はじめまして。今回より講師に加えていただきました、終活ジャーナリストの小川朗です。
日頃は雑誌などに連載しながら、(一社)終活カウンセラー協会の初級検定や勉強会などのほか、「SPORTEC JAPAN」などの大型イベントで講師を担当しております。
最近では終活という言葉が一般的に広まってきたなか、情報を集めたり、終活をすることの必要性についてもっと多くの方に知ってほしいと思っています。
今回は、情報収集や終活を日頃から行うことの必要性についてお話ししたいと思います。
終活の内容は多岐にわたる
終活カウンセラーにはどのようなことを相談できるのでしょうか。
終活カウンセラー協会の初級検定の科目には、「介護」「終活とは」「相続」「保険」「年金」「お葬式・供養」の6科目が挙げられます。
つまり、終活カウンセラーとは相続、遺言、保険、葬儀、お墓、介護、健康などにアドバイスをしてくれる存在なのです。
高齢者の方々のなかには、これらの問題を複合的に抱えている方が多くいます。
裏を返せば、“終活”は多岐にわたって備えておく必要があるため、終活をするには、とにかく多くの情報を集めることが重要です。
しっかりと頼るべき専門職の方を頼りつつ、介護になる前、または介護をしながら終活の備えをしてほしいと思います。
事例から考える終活と情報収集の必要性
終活の準備ができていなかったり、情報を集めていないとなぜ困るのか、事例を用いて説明しますね。
まだ終活という言葉が一般的でなかった時代、介護保険法も施行されて間もないときに介護に直面したAさんのお話です。
母親の介護のために介護離職したAさん
Aさんに介護問題が「降ってきた」のは、今からちょうど20年前。
30代の半ばで奥さんと共働きをしながら、私が働いていた新聞社から出版社へと転職し、バリバリ働いていたときのことです。
充実した日々を送っていたAさんを変える、ある出来事が起こりました。
彼の母親が突然、内蔵の病気で倒れてしまったのです。
母親はそれから一度は回復したものの、それから予断を許さない状態が続いたために、Aさんは介護離職をすることになりました。
情報が集められない時代の介護は大変だった
その後、Aさんと再会する機会があったとき、本人は介護離職をした当時の心境をこう振り返っていました。
「正直かなり追い詰められました。親戚も去っていき、相談するべき相手もいない。余裕がなくなって、どこに行ったら良いのかもわからなかった」
離職したAさんの生活の原資は、親の年金。
並行して父の遺産を切り崩しながら、生活費を切り詰めて介護生活を続けていたようです。
今のように介護保険サービスも充実していない時代では、その負担はとても大きかったと思います。
さらに、当時はインターネット上の情報も十分ではなかった時代。
このAさんの言葉から、“情報が集められない”という現実によって、Aさんが追い詰められていたことが伝わってきました。
当時は介護者も専門職も手探り状態
介護を始めると、厳しい現実が見えてきます。
「在宅介護をできる状態だったから、お金や時間などを切り詰めて、覚悟して介護に専念しました。でも、ずっと気が抜けないから、緊張が途切れない。介護には、先が見えない性質があります。そんな日々を送るうち、孤独を感じる状況にもなりました」
Aさんがこのような孤独を感じていた原因のひとつとして、支援者の理解が得られなかったことが挙げられます。
介護保険法が施行されたのは、Aさんが母親を介護するようになった翌年のこと。
当時は相談する側も、される側も手探り状態でした。
「ケアマネさんにしても、専門家とされる人たちも、実際に我々がおかれている状況をわかってくれない。支えてくれるはずの人に理解してもらえないのはつらかった」
この頃、Aさんが今で言う「終活」ができていれば、ここまで精神的に追い込まれることはなかったと思います。
しかし、当時は誰に相談すべきか、どこに相談したら良いかもわからない状況。
その結果、悩みをひとりで抱え込んでしまったのです。
介護保険法元年。そこに当事者として居合わせたAさんは、ある意味、制度導入初期の混乱に巻き込まれた犠牲者と言えるでしょう。
手段が増えた時代だからこそ備えておこう
Aさんが繰り返し言っていたのは「母親が元気なときに、介護の準備をしておけば良かった」という言葉でした。
私が「終活カウンセラー協会」の講義で強調しているのも、まさにそのポイントです。
「備えあれば憂いなし」と言いますが、忙しい日々を送っていると、その「備え」にまで時間を割くことが難しいのは当然です。
しかし、少しでも早く備えておくことが、“万が一”のときの助けとなるのです。
終活カウンセラー協会は、「相談相手」の役割を担う人材を養成しています。
Aさんが介護に悩まされていた当時、もし終活カウンセラーがいて、相談さえできていたならば、Aさんの悩みを聞き、不安を取り除き、負のスパイラルにブレーキをかけることができたはずです。
今ならば、市区町村の窓口や地域包括支援センター、あるいは各分野の専門家をAさんに紹介することで、局面を打開することもできます。
ケアマネージャーを始めとする介護に携わる専門職の皆さんのスキルは、20年前とは比較にならないほどアップしています。
それから、なんといっても便利になったのは、情報を獲得する手段。
20年前、普及途上であったインターネットの環境は広く浸透して、介護に直面した場合の対処法も、手軽に検索できるようになりました。
このように、Aさんが介護に直面した時代からは20年が経過して、介護を取り巻く環境は大きく変わっています。
本人やご家族が“万が一”に備えるために、情報を集めて備えておく手段は格段に増えているのです。
あらゆる手段をしっかりと活用し、“万が一”に直面したときのことを本人とご家族が一緒に考え、事前に備えておくことが大切です。
最後に一言
100人いれば100通りの終活があります。
何からすれば良いかわからない…という方は、ぜひ一度エンディングノートを手にとってみてください。
介護を受ける場所や受けたい相手、認知症や要介護が進んだ場合の後見人になってほしい人などを書き込むことができます。
次回は、介護うつになる状況とその対策について、事例を交えて考えてみたいと思います。