いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915
第92回

【薬剤師解説】スタチン系薬剤の副作用とは?高齢者の脂質異常症治療で注意すべきポイントを開設

最終更新日時 2023/01/13
#高齢者の健康 #薬
目 次

血液中の脂質(脂肪分)の値が、一定の基準値から外れた状態を脂質異常症と呼びます。血液中の脂質には、コレステロールと中性脂肪(トリグリセリド)があり、コレステロールはLDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロールに分けることができます。

脂質異常症は、LDLコレステロールや中性脂肪の値が高くなるだけでなく、血管が硬くなって弾力性が失われる動脈硬化の原因にもなり、将来的に心筋梗塞や脳梗塞を発症する危険性が高まります。

本記事では、高齢者における脂質異常症について解説し、その治療薬や薬を使用する上での注意点をご紹介します。

脂質異常症と動脈硬化

脂質異常症の中でも、LDLコレステロールの値が高いことは、動脈硬化の発症と強い関連性があります。

血液を心臓から全身の組織に送り出す血管のことを動脈と呼びますが、動脈の内側に脂質と繊維状の成分が結合することで血管が固くなり、徐々に弾力性が失われていく変化は動脈硬化と呼ばれます。

動脈硬化は最も太い血管である大動脈から発生することが多く、おおよそ10年かけて病状が進行します。

引き続いて10年の歳月を経て心臓を取り巻く血管(冠動脈)の動脈硬化が進行し、さらに3~4年の歳月を経て、脳の血管に動脈硬化が起こります。

このように、動脈硬化は非常にゆっくりと進行するうえ、体調に急激な変化をもたらすような症状に乏しく、気が付かないうちに病状が悪化していきます。

脂質異常症を治療せず長い期間にわたり放置していると、血管の内側にこびりついた脂質の塊が血管を詰まらせ、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを高めることになります。

脂質異常症の治療する目的

脂質異常症は、単にコレステロール値や中性脂肪値が高いだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを高める病気です。

頭痛や不眠症のように、現時点で症状を感じる病気ではなく、将来の健康状態に影響を与える病気といえるかもしれません。

そういう意味では、脂質異常症に対する治療は、症状を緩和する治療というよりはむしろ、心筋梗塞や脳梗塞を予防するため、あるいは健康寿命を延ばすための治療です。

なお、心筋梗塞や脳卒中を発症したことがない人に対する予防的な治療を一次予防、心筋梗塞や脳卒中を既に発症した経験があり、再発予防のための治療を二次予防と呼びます。

高齢者における脂質異常症の治療

動脈硬化を引き起こす原因は脂質異常症だけでなく、食習慣や喫煙、高血圧、糖尿病などさまざまです。

また、動脈硬化が時間をかけて進行することや、歳をとるにつれて患う病気が増えることを考えれば、加齢そのものが動脈硬化を促す大きな原因ともいえるでしょう。

一方で、高齢者の健康状態は必ずしも動脈硬化の有無だけで決まるものではなく、以下のようなことも健康を損なう原因になり得ます。

  • 認知機能の低下
  • 運動能力の低下
  • 感染症の重症化や肺炎の発症
  • 転倒することによる外傷や骨折 など

そのため、医師は脂質異常症について、コレステロールや中性脂肪の値が高いからという理由だけでなく、将来的な心筋梗塞や脳卒中の危険性の程度を、患者さん個別に見積もったうえで治療の必要性を判断します。

脂質異常症がもたらすリスク

高齢者に対するスタチンの効果

脂質の異常を改善する薬は多様ですが、心筋梗塞や脳卒中の予防に関する研究データが豊富な薬はスタチン系薬剤です。

【日本で使用できるスタチン系薬剤】

  • プラバスタチン
  • シンバスタチン
  • ロスバスタチン
  • ピタバスタチン
  • アトルバスタチン
  • フルバスタチン

スタチン系薬剤の効果はLDLコレステロールの値を下げるだけではありません。

成人を対象とした研究においては、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクを20~30%低下させることが報告されています。

ただし、高齢者を対象としたスタチン系薬剤の研究データは限られており、その有効性を検証した臨床試験は、2022年12月末現在でPROSPER試験のみです。

PROSPER試験では、心臓病のリスクが高い70~82歳の高齢者5,804人が対象となりました。被験者は、プラバスタチンを投与するグループと、プラセボ(偽薬)を投与するグループにランダムに振り分けられ、心臓病の発症リスクが比較されています。

平均で3.2年にわたる追跡調査の結果、プラセボを投与したグループと比較して、プラバスタチンを投与したグループで心臓病の発症が15%低下しました。

一般的な予防効果は20~30%のリスク低下でしたから、70歳を超えるような高齢者に対する効果は、70歳未満と比べて弱いといえるかもしれません。

高齢者がスタチン系薬剤の効果が低下する理由は、歳を重ねるごとに健康状態を悪化させる原因が多様化することが考えられます。コレステロール値や動脈硬化だけに注目しても、別の原因で心臓病を発症する危険性が高まるというわけです。

