介護者メンタルケア協会代表、橋中今日子です。
介護は一人で支えられるものではありません。しかし、支援を必要とする介護者は「自分が頑張るしかない…」と孤立して苦しむことがあります。
今回は両親の介護に追われた方の事例を参考に、その対処方法を解説します。
【事例】両親の介護に追われて、自身も体調を崩してしまった
【40代・女性 会社員Aさん】
Aさんは、脳梗塞で車椅子生活になった母親(70代、要介護3)と、母親を介護する父親(70代)を15年間支えてきました。
最初は月1回ほど、トイレットペーパーや食材の買い出しを手伝う程度でした。しかし、数年前から週に何度も通わなければ両親の生活は成り立たなくなりました。実家へは片道2時間30分もかかり、仕事や暮らしにも支障が出始めました。
そんなとき、父親が脳梗塞で倒れました。ひとり残された母親は「ショートステイなんて死んでもイヤ!」と自宅で過ごしたいと主張。仕事を休んで父親の入院に対応し、母親の介護に奔走して、Aさん自身も体調を崩してしまいました。
ケアマネジャーから来月のサービスについて相談したいと連絡が入ったとき、Aさんは母親の説得や、新しいサービスの提案があるものだと思っていました。
しかし当日、ケアマネジャーは「来月も今月と同じサービス内容でいいですよね」と介護保険利用計画書へのサインだけを求めてきたのです。Aさんは頭が真っ白になってしまいました。
言葉を失ったAさんでしたが、「このままでは両親も私も共倒れになってしまう」「助けてくれないんですか?一家心中しろと言うんですか!?」と苦しさを吐き出すことができました。このとき初めて、ケアマネジャーはAさんの置かれている状況に気づいたのです。
Aさんはこれまで、母親が介護保険サービスの利用を嫌がっていることや、父親が疲れきっていることなど、「介護状況」については細かに伝えていました。
しかし、自分が仕事を休みながら実家に通っていること、新婚時代から、夫と過ごす時間よりも実家通いを優先してきたことなどをケアマネジャーに話していませんでした。「ケアマネジャーは要介護者を支援する人なので、関係のない自分の悩みを話してはいけない」と思っていたのです。
さらに、仕事を休んで介護のトラブルに対応している大変さをわかってくれていると思っていました。しかし、ケアマネジャーはAさんから打ち明けられることがなかったため、いつもしっかり対応してくれる頼りになる家族という認識でした。Aさんが会社勤めをしていることすら知らなかったのです。
その後、Aさんの苦しい状況を理解したケアマネジャーは母親を説得してくれて、まずは緊急ショートステイの利用が決まりました。

わかってもらえないときは、伝え方を変える
Aさんのようなケースはよくあることです。まず、自分の悩みを話してはいけないと考え、過大な負担を抱える状況がケアマネジャーに伝わっていないこと。続いて、介護の大変さを理解してもらうために「〇〇で困った、こんなひどいことがあった!」と介護状況を事細かに伝えてしまい、聞き手から「ただ、愚痴を聞いてもらいたいのだ」と誤解されてしまうことです。これでは、傾聴してもらえても、具体的なアドバイスや支援につながりません。
介護の負担が伝わらないときは、次の2つのことを意識してください。
- 自分の状況を伝える(眠れない、疲れきっている、苦しい、もう頑張れないなど)
- 具体的な要望を伝える(休みたい、ショートステイを利用してもらいたい、など)
ケアマネジャーに状況を理解してもらったAさんは、父親の退院後、サービスの見直しがスムーズに進みました。その後も、両親がともに入院するなど、過酷な状況が続きましたが、その都度ケアマネジャーがサービスを見直してくれたそうです。
「長年、ケアマネジャーは頼りにならないと思っていました。でも、父の入院をきっかけに、一緒にトラブルに向き合ってもらえる戦友になりました」とAさんは振り返ります。
「ケアマネジャーに訴えたけれど、状況が変わらない!」と悩まれている方もいらっしゃるかもしれません。もし「もう頑張れない」と伝えても、改善に向かうような対応をしてもらえないときは、地域包括支援センターや市区町村に迷わず相談してください。電話での相談も可能です。疲れきってしまうと、相談する気力も失ってしまいます。できるだけ早く「もう頑張れない」と伝えてください。

橋中からの直接のお返事、対応はお約束できませんが、みんなの介護の記事や当協会が配信している無料メルマガで解決策についてお伝えしていきます。
皆さんが介護で経験されていること、対策を取られていることを介護者メンタルケア協会の問い合わせフォームでぜひ教えてください。お困りごとやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。
「職場が介護の状況を理解してくれない」「何度も同じことを言われて怒鳴ってしまう」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしてほしいです。