こんにちは。薬剤師の雜賀匡史です。
便秘時に食生活や運動を見直したら、状態が改善したという経験をされた方は多いと思います。
一方で、下剤を使っているのになかなか便秘が治らないという人もいらっしゃいます。このような人は、下剤の選択が正しくできていないことが理由かもしれません。
今回は加齢とともに増える便秘と、下剤の正しい選び方・使い方をご紹介します。
便秘の原因は食事量やストレス、運動不足などさまざま
私たちの食べた物は、水分や栄養分を吸収されながら腸を通過し、残りかすが便として体の外に排出されます。
便秘とは、体の外に排出されなければならない便の量が不十分、または快適に排出できない状態を言います。
便秘の原因は、食事量、食事内容、ストレス、身体機能の低下、運動不足、服用薬、水分摂取不足など多岐にわたります。
高齢者の方は、食事量の減少、生理機能や日常生活動作(ADL)の低下がみられるため、便秘の割合が高くなります。
便秘の種類「器質性便秘」と「機能性便秘」
便秘は大きく2つの種類に分かれ、それぞれ異なる治療が行われます。
①器質性便秘
腸管が狭まる、腸の長さや大きさに異常が生じるなど、腸の病変により引き起こされる便秘で、原因となる病気の治療が最優先です。
強い腹痛や吐き気、発熱、血便などを伴う場合は、腸閉塞や大腸の病気の可能性があるため、すぐに医療機関を受診しましょう。
②機能性便秘
主に、消化器官(胃、小腸、大腸)の機能低下が原因で引き起こされる便秘。
初期段階から下剤を服用して治療するのではなく、食事や生活習慣の改善、運動療法から始めます。
「機能性便秘」は、特徴の異なる3つのタイプに分かれます。
- 弛緩性便秘(しかんせいべんぴ)
- 蠕動運動(ぜんどううんどう。腸を伸縮させて消化した食べ物を大腸から直腸へと移動させる動きのこと)が弱まることで生じる便秘。高齢者の方の割合が多い
- けいれん性便秘
- 蠕動運動に連続性がなくなり、便の通過に時間がかかり過ぎることで引き起こされる便秘。ストレスや感情の高まりなどが影響していると考えられている
- 直腸性便秘
- 便意を我慢して無排便を繰りかえすことで、刺激に対する感受性が低下し、直腸まで便が運ばれても便意を感じなくなる状態。女性に多い便秘
下剤は、便の性質と腸の状態で使い分けましょう
便の性質と腸の状態を知ることは、正しい下剤選択の手掛かりとなります。
下剤の種類は、役割ごとに以下の3つに分かれます。
下剤の種類3つ
- 便のかさを増す下剤(膨張性下剤)
- 便を柔らかくする下剤
- 腸の運動を高める下剤(刺激性下剤)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
便のかさを増す下剤(膨張性下剤)
「カルボキシメチルセルロースナトリウム」や「ポリカルボフィルカルシウム」に代表される下剤で、食物繊維の摂取量が少ない人に適しています。
多めの水分と一緒に服用することで、便中の水分量を増やすとともに便のかさを増し、腸管を刺激して排便を促します。
便を柔らかくする下剤
便がコロコロと硬いときには、便を柔らかくする下剤を用います。
「酸化マグネシウム」は、水分を大腸の中に引き込んで便を柔らかくする下剤です。
刺激性が少なく、耐性を生じることがないため、第一選択薬として使われることが多い薬です。
使いやすい一方で、高齢者の方や腎機能の低下した方では、高マグネシウム血症の副作用を起こすことがあります。
初期症状の嘔気、嘔吐、徐脈、筋力低下、傾眠などが現れたら、すぐに受診するようにしましょう。
また、一部の抗生物質、ビタミンD3製剤、カルシウム製剤などとの相性が悪いので、使用の際は医師、薬剤師に相談してください。
「ルビプロストン」は、小腸内の水分を調節して便を柔らかくする下剤で、高マグネシウム血症の副作用がありません。
症状のあるときだけ使用するのではなく、毎日服用することが大切な薬です。
飲み合わせの悪い薬が少ないことも、この薬の特徴です。
「リナクロチド」は慢性便秘症以外に、お腹の痛み、下痢、便秘、ガス過多などの便通異常がつづく過敏性腸症候群にも適応をもつ薬です。
必ず食前に服用し、飲み忘れに注意しましょう。
「エロビキシバット水和物」は、腸管内の胆汁酸量を増やすことにより、大腸内の水分分泌と消化管運動促進作用を示します。こちらも食前に服用する薬です。
腸の運動を高める下剤(刺激性下剤)
高齢者の方に多い「弛緩性便秘」によく使われる下剤です。
代表的なものに、「センノシド」「ピコスルファートナトリウム」などがあります。
蠕動運動を高めることを目的として大腸を直接刺激するため、腹痛を伴うことがあります。また、連用により耐性が高まり、長期の使用で効果が弱まることがあります。
直腸まで便が下りてきているときに使用する、「坐薬(炭酸水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム)」や「グリセリン浣腸」も刺激性下剤の一種です。
これらは効果発現時間が5~20分と即効性がある為、頓用(症状が起こったときに薬を服用すること)での使用に適しています。
挿入時に腸粘膜を傷つけないよう、使用時の注意が必要です。
以上のように、適した下剤を選ぶ際には、便の状態や腸の動きなどの情報を参考にしましょう。
医師や薬剤師に便秘を伝えるときは、排便回数だけでなく、便の状態についても一緒に情報提供し、効果的な排便コントロールをしていきましょう。