団塊の世代が後期高齢者となる2025年が目前となり「オーラル・フレイル」の問題が改めてクローズアップされています。高齢化が進む中、飲み込む力が弱くなる方も、年々増え続けているのです。
そこで問題なのが、サラサラとした飲みもの。うまく飲み込めなくてむせてしまったり、気管に入って誤嚥性肺炎を起こしたりする危険と常に背中合わせなのです。
そのために最初から“とろみ”がついたコーヒーやお茶が、続々登場していますが、コスト面やQOLを上げる飲食のバリエーションを考えれば、とろみ剤を上手に活用することも必要です。
そこで今回は東京都江東区の「ケアの駅」(山田富恵代表)で開催された研修交流会「『食べる』を支える仲間作り」についてリポートします。
意外と知られていないとろみ剤の特徴
実はこのイベント、2年4ヵ月前に一度実現寸前のところで中止に追い込まれています。原因は新型コロナウイルスの感染拡大でした。
こちらの記事で詳しく書いているのですが、2020年の末に準備を重ねたこのイベントは開催前日、予想外の展開に見舞われます。
東京都の新規感染者数が前々日の678人を144人上回り、2日連続で過去最多を更新。822人に達したため、東京都は4段階で示す医療提供体制における警戒度を、最高レベルの「ひっ迫している」に初めて引き上げたのです。
そのインパクトは、相当なものでした。当時は飲食をターゲットに活動自粛が叫ばれており、試食もできるこのイベントのハードルは、ハネ上がりました。協力してくれるはずだった業者に活動停止の命令が続々と出され、関係者全員に「同調圧力」の4文字が重くのしかかります。
「それでも営業担当は弊社の意を汲んできてくださる話になっていましたが、最終的には私の一存で中止を判断しました」と、山田さんは苦渋の決断に至った経緯を説明してくれていました。
あれから2年4ヵ月。事態は徐々に好転し、ようやくリベンジのチャンスが到来したわけです。そこで主催者の山田さんに今の思いを聞きました。以下はその一問一答です。
――― 一度は中止に追い込まれたイベントがついに実現ですね。
山田:そうですね。ようやく、という感じですね
――― 当時、山田さんが「WEBで検索が容易にできない方に『情報』を、通信販売で頼めば一発かもしれないけど味を試せる『機会』を、できれば企業さんに、医療主導でオーダーされている食べ物を供している側に、食べる側が困っている情報を集約して伝える『役割』を。そんな場所を身近な地域の中につくりたい」と書かれていたのが印象に残っています。今でもその思いは変わりませんか?
山田:最後まで口から食べられるその「口」をつくるのは歯科医です。そのためには排痰ができるように、最後まで助けないといけない。それをサポートできる看護師と、何よりも「おいしい」を実現できる食品企業者様を招いて、実現したかったのです。
医師から処方される製薬会社の栄養剤は巷に溢れていますが、飲む人の味の好みに合わないため結局飲めずに、捨てられていることも多いのです。
―――それは問題ですね。
山田:また、ありがたい処方としての栄養剤が、その人が摂りやすい“とろみ”をつけるには難しいのです。入院のときにはAという製品でとろみをつけていて、これをこのくらいと指導され、いざ家に帰ってきたら、そのAが近くの店で売っていないのです。
一から家族が製品を探し、病院で指導されたとろみになるにはどのくらい入れたらいいのか…やり直すのです。 しかも、普通の水分ならとろみがつくはずの製品でも、「高栄養剤にはとろみが付きにくいという特性がある」なんて、一般の方は知らないのですよ。ひどいと思いませんか?
―――それは知りませんでした。
山田:しかも 一概に「とろみ」といいますが。ただ口の中にモッタリとまとわりつくだけのとろみ剤と、スルンと身離れが良いとろみ剤があるんです。おそらくこれは、開発している企業側も「何が違うんだ」と思ってると思いますよ。
メーカーと協力してとろみの研修会を実施
そうした山田さんの思いが詰まった研修交流会。当日用意されたフライヤーには、こんなメッセージが書かれていました。
とろみ剤にもいろいろな種類が増えました。同じ量を使っても、食品によって付くとろみが変わります。その人に適切なとろみは一人ひとり違います。まずは、その人に適切なところを知ることが大切です。
『ケアの駅』では、地域で「食べる」を支える仲間作りと役立つ情報発信を続けています。まず、第1弾はとろみです。相談できる仲間や情報とつながりましょう。
※とろみカクテルソーダが飲めます!
※とろみ飲料の熱い開発秘話も聞けます!
研修交流会の最初のメニューは介護食・嚥下食メーカー宮源の調理師・髙橋浩幸氏が「『とろみ使用の基本情報』のご紹介」というテーマで、とろみ調整食品の役割や適正使用のポイントについて講演。実際に同社のとろみ剤を使用して、濃いとろみ状の飲み物を作って飲んでみる体験セミナーも行いました。
このほか、ライフクリニックの管理栄養士 大西由夏さんが液体のとろみについて講演。さらに三和製作所のインクルーシブスイーツパティシエの志水香代さんが作った「とろみカクテルソーダ」がグラスの底に置かれたスマホでライトアップされると参加者から「わー!きれい」の声も上がりました。
参加者はケアマネージャーが最も多く、看護師や理学療法士のほか民生児童委員といった顔ぶれ。講義の間、いずれも熱心にメモを取っていました。最後に伊藤園の久保田敦之氏が「おいしく手軽に飲めるとろみ付き飲料」とうたわれた新製品「とろり緑茶」を紹介。とろみ尽くしの研修交流会が終了しました。
山田さんは「集まることすらできなかった日々を考えれば、こうして試食までできるイベントを開催できたことはうれしい限り。関係者の皆さんに実際にとろみ飲料を味わっていただくことが大事。さらにその後の口腔ケアにも心を配っていただきたい、というのをお伝えしたかった」と安どの笑みを浮かべていました。
ようやくポスト・コロナの体制が組めるようになった長寿大国・ニッポン。地域包括ケアシステムの構築に向けて、地元に根差した活動が活発化しています。