都道府県への届出
- サービス付き高齢者向け住宅→都道府県や自治体への登録
- 特別養護老人ホーム→都道府県の認可
- グループホーム→自治体への指定申請
行政側が各施設の状況を把握し、管理・指導することで安全に運営される仕組みです。
無届け老人ホームの問題点
最近はニュースでも無届け老人ホームの劣悪な環境や貧困ビジネスが取り上げられ、その実態は、介護が必要な方々やそのご家族だけでなく、広く世間に認知されてきました。
しかし、たった数年間で無届け老人ホームの数が3倍以上に膨れ上がっている現状を考えると、認可を受けた老人ホームに入れない高齢者の受け皿となっており、いわば「必要悪」になっていると言わざるを得ません。
現在は、民間のみで運営される全有料老人ホームの約15%が無届け老人ホームだという報告もあるほどです。
では、なぜ本来は届け出や登録を行うべきはずの介護施設が手続きを怠ってしまうのでしょうか。
それは、届け出や登録を行うことで施設の広さやスタッフ数、防災設備などのさまざまな点において行政からの指導が入り、最悪の場合は施設の運営そのものができなくなってしまうかもしれないからです。
無届け老人ホームの劣悪な環境の例には、以下のようなものがあります。
- 部屋の広さや廊下の幅が狭いなど、要介護者が住むには問題がある
- スプリンクラーなどの防災設備がなく、消防訓練が行われていない
- 保健所の指導などがないため、冬場の感染症対策などが不完全
また、スタッフの対応に問題があるケースもあります。
- 入居者の財産を施設側が管理し、無断で使ってしまう
- 部屋に閉じ込めたり、ベッドに縛り付けるなどの身体拘束
- 不要な介護サービスを提供し、不当に介護報酬を得る
届け出や登録をきちんとしている老人ホームであるかどうかは、施設選びの際にきちんと確認しましょう。
届け出の重要度がまだ認知されていない?

無届け老人ホームで発生した事故や事件はたくさんあります。
そのなかでも、2009年3月に群馬県渋川市で発生したある無届け老人ホームでの火災は10名の入居者が犠牲になり、無届け老人ホームの危険性を広く世に知らしめました。
老人ホームならあるはずの防火設備がなかったことが、犠牲者を増やしてしまった大きな原因だと指摘されています。
また、2014年11月には東京都北区の無届け老人ホームで、拘束する必要のない入居者をベッドに固定する虐待事案が判明し、劣悪な環境で運営されていたことが浮き彫りになりました。
このように、無届け老人ホームでのトラブルや事故の原因は、そもそも老人ホームを運営するために満たしておかなければいけない基準を満たせていないことが挙げられます。
行政側も届け出や登録の強化を推し進めていますが、残念ながら未だに状況の改善は見られません。
実態の把握もままならないのが現状で、根本的な解決策が見出せていないのが実際のところです。
2018年4月から行政指導に加えて事業停止命令も可能に

2018年4月から、繰り返し注意しても対応しない業者に対しては行政指導だけではなく、事業停止命令が可能になりました。
この狙いは、自治体の権限を高めることで悪質な老人ホームをなくすことにあります。
無届け老人ホームかを見分けるには自治体のHPをチェック

有料老人ホームには「届け出」、サービス付き高齢者向け住宅は「登録」が必要となっており、入居を決める際にはこれらの基準を満たしているかを確認しておきましょう。
無届けかどうかは、管轄する自治体のホームページを確認したり、担当部署に問い合わせたりすることで見分けられます。
また、サービス付き高齢者向け住宅が登録されているかどうかは、「サービス付き高齢者向け住宅情報提供サービス」で確認できます。
施設が充実しているからといって届け出や登録をしているとは限らないため、どれだけ設備が整っている施設でも、無届けや無登録の確認は必須です。