訪問看護は介護保険で提供されるものと医療保険で提供されるものの2つに分けられます。
さらに医療保険の訪問看護の中には精神科訪問看護があります。
精神科訪問看護とは、名前の通り精神科患者(認知症は除く)に対する訪問看護です。
今回は、高齢者うつや精神科訪問看護について解説いたします。
高齢者うつで悩んでいる家族の方に精神科訪問看護という選択肢もあるということをお伝えできたら嬉しいです。
精神科訪問看護を利用する人の主な病気
厚生労働省中央社会保険医療協議会の資料によると、2019年6月時点における精神科訪問看護を算定した利用者の主な傷病は以下の通りです。
- 統合失調症、統合失調型障がい及び妄想性障がい:54.0%
- 気分障がい:24.0%
- 神経症性障がい、ストレス関連障がい及び身体表現性障がい:6.4%
- 精神作用物質使用による精神及び行動の障がい:3.9%
- 知的障がい:2.9%
精神科訪問看護全体では、30~50歳代の利用者が半数を占めており、最も多いのは統合失調症や妄想性障がい。
次に多いのが気分障がいで、代表的なものがうつ病です。
警察庁の自殺統計によりますと、高齢者のうつ病は減少傾向にありますが、それでも前期高齢者の自殺者数では約半数がうつ病が原因となっており、対応は不可欠です。
高齢者うつとは?
うつ病とは気分の障がいの一つで、主な症状は以下の通りです。
- 気分が落ち込む
- 何をしても楽しむことができない
- 眠れない
- 食欲がない
- 疲れやすい
うつ病になると否定的な考えやものの見方をしやすくなります。
発症の原因は、はっきりとわかっていません。精神的・身体的なストレス、環境の変化やさまざまな人生のイベントを機にうつ病が発症してしまうことがあります。
うつ病の診断基準は、以下の2つがあります。
- DSM
-
アメリカの精神医学会が作成したものです。以下の①と②のどちらかに当てはまり、合計5つの症状がほぼ一日中、2週間以上続く場合は、うつ病と診断されます。
- 自分の言葉や、他者から観察される抑うつ気分
- 喜びの著しい減退
- 著しい体重の減少や増加、食欲の減退や増加
- 不眠または過眠
- 精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能)
- 易疲労性、または気力の減退
- 無価値観、または過剰なな罪責感
- 思考力や集中力の減退、または決断困難
- 死についての反復思考、反復的な自殺念慮、または自殺企図
- ICD
-
WHOが作成したもので、2段階のチェック項目があります。1つ目の段階は以下の通りです。
- 抑うつ気分
- 興味と喜びの喪失
- 易疲労感の増大
上記のうち2つ以上の症状があり、かつ次の症状の2つ以上が2週間以上続く場合に、うつ病と診断されます。
- 集中力と注意力の減退
- 自己評価と自信の低下
- 罪責感と無価値感
- 将来に対する希望のない悲観的な見方
- 自傷あるいは自殺の観念や行為
- 睡眠障がい
- 食欲不振
全年齢でうつ病は発症しますが、高齢者におけるうつ病には以下のような特徴があります。
- 心身機能が衰える不安から発症する
- 社会的な役割喪失や孤独による不安から発症する
- 糖尿病とうつ病はお互いに影響あり、もう片方の発症リスクが上がる
- 認知症と合併することも多い
- うつ病になることでリハビリの意欲が低下することもある
心身機能が低下してうつ病になることもあれば、逆にうつ病によって心身機能が低下することがあり、両面からの治療(アプローチ)が必要になります。

訪問看護と精神科訪問看護の違い!併用はできる?
訪問看護は疾患名や状態、介護保険の認定の有無などによって、「介護保険で提供されるか?」「医療保険で提供されるか?」が決まります。
そのため、一般的な訪問看護と精神科訪問看護は併用することはできません。訪問看護は保険別に大きく分けられます。
- 訪問看護(介護保険)
- 訪問看護(医療保険)
- 精神科訪問看護(医療保険)
精神科訪問看護は、医療保険で提供される訪問看護となります。誰でも利用できるのではなく、次の条件を満たさなくてはなりません。
条件1:精神疾患(認知症以外)であること
条件2:精神科を標榜する保険医療機関の精神科を担当する主治医から精神科訪問看護指示を受けること
また、精神科訪問看護を提供できるサービス提供者は、「精神疾患を有する者に対する看護について相当の経験を有する保健師・看護師・准看護師・作業療法士」に限られます。
そのため、すべての訪問看護ステーションでサービスを提供できるというわけではありません。
精神科訪問看護とは?サービスの内容を紹介
精神科訪問看護は以下のようなサービス内容があり、その人にあったサービスを提供します。
【サービス内容】
- 心身状態の観察(特に精神状態)
- 生活状況の把握
- 服薬管理
- 本人、家族への心理的支援
- 傾聴、相談
- 主治医や関係機関への連絡や相談
- 就労支援や日常生活における支援
- リハビリテーション(主に作業療法士)
高齢者うつで利用している方への精神科訪問看護の例を紹介します。
【事例】
病気の発症を機にうつ病になってしまった高齢者で、次のような症状がある利用者がいたとしましょう。
- 夜眠れずに生活が不規則になってしまっている
- 他人と話すことができなくなってきたため、外出が少なくなり閉じこもりがち
- 運動機会が減っているため、足腰が弱くなり転倒リスクも高くなっている
このように外出が苦手な人に対して、看護師などが自宅に訪問し、以下のようなケアを実施します。
- 精神状態や身体機能の把握
- 1日のスケジュール(日常生活)の把握
- 想いなどの傾聴
- 主治医と相談して服薬管理
- 抱えている悩みなどをしっかり聴き、利用者さんと訪問看護の計画を立てる
- 精神状態もケアしながら運動も実施
このように、精神状態や生活状況、リハビリテーション(運動)などに対して総合的な訪問看護を実施するのが精神科訪問看護の一例です。

まとめ
今回は、高齢者うつや精神科訪問看護についてご紹介いたしました。
精神疾患は見えない病気ですので、発見しにくいこともありますが、早期発見・早期治療が大切です。
精神科訪問看護は精神科医の指示のもとで提供されています。
うつ病などで生活が不規則になったり、心身機能が低下していると感じた場合は、まずはお近くの精神科に相談してみることをおすすめします。