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第70回

家族への思いやりが相手を苦しめてしまうことも 「心のソーシャルディスタンス」を意識しよう

最終更新日時 2022/01/12
#親の介護
介護者メンタルケア協会代表で、心理カウンセラーの橋中今日子です。コロナ禍の影響で家族を思う気持ちが強まったり、関係性を見直したりする人が多くなっています。しかし、その思いやりがかえって相手の負担になるケースも…。そうならないためにも、まずは「介入(手助け)することを相手は望んでいるのか?」を確認し、「心のソーシャルディスタンス」を意識した関係性を深めることが大切です。

介護者メンタルケア協会代表で、心理カウンセラーの橋中今日子です。

コロナ禍の影響で家族を思う気持ちが強まったり、関係性を見直したりといった話をよく聞きます。しかし、そうした思いやりが、かえってトラブルになるケースもあるようです。

【事例】親孝行が負担になってしまい…

Kさん(76歳女性)は、一人暮らしをしています。コロナ禍の第1波に入った頃に大腸ガンの手術を受けました。早期発見での手術だったため、順調に回復しています。

しかし、コロナの第4波が明けた頃から、Kさんを悩ますあることが始まりました。県外に住む娘が、毎週末来るようになったのです。娘さんは、「健康にいいらしいよ!」と食品やサプリメントを大量に持ってきたり、「いい機会だから、断捨離しようよ!」と家を勝手に掃除したりしています。

週末のたびに自分のペースを乱されるKさんは、本音は来てほしくないのですが、「あの子の気持ちも汲んであげなければ…」と言い出せません。我慢を続けた結果、ストレスで体調を崩してしまいました。

サポートが相手を苦しめることがある

大切な人や家族が病に倒れたとき「何かをしてあげたい」と思うのは当然のことです。しかし、相手を思う気持ちが空回りし、逆に相手へのプレッシャーになってしまうことがあります。

Kさんの場合も、がんで手術はしたものの、順調に回復していました。ご近所さんや友人との関係もよく、一人暮らしを満喫していたのです。娘さんの思いやりがかえって、Kさんの生活を乱してしまったのです。

誰かのために何かをしたいと思ったときは、「介入(手助け)することを相手は望んでいるのか?」をまず確認しましょう。問題が存在することと、手助けを求めていることは違うからです。周りのアドバイスや望んでいない手助けは、逆に害となる可能性があるのです。

相手の望まないサポートは逆に心理的な負担になることも

「助けたい!」と思ったら、まず質問を

親のことを思ってあれこれ先回りして行動することが、親孝行になるとは限りません。このことをサポートする立場の人は忘れてはいけません。相手が望んでいること聞いていきましょう。

  • 何に困っているのか?
  • どのような手助けを必要としているのか?
  • どのような形でサポートが受けられると、嬉しいか?

相手に、「今はいいわ」と言われたときには、自分の思いを押しつけるのではなく「今は必要ないのね。いつでも言ってね」と相手の判断を優先しましょう。遠回りに思われるかもしれませんが、相手の気持ちを受けとめることが、相手の「わかってくれた」という安心感につながり、次の提案を受け取ってもらいやすくなるからです。

明らかに手助けを必要としているときに「必要ない!」と言われたら、「いつでも言ってね」と相手の気持ちを優先したうえで、地域包括支援センターやケアマネージャーに相談し、サポートの担い手を少しずつ増やしていきましょう。

家族だからこそ「心のソーシャルディスタンス」を意識する

その後、Kさんは、勇気を持って「来てくれるのはうれしい。でも、自分のタイミングで動きたい。電話で話を聞いてもらえるのが一番うれしい」と、自分の希望について話しました。

Kさんは、娘に怒られると思っていましたが「本当にいいの?私、お母さんに何もできていないのに…」と泣き出しました。娘さんも実家通いを頑張りすぎて、疲れ果てていたのです。

Kさんの娘さんのように、家族の病気をきっかけに、サポートに没頭してしまうケースはよくあります。しかし、介護は長期戦です。相手の心の陣地に踏み込むのではなく「どんな助けがいる?」など、質問をしながらコミュニケーションをとって「心のソーシャルディスタンス」を意識した関係性を深めていきましょう。

まずはどんなサポートを希望しているのかを質問しよう

橋中からの直接のお返事、対応はできませんが、みんなの介護の記事や当協会が配信している無料メルマガで解決策についてお伝えしていきます。

皆さんが介護で経験されていること、対策を取られていることを介護者メンタルケア協会の問い合わせフォームでぜひ教えてください。お困りごとやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。

「職場が介護の状況を理解してくれない」「何度も同じことを言われて怒鳴ってしまう」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしてほしいです。

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