高須克弥「私のところの介護保険施設も経営は本当にカツカツ。真面目にやるほど赤字になる。そんなシステムは馬鹿げている」
美容外科「高須クリニック」の院長である高須克弥先生は、江戸時代から続く医師の家系である。今や芸能界のみならず財界や政界においても幅広い人脈の持ち主で、メディアでは歯に衣着せぬ物言いで意見することもしばしば。そんな高須先生は、実は高齢者医療・福祉などを担う医療法人社会福祉会「高須病院」の理事長も務める。日本の医療・介護の技術は世界に誇れる、と主張しながらも、業界を取り巻く制度の課題について伺った。
文責/みんなの介護
日本の医療や介護は、育てればものすごい産業に育っていく芽なのに、経済発展を妨げる足かせだと思われている
みんなの介護 高須先生は高須クリニックの院長として活躍されていますが、ご出身地の愛知県内で、現在も介護施設を運営されています。
高須 メインは高須病院なんです。病院を中心に、老健の「高須ケアガーデン」、訪問介護事業所の「高須ヘルパーステーション」など6施設を運営しています。患者さんを社会復帰させられるようにQOL(生活の質)を高める病院を作ろうと思い、1974年に24時間体制の病院を開設しました。
みんなの介護 先生は医療にも介護にも携わっておられますが、メインは特にリハビリだとか。
高須 そうですね。例えば、脳梗塞で倒れてしまって麻痺が残った高齢の患者さんにリハビリをするとき、当然ですが一生懸命にやってあげるわけです。でも、行政はそれを歓迎しないみたいなんですよね。なるべく在宅にシフトしようとしているから、逆に入院期間を短縮することが歓迎される。高齢者だとしても、きちんと筋肉を動かせば回復するんです。でもね、丁寧にやってあげるとすごく人手がかかるし、医療費が上がってしまいます。
みんなの介護 1日、1か月あたりに受けられるリハビリの時間は決まっていますからね。患者本人がリハビリを受けたくても、一定の時間を超えるのはなかなか難しいという。
高須 国が大事だと思っているのは、何よりも医療費抑制。“年寄りは早く旅立ってほしい”とでも思っているんでしょう。こちらとしては、今までたくさん税金を納めて国に尽くしてきた人だから、幸せな老後を送ってもらおうと思っているんですが、もう少し治療してあげたいと思ってもそれが許されないし、無理やり病院に引き止めても赤字がかさんでいって経営が苦しくなってしまう。
みんなの介護 患者さん個人のことを思うと、心苦しいですね。
高須 介護をメインにやっている私の施設なんかは、職員が毎日毎日、真面目にやってくれています。でも、利益が上がらないんですよ。自由診療の高須クリニックと合体させることでもってなんとか経営的に安定させているというのが現状で、悔しいことは悔しいんです。
日本の介護って、ものすごく洗練されてきたんですよ。お金をかけずに、ブラック企業にもならずにうまくやってきたんです。これは、ものすごい産業なんですよ。
みんなの介護 諸外国と比較しても、日本の介護サービスの質は高いと思われますか?
高須 中国の富裕層には、高いお金を払って介護を受けたいと思っている人がたくさんいると思います。よい治療を受けたいという中国人は、すでに日本に来ていますから。介護を受けるところまでの年齢ではないけれど、がんの治療や健康診断とかでね。中国には今のところそういうのがないけれど、そう遠くないうちに日本と同じようにシステム化すると思います。
日本の医療や介護は、育てればこれからものすごい産業に育っていく芽だと、私は思っているんですけどね。それなのに、国としては経済発展を妨げる足かせだと思っているみたい。わりと目先の“財政再建”のほうが優先されるから、切り捨てられるほうになってしまっているね。
自由診療のような部分を充実させていけば、介護も利益を追求できるようになる
みんなの介護 本来の日本の介護は成長分野である、と。
高須 ものすごくいい介護をやっているんですよ、日本は。それこそ、新しいビジネスモデルを作るのも有りでしょうね。これからは、ものすごくお金をかけてでも幸せな老後を送りたいという人が中国の富裕層にも出てくるでしょうし。
みんなの介護 そういった人たちを呼び込めるような産業にしていかなければならないんですね?
