高齢者福祉の手厚さも、世界に誇れる古都

奈良市は奈良県北部にある県庁所在地で、奈良公園や春日大社など古くからの神社仏閣が多く、観光都市として海外にも名が知られている街です。
交通アクセスとしては、「近鉄」の愛称でおなじみの近畿日本鉄道や、奈良交通バスなどが通っています。
奈良市も他の都市と同じく、高齢化率が年々上昇している都市です。
2005年には、総人口約37万人に対し、高齢者数は約7万1,000人、高齢化率は19.1%でした。
それが2023年には、総人口35万1,418人に対し、高齢者数は約11万1,687人に膨らみ、高齢化率も31.8%まで上昇。
約20年間で高齢者の数が約4万人増えたことが分かります。
今も増え続ける高齢者のために、奈良市はさまざまな福祉サービスを提供しています。
70歳以上の市民を対象に、「老春手帳」という助成パスポートを配布し、市内のバス料金や公共浴場の料金を助成。
そのほか文化施設の入館料の無料化などを実施しています。
なかでも、市内の神社仏閣の入場料が無料になる福祉サービスは、奈良市特有のものでしょう。
また、「大人の健康づくり」という運動を実施し、健康相談や認知症相談など、高齢者が抱えがちな悩みを打ち明けやすくしています。
奈良市には、特別養護老人ホームの数は比較的多いのですが、どの施設も入居待ちをしている高齢者が多いようです。
また、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅も市内に点在しており、サービス内容も豊富です。
料金的には、どちらも入居時に必要な一時負担金を一括して支払っておけば、月額利用料が15万円前後でおさまるようです。
ただ、一時負担金が数百万円という高額な老人ホームもありますので、施設を探す場合、月額利用料だけでなく入居時の頭金も確認することをおすすめします。
グループホームも市内にいくつかあり、月額利用料は15万~20万円程度のようです。
しかし、グループホームは基本的に、認知症でも自分で生活できる人が対象のため、介護度が上がったり、寝たきりになっても介護してもらえるグループホームは少ないです。
入居前の見学時などに、どのくらいの介護度まで入居可能か聞いておくとよいでしょう。
現在、特養だけでなく有料老人ホームやグループホームなどは、満床の施設が多いようです。
入居したい特養や有料老人ホームがあれば、その施設のケアマネージャーに担当になってもらえるよう、希望を出してみると良いでしょう。
将来人口推計では2030年の高齢化率は35%に
奈良市はほかの都市と同様に、人口の減少と高齢化が同時に進んでいます。
総人口は2000年の約37万5,000人をピークに減少の一途をたどっており、2023年には約35万人まで減っています。
さらに、将来人口推計によると奈良市の人口は2040年には30万人を割ると推測されています。
総人口は減っている一方で高齢者人口は増えており、2023年には高齢化率が31.8%、年少人口の割合(総人口に対する15歳未満の人口の割合)が11.1%となり、高齢者が年少人口の割合を超えました。
さらに将来人口推計によると、2035年の高齢化率は37.8%、高齢者人口は12万108人となり人口の3人に1人が高齢者の時代が到来します。

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)」
奈良市は、人口自体は減っていますが世帯数は増加しており、1985年に約10万1,000世帯だった世帯数は、2000年には約13万4,000世帯となり、2015年には約14万9,000世帯まで増加。2020年には約15万5,000世帯にまで増加しています。
人口は減っているのに世帯数が増えているのは、一世帯当たりの人口が減っているということになります。
高齢者の一人暮らしや夫婦だけの世帯が増えており、施設に入らず自宅で生活する高齢者の介護や生活サポートが重要になっています。
また、奈良市内で暮らす世帯の中でも、65歳以上の高齢者がいる世帯が増えているのが特徴で、中でも高齢者のみの世帯が増加、2020年には4万4,857世帯と全世帯の約30%となっています。
高齢化の波が奈良市に押し寄せているのが分かります。
要介護認定率は2035年には25%近くまで上昇する見込み
奈良市では高齢化率の上昇に伴い、要介護認定者も増加しています。
認定率は2010年は15.0%でしたが、2020年には19.6%、2023年には20.8%と上昇、2035年には24.6%となると推測されています。

特に80歳を超えると急激に認定者数が増えますので、認定を受ける前の60代、70代から健康体操などの介護予防を行うことが大切です。
そのため、奈良市は介護支援サービスだけでなく、60歳以上なら誰でも利用できる介護予防事業にも力を入れています。
また、エリアによって高齢化率などの差が出ており高齢化率が一番高いのは東吉野村、御杖村の58.5%、反対に一番低いのは香芝市の23.9%です。
高齢化率が高いエリアはより一層の介護支援が必要でしょう。
奈良市高齢者日常生活圏域ニーズ調査によると、介護をしている人の中で約4割が老老介護となっているのが現状です。
被介護者でなく、介護する人が体調を崩すことが多いため、奈良市は居宅サービスを充実させ、介護側の負担を減らしていくよう努めています。
奈良市在住の高齢者の約50%が「要介護者になっても自宅で介護支援サービスを受けながら暮らしたい」と考えています。
実際、奈良市内で訪問介護を利用者が29.9%、デイサービス利用者が19.2%、夜間対応型訪問看護の利用者が13.1%となっており、居宅サービスの利用者は多いです。
一方、自宅での介護が難しい人のために、施設サービスの充実も図っており、奈良市は老人ホームなどの高齢者向けの施設も増設中です。
奈良市では、さまざまな介護支援サービスが受けられるのが魅力といえるでしょう。
介護予防講座は20歳以上の人なら誰でも参加できる

