皆さん、こんにちは。認知症支援事業所 笑幸 代表の魚谷幸司です。
当事業所は日中だけでなく、困っている方の状況を確認したうえで、夜間や利用される方の自宅に泊まってサービス提供を行うことがあります。そこで今回は、「認知症の方を宿泊介護したときの例」を紹介します。
認知症のAさんをお泊りでサービス対応
利用者である83歳のAさんは、長く一緒に暮らしていたご主人を約1年前に亡くされてから、認知症を発症しています。
Aさんは介護保険内のサービスで平日はデイサービスを日帰りで利用し、週末はショートステイでお泊りをしていました。あるとき、施設にどうしても空きのない日が数日あり、Aさんを担当しているケアマネージャーは困ってしまいました。
日中は平日にお願いしているデイサービスを追加で利用することができたのですが、夜間の対応については中々見つかりませんでした。結果として、介護保険外サービスを提供している事業所と、筆者が運営してる事業所を見つけ、その二つで日を分担することとなりました。
3月某日の18時前、Aさんがデイサービスから帰宅したので、サービス提供を開始します。Aさんを送ったデイサービスの職員さんによる気遣いで、「私に何かあったときのために」とAさんが信頼している方の名前を教えていただき、またAさんの経歴やこれまでの生活について説明してもらいました。
それを聞いたAさんは「まあ、私なんかにわざわざすみません」と笑顔を見せられ、事前の大変と聞いていた情報とは違う様子に私は一安心でした。
認知症の方に理屈や正しい状況説明はしないこと
しかしその職員さんが帰られた後、状況が一変します。まず、Aさんの顔が明らかに険しいのです。そして、その表情のまま私に対して以下のような言葉を投げかけてきました。
「あなたは誰なの」
「あなたなんかにお願いすることはない」
「あなたに声をかけた覚えはない」
「なんではじめて会った男の人を私の家で泊めないといけないの」 など
私はこれまで、多くの認知症の方を対応してきました。しかし、ここまで言われたことで冷静さを失い、だめな対応と頭ではわかりつつも、「あること」をしてしまったのです。それは認知症の方に理屈で説明したり、正しい状況を理解してもらうための説明をしたりすることです。
また、同時に自然と口調も荒くなってしまいました。その後、冷静さを取り戻してそのことに気づいたときは、嫌悪感でいっぱいになり話すこと自体をためらいました。
しかし、この重い空気を打破してくれたのがAさんです。先の険しい顔は消え、「どこからこられたの」と話しかけてくれました。「○○からきています」と答える私に、Aさんは「遠くから大変ね。遅いけど今日は帰れるの」と心配します。私はその声のおかげなのか、落ち着いて対応することができました。
本人の不安を解消することができれば嘘も方便
私がAさんに対して行ったのは「もう少ししたら友だちが迎えにくるので、それまでここで待たせてもらって良いですか」と嘘の返答をすることです。それを聞いたAさんは「そうなの。早くきてくれたらいいのにね」と答えました。このとき私は、次のように考えます。
「そうか、『(いずれ)帰る』と言えば安心する。嘘でも良いから『泊まる』ではなく『いずれ帰る』ということにしよう」
その後も何度か「帰らないの」と聞かれましたが、「もうすぐ友だちが迎えにきます」と繰り返しました。その間は事前の情報で聞いていた、今まで勤めていた仕事の話を聞いたり、好きな歌を一緒に歌ったりしました。Aさんが嬉しそうに話をされていて、笑顔も見ることができたので、楽しい時間を過ごすことになります。
時間が経つうちにAさんは眠気を催したようで、「私は先に休むけど、気をつけて帰ってね」と休まれました。その後、朝になっても私がいたので驚かれた様子はありましたが、変わらず「もう少しで帰りますね」と対応を続け、午前9時にデイサービスの方がこられたので、そこで対応を終了しました。
「嘘をつくのはどうなのか」と思う方もいるでしょうが、本人の不安に耳を傾けて安心してもらえることができれば「嘘も方便」なので、悪いことではないと思います。