JHWN(日本福祉ネイリスト協会)の常任理事の佐藤三矢です。
みなさんは、「福祉ネイリスト」という資格があることをご存知でしょうか。
JHWNでは、「福祉ネイリスト」の活動内容を次のように謳っています。
今回は、福祉ネイリストの彩爪介入によって期待できる効果を解説します。
「福祉ネイリストの活動」と「ユマニチュード」の考え方は似ている
私がこれまでJHWNの常任理事(学術顧問)として、数多くの活躍している福祉ネイリストさんと接してきたなかで、最近強く感じていることがあります。
それは、「福祉ネイリストの業務内容」と「ユマニチュード」という考え方の、関連性の深さです。
「ユマニチュード」はフランス発祥で、認知症ケアの技術として注目されています。
「ユマニチュード」は、「見る・話す・触れる・立つ」という4つの動作を基本としており、「あなたは大切な存在ですよ」と対象者に伝えながらケアを実践することです。
この技術を活用することで、対象者に安心して受け入れてもらえるようになるとされています。
私の考える、福祉ネイルの持つ役割がユマニチュードの考え方と似ている点は、以下の通りです。
福祉ネイルとユマニチュードの親和性
- 見る
- 直接目で見つめ合ったり、美しく彩られていく爪を見つめ合ったりしながら介入を行う
- 話す
- 対象者の爪が美しく彩られていく過程のなかで、前向きな会話をしやすくなる
- 触れる
- 彩爪介入においては対象者の指先や腕に優しく触れる機会が豊富にある
- 立つ
- 施術を行うブースまで歩いて来てもらいやすくなる。たとえ座ったまま行う施術だとしても、臥床と比べれば明らかに「姿勢を保持するための筋肉を使う姿勢」であり、一定時間の離床を促せる
このように、福祉ネイリストの人たちは、高齢者などの方々に対して「ただマニキュアを塗っている」のではなく「彩爪介入を通じてユマニチュードを実践している」ことになるのだと私は実感しています。
彩爪介入による効果(QOLへの影響)って?
身近な高齢者が、「自分の身だしなみ」に「明らかに無関心」になってきた…と感じたことはありませんか?
近年、高齢者を対象とした介護や福祉の現場、老年精神医学の分野において、複数の第三者がそのように感じた場合には、「“脳の老化”や“認知症の前ぶれ”などを示唆しているかもしれない」という見解が一般的になりつつあります。
このような社会的背景を受けて、高齢者の健康寿命の延伸などを目的として、「理美容分野」を介入手段とする取り組みも全国的に展開され始めました。
とりわけ「整髪,化粧,ネイル(当協会では“彩爪介入”と表現)」などが、介入手段として頻繁に活用されています。
整髪や化粧について、もちろんその対象者の心理面に起きる即時的な効果(自己効力感の向上)は非常に優れています。
しかし現段階の医療保険や介護保険が利用される現場における現状から考えると、特に「彩爪介入」がきわめて合理的な介入手段ではないかと考えております。
なぜなら、整髪や化粧の介入を実施した場合には、一度の「入浴や洗顔」を通じて「リセット状態(俗に言う“すっぴん”の状態)に戻されてしまう」であるとか、「対象者ご本人における視覚的フィードバックには鏡が必要」といった制約が存在しているからです。
この制約に対して、「彩爪介入」の場合には以下3点のようなメリット(制約を打破しうる要因)が存在しています。
彩爪介入のメリット
- メリット①:複数回の手洗いや入浴が行われても、一旦カラーリングが行われた爪がリセットされる可能性はきわめて低い →「1回の彩爪介入にもかかわらず何日も効果が持続する」ということが期待できる
- メリット②:日常生活活動のなかで目につく頻度が高い指先を彩る →「ああ、自分はオシャレしているなぁ…」と喜びや実感につながる視覚的なフィードバックが日常的に幾度となく自然に実現できる可能性が高まる
- メリット③:①~②の利点から、特に認知症の中核症状である「短期記憶の障害」を持つ有症者に対して、少ないマンパワーと介入時間で継続的に何度も脳への働きかけの機会の発生につながると期待できる(“爪を単色で彩るだけ”で持続的効果が発生する)
これまでQOLやBPSDに着目して、私たちが行ってきた認知症高齢者を対象とした介入研究では、福祉ネイリストによる彩爪介入を2週間に1回の頻度で継続的に実施した場合には、効果が出現し始める期間としては「2~3ヶ月頃」が最多です。
そこで顕著な効果がみられた対象者は、QOLの向上やBPSDの軽減を有意に示す傾向が認められています。
まとめ
現段階で、福祉ネイルの効果は圧倒的にエビデンスが乏しいと言わざるを得ません。
しかし、介護や福祉の現場においては「対象者への理美容関連の介入が、心豊かな日常生活支援に効果的である」という認識が広がりつつあります。
日本では今後、介護や福祉の領域における福祉ネイルや、理美容に関する研究集会、学術集会の開催を重ねてエビデンスを蓄積し、社会へ発信していくことが重要です。
読者のみなさんには福祉ネイルに興味を持ってもらいたいです。
高齢者の家族にネイルをしてみると、最近見ることができなかった、とびきりの笑顔が見られるかもしれませんよ。
※JHWNでは、2019年度に日本初の福祉ネイル(ネイリスト)の研究集会の開催を予定しています。