高須 そうなんです。中国では受けられない医療サービスが日本にはありますから。でも、彼らが日本の医療を勉強して、中国でビジネスモデルを発展させる可能性のほうが高いと思いますよ。
とにかく、良い環境にするなら利益が蓄積できるような環境を作らなければいけないんです。日本の医療や介護業界は利益を出してはいけないというビジネスモデルになっています。“儲けてはいけない”という。でも、儲けをあげられなかったら職員にボーナスも出せません。中には、株式会社で利益をあげている病院もありますよ。
みんなの介護 それは自由診療によって利益を上げているんでしょうか?
高須 違います。国民皆保険が制度化されて、“医療法人は利益を上げてはいけない”と法律ができる前に病院を作ったんでしょう。株式会社であれば利益を追求していいし、配当として利益を出すことが義務ですからね。
みんなの介護 介護業界では株式会社として運営している施設の運営はだいぶ厳しいという現状があります。
高須 私のところのように割り切ってしまって、自由診療のクリニックもやって介護保険施設もやって、生き残っていけばいいと思うんですけれどね。自由診療では美容整形一本で利益を追求していく。介護のほうは、利益の追求ではなく半ばボランティアですよ。職員を食わせるのに必死で、経営はカツカツですから。
私が理事長をしている、愛知の「高須病院」に行きますが、私自身は無給です。東京から新幹線に乗って西尾まで行くときの交通費さえ出ません。日当や交通費をもらったら、病院が赤字になってしまいますから。職員を食わせるために、こんな風に何かやらなければならない状態のところのほうが多いと思いますよ。真面目にやっていたら赤字になるシステムですから。
みんなの介護 真面目にやればやるほど赤字になってしまう…と。一体どうしたらいいんでしょうか?
高須 株式会社の一部として、会社のイメージアップのためにそういった施設を運営する形があってもいいと思うんですよ。日本には世界を代表する大企業があるでしょ。『人を動かす』の著者として有名なアメリカのデール・カーネギーも、介護施設を作っていたんです。
アメリカの病院には、大きく分けて2種類あります。株式会社で利益を追求している病院と、お金持ちがたくさん寄付して成り立っている病院。両方とも経営は安定しているんです。日本にはどちらもないでしょ?
介護を受けている人たちは本能的に動物に戻ってくるから、相手を“この人は敵か味方か”という視点で見てくる。味方だと判断したら心を開いてくれますよ
みんなの介護 経営が安定している病院や介護施設が日本にも増えていけば、そこで働く人たちの待遇の改善も期待できますよね。
高須 現状は、日本の介護職の人たちってそんなに恵まれている環境ではないんです。給料も安いし。でも、東南アジアに行くと、これがけっこういい給料なんです。介護をするフィリピンやベトナムといった国の人で意欲のある人をどんどん受け入れたらいいと思いますよ。
みんなの介護 国の制度でもありますよね、EPAでインドネシアらの人を受け入れるという。
高須 EPAは、アメリカの医療業界と同じになる協定だと思って期待していたんですけどね。そのうち株式会社の病院ができて、各国の看護師たちも来るようになる。看護師はものすごく優秀なのに、日本の国家試験に合格しないと雇用できないということになっています。日本語で試験を受けさせたら合格率が下がりますよ。でも、日本人に英語で試験を受けさせたら、合格率はもっと下がるでしょうね。
EUなんかは、ドイツ語で試験を受けたってフランスで医者をやれるし、イギリスの医師免許を持っていればカナダでもオーストラリアでもニュージーランドでもできるわけ。看護師だってEPAの同盟国間の看護師はみな同資格にしてしまえばいいのに、と思いますよ。日本の介護の現場は人手不足なんですから。
みんなの介護 患者さんや利用者さんとコミュニケーションをとるときに日本語のスキルが大事だ、という理由も大きいと考えられていますが。
高須 必ずしも、どの現場でも日本語が大事だとは限らないですよ。例えば要介護度が高い人とは、ごく一般的なコミュニケーションははかれません。言葉が通じないからこそ、動物を介護するのと同じように、きめ細やかな配慮は必要でしょうけれど。
みんなの介護 それは言葉ではなくてふれあいで、ということですか?
