こんにちは。ケアマネジャーの小川風子です。
今回は介護に携わる方々が困る場面の多い「介護保険内の買いもの支援サービスと通院同行」についてお話します。
「買いもの」と「通院」は介護保険サービスの穴
筆者は長い間介護保険にかかわる仕事をしており、現在は居宅のケアマネジャーとして働いています。その経験から導き出された私の持論は「介護保険をうまく利用すれば、ほとんどの人は在宅生活が可能」というものです。
もちろん、ある一定の状態になれば「在宅生活よりも施設入居を視野に入れた方がいい」というラインは確かに存在します。しかし、基本的には本人の状態にふさわしい要介護度が認定されれば、介護保険サービスなどを駆使して在宅で生活することができると思っています。
とはいえ、それはあくまでも「必要最低限の生活はできる」という意味です。介護保険を利用して生活していくと、「介護保険の穴」がすぐに浮き彫りになってきます。その最たるものが「買いもの」と「通院」です。この2つがもっと自由になれば、介護する家族の負担も減ると日々思っています。
買いものの代行と同行には厳しいルールがある
介護保険内で買いもの支援を希望する場合、「訪問介護」を利用することになります。訪問介護による買いものの方法は、2種類あり、代行と同行の2種類です。
買いもの代行はヘルパーさんにメモとお金を渡して買いものをお願いするサービス。こちらは訪問介護の「生活援助」に該当します。
そして買いもの同行は、1人で買いものすることが困難な方がヘルパーさんの介助のもとお店に行き、一緒に買いものをするというサービスです。これは訪問介護の「身体介護」で算定します。
どちらの方法を取るかは利用者本人の状態や希望をアセスメントして決めるのですが、どちらにしても介護保険の買いものには厳しいルールがあります。大まかなルールは以下の3つです。
- 嗜好品は禁止
- 日常生活に必要不可欠なもののみ
- 利用者本人のものだけ
たばこやお酒はもちろん、ペットのエサを買うこともできません。保険者によっては、お弁当の購入を禁止しているところもあります。「お弁当を買うなら介護保険を使わずに、配食弁当を利用してください」というわけです。
ネットスーパーや生協では対応できないケースも
特に訪問介護については介護保険サービスの中でもルールが厳しいので、「介護保険を使う前に、代用できる何かを先に探してください」というスタンス。ネットスーパーや生協を利用すれば良いのかもしれませんが、当日その場で必要なものがわかったり、配達してもらうと割高になるケースも存在します。なので、私が担当している利用者の方の多くは買いもの代行や同行を利用しています。
さらに、買いもの代行・同行が可能になったとしても、行きたいお店が遠い場合、依頼することが難しいです。生活援助の場合は、ほとんどのケースで利用時間の上限が60分ないしは70分。移動でそれ以上の時間がかかるお店に買いものをしてもらうことはできないですし、同行の場合もまかり通りません。ですから、「電車に乗ってお気に入りのお店にお洋服を買いに行きたい」といった希望は通らないのです。もちろん必要最低限の肌着や洋服は、買いもの代行や同行で買うことはできます。
障がい者の方のサービスには「移動支援」という余暇活動を目的とした外出支援があるのに、介護保険にはそういったサービスがなく、「どうにかならないのか」とは常に思っているところです。
通院におけるヘルパーの待ち時間は自費の支払いが発生
私がケアマネジャーとして働いていて、最も介護保険の穴だと思っているのが「通院介助」です。介護保険を利用している方の多くが何らかの心身の病気などを抱えていて、通院を必要としています。なのに、介護保険での通院介助というのは想定されていません。
「ヘルパーさんが病院に着いてきてくれる」と簡単に考えていらっしゃる方が多いのですが、実はそれは大きな間違い。基本的に介護保険の訪問介護は、自宅でのサービスを想定しています。なので、外出支援にふさわしいサービス内容としては考えられていないのです。
また、介護保険は実際に何かサービスを行っている時間しか算定できません。これはどういうことかと言うと、「ヘルパーさんが実際に利用者さん本人に介助をしている時間だけ」介護保険を利用できるということです。
例えば、通院介助でのサービスは訪問介護の身体介護で算定することになります。この身体介護は文字通り「身体にかかわる介護」のことで、排泄介助や食事介助などが該当。では、通院についてきてもらう場合はどんな介助をするかと言うと、基本的には移動介助を行います。「車椅子を押してもらう」「歩行器を支えてもらう」「手を引いて歩いてもらう」だけでなく、「一緒に横について見守りながら移動してもらう」というのも身体介護です。
しかし、公共交通機関やタクシーを利用して通院している場合に発生する「ただ座っている時間」は介護保険で算定できません。「受付を待つ」「診察を待つ」などの待ち時間も同様。何もしていない時間を、介護保険で算定はできないというわけです。
待ち時間を算定できないために家族やケアマネに影響が…
「じゃあどうすればいいのか」と言いますと、国が考える通院のシステムとしては、一歩でも病院に入れば介護保険ではなく医療保険の範疇であるとしています。つまり診察券を入れるところまではヘルパーさんが介助して、後は病院側にバトンタッチ。病院側が院内介助を行う必要があります。
理屈としてはわかりますが、これがまかり通る病院はほとんどありません。なので、介護保険が使えない待ち時間を訪問介護事業所は利用者に自費で請求するのですが、これを払えないという方が少なくありません。保険が効かないので、だいたい1時間3,000~4,000円設定のところが多いのですが、もちろん介護保険を利用するよりずっと高額です。
結局そのお金が惜しいために家族が仕事を休んで通院に連れて行ったり、それもままならなければケアマネが業務外であるにもかかわらず通院介助をするのが現状です。この待ち時間を介護保険で算定できればヘルパーさんに通院を頼みやすくなるので介護離職は減ると思うのですが、今はそうではないので苦労することが多いです。
買いものや通院のために高齢者が運転せざるを得ない
最近は 高齢者の運転による事件が多く、世間での風当たりが強くなっています。筆者も高齢者の運転は反対です。しかし、介護保険の制度で買いものや通院に自由がきかない以上、どうにかして自身で買いものや通院をしなければならず、その手段が車の運転しかない高齢者も少なくないと思うのです。
何でもかんでも保険適用にしていたらきりがないというのもわかりますが、「もう少し柔軟に使えるようになればいいのにな」と、現場で働きながら日々痛感しています。