市電・市バスが発達し、面会に便利な介護施設が多数
熊本市の総面積は約390km。
県の総面積の5%という広さに県内人口の大半が住む一大都市で、九州の中でも福岡市、北九州市に次ぐ3番目の人口を誇っています。
それだけに老人ホームの数も多く、県全体の実に30%以上もの老人ホームがあります。
そもそも、熊本県は全国的に見ても老人ホームが充実している県ですが、その中でも熊本市は最も多くの老人ホームがある市なので、その充実度合いは容易に推察できるでしょう。
特に医療・看護ケアが必要な高齢者にとって、安心して生活できる環境が整っていると言えます。
市では2011年に「熊本市長寿社会まちづくり計画~わくわくシルバーライフプラン~」を策定。
その中では、特にサービス付き高齢者向け住宅の整備に注力し、事業者に対して補助金や税制の優遇といった支援を行うとともに、高齢者が利用しやすい環境の整備を始めています。
今後、熊本市で老人ホームへの入居を考える際には、サービス付き高齢者向け住宅を最初の選択肢とするのも一案でしょう。
市内は公共交通機関が発達しているため、移動が苦になることはありません。
日中は4分間隔で運行される市電をはじめ、市バスも豊富に路線が張り巡らされており、高齢者が移動する際はもちろん、家族が面会に行く場合も便利です。
そうした一大都市ではあるものの、市内にはとてものんびりとした空気が流れています。
築城の名人と言われた加藤清正が建てた熊本城を市の中心に、南東部には日本三大名園のひとつ・水前寺成趣園があるなど名勝地もそこかしこに。
また、熊本市は日本でも有数の農業王国であり、市の南西部は米やメロン、金峰山のふもとは温州みかんの一大産地となっており、牧歌的な雰囲気に包まれています。
都市機能の充実と、のんびりした雰囲気が絶妙に融合した熊本市での生活は、高齢者にとって、またその家族にとっても大きなメリットがあると言えるでしょう。
高齢化率は2023年には27.0%まで上昇
2012年に政令指定都市となった熊本県の県庁所在地、熊本市。
2023年現在、人口は73.1万人で政令指定都市の中では17番目に人口の多い都市です。
人口は近年、若干減少傾向にあり、今後も緩やかながら減少していくと見られています。
高齢化率を見てみると、1995年にわずか14.3%だったものが、15年後の2010年には21.0%にまで上昇。2015年には24.2%、2020年には26.4%、2023年には27.0%と推移しています。
2040年には33.9%、2060年には37.5%にまで達する見込みです。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
行政区別に見ると、西区の高齢化率が比較的高い傾向にあります。西区は人口密度が市内で最も低い地域でもあり、単身や高齢者のみの世帯が多い事が懸念材料として挙げられます。
熊本県の人口の約4割が集中している熊本市だけに、行政区による偏りは避けられないというところでしょう。
区レベルだけではなく、熊本市全体においても高齢者の世帯構成は大きな課題。
すでに全年齢を合わせても世帯の約1分の3が単身世帯ですが、65歳以上の高齢者では35%、75歳以上に限ってみると女性の80%が単身という事になります。
高齢者の孤立化は、都市部において特に顕著に出る傾向ですが、熊本市の女性比率の高さは特に注意すべき点といえるでしょう。
「訪問看護」のサービス利用が飛躍的に増加している
熊本市は全国平均から比較すると、高齢者の割合が少ない一方で年少人口の割合が多く、いわゆる少子高齢化が緩やかな自治体と言えます。
しかし全国で17番目に人口が多い政令指定都市なので、高齢者人口が少ない訳ではありません。
それに伴って、介護サービスの利用者数や要介護認定者数も増加の一途。
介護サービスの利用者数については、2002年に約1万5,000人だったものが、2024年時点では3万7,517人にまで増えており、自治体の介護費負担が重くのしかかっています。
介護サービスの利用状況を見てみますと、在宅介護が大幅に増えていることが読み取れます。
2024年のデータでは、訪問介護・看護、デイサービスなどの通所型サービスを含む居宅型サービスの利用者が全体の約73.3%を占めています。
一方で特別養護老人ホームなどの施設入居型サービスは全体の約11.1%に過ぎず、毎年減少傾向にあります。