高須 ふれあいができる軽度の人たちにはそれほど苦労はかからないんですよ。それよりも、ふれあいができないほどの重度の人たちの介護が大変なんですから。重度の人たちの介護って、世界中で一緒なんですよ。高須病院でも、軽度の人たちは在宅で、重度の人たちが病院にいる状態。
回診のときは一人ひとりに「おはようございます」と挨拶をしてまわるんだけれど、普段何も言わないおばあちゃんでも私の回診のときだけ反応する人が何人かいます。たいてい介護を受けている人たちは本能的に動物に戻ってくるから、相手を“この人は敵か味方か”という視点で見てくるんです。味方だと判断したら心を開いてきますよ。
ところが、「この介護のヘルパーさんは自分に痛いこと、嫌なことをやる人間だ」とインプットされていると、その人が来たときに相手をにらむ。そうすると、介護をするほうも人間だから、感情的になってつらくあたって、悪循環になってしまいます。まあ、こちらがよかれと思うことでも相手によっては痛いことはあるから難しいんだけれど。
みんなの介護 簡単なことではないけれど、重度の要介護の方に心を開いてもらっているという実感をお持ちなんですね。ところで、高須先生が普段、接するときに心がけていることは?
高須 おばあちゃんって、外から見たままではおばあちゃんでしょ。でも、中身は少女の部分があるんです。見た目が年寄りだからまわりから年寄り扱いをされて、そのうち年寄りのフリをし始めるんだけれど。「あなた、心は若いけれど見た目が年寄りだから、みんなに年寄り扱いされてかわいそうね」って言ってあげると、「わかります?」って涙を流す方もいるんです。
ぼけてしまって会話がままならない人でも、若いときに立派な人だったと知っている人だと、その当時のことがよみがえってくる。考えてみると、大人になるにつれて色々なスキルは手に入っても、芯のところは変わっていないでしょ?物事の好き嫌いとかも。
“僕、この人のことを好きだ”と思うと、相手も同じように思ってくれるんですよ。それとは逆に、“この人のことは嫌いだな”と思うと、たとえ笑顔で話しかけても相手にはわかるんですよね。日本語を話せることを重視する意見もあるようですが、大事なのは気持ち。だから私は海外の人の受け入れを積極的にするべきだと思っています。
「給料を上げたい、国は補助をしろ」という主張は間違っている
みんなの介護 先ほど、日本の介護は成長が期待できる産業であると伺いました。一方で、医療保険や介護保険が国の報酬は圧縮の方向に舵が切られていて、報酬を引き上げるべきだという声も上がっています。
高須 どの業界も「給料を上げたい」とは言うんですよ。でもそれは、国の財政が豊かだということを前提にしておいて「自分たちに補助を与えろ」ということでしょう。国が財政難のこの時代、国の経済発展には役立たないから切り捨てるというのはある意味正しい選択です。でも、うまく育てれば大産業になるのに、馬鹿だなと思いますよ。
例えば韓国は、今でこそ美容整形大国になっているけれども、金大中(キム・デジュン)政権までは美容整形をやったらパスポートを取り上げていたんです。当時は韓国の富裕層の人たちがうちにたくさん来ていました。ここで働いていた人もいて、韓国に帰ったあとに学会を作った。その3世代あとぐらいから急にビジネスに目覚めたようです。そもそも技術を教えたのは私なんですが、今じゃ日本よりも自分たちが本家のようなことを言っています(笑)。
みんなの介護 韓国の美容整形市場が拡大したのは、先生の尽力があったからなんですね。
高須 美容整形が広まる前までは「顔を変えるなんてとんでもないヤツだ」という認識だったんです。ところが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は、それまでの政権がやっていたことと正反対のことをやったんです。それから、ノ・ムヒョン大統領の次期大統領、李明博(イ・ミョンバク)氏はソウル市長から大統領になって、彼はソウル市を美容整形特区のようにして、推進していきました。当時は、ソウル市と国がこぞって海外から客を連れてこようと競い合っていました。
国の政権が変わってそれまでと正反対のことをやり始めると、こんなにガラリと変わるものかっていう例ですね。ところが、今の大統領になってからは弾圧されてきていますから、今まで韓国に行っていた美容整形ツアーは日本に大移動しています。
