厚労省のホームページによると2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)が認知症になると予測されており、これからは認知症の方への対応が重要になってくるでしょう。
認知症の種類により、症状や進行は異なりますが、認知機能が低下すると生活にもさまざまな影響があります。
そのため、訪問リハビリを必要とする認知症の方も多くいらっしゃいます。
今回は認知症の方への訪問リハビリの内容や注意点、そしてご家族が注意したほうが良いことを紹介します。
少しでも多くの人が認知症の方へのかかわり方を理解していただくことで、豊かな社会になると思います。
認知症の方に起こる日常生活の困りごと
認知症の方は、記憶障がいや見当識障がい、理解力・判断力の低下などの症状によって日常生活で困難に陥ることがあります。
具体例は以下の通りです。
- 金銭管理ができない
- 約束を忘れてしまう
- 薬が正しく飲めなくない
- 道で迷う
- 尿失禁、便失禁が増える
- どこにいるか、今日は何日かわからなくなる
- 服の着方、トイレの方法などがわからなくなる
- 怒りっぽくなる
認知症の方が抱える困りごとをできるだけ解決していくためには、実際の生活環境(自宅)でのリハビリが必要になることがあります。
認知症の方へ行われる訪問リハビリ
認知症の方は、ほかの病気を患っている場合もあり、その人に合ったリハビリを専門家が選んで提供します。ここでは、認知症の方に提供する訪問リハビリの内容の一部を紹介します。
- 1.実際の生活環境での動作確認、練習
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認知症の方のリハビリには、実際の生活環境で繰り返し動作を反復することが有効とされています。
そのため、リハビリ室やデイサービスなどではなく、普段過ごしている自宅などでベッドからトイレまでの移動をしたり、導線を歩行できる訪問リハビリは有効な手段と言えます。
- 2.実際の生活環境での日常生活動作確認、練習
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認知症の方は記憶力が低下している場合もありますが、トイレや更衣、食事、入浴などの日常生活動作は、実際の生活環境で反復練習をすることで、定着する可能性があります。
日常生活で使っているものを活用することで、実生活にすぐに活かすことができます。また、普段の様子を専門家の視点で確認することでアドバイスもできます。
- 3.家族支援、介助方法指導
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本人へのリハビリだけでなく、認知症の方の家族への支援も訪問リハビリの一つです。
例えば、認知症の方への接し方や家族が困っていることを傾聴します。また、必要に応じて介助方法の指導や、自宅でできるリハビリの指導などを家族に対して支援することもあります。
- 4.環境調整
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認知機能や身体機能面だけでなく、環境調整をすることで快適に自宅で生活できるようになることもあります。
例えば、トイレまでの道のりに案内板を設置したり、見やすいカレンダーを設置することで今日が何日かわかるようにしたり、「火は使わないようにしましょう!」や「ドアを閉めましょう!」といった張り紙をする調整も訪問リハビリで行っています。
- 5.生活で困っていることの解決
- 認知症の方の困りごとは人それぞれ。訪問リハビリでは、その人ごとに困っていることを見つけ、解決できるように取り組みます。訪問リハビリは自宅における運動や生活の困りごとの家庭教師的な役割を担っているのです。
- 認知症に対するリハビリの提供
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専門家の視点を用いてさまざまなリハビリ技術を用います。
- 運動療法
- 作業療法
- 音楽療法
- 学習訓練療法
- 回想法 など
運動療法では脳の血流を改善させることで脳機能向上が期待できます。ほかにも、音楽療法や回想法など脳に刺激を与えることによって認知機能障がいの低下を遅らせるリハビリも行います。

理学療法士等が注意している点
認知症の方の訪問リハビリで、リハビリ職が主に注意している点を紹介します。
- 1.無理はさせない、嫌な思いをさせない
- 認知症の方のリハビリは、本人のやる気や自主性が大切となります。そのため、嫌がっていることをやらせたりするのはよくありません。本人が意欲のあるときに自発的に行動するチャンスを見つけ出しながらかかわることを大切にします。
- 2.否定をしない、本人を尊重する
- 失敗や間違いに対して否定をしないように気をつけています。本人はわざと間違えたり、好きで間違えたりしているわけではないので、本人を尊重する姿勢が大切になります。
- 3.その人に合った難易度で実施する
- 認知症の方のリハビリはモチベーションも重要視されます。いきなり高難度の課題ではなく、少し努力すればできるような課題を少しずつ様子を見ながら提供しています。
- 4.疲労に注意する
- 認知症の方は特に脳が疲れやすい傾向があります。脳が疲れることによって認知機能・集中力が低下してしまうことも。そのため、適度な休憩を挟みながら疲労状態を見ながらリハビリを提供します。
家族が日常生活で気をつけたいこと
認知症の方と最も身近でかかわるのは、家族などの介護者だと思います。常に一緒に生活していると、時にイライラしてしまうかもしれませんが、認知症という病気を理解すると、少しは気が楽になるかもしれません。
ここでは、認知症の方とのコミュニケーションのポイントを紹介します。
- 1.できるだけ短くわかりやすい言葉で
- 理解力が低下していることが多いため、できるだけ短くわかりやすい言葉でゆっくりと話すことが大切です。理解できずにイライラしてしまっているケースもあるということを家族は頭に入れておきましょう。
- 2.本人の表情に着目する
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認知症の方とかかわるとき、言葉のコミュニケーションに加えて、非言語コミュニケーションが大切となります。非言語コミュニケーションとは、言葉以外のジェスチャー、笑顔、姿勢、声のトーン、声の大きさ、テンポなどを指します。
昨今、専門職がかかわる場合には、感染の対策でマスクの着用が必要とされているケースも多いですが、必要に応じてマスクを外してコミュニケーションも必要な場合もあると思います。それは、一緒に暮らす家族だからこそできることかもしれませんね。
- 3.敬意をもって接する
- 4.名前を呼んでから話す
- 5.叱らない、否定をしない
認知症になると、できないことが増えてきたり、異常行動が現れたりすることがあります。そのため「なんでできないのかな?」と思ってしまうこともありますが、敬意をもって接することは常に意識してみてください。
接する側の誤った態度が出てしまうと、認知症の方の尊厳を傷つけてしまう可能性もありますので注意が必要です。
話すときは名前を呼んでから話しかけましょう。家族であれば「おばあちゃん」「おじいちゃん」などでも良いと思います。
名前を呼ぶことで、相手は「自分に話しかけられているんだ」と認識できます。小さなことですが、日常生活の中でこのような工夫をしてみてください。
認知症の方は好きで失敗したり、もの忘れをしているわけではありません。そのことをまず正しく理解しましょう。
そのうえで、何か異常行動をしていたとしても、叱ったり、否定をしないように心がけてください。なかなか難しいかもしれませんが、この行動をするかしないかによって認知症の方の心のダメージに影響があります。

まとめ
今回は、認知症の方への訪問リハビリの内容や注意点、家族が注意した方が良いことなどを紹介しました。
認知症といっても、人それぞれ症状が異なり、家庭環境やかかわる人も異なります。今回紹介したことで、できそうなことから少しでも実践してみてください。
また、認知症の方と常に生活する家族はとても大変だと思います。家族がストレスなどを感じてしまっては元も子もないため、家族はストレスを溜め込まないようにして、状態が悪化しないうちにケアマネージャーや地域包括支援センター、主治医などに相談をするようにしましょう。
認知症の方はかかわり方ひとつで暮らしぶりが変わります。
少しでも多くの人が認知症についての理解が深まるとより良い社会になるのではないでしょうか。