介護者メンタルケア協会代表で、心理カウンセラーの橋中今日子です。
コロナ禍の影響で家族を思う気持ちが強まったり、関係性を見直したりといった話をよく聞きます。しかし、そうした思いやりが、かえってトラブルになるケースもあるようです。
【事例】親孝行が負担になってしまい…
Kさん(76歳女性)は、一人暮らしをしています。コロナ禍の第1波に入った頃に大腸ガンの手術を受けました。早期発見での手術だったため、順調に回復しています。
しかし、コロナの第4波が明けた頃から、Kさんを悩ますあることが始まりました。県外に住む娘が、毎週末来るようになったのです。娘さんは、「健康にいいらしいよ!」と食品やサプリメントを大量に持ってきたり、「いい機会だから、断捨離しようよ!」と家を勝手に掃除したりしています。
週末のたびに自分のペースを乱されるKさんは、本音は来てほしくないのですが、「あの子の気持ちも汲んであげなければ…」と言い出せません。我慢を続けた結果、ストレスで体調を崩してしまいました。
サポートが相手を苦しめることがある
大切な人や家族が病に倒れたとき「何かをしてあげたい」と思うのは当然のことです。しかし、相手を思う気持ちが空回りし、逆に相手へのプレッシャーになってしまうことがあります。
Kさんの場合も、がんで手術はしたものの、順調に回復していました。ご近所さんや友人との関係もよく、一人暮らしを満喫していたのです。娘さんの思いやりがかえって、Kさんの生活を乱してしまったのです。
誰かのために何かをしたいと思ったときは、「介入(手助け)することを相手は望んでいるのか?」をまず確認しましょう。問題が存在することと、手助けを求めていることは違うからです。周りのアドバイスや望んでいない手助けは、逆に害となる可能性があるのです。

「助けたい!」と思ったら、まず質問を
親のことを思ってあれこれ先回りして行動することが、親孝行になるとは限りません。このことをサポートする立場の人は忘れてはいけません。相手が望んでいること聞いていきましょう。
- 何に困っているのか?
- どのような手助けを必要としているのか?
- どのような形でサポートが受けられると、嬉しいか?
相手に、「今はいいわ」と言われたときには、自分の思いを押しつけるのではなく「今は必要ないのね。いつでも言ってね」と相手の判断を優先しましょう。遠回りに思われるかもしれませんが、相手の気持ちを受けとめることが、相手の「わかってくれた」という安心感につながり、次の提案を受け取ってもらいやすくなるからです。
明らかに手助けを必要としているときに「必要ない!」と言われたら、「いつでも言ってね」と相手の気持ちを優先したうえで、地域包括支援センターやケアマネージャーに相談し、サポートの担い手を少しずつ増やしていきましょう。
家族だからこそ「心のソーシャルディスタンス」を意識する
その後、Kさんは、勇気を持って「来てくれるのはうれしい。でも、自分のタイミングで動きたい。電話で話を聞いてもらえるのが一番うれしい」と、自分の希望について話しました。
Kさんは、娘に怒られると思っていましたが「本当にいいの?私、お母さんに何もできていないのに…」と泣き出しました。娘さんも実家通いを頑張りすぎて、疲れ果てていたのです。
Kさんの娘さんのように、家族の病気をきっかけに、サポートに没頭してしまうケースはよくあります。しかし、介護は長期戦です。相手の心の陣地に踏み込むのではなく「どんな助けがいる?」など、質問をしながらコミュニケーションをとって「心のソーシャルディスタンス」を意識した関係性を深めていきましょう。

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