みんなの介護 国の後押しがあれば成長産業にできる、という好例ですね。
高須 そうです。今は美容整形を例にして話していますけれど、国がバックアップしてくれたら、韓国以上に大きくなると思いますよ。日本のほうが環境はいいんですから。でも、美容整形に対して日本はどちらかというと弾圧しています。広告の規制だとか、届出を厳しく出させたりとか。
肌や幹細胞などの再生医療は美容整形の中にも含まれますが、こちらも届出をさせるようになってきています。美容整形は国の財政を圧迫するどころか、成長産業なのに。圧迫と言うと大げさですが、少なくとも推奨はしてくれていませんね。
税金をもっと少なくして、自分が行く病院や介護施設に寄付したときは税額控除するような制度を作ればいいと思う
みんなの介護 自由診療の枠が大きくなり、受診する人も増え、お金をかけたい富裕層も集まってくると、利益があげられますね。
高須 そうです。そうして利益があがっているところから税金を取ればいいんですよ。お金持ちからは税金を取って、貧しい人には手厚い保護を与えればいい。そのためには、お金持ちを作らないとダメですよね。一番簡単なのは、税金をもっと少なくして、お金持ちを増やすこと。あとは、自分が行くような病院や介護施設に寄付したときは税額控除すること。そうしたら、みんな自分が入る老人ホームに寄付するようになると思いますよ。
みんなの介護 そういう税額控除の制度はないですもんね。
高須 アメリカはみんなそうで、大金持ちは寄付大好きですよ。寄付すれば人から褒めてもらったうえに、自分もそこの病院に入院したときに大事にしてもらえますから。
みんなの介護 最近では、先生がリオ五輪のナイジェリア男子サッカー代表に賞金を渡したことが世間で話題になりました。ただ、欧米にはボランティアの精神が根づいていますが、日本では難しいんじゃないかと。
高須 元々は日本のほうがボランティア精神は多かったはずなんですよ。村の中で除け者にされても火事のときや葬式のときは力を合わせて助けてあげようとしていたわけですから。日本の元々の制度はボランティア精神から来ているものなんですよ。そうやって村全体が困っている人を助けてやっていたんですから。敵となった人でさえ、火事などの非常事態になったときは助けに行ったんです。
でも、元々の日本の源流にある村社会がバラバラにされてしまった。アメリカが狙ったのはそれだったんですよ。自分たちと同じような国にしてしまおうとしたんだけれど、日本の制度はちょっとしたことでは壊されないから、水害や台風などの被害に遭ったときは自主的にボランティアをしますでしょ。ほかの国だったら、略奪を始めたりよそに逃げたりしますよ。
みんなの介護 そういう精神をもとにお金持ちが増えれば、寄付する人も増えるというわけですね。
義理人情といった古い価値観がいまだに生きている。筋を通して肉弾攻撃をする人を好むのは日本独特の文化
高須 昔から日本はそういう社会だったんですよ。医療も同じで、「医は仁術なり」といって医者は情けを持った心でもって患者を施すことが当たり前だったんです。すごく貧しい人は医者の情け袋にかければ金は取らないっていう。医者だってプライドがあるから、貧しい人が来たら「治療費なんかいいから」と言って治療をやっていました。ただ、医者にかかれるお金持ちが自費でたくさん医療費を払ってくれたからできたわけで。
私の祖父母の頃は一日に家族の数だけ患者が来れば優雅に生活できていました。治療費がすごく高かかったので。それくらいの価値はある、と思った人たちが治療しに来ていました。今は国民皆保険で療養をメインにしてくれると貧しい人もお金持ちも平等に扱ってしまうでしょ。戦前までは、日本のボランティア精神は互助精神だったんです。
みんなの介護 先生は終戦の年にお生まれになったんですよね?
高須 昭和20年の1月、防空壕で生まれました。村ではけっこういじめられましたけれどね、いざというときは助け合う村社会でした。村の人たちは集りの精神の持ち主で、お金持ちがご馳走してくれるというのはごく当たり前のことだった。だから、地主のところに小作が行ってご馳走してもらうのは当たり前。
お金持ちもそういうところを見せないと村社会では尊敬されなかったから。昔は尊敬されることがアイデンティティーだったんですが、今のお金持ちは尊敬されなくても平気ですもん。
みんなの介護 現代では尊敬されるお金持ちが減ったということですか?
