歯周病などにより歯が欠損してしまっている高齢者は少なくありません。
歯の欠損は、かみ合わせが悪くなり、さらに口腔内の状態が悪くなるリスクが高まります。
その治療方法にはブリッジや入れ歯、インプラントがありますが、それぞれ特徴にちがいがあります。
今回は高齢者の歯の欠損対策について解説いたします。
高齢者の歯の欠損は放置してたらなぜいけないのか
歯が欠損する原因には、歯周病、むし歯、外傷が挙げられます。特に高齢者は、歯周病や根面(歯の根の部分)のむし歯が多くなり、歯を欠損する原因となっています。
歯が1本くらいなくても問題ないのではないかと思われる方もいるでしょう。しかし、歯が欠損していると、かみ合う歯がなかったり、隣の歯がなかったりすることが原因で、さまざまな問題を生じます。
欠損した歯をそのままの状態にしておくと、隣接している歯が、手前側に向かって斜め横向きになりやすく、歯が部分的に重なってしまうことがあります。
また、奥歯の欠損などがあると、歯がかみ合わず、安定したかみ合わせが困難になります。
このような状態が続くと、食べ物が歯の間にはさまりやすくなったり、食べ物をしっかり噛み砕けなくなることがあります。
噛み合わせが悪くなると、歯そのものだけでなく、歯を支える歯茎や骨などの周囲の組織などを傷つけてしまうこともあり、注意が必要です。
さらに多くの歯を失って、治療を行わないでいると、歯並びの崩壊が進行してしまいます。
口腔内の状態を良好に保つためには、入れ歯やブリッジ、インプラントなどの歯科的治療が大切です。
各治療法の特徴
入れ歯
入れ歯には総入れ歯と部分入れ歯がありますが、歯が欠損した場合は、部分入れ歯を作成します。
部分入れ歯は、クラスプ(留め金のようなもの)やピンクの床とそれをつなぐ橋のような金属などから構成されています。残っている歯へクラスプをかけて部分入れ歯を固定します。
保険診療が適用されますが、部分入れ歯の作成には、2週間~1ヵ月程度必要です。
入れ歯は、口のなかで異物と感じることが多く、入れ歯をしたままの状態に慣れるには一定程度の時間がかかることもあります。
日常のお手入れは、水洗による機械的洗浄と入れ歯用洗浄剤を用いた化学的洗浄が必要になります。
しかし、入れ歯は口から外して清掃ができるため、ブリッジやインプラントと比較すると要介護状態の高齢者でもケアしやすいというメリットがあります。
ブリッジ
ブリッジとは、欠損した歯の両隣の歯を柱として利用し、人工の歯を取り付ける治療方法です。
ブリッジに用いられる人工の歯は、欠損した歯と両隣の歯に橋をかけるように連結してつくられ、両隣の歯を土台にして、人工の歯を支えます。
そのため、ブリッジの土台にするため歯は、虫歯のない歯でも多くの場合削る必要がありますが、入れ歯に比べると自然な噛み心地になるというメリットがあります。
ほかにも、保険診療での治療が可能であること、おおむね数回の通院で完了できる治療という点もメリットとして挙げられます。
一方で、ブリッジと土台となる歯の境目には汚れが残りやすく、歯周病やむし歯になりやすくなります。そのため、日常の口腔ケアには、歯間ブラシなどを使用した丁寧なブラッシングが必要です。
また、高齢者のブリッジ治療は、数十年前に装着したブリッジの再治療であることも少なくありません。要介護の高齢者においては、介助者が歯間ブラシを使用するなどの技術が必要になるので、歯科衛生士などの専門職の支援を受けることが大切になります。
インプラント
インプラントは、あごの骨に埋め込む人工歯根※の通称です。
※歯が口の中に露出している部分を歯冠、歯冠より下の部分を歯根という
あごの骨に人工歯根を埋め込む外科手術を行うため、歯茎を切開します。そのため、骨の厚みのない骨粗鬆症の方や、インプラント手術後に出血や腫れなどの症状が悪化しやすい歯周病や糖尿病などの病気を持っている方は治療ができないこともあります。
入れ歯やブリッジと比較すると噛み心地が自然で、審美性もよいという特徴があります。
しかし、インプラント治療は保険が適用されないため、1本あたりの費用が30万~50万円程度と高額になります。
また、インプラントの治療期間は個々の症状によって異なりますが約4~6ヵ月と時間がかかります。このように、インプラントは身体的・経済的にも負担の大きい治療になります。
また、インプラント後はインプラント歯周炎を予防することが重要になります。
インプラント歯周炎とは、インプラント周囲に歯周病と同じように炎症が生じた状態です。あごの骨に定着したインプラントの周囲に炎症が起こると、インプラントの脱落が生じやすくなるだけでなく、さまざまな合併症の危険性が高くなってしまいます。
そのため、インプラント後は、歯間ブラシなどを用いた入念な口腔ケアとともに歯科的な定期メンテナンスが大切になります。
加齢とともに口腔清掃が困難になったり、通院しての定期的なメンテナンスが受けられなくなったりした場合は注意が必要です。
介護が必要な高齢者の場合、インプラントは治療後のケアがどの程度可能であるかを考慮し、より慎重に検討することが大切です。
まとめ
まずは日頃の歯のケアをしっかり行い、良い状態で歯を残せるようにすることが大切です。
残っている歯の本数・位置・状態・歯肉の状態・噛む力などによって、どのような歯科的治療に適合するかもちがいます。
歯が欠損した場合は、早期に歯科受診し歯科医とよく相談しましょう。