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やまもといちろうゼミ14時限目「“富を生まない高齢者”のためのお金は見返りの期待できない国庫負担。その財源は税金?それとも国債?いずれにせよ将来世代への借金なわけですが」

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山本一郎です。息子たちと近所のお子様を連れてプールに行ったところ、お爺ちゃん今日も大変ですねとライフガードの方に言われてもがっかりしない程度には老け顔の自覚がございます。まだ44歳なんですけれども。

ところで、以前本稿でも少し書きましたが、私自身も実の両親が病気の後遺症などもあり要介護に、家内の両親(義理の両親)もこの数年闘病生活を送っている関係で、公的サービスでさまざまなお願いをしながら介護の手続きや育児に走り回っています。蓄えがそれなりにあり、本業がある程度時間に余裕が効く仕事であっても、いざ介護に直面すると仕事と家庭・育児と介護の全部を立てなければならず、大変です。

厚生労働省では、仕事と介護の両立を図り、介護離職が起こらないようさまざまな施策を取っています。ただし、例えば育児・介護休業法(介護関係制度)ひとつとっても、その制度を使ってどこまで問題が改善されるかは雇用主との関係や本人の持っている経歴、スキルなどが関係してしまうという点で、そのような問題が降りかかってしまうと身動きが取れなくなる、そしてそういう事態は突然やってくるため、それへの準備と言ってもなかなか難しいものがあります。

何と言いますか、親が倒れると予測していまのうちに介護器具でも買っとこうという人がいたとしたらそれはエスパーですし、それを親が見て「何それ」「いや、親父が倒れたときのために買ったんだよ」「バカ野郎、倒れる前提で余計なもの買うんじゃねえ」みたいなケンカになること請け合いです。

介護離職をする人の中に「おひとりさま介護」が頻出!?
介護が終わったとしても、その後には
貧困問題が待ち受けているわけでして

総務省では、5年に1回「社会生活基本調査」の一環として、就業構造基本調査を実施しています。調査自体は2016年に開始されましたが、その結果は今年の夏ぐらいだそうですので、前回2012年の数字から類推するしかないのですが、日本の「介護・看護の理由に離職した15歳以上人口」は一貫して毎年1万人以上増え、現在総数では10万人を超えてきました。その8割が女性です。

総務省が発表している介護・看護を理由に離職した15歳以上人口の推移を示したグラフ

また、介護離職のケースでは、都会で働いている長男長女を田舎で倒れた親御さんが呼び寄せるケースや、一人しかいない子供が結婚しておらず介護をするにはその子供しかいないため仕事を辞めざるを得ない「おひとりさま介護」のケースが頻出しています。

介護の公的サービスが充実するまでは、老人の面倒は子供が見るもの、家族でどうにかするものという価値観が根強かったこともあって、この手の介護離職をせざるを得ない状況に陥る家族は増える一方でしょう。

そして何より、親の介護が始まる年代は、子供が40代中盤から50代から、期間は平均約5年となります。まあ、私もど真ん中世代なので、同年配の友人と話しているとやはり「親の健康」についての話題が上るケースが多いのも実情です。

生命保険文化センター調査による、介護を行った期間の平均を示したグラフ,介護を行った平均の期間が約5年ということがわかる

人間、いずれ老いて死ぬまでの間に身体が動かなくなる時期が来るのは致し方なく、本人もなりたくてなっているわけではない、また助けてあげられる人間が身近にいないのは親族として忍びないというのは、感情としてはよくわかります。

やはり働き盛りから少し過ぎた年齢から介護のために仕事を辞めてしまうと、職業人としてのキャリアの断絶やスキルの劣化をどうしても起こしてしまいます。親との悲しいお別れがあり、介護が終わった後で、さあ再就職と言ってもなかなかできず、たいていにおいて収入が減少している以上は貯蓄も使い潰していることでしょうから、これらの介護離職問題は貧困問題に直結してしまいます。

そうなると、制度として「介護離職が問題なので、彼らに助成金を出す」よりは、むしろ「介護期間があるのは当然として、彼らが“働きながら介護のできるサポート体制”を用意する」ほうが、収入面でも介護者・被介護者の精神面でも望ましいという議論がようやく出てきました。

独居老人や高齢者だけの世帯が急増!いまの日本は、
年金や介護サービスを高齢者にぶち込んで
なんとか彼らの生活が成り立つように
頑張っている瀕死の状態

先ほどの調査では、2012年に企業で働きながら介護にも従事している人は240万人とされ、その意味では、同じ年代の高齢社会白書で書かれている介護サービス受給者(65歳以上)が422万人(2012年:当時)であり、夫婦ともに介護が必要とされる人たちもいますので概ね数字としては実態として正しいのだろうと思われます。

