みなさま、こんにちは。千葉県の地域包括支援センターで社会福祉士として勤務する藤野です。
今回は認知症によって介護施設を退去勧告されてしまったり、精神病院に入院を拒否されてしまったりした場合についてお話します。
もし急に認知症を発症し、そのような事態に陥ったとき、どこに相談してどんな解決方法があるのかをご紹介しつつ、現実的にどんなことが起きているのかもお伝えしていきます。
認知症の進行により退院を迫られたAさんの事例
私が地域包括支援センターの職員として担当してる地域は、人口が1万人ほどで、高齢化率が45%に達しています。
過疎化と相まって日中は人が少なく、さらに高齢者のうち約1割が独居世帯でもあります。
つまり、異常が発生しても気が付きにくい状況となっています。
そこで増えている問題のひとつが、認知症の方への対応です。
認知症により病院を退院せざるを得なくなった
介護施設に入居することも、精神病院に入院することも困難になった方の事例を紹介しましょう。
ある高齢男性Aさんが、転倒により、整形外科に入院しました。
ところが、Aさんが入院して1週間ほどが過ぎたころから、病院内で認知症による徘徊が始まり、夜間の対応が困難となりました。
その結果、病院側がAさんの危険を回避できない可能性があるという理由から、Aさんは退院せざる得なくなりました。
しかし、Aさんは歩行もまだおぼつかず、ましてや認知症状が発症しているため、一人では自宅で生活できる状態ではありませんでした。
自宅は、掃除や整理整頓がままならず、生活スペースもほとんどない状態。
そこで私たち地域包括支援センターのスタッフは、なんとかAさんを受け入れてくれる介護施設を探しました。
そしてようやく、入居先が決まったのです。
入居できた介護施設も退去勧告を受けることに…
ようやく介護施設に入居して数日が過ぎたころ、再びAさんの徘徊が始まりました。
転倒による足の痛みが改善され、Aさんが歩けるようになったのは良かったのですが、認知症状が進行したことで何度も施設を抜け出してしまう、といったことが繰り返されました。
こうなってしまうと、施設としても安全の確保が困難になり、Aさんは介護施設の退所を求められてしまいました。
地域包括支援センターでは退所後、受け入れてくれる施設を懸命に探したのですが、どれほど探しても見つかりません。
そこで、地域包括支援センターの職員はAさんの自宅を掃除し、なんとか居場所を確保。
しばらくの間、職員が訪問して食事を買ってくるなどの対応でしのぎ、早急に入所施設を探すこととなりました。
しかし、事態はそう悠長に時間をくれませんでした。
自宅に戻っても、徘徊を繰り返してしまうAさん
ある日、朝までは自宅に居たはずのAさんに、職員が昼食を持っていくと姿が見えない…ということがありました。
しばらくして地域のふれあい推進員の女性から、「Aさんが家の中に泥棒がいるから、どうにかしてほしいと言っている」との連絡が入りました。
すぐに地域包括支援センターの職員が向かうと、そこにはバール(鉄の工具)と、縄を持ったAさんが…。
Aさんは必死に、「若い男女3人組の泥棒が、押し入れに入り込んでいるから捕まえる」と言いながら、地域を徘徊していました。
そこでなんとか、自宅まで誘導したものの、「あそこに3人いるだろ?見えないのか」と言いながらバールで押し入れをガンガンと叩きだします。
この状況では福祉施設での受け入れは不可能と考えた私たちは、病院に入院してもらうことを念頭に、保健所の担当と連携しました。
しかし、私たちの担当エリア内はおろか、県内各地の精神科病院から入院を断られてしまいました。
入院できたのは、Aさんの自宅から遥かに遠い病院だった
やっと入院先が決まったのは、Aさんがバールを持って徘徊した日の19時を過ぎた頃。
しかも、Aさんが住んでいる地域から優に60kmも離れた医療機関でした。
電話でAさんの入院を打診したときには、「外来で受診してから、入院についての可否を判断する」との回答だったので、入院ができなかった場合への心配をしながらの受診でした。
幸い、このケースでは“医療保護入院”という形で入院することができ、ホッとしました。
しかし、入院できると決まった頃にはすでに22時を過ぎていました。
緊急時は、事前の備えをしているかが重要になる
Aさんのケースのように、みなさんやご家族がいきなり認知症となり、徘徊や暴力などの症状が現れた場合に、どのような事態になるのかは把握しておいた方が良いかと思います。
今回のような場合、お住まいの地域の地域包括支援センターにご相談していただくことはもちろんですが、それでも解決は難しいことも知っておくことが必要です。
大切なのは、このような事態が生じる前に、周囲が状況を把握し、早めに病院受診をしておくことです。
緊急対応をしていると、「日頃から病院にかかっていて、初診でさえなければ、もう少し違った結果が出たかもしれないのになぁ」と思うことがしばしばあります。
自治体が非常時の収容施設を設置している場合も
認知症対象者の場合、医療拒否をしていることも少なくありません。
そのため、顕著な現象が起きてから、初めて医療機関へのアプローチが開始されることもあります。
しかし、事例からもわかる通り、急な医療機関への入院は本当に大変です。
例えば、家族に暴力をふるう状況においては、家族の安全性を確保するために施設へ緊急入所していただくケースがあります。
その場合でも、職員や利用者に暴力をふるうなどの状況が発生すると、結局は受け入れができなくなったりします。
これまで認知症高齢者による家族への暴力に対応したケースでは、最終的に警察の協力も要請し、精神科受診を行い入院にこぎつけました。
このように、施設の退去勧告や、精神病院に入院をお願いせざるを得ない事態が発生することはままあります。
早期に病院を受診すること、いわゆるシェルター的な非常時の収容施設が自治体により準備がされているかどうかを確認することなど、事前にできる備えを行っておくことが必要です。
そして、もし実際に退去勧告などにあって困ってしまった場合には、地域包括支援センターやケアマネージャーに相談してくださいね。