一般的に、予防的な治療薬は高齢になればなるほど、効果が小さくなります。高齢者では残された健康寿命が短く、予防対象となる心筋梗塞や脳卒中の発症とは無関係に、別の原因で寿命が尽きてしまうと考えればわかりやすいかもしれません。

そのため、高齢者では、LDLコレステロールの値を厳格に下げる必要性は小さくなります。

高齢者で注意したいスタチン系薬剤の副作用

スタチン系薬剤の代表的な副作用は筋肉痛です。ただし、副作用が起こる確率は低いため安全性は高いといえるでしょう。

例えば、1万人の患者さんを対象に、アトルバスタチンで5年間の治療を行うと、軽度の筋肉痛を発症する人は5人、このうち横紋筋融解症(筋肉組織が障がいされてしまう病気)と呼ばれる重い副作用を発症する人は1人と見積もることができます。

一方、80歳を超えるような高齢者の場合、若年層と比べて筋肉痛の副作用が出やすいとされています。

また、スタチン系薬剤は血糖値を上げやすくする作用が知られており、糖尿病の発症リスクを高めるとした研究も報告されています。

ただし、スタチン系薬剤による血糖値の上昇よりも、心臓病を予防することで得られる健康へ好影響の方が強く、将来的な心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い人では、スタチン系薬剤の積極的な使用が推奨されています。

高齢者がスタチン系薬剤を服用する際に注意したいのは、薬そのものの副作用というよりは、むしろ他の薬との相互作用です。

スタチンは肝臓で分解され体外に排泄されますが、例えばマクロライド系と呼ばれる抗菌薬と併用することで、スタチン系薬剤の分解が妨げられてしまいます。

その結果、スタチン系薬剤が体の中に長くとどまることになり、筋肉痛などの副作用が出やすくなることがあります。

実際、マクロライド系の抗菌薬とスタチン系薬剤を併用すると、併用しない場合と比べて、重い筋肉の副作用である横紋筋融解症による入院が、2.27倍、腎臓機能の低下による入院が、1.65倍増加することも報告されています。

高齢者の脂質異常症治療で留意すること

脂質異常症による動脈硬化の進展は、ゆっくりと長い時間をかけて進行します。脂質異常症が糖尿病や高血圧症と並んで生活習慣病と呼ばれるゆえんです。

一般的に生活習慣病の治療においては、その名の通り生活習慣の改善が重要だと考えられています。

しかし、高齢者では生活習慣の改善で得られる予防的な治療効果は必ずしも高くありません。無理のない範囲で健康を意識した生活習慣に取り組めると良いように思います。

スタチン系薬剤は、高齢者であっても積極的に用いるべき薬の一つだと考えられています。一方で、加齢に伴いスタチンの予防的な効果が弱まることを考えれば、状況に応じて治療を中止することも考慮できるでしょう。

予防的効果が薄まるなら中止も視野に

いつまで薬を飲めば良いのかについては、患者さんそれぞれの心臓病や脳梗塞のリスクを踏まえて判断されますので、気になる方はかかりつけ医に相談することをおすすめします。

【参考文献】
Nature. 2000 Sep 14;407(6801):233-41.
Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;2013(1):CD004816.
Lancet. 2002 Nov 23;360(9346):1623.
Lancet . 2016 Nov 19;388(10059):2532-2561.
Am J Cardiol. 2022 Nov 11;187:62-73.
Lancet. 2010 Feb 27;375(9716):735-42.
JAMA.2011;305(24):2556-2564.
CMAJ . 2015 Feb 17;187(3):174-180.
Rev Med Suisse. 2022 Mar 9;18(772):414-421.

関連記事
コレステロール下げる薬に頼らない!高齢者の脂質異常症に有効な食事と運動習慣を解説!
コレステロール下げる薬に頼らない!高齢者の脂質異常症に有効な食事と運動習慣を解説!

杉浦 良介
リハコネ 【訪問リハビリ】 代表
2023/11/02

キーワードから記事を探す

#親の介護 #介護予防 #老人ホームへの入居 #介護保険サービス #看取り・終活 #高齢者の健康 #嚥下 #地域包括支援センター #介護食 #介護にかかるお金 #薬 #フレイル #仕事と介護の両立

薬の供給不安が深刻化?「かかりつけ薬局」があれば安心の理由

!
記事へのご要望
お待ちしてます


この記事へのご要望、
お聞かせください

みんなの介護は皆さまの声をもとに制作を行っています。
本記事について「この箇所をより詳しく知りたい」「こんな解説があればもっとわかりやすい」などのご意見を、ぜひお聞かせください。

年齢

ご要望を
受け付けました!

貴重なご意見を
ありがとうございました。

頂戴したご意見は今後のより良い記事づくりの
参考にさせていただきます!

【まずはLINE登録】
希望に合った施設をご紹介!