また地域密着型サービスの中で施設入居にあたるグループホームや有料老人ホームの利用者を除くと、在宅介護用のサービスの利用者は80%以上になります。
特筆すべきは、介護に加えて“訪問看護”が飛躍的に増加しているという点。
在宅介護に加えて病気の自宅療養までも大幅に増えており、介護をする側の負担増に注意する必要があるでしょう。
「くまもと元気くらぶ」の活動が介護予防を促進
熊本市では、要支援・要介護の認定者が全国平均を2%ほど上回っており、認定前の予防や、要支援の方が要介護認定に進行するのを食い止める事が急務です。
熊本市の介護予防は「くまもと元気くらぶ」の活動に集約されます。
「くまもと元気くらぶ」は、住み慣れた地域で、いつまでも自立した生活を送る目的で設立されました。
地域ごとに高齢者が定期的に集まり、運動を取り入れた活動の継続が義務付けられています。
おおむね週1回以上の会合と、市が推奨する重りを使った運動である「いきいき百歳体操」が行われており、その効果の検証も行われています。
参加者の条件は地域に住民票を持っているということだけで、原則年齢制限はありませんが、クラブのメンバーの半数以上が65歳以上の方と決まっているので、人員構成上の関係で断られる可能性はあります。
また、年に6回以内ですが、リハビリの専門職の方がクラブを訪問して運動のやり方を指導してくれたり、効果の測定を行ってくれます。
これは市がクラブに対して資金援助をして行っていることであり、熊本市の積極的な姿勢がここにも見られます。
「くまもと元気くらぶ」は営利目的や政治、宗教の活動団体であってはいけません。
また活動場所の安全確保や緊急時の避難誘導など、リーダーにはそれなりの資質が求められるので、覚悟を持って立ち上げていく必要があります。
また、市からの支援を受ける活動でもあり、公的資金が投入される事も意識していなくてはなりません。
地域包括ケアのための「認知症初期支援集中チーム」が設立
熊本市が考える地域包括ケアシステムは以下に示す5つの軸を一体型にしていくというものです。
- 住宅を提供した上で安心や健康を担保する事
- 介護保険の対象にならないサービスの提供
- 介護保険サービス
- 介護予防サービス
- 医療保険サービス
病院での入院看護から自宅療養への切り替えを円滑に行うための早期退院支援や、医師会との連携を図り自宅療養に対応できる医者の確保に努めているのです。
また、認知症患者に対する、地域での見守り対応も着実に進行。
「認知症初期支援集中チーム」を立ち上げ、認知症疾患医療センターが指定されたり、地域の医療従事者に対して認知症対応の研修会なども行っています。
加えて、認知症サポートキャラバンの拡大や、認知症カフェの増設、徘徊者を早期に発見するための模擬訓練なども行われています。
さらには、減少しつつある「老人クラブ」の再興に向けての取り組みや、シルバー人材センターへの仕事の依頼を増やすための活動を行い、高齢者の社会参加と孤立させない体制作りを行っています。
減少傾向にあった施設型の介護保険サービスについては、グループホームや特養に200床前後の増設が実現したという状況です。
熊本市民の高齢者の相談は「ささえりあ」へ
熊本市にお住まいの高齢者の方で困りごとのある方は、まず高齢者支援センターの「ささえりあ」に相談しましょう。
「ささえりあ」は市内27ヵ所に設置されており、地域のケアマネージャー、社会福祉士、看護師が常駐して高齢者の方の相談にあたっています。
介護や医療に加え、権利譲渡や成年後見制度、虐待防止などの相談にのってもらうことが可能です。
また、要支援認定の方には介護予防のケアプランを作成して、介護保険サービスへの申請なども合わせて行っています。
2015年に開設された「熊本市福祉相談支援センター(生活自立支援センター)」は「ささえりあ」同様で、とにかく誰にどこで相談して良いのか分からない場合に相談することができる施設。
相談内容に応じて、各部門との連携を図りながら解決に向けた施策を進めてくれます。
特に生活に困窮し、生活の自立に対して支援を必要としている方は真っ先に訪れる必要がある場所です。
さらには認知症の方やその家族の方を対象とした相談窓口もあります。
「ささえりあ」でも相談に乗ってくれますが、「認知症ホットコール」や「認知症の人と家族の会熊本県支部」では、定期的な家族交流集会や介護経験者が面接を行い、相談に留まらずに今後のフォローまでしてくれます。