健康維持・体力増強をサポートし、高齢者がいつまでも元気で自立した生活が送れるよう、奈良市では介護予防事業を実施しています。
骨や関節、筋肉の衰えを防ぐため、年齢や体力に応じた「筋力トレーニング(筋トレ)」を行うことが肝心なので、介護予防教室では週1回のペースで長期的にストレッチや筋トレを実施しています。
福祉部の福祉政策課が窓口となっており、要介護認定者以外の高齢者も参加できます。
地域包括支援センターが実施している健康出前講座では、運動だけでなく、歯の健康、口腔衛生、栄養、認知症対策など多角的なお話が聞けます。
高齢者だけでなく20歳以上の人なら誰でも参加できるのが魅力です。
また、各福祉センターでは介護予防教室を開催しており、60歳以上の人なら誰でも太極拳や音楽に合わせた体操などができます。
楽しみながら介護予防ができるのがポイントで、認知症予防にもなる楽しいゲームや、「歌って踊って健康づくり」「いきいきヨガ」など、気持ちよく体が動かせ、心も満たされるものばかりです。
「元気ならエクササイズ」という筋トレやストレッチを組み合わせた健康体操も実施。
座ったままでもできるので、車イスの人なども参加できます。
さらに、介護予防講座では、食事や漢方薬、食中毒や病気の予防などが学べます。
体を動かす講座も多く、各地域にある包括支援センターによって講座内容も違うため、講座の種類が大変豊富です。
奈良市では、高齢者の介護度が高くならないように、心身の機能の維持や改善をするためにさまざまな介護予防を行っています。
奈良市では積極的に高齢者が社会に出る環境を整備

奈良市では高齢者が安心して快適に暮らせる環境づくりのため、介護予防・生活支援総合事業を含めた地域包括ケアシステムを構築中です。
2013年の調査によると、要介護高齢者の48.2%の人が「自宅で最期を迎えたい」と感じています。
そのためには在宅介護や在宅療養の充実が肝心ですので、奈良市は生活支援・居宅サービスを推進しています。
そして、元気な高齢者のボランティア活動も奨励し、ゴミ出し代行などを実施。
地域住民も含めた見守り体制を整えようとしています。
高齢者の生きがいづくりにも重きを置いており、生涯学習の場やコミュニティサロンなどの交流の場を設けたり、就労支援を行ったりして、積極的に高齢者が社会に出る環境を整えています。
2017年から実施された介護予防・生活支援総合事業では、NPOなどによるミニデイサービスや、訪問生活支援活動がしやすいようサポートしています。
また、医師による訪問診療も増えており、2013年の調査では、訪問診療や往診などの住宅医療を行っている医師が49.7%となっています。
医師のほぼ半数が住宅医療に関わっており、訪問診療が積極的に行われているのが分かります。
認知症に関する知識をまとめた「認知症ケアパス」の作成など、認知症対策も推進。
奈良市では介護・生活支援サービス、介護予防だけでなく、社会的な環境づくり、認知症ケア、医療サポートなど、多角的なケアを行っています。
奈良市の福祉サービス運営適正化委員会とは?

奈良市役所内にある社会福祉協議会の分室では、介護や障がい、福祉サービスに関する相談や、福祉資金の貸付に関する相談に応じています。
また、奈良市社会福祉協議会の生活支援課福祉サービス支援室が相談窓口となり、低所得世帯に対して資金の貸付を行う「福祉つなぎ資金」を実施。
経済的自立と社会参加の促進を目的とした「生活福祉資金」もあり、高齢者世帯などを対象としていますので、奈良市在住の高齢者は「お金が無くて困っている」といった相談もできます。
介護だけでなく、家庭や健康、人との付き合いなど、総合的な相談に乗っているのは地域包括支援センターです。
高齢者だけでなく地域の人々の相談を受け、必要な情報を提供してくれます。
高齢者の権利擁護のための援助を行う、権利擁護事業も実施していますので、高齢者への虐待に関する相談も可能です。
その他にも健康医療部の健康増進課が実施している「健康相談」では、電話で健康への不安に関する相談ができますし、市民相談室では法律相談や行政相談、建築指導課では住まいの相談、人権政策課では人権相談、福祉政策課では認知症相談を実施。
高齢者の多種多様な相談に対応しています。
相談可能な日時は限られていますが、すべて無料です。
「どこに相談したら良いか分からない」という人は、地域包括支援センターか福祉部の福祉政策課に相談すると、適切な部署を紹介してくれるでしょう。