入れ歯をしている人の口腔ケアは、何をどこまでやったらいいのか迷うこともあるのではないでしょうか。
入れ歯や口腔内粘膜を清潔に保てなければ、肺炎を始めとした良くない影響が生じることもあります。そこで今回は、総入れ歯の方の口腔ケアについて考えていきます。
総入れ歯の方が抱える口の中の問題
総入れ歯の方は、歯がないことから歯みがきの必要性がないと考える人がいます。しかし、そのままでは口の中が不潔になってしまいます。
口腔内環境は、細菌増殖に適した温度や湿度、栄養(食べカスなど)がそろっているため、バイオフィルムが形成しやすくなっています。
バイオフィルムとは、微生物の集合体のことです。バイオフィルムの中では、病原性の高い細菌が増えます。これらの病原菌は、歯周病やむし歯の原因になるだけでなく、呼吸器感染や血行感染の原因にもなります。
歯がなくても、歯茎・頬・上顎・舌などにバイオフィルムができてしまうのです。
また、入れ歯は表面のきめが粗くなりやすく、水に対して結合しやすい性質があるので、入れ歯そのものにバイオフィルムが形成されることがあります。
特に、入れ歯に亀裂や傷がある場合は、内部まで細菌が侵入し、入れ歯に多数の細菌が存在していることもあります。
そのため、入れ歯の清掃が十分に行われていないと、細菌により義歯性口内炎(※)を引き起こす危険性も高くなってきます。
※義歯性口内炎とは…入れ歯に覆われた口腔粘膜の炎症とむくみが生じた状態のことを指します。特に、総入れ歯の方の多くに義歯性口内炎が生じているとされています。
総入れ歯の方は、歯ブラシを使用した歯のブラッシングは必要ありませんが、入れ歯や口の中の粘膜を清潔に保ち、バイオフィルムを除去するケアが必要になります。

総入れ歯の方の口腔ケアについて
入れ歯清掃のポイント
- ポイント1:入れ歯ケアのタイミング
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入れ歯を長時間つけていると口腔内粘膜を圧迫してしまったり、入れ歯と粘膜の間に細菌が増えやすくなります。
そのため、毎食後と就寝前に入れ歯を外して洗浄することが大切です。
また、夜間には入れ歯を外して、入れ歯を洗浄液につけておきましょう。そうすることで、負荷がかかっていた口の中の粘膜を休ませことができます。
- ポイント2:入れ歯ブラシを用いた機械的清掃
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入れ歯を清潔に保つには、入れ歯ブラシを用いた機械的清掃と入れ歯洗浄剤などを用いた化学的洗浄を組み合わせた清掃が大切です。
入れ歯ブラシとは、入れ歯を清掃しやすいように工夫された、毛の硬さが一定程度あるブラシのことです。
歯ブラシを使用して、入れ歯の清掃をすることもありますが、通常の歯ブラシは入れ歯に対して、毛が軟らかすぎるため、歯ブラシの毛がすぐに開いてしまい、早く傷みやすくなります。入れ歯には入れ歯用ブラシを使用することをおすすめします。
また、入れ歯ブラシを使用するときは、事前に洗面器などに水を張ってから行いましょう。洗浄時に入れ歯を洗面台に落として割れたり、入れ歯が排水溝に流れるのを予防できます。
洗面器に水を張ったら、流水下で入れ歯ブラシを使用し、入れ歯表面のネバネバとしたバイオフィルムを除去していきましょう。
- ポイント3:入れ歯洗浄剤を使用した化学的洗浄
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ブラシで落としきれなかった細菌を除去・殺菌するためには、入れ歯洗浄剤を用います。
入れ歯洗浄剤は家庭で1日1回使用する一般的なホームケア用と歯科医院で使用されるプロフェッショナル用があります。
ホームケア用には液体につけて使用するものと、ブラッシングで使用するものがあります。酵素系など洗浄剤の主成分にはさまざまな種類のものが市販されています。
通常のピンク色のレンジ床入れ歯の場合は、どの入れ歯洗浄剤を使用しても悪影響を及ぼすことはほとんどありません。
しかし、軟らかい材料が入れ歯に使用されている場合は、次亜塩素酸などを主成分とする洗浄剤で劣化させてしまう可能性があるので注意が必要です。
自費で作成した場合や特殊な材料を用いている場合は、歯科医院で適した入れ歯洗浄剤を確認しておきましょう。
- ポイント4:入れ歯の管理
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入れ歯は乾燥すると傷がつきやすく、劣化しやすいものです。入れ歯を使わないときは、水を入れた容器の中で管理するなど乾燥を予防しましょう。また、その場合1日1回は入れ歯容器の水を変え、清潔な水で保管してください。
また、入れ歯の紛失には十分に気を付けてください。認知症の方だと、入れ歯をティッシュにくるんでゴミ箱に捨ててしまうことがあります。新たな入れ歯は口になかなか馴染みにくく、装着が困難なこともありますので、十分注意してください。
一方、入れ歯の着色や微細な汚れ、細菌などはホームケアだけでは除去できないため、プロフェッショナルなケアを受ける必要があります。入れ歯の清潔を保てるように、定期的な歯科受診で入れ歯のメンテナンスを受けることも忘れないようにしましょう。

粘膜清掃のポイント
総入れ歯の方は粘膜ケアが重要です。本人がぶくぶくうがいをできる場合は、うがいで対応できますが、困難な場合は、粘膜清掃が必要になります。
粘膜のケア方法は、第25回をご覧ください。
歯ブラシを粘膜に使用すると、粘膜には歯ブラシの毛が硬すぎるため痛みを生じることもあります。歯茎・頬・上顎・舌などは粘膜清掃に適している、スポンジブラシ、ガーゼ、口腔内用ティッシュなどを使用するようにしましょう。
舌苔が多い場合は、舌ブラシがあると便利なときもあります。舌ブラシはゴシゴシ何回もこすらないように気を付けて、少しずつ舌苔を取るようにして使用しましょう。
口の中の粘膜や入れ歯の状態は一人ひとり異なります。入れ歯を外したときは、入れ歯の破損などの有無を確認するとともに、口腔内粘膜が乾燥していないか、口の中に発赤などトラブルが生じていないかの確認をしましょう。
加齢や薬剤の影響で口の中が乾燥している高齢者も多くなっています。乾燥がある場合は、入れ歯で痛みやトラブルを起こしやすくなりなす。乾燥予防として、口腔内保湿ジェルの使用なども念頭に入れておきましょう。