中高年のアイドル!介護エンターテイナーの石田竜生です。デイケアで働きながら日本全国を周り、介護施設に笑いあふれる体操を届ける活動や、レクリエーションやリハビリの技術や知識を研修で伝えています。→(笑いに特化した高齢者レクリエーション研修)
本連載では「家庭でもできる脳と身体のトレーニング・レクリエーション」を紹介しています。
今回は、ご家族の介護をしている人へ"買い物動作のレクリエーションについて"をお伝えします。施設で暮らしている方や家庭で過ごしている方もできるので、ぜひ実践してみてください。
「楽しくしなきゃ」という考えを捨てよう

「参加する人全員が楽しめるレクリエーションや体操を教えてほしい」というリクエストをよくいただきます。ですが、(介護施設など)集団でレクリエーションをする場合、参加する人全員が「楽しい」と感じるレクリエーションはこの世に存在しません。
たとえば、高視聴率で超人気のTV番組も十人十色で、その番組が好きな人もいれば、苦手な人もいるのが当たり前。当然レクリエーションにも同じことが当てはまります。楽しさや喜びの感じ方は人それぞれ。性別、過ごしてきた環境、年齢や身体の状況など、一人として同じ人はいないからです。「楽しくしなくちゃ」と悩んで、レクリエーションをするのが怖くなってしまう人がたくさんいます。「楽しい」だけではなく、目的を明確にしたレクリエーションを目指しましょう。悩んだときは、時間軸をずらして考えてみます。
たとえば、Aさんはその場では楽しそうではないかもしれない。でも、レクで足を動かすことで、Aさんの3ヵ月後の「歩く喜び」に変わっているかもしれません。すべてのレクリエーションは、機能回復に繋がっています。あなたがご利用者やご家族と一緒に取り組むレクリエーションは、「いつかの楽しい」に変わっていくはずです。
そのためにも、「ただなんとなくレクリエーションをする」のは、もうやめにしましょう。なぜ、そのレクリエーションをするのか、どうなってもらいたいのかを常に考え、根拠のあるレクリエーションを提供していくことが大切です。
目標達成のためにレクリエーションを
では、何のためにレクリエーションや体操をするのでしょうか?「筋トレやストレッチのため?」「楽しい時間を提供するため?」「他者とコミュニケーションをとるため?」どれも正解ですが、その先を考えてみましょう。
利用者やご家族が「どんな生活をのぞんでいるのか」目標を明確にし、その目標の実現のために、レクリエーションや体操を実施することが重要です。目標設定は、できる限り具体的に、どんな状態でどんな段取りでどの程度の達成を目指すのか聞き取りましょう。
たとえば、「トイレに行きたい」では不明瞭で、ご本人やご家族、施設スタッフにも、「ご本人がのぞむ暮らし」のイメージを持つことができません。「一人で杖を使い、歩いてトイレに行けるようになる」といったように具体的に目標設定します。
例:「買い物に行きたい」→「一人でシルバーカーを使って、近所(自宅から約100m)のスーパーに行けるようになる」など。
「買い物動作」のためのレクリエーション

今回のレクリエーションは、買い物動作のためのレクリエーションです。「買い物に行きたい」という人はとても多いのですが、数年間買い物から遠ざかっている人が、いきなり「一人で買い物」に挑戦することは不可能に近いでしょう。
買い物動作を細かく分ける
- 買いたいものを確認する
- チラシで商品を確認、メニューに合わせて食材を組み合わせる、金銭管理
- 店まで向かう
- 転倒なく店まで移動する、店までの経路を確認する(地図をよむ)
- 商品を発見する
- 商品を探す、商品をカゴに入れる
- 会計をする
- お金の計算、財布からお金を出す、商品を袋に詰め替える
チラシで買い物体験
- 目的・効果
- 店へ買い物に行くまでのシュミレーション、金銭管理、脳の活性化
- 準備物
- チラシ(広告)献立を考える用紙、鉛筆
- 事前準備
- 献立を考える用紙に、今日の献立・食材と値段・作り方などのキーワードを記載
- 方法
-
- 今日料理をつくるならどんな献立がいいか考えてもらう
- 献立は、どんな食材を使い、その食材はいくらなのか書いてもらう
- 食材の金額を合計してもらう
- 献立のレシピを書いてもらう
POINT
実際にスーパーに買い物へ行くことはハードルが高いですが、買い物動作の最初のステップとして行えます。買い物や料理から離れていた人も、「またやりたい」といった意欲を引き出すことができ、また計算問題や作り方を考えることで、脳トレとしても活用できます。
自宅からスーパーまでどうやって行くの?
- 目的・効果
-
- 店へ買い物に行くまでの道のり確認、危険個所の把握、脳の活性化
- 準備物
- 地図、鉛筆
- 事前準備
- 自宅周辺の地図コピーまたは、GoogleMapを印刷
- 方法
- 地図に自宅からスーパーまでの道のりを書いてもらう
- 目印になりそうな建物を確認する(病院・コンビニ・スナックなど)
- 危ない個所はどこか確認する(転倒しそうな場所・交通量の多い交差点など)
POINT
道のりを確認すると、細い道や転倒の危険がある道や車の交通量が多い道など、今の心身状態でどの部分が不安なのか、現時点での課題が見えてくる危険個所のチェックができるので、転倒などのリスクを減らすことができます。
最初は、戸惑うことばかりで楽しく買い物をすることは難しいと思います。人は、大きな壁にぶつかると諦めてしまう傾向があり、レクリエーションや体操へのやる気を失ってしまいがちです。
まずは、家庭や施設でもできるレクリエーションからはじめ、小さな成功体験を積み重ねていきましょう。小さな成功体験が自己肯定感を高め、「もっとレクリエーションをしたい」「施設でリハビリを頑張りたい」といったモチベーション(意欲・やる気・動機づけ)アップに繋がります。