在宅介護を便利にする車椅子や介護ベッドのことを福祉用具といいます。
福祉用具は介護保険制度によって、安くレンタルしたり購入費用の負担を軽減することができます。
介護保険制度における福祉用具とは、介護や支援が必要な高齢者の日常生活を助けるため、または身体の機能訓練のための、車椅子や介護ベッドなどの用具を指しています。要支援・介護者である利用者が、自分の家で自立した日常生活を営むことができるよう助ける用具については、介護保険の給付対象となっています。
例えば、介護保険における福祉用具貸与(レンタル)の利用者は、2007年は約85万人、2016年には約191万人、2021年には約239万人と高齢者の増加とともに年々増加しています。皆さんのなかには実際に利用している方もいらっしゃるかもしれません。
実は、この福祉用具サービスが、2024年度の介護報酬改定によって変更される可能性が出てきました。
今回は、変更されるかもしれないポイントなどをわかりやすく解説いたします。
福祉用具サービスの現状
厚生労働省では介護保険制度における福祉用具貸与・販売の見直しを検討しています。
この議論は2022年2月から始まっており、特に福祉用具サービスを貸与か販売か選択できるようにする「選択制」の導入の是非に注目が集まっています。また、これまで不足していたと思われる、貸与して以降の点検や要介護者の状況の変化に対応したサービスについても検討が進んでいます。
では、福祉用具について現状の制度をみてみましょう。
介護保険制度で位置づけられる福祉用具は、貸与と販売で大きく分けられ、次のような項目が設けられています。
福祉用具貸与
貸与は、利用者の身体状況や要介護度の変化、福祉用具の機能の向上に応じて、適時・適切な福祉用具を利用者に提供できるとされています。
福祉用具貸与の項目
- 特殊寝台(ベット):サイドレール(ベッド柵)などが取り付け可能なベッドで、背上げ又は脚上げ機能、もしくは高さ調整機能が付いているもの
- 特殊寝台付属品:マットレス、サイドレール、立ち上がりをサポートするL字型ベッド柵など特殊寝台と一体的に使用されるもの
- 床ずれ防止用具:体圧分散効果をもつ床ずれ防止用の静止型マットレス、エアマットレス、ウォーターマットレスなど
- 体位変換器:起き上がり補助装置、寝返り介助パッドなど要介護者の体位を容易に変換できる機能があるもの
- 手すり:工事不要で設置できる手すり、任意の場所に置いて使用できる手すりなど
- スロープ:段差解消のための工事不要の設置・撤去できるものやスロープなど
- 車椅子:自走用・介助用車いす、電動車いす・電動四輪車など
- 車椅子付属品:車いすクッション、姿勢保持用品、電動補助装置など車いすと一体的に使用されるものなど
- 歩行器:歩行を補う機能と移動時に体重を支える構造をもつ固定型歩行器や四輪歩行車など
- 歩行補助杖:サイドウォーカー、松葉づえ、多脚杖(3~4本の脚)、ロフストランド・クラッチなど
- 移動用リフト:自力または車いすなどでの移動が困難な人のための工事を行わずに使用できる移動用リフト、バスリフトなど
- 徘徊感知機器:認知症外出通報システム、離床センサーなど
- 自動排泄処理装置:ベッドに寝たままの状態で排せつを処理する装置で、排尿、排便をセンサーで感知し、吸引・洗浄・乾燥を自動的に行うもの
※①②③④⑦⑧⑪⑫は原則要介護2以上の方が対象。例外もあり。
福祉用具販売
販売は、他人が使用したものを再利用することに心理的抵抗感が伴うものや、使用によってもとの形態・品質が変化し、再利用できないものを対象に、購入に必要な費用を給付対象にしています。
福祉用具販売の項目
- 腰掛便座:和式便器の上に置いて腰掛式に変換するものや、洋式便器の上に置いて高さを補うもの
- 自動排泄処理装置の交換可能部品:レシーバー、チューブ、タンク等のうち尿や便の経路となるもの
- 入浴補助用具:入浴用いす、浴槽用手すり、浴槽内いす、入浴台、浴室内すのこ、浴槽内すのこ
- 簡易浴槽:空気式または折りたたみ式等で容易に移動できるものであって、取水または排水の為に工事を伴わないもの
- 移動用リフトのつり具の部品:身体に適合するもので、移動用リフトに連結可能なもの
貸与の種類は13項目、販売は5項目に分かれますが、商品の数としては数千種類あります。ちなみに貸与の場合、①特殊寝台⑤手すり⑦車いすで全体の65%を占めています。
現状で福祉用具サービスを利用する流れは、以下の通りです。
- ケアマネージャーまたは地域包括支援センターに相談
- ケアマネージャーが本人や家族の思い、心身の状態、医療や環境の情報などを収集
- ケアプランを作成し、福祉用具貸与事業者を選定
- 利用者・家族が同意、契約締結
- 福祉用具の利用開始
サービス開始後は、介護用具の使用状況についてモニタリングが行われます。
このように介護保険制度による福祉用具サービス利用には、さまざまなルールが存在しています。
現行制度における論点
論点①アセスメントの強化
本来であればアセスメントを都度行いながら、利用者の状態に合わせて利用する福祉用具も変更しますが、ごく一部で当初より状態が軽減・重篤化しても利用する品目が見直されないケースも見受けられます。そのため、福祉用具の適正な利用に至っていないのではないかとの懸念があり、今回の検討会での議題に挙げられたのだと考えられます。
【事例】Aさんの場合
私はこれまでケアマネとして、さまざまな利用者と接してきました。その中には次のような経験もあります。
Aさんは歩行機能に支障をきたし、歩行器を貸与して使用していました。私はアセスメントを行っていく中で、次第に歩行器がAさんの状態に合っていないのではないだろうかと感じるようになりました。
そこで、福祉用具の見直しを提案しましたが、Aさんは自身が長らく使用してきた歩行器に慣れを感じており、見直しにはなかなか応じていただけませんでした。
そのときは訪問してくれているリハビリの先生(理学療法士)から、Aさんにお話してもらってご理解をいただきましたが、それでも変更まで3ヵ月ほど期間を要しました。
論点②貸与or販売「選択制」導入
今回進んでいる議論では、比較的軽度の方が対象となる杖や歩行器、手すりといった廉価な物品について、貸与だけでなく販売でも提供できる「選択制」を導入しようとの検討がなされています。
この部分だけでも販売提供できるようなシステムになれば、現在の介護保険給付や利用者負担の抑制につなげられるという狙いが厚生労働省にはあると考えられます。
専門職の意見は?
このような議論がある一方で、専門職からはさまざまな意見が挙げられています。その論点をまとめると、次のようになります。
- 販売だと利用者の状態変化に対応できない
- 身体状態に合っていないものを使い続けると悪化を招く
- 貸与でないとメンテナンスや安全性の確保が難しい
私も同様に感じています。現在の1ヵ月単位での貸与だからこそ、利用者の状態に合わせた福祉用具の提案が可能ですが、これが販売になってしまうと、福祉用具の変更には金銭的な負担が増加するからです。
また、現状の介護保険制度の福祉用具貸与であれば、福祉用具事業所でのメンテナンスが義務とされているので、安心・安全に使用できると考えられます。
まとめ
さまざまな意見があり、貸与や購入を利用者が選択できる制度も考えられていますが、いずれにしても利用者の不利益にならないよう十分な議論がされることを期待したいと思います。
2024年度の介護報酬改定では、大きな変化も予想されています。現在、福祉用具を利用している方だけでなく、身近な話題として注目していくことをおすすめします。