高須 以前は政治家も尊敬されるために、自分の地方では大金持ちでも国選に出ようとして家の家宝も家財道具も土地も売り払って、井戸と塀しか残らなかった。こういう“井戸塀政治家”っていうのが尊敬されたんですよ。今はみんな食っていくのに必死だから、議員になって歳費をごまかしてセコくやる人に対して世間が怒るにはすごくわかりますよ。
発展途上国だったら、“別にいいじゃないの”となるかもしれないけれど、“セコい”ことは日本ではものすごく軽蔑されますね。セコいことをやる金持ちは嫌われる。
みんなの介護 世間から軽蔑されてしまったら、国政選挙では不利になってしまいます。
高須 そうですね。それはつまり、義理人情といった日本の古い価値観がいまだに生きているということです。筋を通して肉弾攻撃をする人を好むのは日本独特の文化ですよ。でも、政治家が壊しますもんね。
みんなの介護 政治家になった後に筋を通すことがまた難しそうですが…。
高須 議会制民主主義だから、直接には全員の意見は通らないですからね。私はね、昔の帝国議会のように衆議院と貴族院にしたほうがいいと思っています。貴族院は税金をたくさん支払っている人に限ってしまえば、貴族院議員は多額の納税によって選ばれているわけだから誇らしいだろうと。昔は、誇りのために家財道具を投げ売った人が日本にはたくさんいたんですよ。
患者の喜ぶ顔が見たくて働いているんだけれど、「金儲けのためか?」って勘違いされる
みんなの介護 先生が地元愛知県の病院に行くときは、手弁当で行っているそうですね。先生の息子さんやその奥さんも。
高須 大金持ちが財産を使ってみなを助けてあげるというのは一番美しいことだと思うけれど、尻すぼみになっていっていずれは消滅してしまうと思うんです。だからこそ、高須クリニックのように病院以外の収入源から利益が回るようなシステムを作らないといけない。高須クリニックがある限りは、高須病院も介護施設も全部生き残るはずです。
みんなの介護 これまでも、利益の有無にかかわらず困っている人にも恩恵を施すことを理念とされてきたんですか?
高須 うちは代々医者の家系でね、私が子どもの頃、家には魚とかスイカが山のようにあって。なぜかというと、治療費を払えない人が物だけを置いていくんですよ。ツケにしておいて、年末になると職員が取り立てに行くもんだから、その時期は急にリッチになる(笑)。それ以外の時期は魚やスイカをもらうっていう。
保険制度が入ってきてからは、めちゃくちゃ忙しくなってきて。急患が来たら夜中でも起きて往診に行っていた父と母を子どもの頃から見ていましたよ。あれを保険でやられたらたまらない。“保険がきく”と思ったら割と簡単に救急車を呼んでしまうんですよね。今は救急車で来てしまうものね。アメリカのようにタクシー料金よりうんと高かったら、救急車を呼ぶのは躊躇するはずです。
みんなの介護 消防署員の人は、呼んだ人が重症か軽症かは駆けつけてみなければわからないですからね。
高須 実は、私が尊敬する森教授という整形外科の先生がいるんだけれど、8年くらい前に心筋梗塞で亡くなったんです。先生が倒れる前に、熱を出している子どもとおばあさんが患者で来ていて、医者の倫理で“患者を退けて自分が診てもらうわけにはいかない”といってそのまま亡くなったんです。かわいそうでね、今考えても。本当は心筋梗塞の患者を最優先すべき。昔の人って、患者のために自分が犠牲になってもいいという滅私奉公のような考えを持っていてね。良い医者ほど早く死んでしまう。
みんなの介護 先生も今年、体調を崩されて、今は元気になられていますけれども。
高須 「高須クリニック」の手術はずっと先まで予約が入っていてね。私が入院中のときでも、わざわざ海外から来院している人もいたんです。体調を崩したときに手術を受けたんですが、面会謝絶の絶対安静のときもあって。でも「4時間で全部終わるから」と言って、病院を脱走して、患者さんのために手術をしました。術中は管をぶら下げたままでしたね。私が点滴をしながら手術をやることはよくありますよ。高熱が出たときに点滴をつなげてね。
みんなの介護 先生がそこまでして働くのはなぜですか?
