こんにちは、終活カウンセラー協会認定講師でジャーナリストの小川朗です。
本日は「終活の実情と課題」というテーマを掘り下げてみたいと思います。
終活カウンセラー検定で終活を身近に感じるように
筆者が終活カウンセラー初級(現2級)検定の1期生として合格したのが、2011年の10月23日。「終活」という言葉がまだ市民権を得ていない頃の話です。当時、「しゅうかつ」と検索しても「就活」にしか変換されず、それがしばらく続きました。
しかし、今や終活と言う言葉はすっかり定着。この10年で終活カウンセラーの2級検定は計742回も開催され(2021年4月22日時点)受講者数は2万2,000人を突破しています。筆者も全国津々浦々、56回の2級検定に講師として登壇し、多くの受講者の皆さまと触れ合う機会を得ました。
終活カウンセラーとなることの最も大きなメリットは、「終活が他人事でなくなる」ということです。「終活とは」の講義にはじまり、以下の6科目を1日かけてたっぷりと学んでいただけます。
- 終活とは
- 介護保険・介護サービス
- 保険
- 年金
- 相続
- お葬式・供養
受講者の多くから聞く感想は、「終活に関する必要な知識が備わった」ということ。人生の終焉と向き合うことによって、今をより良く生きることの重要性が見えてくるのです。例えば、「介護保険・介護サービス」の講座では介護保険法の基本的な考え方を学び、介護保険の中身や利用の仕方、介護サービスの内容などを知ることができます。講義が進むにつれ、超高齢社会に突き進む日本の介護問題を、自分事として捉えることができるようになります。
また、「終活を知ることによって、漠然と抱いていた老後への不安がなくなり、前向きになれた」という声も、検定の場では何度か聞いた感想の一つです。「終活」という言葉は確かに市民権を得ましたが、実際に日本国民の多くが「終活と向き合っている」とは言い難いのが現実です。
終末期医療について家族や医療関係者に話している人はわずか2.7%
日本国民の向き合い方においては、介護の問題と直結する「終末期医療の問題」にも同じことが言えます。厚生労働省の『平成29年度人生の最終段階における医療に関する意識調査』によれば、人生の最終段階における医療・ケアについて、家族や医療関係者たちと実際に「詳しく話し合っている」と答えた人は、全体の2.7%しかいなかったというのです。「一応話し合っている」とした人は36.8%いましたが、一方で「話し合ったことはない」と答えた方が55.1%という結果になっています。
「終活」と言う言葉は知っていても、それを自分事として捉えられないため、話し合う機会を逸しているケースが多いように思います。しかし、それは決して良い状態ではありません。「自分にはまだ早い。終活はもう少し先でいいや」と思っている方は多いですが死は誰にでも訪れます。それは身内にも同様で、明日かもしれないし、数秒後かもしれません。
この連載の第209回でもお話ししましたが、延命治療の判断を迫られるケースもあります。終活カウンセラー協会の武藤頼胡代表理事が、以下のようにお話ししていたのをご記憶の方も多いと思います。
「突然、救急車で運ばれて『あなたのお母さん、助かりませんよ。延命治療しますか、しませんか』と聞かれたときに、大体『30分で決めてください』と言われてしまいます。そのときに子どもが一番困るのが、お母さんの意思を知らないこと。例えば10年前にお母さんが『延命治療しなくていい』と言っていたとしても、それが今の意思であるとは必ずしも限りません。だから毎年、そういうことも聞いておいた方が良いのです。(中略)
終活カウンセラーであるならば、エンディングノートに事前指示書を挟んでおくだけではなくて、家族と話し合って、その思いをしっかり伝えておいて欲しいです。書面だけじゃなくてね。万が一ということがありますから、安心につながります」
終活の準備をしていないと相続や財産分野が大変…
これまでのお話で、生前に終末期医療の問題について家族で話し合う機会を持った方が良いことをおわかりいただけたと思います。終活カウンセラーの2級検定では、相続の基本も50分間学んでいただけます。
先日、あるゴルフ関係者にインタビューしているときに、こんなケースをお聞きしました。実業家の御仁が最終ホールで、チップイン。しかしその場で心臓発作を起こし、お亡くなりになってしまったというのです。
実は、こうした事態は決して少なくありません。ゴルフはターゲットスポーツです。ドライバーで遠くに飛ばす快感や、気持ちよくグリーンに乗せたときも喜びを味わえますが、やはり楽しいのはグリーン周りから。基本的にボールを穴に入れることで完結するゲームなので、それが劇的であればあるほど喜びも大きいです。グリーンの外から直接入るチップインや、到底入らないと思われた超ロングパットを決められるのは至上の喜びでしょう。
しかしその興奮が血管や心臓に負担をかけ、最悪の場合死に至ることも少なくないのです。Aさんにとっても不測の事態。そのゴルフ関係者によれば「その後の相続や財産分与、それはそれは大変だった」そうです。
財産が多く、保険証券や有価証券などがどこに保管されていたのかわからなかったため、相続の作業は遺族にとって大きな負担となりました。もしAさんが終活カウンセラー協会の検定を受け、自らもエンディングノートを書き、自分の財産をしっかり棚卸して把握して、しっかりした遺言も用意していたら、ご遺族は相当助かったと思います。
相続する遺産に要注意!
相続で揉めるケースはお金持ちのみのように思われますが、実際は 遺産が5,000万円以下であるケースが圧倒的に多いです。その理由は、分ける財産が不動産のみであるなど、分割が難しいからです。億単位の遺産があった裕福な方ほど、有価証券やゴルフ会員権、複数の不動産などと分割が可能であるため、ほとんど揉めないというのが実態となっています。
Aさんもそうした裕福な1人でしたが、どの財産を誰に渡すかという意志を明確にしておかなかっただけでなく、保険証券の保管場所などもご遺族に生前に告げておかなかったために、相続の作業は大きな苦労が伴うものとなりました。
突然死だけではなく、前半でお話しした延命治療の決断を迫られるケースもあります。「終活はまだ早い」と先送りするよりも、今日から始めることが何より大事です。ぜひエンディングノートを手に取って、終活について考えてみてください。