一方、レアケースとは言えなくなってきているのが、いわゆる老老介護です。これは日本が長寿社会になったというめでたい話の裏側で、介護を受ける側が90代、それを世話する子供も70代という、親も子も高齢者になってしまう事例では、かなり本格的な「介護疲れ」が発生することになります。

【衝撃事件の核心】血ヘドはく「老老介護」破綻 鬼の形相で「殺せ!」と叫ぶ認知症母を殺害 長男は「ごめんな、ごめんな」と謝り続けた(産経ニュース)

内閣府の調査に依る同居している主な介護者の年齢の分布を示したグラフ,男女とも6割以上の介護者が60歳以上で老老介護のケースが非常に増えていることがわかる

先日も、老老介護で破綻してしまった一家の実情が報じられて話題になっておりましたが、この「夫婦で老老介護」「親子で老老介護」は厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2015年)では65歳以上のいる世帯の構成がかなりイビツになっていることがわかります。

厚生労働省が発表している65歳以上の人がいる世帯の世帯構造を示した円グラフ,65歳以上の単身世帯が26.3%・65歳以上の夫婦のみ世帯が31.5%となっており老人同士や独居老人が6割近くになっていることがわかる

まあ、1953年(昭和28年)にはひとつの世帯平均の人数が5.0人だったのが、現在ではその半分の2.49人になっている時点で何をかいわんや、ではありますけれども。

こうした数字を見ると、大枠で社会保障論を語っていると「2人の労働者(納税者)が1人の高齢者を支える社会がやってくる」というイメージであるものが、実は「老人同士や独居老人がポツンと暮らしているところに、年金や介護サービスをぶち込んで暮らしが成り立つように頑張っている状態」であることがよくわかります。

厚生労働省が発表している世帯数と平均世帯人員の年次推移を示したグラフ,1953年から2015年の愛大に平均世帯人員が5.00人から2.49人へと半減していることがわかる

また、地味に「児童のいない世帯」が76.5%いるというのは、子供が巣立っているであろう家庭を除いてこのすべてが将来、老老介護からの独居老人になってしまう社会であることを意味するのです。

日本の財政を考えるとき、
社会保障費を“どう制限していくか”は必須の課題。
国債で財源を埋めようとすれば、将来への禍根は必至か…

これらの統計では無累計や計測されない項目になるでしょうが、親と子の関係が悪かったり、経済的な理由で、不十分な公的な介護サービスのみを部分的に受けるだけで、誰からも介護されない高齢者というのもうっすらと見えてきます。子供が無責任なのか親の教育が良くなかったのかは分かりませんが、介護は家族でというラインは過去のものとなり、子供が親を見捨てて都会で暮らしているケースは今後もっと明確に見えてくるかもしれません。

別の社会調査でヒアリングをすると「親の介護をしたいが、妻の協力や理解を得られない」とか「子供の教育のことを考えると都会から離れられない」と回答する世帯が多いのが印象的です。

それがどのくらいの割合存在するのかはきちんと調べないことには分からないことですけれども、家族観、夫婦観が変遷し、親の面倒は子供や家庭で見るものという「常識」が薄れていくようであれば、いまの制度の根幹の思想でもある「地域と家族で高齢者を支える」という図式はもう少し見直しながら分配の仕方を調整する必要が出てくるかもしれません。だって誰も介護したがらないんだもの。金もないし。

その意味では、日本の財政を広く見たときに社会保障費の負担をどう制限していくかという議論は必要になっていくでしょう。簡単な話、富を生まなくなって税金を納めない日本人の高齢者に対し、いままで積み立てた年金以外の支出を国や地方が面倒を見るという形では、高齢化が進展して高齢者人口が増える2042年ごろまで国庫負担は増大していきます。そして、それは見返りのない金であり、それを国債などで財源を埋めれば、将来の世代に禍根を残すことになってしまうでしょう。

消費税増税が手段として良いかどうかはともかく、基本的に「入ってくるお金以上に使ってはいけない」という原則から高齢者問題を見ると、果たしてこれは持続可能なやり方なのか悩むことになります。

もちろん、いま目の前にいる困っている老人をどうにかしてやりたいという気持ちもありつつ、未来の日本を生きる我が子たちに借金は残したくないなあ、良い社会を引き継ぎたいなあと強く願う次第であります。

やまもといちろうゼミとは:社会保障を専攻テーマとする、やまもといちろう氏による放談コラム。投資家としての本業のかたわらで、「東京大学政策ビジョン研究センター」の客員研究員など、社会保障体制について鋭い視点をもつやまもと氏が、日本の社会保障の行く末について語ります。