高須 確かに、みんな「よく働くね」って言うけれど、お金儲けのためではないんです。患者の喜ぶ顔が見たくて働いているんだけれど、よく勘違いされる。生活には困っていないし、お金を貯めたって別にやることは何もないもの。お金を使うことが楽しいだけで。
見返りを求めず自分のお金で困っている人を助けたいのに、なぜ非難するのか?幸せな人は一人でも増えたほうがいい
高須 介護の場合は、今寝たきりで植物人間状態になっている人たちが、若いときどのくらい立派な人たちだったかわかっている人ばかり。「あの方がこういうふうになってしまったのか」と全部わかりますからね。“お墓参り”だと思って、回診しているんです。介護をやっているときは半分僧侶の気持ちなんです。医者は、基本的には病院に奉仕する肉体労働者ですよ。
みんなの介護 介護業界でも、国は在宅介護へシフトさせている流れのようですが。
高須 在宅の中も、ヘルパーステーションがさらに忙しくなってしまっています。
みんなの介護 忙しくはなるけれど、報酬が上がっているわけではないようです。
高須 だって、報酬はほとんど人件費に回ってしまいますからね。でも、報酬を取らなければ運営できないっていう。
みんなの介護 医療には自由診療があるように、“自由介護”が浸透していかないのかという意見もあります。
高須 私の女房はがんで亡くなったのですが、自由介護でしたよ。公的な介護保険は使わずに。すべて自分で良いヘルパーを雇ってきて、緩和ケアをやる医者を見つけて、自宅を病院のようにリフォームしてケアしました。
実際、私のところのようにやっている人たちもいますよ。“世界最高齢の富豪”と称された古川為三郎さんは、名古屋の日赤に多額の寄付をして、悠々自適の病院生活を送ったようです。徳田虎雄さんもそうでしょう。彼らはすごくいい環境で介護を受けていると思いますよ。
裕福な人は全額自己負担って国が打ち出してくれたら、たったそれだけですごくスッキリすると思うんです。その代わり、すごくきめ細やかな医療・介護サービスを提供してあげる。例えば、明日の朝までに風邪を治してくれという歌手もいれば、明日以降でもいいやという人も平等に列を作って診るというのは、すごく効率が悪いと思うんです。日本はキューバ型の医療を目指しているようだけれど、社会主義国のキューバでは医療行為で儲けなくてもまわる社会だから医療費が無料でも成り立っているわけで。貧しい人もいる一方、豊かな高齢者がたくさんいる日本ではなかなか難しいと思いますよ。
みんなの介護 自由介護が一般的になっていくと、介護業界の労働環境も変わるだろうと。
高須 それがね、そういう介護すら、いけないことだと思っている人たちが多いんですよ。いいじゃないですか、自分のお金で自分の好きなようにして。どうして非難するのかって思いますよ。こういうことはあまり言いたくないけれど、私なんかボランティアに行ったときに「売名行為ですか?」とか「どういう利益があるんですか?」とか言われたりします。自分のお金で見返りを求めないで、困っている人を助けたいと思っていても文句を言ってくる人はいます。
税金を払ったあとの残りのお金だから、自分の好きなように使うのは個人の自由です。貧しい人たちはすごく非難するけれど、貧しい人を助けに行くときも、助けに来てもらえなかった人たちが怒るんです。「あいつにあんないいことをするんだったら俺にもしてくれ」「俺にしないんだったらあいつにもするな」というようにね。これって、間違っていませんか?私は、一人でも幸せな人が増えていったほうがいいと思うんです。
撮影:公家勇人
連載コンテンツ
-
さまざまな業界で活躍する“賢人”へのインタビュー。日本の社会保障が抱える課題のヒントを探ります。
-
認知症や在宅介護、リハビリ、薬剤師など介護のプロが、介護のやり方やコツを教えてくれます。
-
超高齢社会に向けて先進的な取り組みをしている自治体、企業のリーダーにインタビューする企画です。
-
要介護5のコラムニスト・コータリこと神足裕司さんから介護職員や家族への思いを綴った手紙です。
-
漫画家のくらたまこと倉田真由美さんが、介護や闘病などがテーマの作家と語り合う企画です。
-
50代60代の方に向けて、飲酒や運動など身近なテーマを元に健康寿命を伸ばす秘訣を紹介する企画。
-
講師にやまもといちろうさんを迎え、社会保障に関するコラムをゼミ形式で発表してもらいます。
-
認知症の母と過ごす日々をユーモラスかつ赤裸々に描いたドキュメンタリー動画コンテンツです。
-
介護食アドバイザーのクリコさんが、簡単につくれる美味しい介護食のレシピをレクチャーする漫画です。