皆さん、こんにちは。食と生を支えるコンサルタントナース西依見子です。
今回は誤嚥リスクがある高齢者への口腔ケアの方法やおすすめグッズをご紹介いたします。
嚥下機能が低下した状態
高齢者は加齢による嚥下関連筋力の低下の影響を受けて、「のどの動きが低下する」「咳払いの力が低下する」「呼吸と飲み込みのタイミングが合わなくなる」などの状態になる可能性があります。
これらは、嚥下機能が低下した状態と言われています。
そのほかにも、嚥下機能が低下すると、次のような症状が表れやすくなります。
- 舌、頬の動きの低下
- 咀嚼が上手にできなくなる
- 咀嚼した食物をのどへ送り込みにくくなり、口腔内に食物残差(食べかす)が多くなる
- のどの動きが低下し飲み込みがうまくできない
「むせ」の有無を確認
また、「むせ」があるかどうかをみるのは大切です。「むせ」は気管に入りそうになると起こる生体の防御反応のため、誤嚥の徴候とされているからです。
しかし、高齢者や誤嚥性肺炎を繰り返している人などは、「むせ」が起こりにくくなる場合があります。そのため、誤嚥の兆候として「むせ」だけでなく、呼吸数の増加、発熱の有無、痰や咳が多くなるなどの呼吸器症状をみることも大切です。
嚥下機能低下の誘因としては、加齢の影響だけでなく、脳卒中や認知症などの病気、身体機能や認知機能の低下、薬剤の影響などが関わってきます。
嚥下機能の低下による口腔内の変化
また、嚥下機能低下は、食事の際に誤嚥のリスクが生じるだけでなく、口腔内にもいろいろな問題を呈しやすくします。
例えば、嚥下機能の低下があると、口の動きが不十分であったり、唾液の自浄作用が低下したり、口が開いたりしてしまうことがあります。そうすると、口腔内が乾燥しやすくなってしまいます。口腔内が乾燥すると、口腔粘膜上皮が口腔の粘膜や歯に付着してしまい、口腔内の汚れが増加しやすくなります。
これらから、嚥下機能が低下した高齢者は、誤嚥のリスクだけでなく、口腔内の問題にも対処が必要な状態になることがあります。
誤嚥するとどんな病気になるのか
誤嚥と関係する病気としては、誤嚥性肺炎がよく知られています。70歳以上の高齢者の肺炎では、約80%程度を誤嚥性肺炎が占めている可能性があると言われています。
誤嚥とは、食物が声帯を超えて気管に入る場合のことを言います。しかし、誤嚥したから必ず肺炎になるというわけではありません。誤嚥した細菌の量と質、免疫機能により症状が出るかどうかは異なります。
嚥下機能の正常な人でも、夜間は唾液を誤嚥していると言われていますが、肺炎を発症することはほとんどないでしょう。
しかし、要介護状態の高齢者の歯垢からは、肺炎を起こす菌が高い確率で見つかることがわかっています。免疫機能の低下している要介護高齢者などでは、質の悪い細菌を多く誤嚥することで、肺炎や誤嚥性肺炎を発症する危険性が高くなってしまいます。
これらから、誤嚥リスクの高い高齢者は特に口腔ケアを効果的に行い、口腔内を清潔に保つ必要性が高くなってきます。
誤嚥リスクがある高齢者の口腔ケアで気をつけたいこと
誤嚥リスクがある高齢者の口腔ケアで、注意が必要なのは「うがい」です。特に上を向いての「ガラガラうがい」は、首を後屈する姿勢で口腔内の水分を保持しながら、息を吐く力が必要になります。このような状態は、誤嚥のリスクが高くなるため、「ガラガラうがい」は誤嚥のリスクのある人は避けたほうが良いでしょう。
また、「ブクブクうがい」も嚥下機能の低下している高齢者では難しい場合があります。「ブクブクうがい」を行なえるかどうかは、以下のことができるかどうかで考えましょう。
「ブクブクうがい」ができる条件
- 唇を閉じることができる
- 水を吐き出すことができる
- 頬や舌の動きがよ良い
- 鼻で呼吸がしっかりできる
トロミがついていないサラサラの水分だと誤嚥のリスクがある人や、うがいの際に水を吐き出さずにそのまま飲み込んでしまう人は、「ブクブクうがい」を避けたほうが良い場合も多いでしょう。
また、「ブクブクうがい」をしようと水を口腔内に含むものの、頬や舌を動かすことができず、そのまま吐き出してしまう場合もあります。前かがみの姿勢になり、十分に水を吐き出せるようでしたら、継続しても問題はありませんが、歯や粘膜の洗浄が十分できているかどうかの確認は必要でしょう。
加えて、「ブクブクうがい」が十分効果的にできない場合に歯みがき粉を使用すると、歯みがき粉が口腔内に残り、口腔内汚染の原因になる可能性があります。このような場合は、市販の歯みがき粉を使用しないようにすることも考えられます。
ブラッシングだけでもきれいになりますが、もし何か使用したい場合は、口腔内の保湿ジェルなどを歯みがき粉の変わりに使用するのも一つの方法です。
これらのことから、誤嚥リスクのある高齢者の口腔ケアでは、「ガラガラうがい」は避け、「ブクブクうがい」が可能かどうか、効果的に行われているかどうかを観察して口腔ケア方法を考えると良いでしょう。
おすすめの方法やアイテム
ご自身で口腔ケアしている場合でも、奥歯や歯の裏面などに汚れが残っていることはよくあります。その場合、最後に磨き残しがないかどうか、鏡などを用いて、汚れが残っている箇所をみてもらい、ご自身でブラッシングを行ってもらえるように一緒に確認すると良いでしょう。ご本人では十分にできない場合は、介助者が磨き残しがある部位を確認し、仕上げ磨きを加えましょう。
また、「ブクブクうがい」が効果的にできない場合は、ブラッシングの前後で、清拭法(拭き取り)で口腔ケアを行うと口腔内の清潔が保ちやすくなります。
清拭法を試してみる
清拭法とは、歯、歯肉、舌、口腔粘膜を拭き取る口腔ケア方法です。
拭き取りには、スポンジブラシ、口腔ケア用ティッシュ、ガーゼなどを使用します。
口腔内の細菌数の変化を清拭法と水を使用して洗浄する方法で比較すると、細菌数の差はなかったことが知られており、誤嚥リスクのある高齢者に清拭法は取り入れやすい方法です。
ただ、拭き取る場合は、軟口蓋や舌の基底部近くなどの柔らかい粘膜部位は嘔吐を起しやすくなっているので、気を付けましょう。
また、上唇小帯(上唇の正中にある粘膜のひだ)や下唇小帯(下唇の正中にある粘膜のひだ)は疼痛が生じやすい部位になっています。スポンジブラシなどでこれらの部位に強く触れないようにやさしく行いましょう。
誤嚥のリスクがある高齢者は、口腔ケア時の唾液などを飲み込むことで誤嚥の危険がある人がおられます。そのような人の口腔ケアでは、吸引がいつでもできる体制をとっておくことも必要になることも知っておきましょう。
誤嚥リスクのある高齢者は、口腔内が汚染されやすくなっています。そのため、口腔ケアは大切ですが、その方法には注意が必要です。
今回は誤嚥リスクのある高齢者の口腔ケア方法についてお伝えしました。しかし、嚥下機能によっては、さらに慎重に口腔ケアを行う必要がある方もおられます。個々に応じて口腔ケアを行うようにしていただきたいと思います。